190 公爵令嬢と大精霊
王太子就任のあいさつが終わり、王家とそのゆかりの人々はバルコニーから広場へと降りていった。
「ねえ、さっき陛下となにを話していたの?」
メリーローズがシルヴィアの隣に戻ってくる。
「いいえ、特には。……そういえば、『威厳』のことを聞くのを忘れました」
「ああ、あれね。でもエッちゃん陛下に魔力はないんでしょう? どこからその力が来ているのかしら」
(エッちゃん……)
メリーローズはエメライン女王を「エッちゃん」と呼ぶことにしたのだという。当然本人も了承済だ。
『エメラインのエでもあるし、前世の名前の恵梨のエでもあるのよ。我ながら天才的ネーミングね』
『さいですか』
メリーローズは自画自賛するが、ヒューストン宰相辺りが聞いたら目を剥きそうな愛称だ。
「……そういえば、陛下が妙な声を聞いたそうです」
「妙な声? さっき?」
「はい。わたくしとの会話のとき、『心配いらないな』とかなんとか、特徴のある声で」
「特徴のある声?」
「はい、なんと仰っていたか……そう、『ぅわん』とした響きだそうです」
「……え」
階段を降りていたメリーローズの足が止まる。
(ぅわんぅわんとした声……)
自分にも覚えがあった。
前世で、自分の葬式を眺めながら聞いた声……
次の瞬間、メリーローズは自分が真っ白な世界にいることに気がついた。
今まで降りていた第一校舎の階段も、シルヴィアも、他の人々も消え失せた、真っ白な空間。
「ここは……どこ?」
『ゥワンゥワン トシタ コエ デ ワルカッタナ』
何もない空間で、例の妙な声だけが響く。
「え、気にしてたんだ。すみません」
謝りながらも、メリーローズは不安になって尋ねる。
「えーっと、わたくし、死んじゃったわけじゃないですよね?」
『ナゼ ソウ オモウ?』
「だって、前回あなたの声を聞いたのも死んだ後だったし、まさか今も階段から落ちて死んじゃってたりして……」
『ソウダ ト イッタラ?』
「やだー! マジー? いやよ、死にたくない! まだあの世界で生きていたいー!」
パニックになったメリーローズが叫ぶと、楽しそうな声がした。
『ナンテ ウソー』
「…………」
質の悪い冗談だ。
睨みつけてやりたいけど、姿が見えないので睨むこともできない。
「……それで、あなたは一体誰なんですか?」
『ソレ ハ モウ シッテイル ダロウ』
そう言われて、逮捕され監禁されていた部屋で考えていたことを思い出す。
「では、やはりあなたは……『大精霊』?」
『ソウ ヨブ モノモ イル』
「そう呼ばない者もいるのですか?」
『アルトキ ハ ダイセイレイ』
『アルトキ ハ マモノ』
……それを聞いてシルヴィアがいつか話していたことを思い出した。
――わたくしは、式神も精霊も、更に言えば魔物も、呼び方が違うだけで、『同じモノ』なのではないか、と考えています
(シルヴィア、大当たりよ!)
「またあるときは『式神』?」
『サヨウ』
「王家のご先祖でもある?」
『ソレハ チガウ』
(そうなんだ……)
確かに姿のない存在が、人を産み出すのは難しいだろうと思う。
(王家の血筋に、箔をつけるための伝説なのかしら?)
それは脇に置いておくことにした。
そんなことより、聞きたいことがある。




