第12話 木箱の中身
翌朝。
リオが朝食を食べ終えると、父のガイルが一つの木箱を持ってきた。
両手で抱えるほどの大きさではない。
けれど、年齢の幼いリオには少し重そうに見えた。
「リオ、今日はこれを見てみるか」
「何?」
「種だ」
「種?」
リオの目が輝いた。
ガイルが木箱を床に置き、蓋を開ける。
中には、いくつもの小さな袋が並んでいた。
「こんなにあるの?」
「ああ。全部が今すぐ使うものじゃないけどな」
ガイルは一つの袋を取り出した。
「これは豆」
次の袋。
「こっちは葉物」
さらに別の袋。
「これは来年用に残しているものだ」
リオは一つ一つを覗き込んだ。
種はどれも小さい。
昨日まで畑にあった作物と比べれば、とても小さなものだった。
「これが大きくなるの?」
「ああ」
「本当に?」
「本当だ」
ガイルは笑った。
「ただし、土に入れれば勝手に育つわけじゃない」
「水が必要?」
「水も必要だ」
「太陽?」
「それも必要だな」
「じゃあ、いっぱい必要なんだ」
「そういうことだ」
リオは種を見つめた。
こんなに小さいものから、大きな葉や実ができる。
不思議だった。
そこへアルドがやってきた。
「父さん、今年の記録を見る?」
「ああ。持ってきてくれ」
アルドは棚から一冊の古い帳面を取り出した。
表紙は少し擦れている。
「これ、何?」
「去年の畑の記録だ」
アルドが答えた。
「どこに何を植えたか、いつ植えたか、どれくらい収穫できたかを書いてある」
「そんなのまで書くの?」
「書いておくと、次に役立つからな」
リオは帳面を覗いた。
数字が並んでいる。
簡単な文字も書かれている。
まだリオには読めないものが多い。
「僕も読めるようになりたい」
そう言うと、アルドがリオを見る。
「じゃあ、母さんに教えてもらえばいい」
「教えてくれるかな?」
「頼んでみろ」
リオは頷いた。
その日の午後。
リオは母のところへ行った。
「母さん、文字を教えて」
「急にどうしたの?」
「父さんの帳面を読めるようになりたい」
ミーナは少し驚いた顔をしたあと、笑った。
「いいわよ」
木の板を一枚用意して、簡単な文字から教えてくれる。
リオは真似をして書く。
最初は線が曲がった。
何度書いても、同じ形にならない。
「難しい……」
「最初から上手く書けなくても大丈夫」
「本当に?」
「ええ。毎日少しずつでいいのよ」
リオはもう一度書いた。
今度は少しだけ形が整った。
「できた!」
「上手になったわね」
褒められると、嬉しくなる。
夕方。
リオは父に見せた。
「見て!」
「おお」
ガイルは少し驚いたように目を開いた。
「自分の名前か」
「うん!」
リオが書いた文字は、まだ少し歪んでいる。
それでも、自分で書いた。
「これからもっと上手くなるな」
父に言われて、リオは頷いた。
畑の種もそうだ。
小さなものが、時間をかけて育っていく。
自分も同じなのかもしれない。
そう思うと、明日が少し楽しみになった。




