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四文字で魔法を創造して  作者: 斗樹 稼多利
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支部長との手合わせ


 カタギリタウン郊外にある国防軍駐屯地で行われている合同研鑽会。

 最初に行った手合せで実力のおおまかな判断をした担当者達が集まり、実力がほぼ同じと判断した者同士で班分けをするための調整が行われた。

 やがて班分けが決まり呼ばれた者同士での手合せが開始されたのだが……。


「あの……なんか、ごめんなさい」


 特に何も悪い事をしていないのに謝るシューゴの傍らには、冒険者と軍人が三名ほど地面に転がっている。

 彼らはシューゴと同等の実力があると判断された同じ班の者達なのだが、全員がシューゴとの手合せによって倒されてしまった。


「いや、お前は悪くない。それは俺も分かっている」


 担当になった国防軍の隊長がそう返すと、蹲っている冒険者と軍人を見て溜め息を吐く。


「これは単にこいつらが情けないだけだ。まあ、お前が無詠唱を使えるから仕方ないとも言えるが、だとしても情けないのには変わりない」


 頭を掻いてそう口にする隊長にシューゴは苦笑いを浮かべる。

 一人目に対戦した軍人は無詠唱を使うことを知らなかったため、先手を仕掛けようと突っ込んできたところへ「浮遊動盾」を出現させると正面衝突。顔面を打って後退した隙に腹へ掌底を入れて倒し、喉元に短剣を突きつけて勝利。

 二人目の冒険者は無詠唱での魔法を警戒して様子を見ている間に「周刃貫刺」に囲まれ、慌てて身体強化をして跳び越えようとしたところへ「浮遊動盾」を足場にしたシューゴが接近して叩き落され、うつ伏せの背中に乗られて短剣を首に当てられて勝利。

 三人目の軍人は攻撃用の魔法に活路を見出そうと、開始早々に距離を取って魔法攻撃。シューゴもそれに対抗して「螺旋廻弾」で迎え撃ちつつ、「標的誘導」で相手の額と腹と脛をロックオン。大量に弾丸を出して相手がそっちへの対応に気を取られている間に、威力を加減した数発の弾丸が「標的誘導」に導かれて他の魔法を回避しながら飛来して命中。額に命中したこともあり勝利と判断された。


「しかし、どういう名称の魔法なんだい? あの弾丸や周囲を囲む刃はともかく、防御にも空中移動にも使える盾や、弾丸に魔法を掻い潜らせて相手に当てるなんて」

「秘密です」


 うっかり口にしようものなら文字数の事を追及される可能性が高い。

 文字数が知られないよう手袋はしているが、魔法名が知られればその意味の追求と面倒事になるのが目に見えている。

 だからこそ、秘密ということで貫くつもりでいる。


「まあそうだろうな。悪かったな、無粋なこと聞いて。君は少し休んでいていいよ」


 担当の隊長からそう言われたシューゴは地面に腰を下ろして自分が倒した三人が医務室へ運ばれるのを見送った後、パーティーメンバーの様子はどうかとそちらへ目を向ける。

 手合せ中のコトネは同じ細剣使いの少年と互角の攻防を繰り広げ、手合せを終えたばかりのシノブは注意点を担当から聞かされ、同じく休憩中のアカネは息を切らせながら水を飲んでいた。


(概ね良い感じかな)


 自身は少々物足りない結果になったが、他の三人は対戦相手とほぼ互角に渡り合っている様子が窺える。

 対人戦の経験も積めると同時に実力の向上にも繋がるのなら、参加して正解だったとシューゴが思っていると支部長の女性が歩み寄ってくる。


「やあ少年、なかなかやるじゃないか」

「あっ、ありがとうございます。それと先日はどうも」

「いやいや、気にしないでほしい。職務として当然の事をしたまでだ。部下の不手際も含めてな」


 そう言って先日揉めた治安維持部隊の隊長へ視線を向けると、向こうはシューゴを睨んでいた視線を逸らした。


「少年。君は彼に何か恨みでも買ったのかい?」

「全く身に覚えがありません。しいて上げるのなら、あの場で恥を掻かされたって事ですかね」


 完全に向こうの一方的な早とちりなのだが、そうなった理由をこの場で言う訳にはいかず適当に誤魔化す。


「その程度の事であんな反応をしているのなら、器の小さな男だ。大人ならあの程度の恥、軽く流して気にしないものだぞ」


 呆れ混じりの態度と口調をする支部長の反応に、少しだけ同意したシューゴは小さく頷く。


「そうそう、自己紹介がまだだったな。ここの支部長をしているセンリだ」

「シューゴといいます。先日Dランクになったばかりの冒険者です」

「ほう? 見たところ成人したばかりくらいなのに、もうDランクか。まあ、さっきまでの手合せを見れば納得だな。で、対戦相手がいないからこうして休んでいると」


 担当も怪我人達に同行して医務室へ行っているため不在で、一人でこの場にいるシューゴは黙って頷く。


「よし。だったらアタシと手合せをしないか?」

「はい?」


 突然の提案にシューゴが呆気に取られる一方、センリはやる気満々で準備運動をしだす。


「あの様子じゃ、すぐに戻って来なさそうだ。だからってこのまま座ってるのもなんだし、どうだい?」


 模造品の短剣を手に誘ってくるセンリはどこか楽しそうで、それでいて発する雰囲気は獰猛な獣のよう。

 そんな雰囲気を前にしたシューゴは、今の自分の力が国防軍の幹部にどれだけ通じるのか挑んでみたくなり、同じく模造品の短剣を両手に持って立ち上がる。


「そうこなくっちゃね」


 二人が対峙すると、それに気づいた周囲の視線が徐々に集まってくる。

 コトネ達もその中に加わっており、誰もが自身の手合せを忘れて二人の手合せへ注目が集まっていく。

 そのことをセンリは注意はせず、ポケットから硬貨を取り出す。


「こいつが地面に落ちたのが、開始の合図だ」

「分かりました」


 硬貨を指で弾き、回転しながら落下するそれが地面に当たって小さな音を発したのと同時に、シューゴは手にしていた模造品の短剣を素早い動作で投擲した。

 微妙に時間差をつけた二本の短剣による投擲をセンリは難無く避ける。直後にシューゴが接近しているのを見て、ちょっとだけ意外な顔をした。

 距離を取るためにわざわざ武器を手放してまで奇襲をしたのだろうと思っていたら、離れるどころか逆に接近してきている。速度からして身体強化系の魔法を使ったのを察したセンリだが、それをするための時間稼ぎにしてはおかしいと思う。


(それに、武器も無しに素手でやる気かい?)


 両手にそれぞれ持っていた短剣は両方とも投擲し、今のシューゴは完全に無手。

 武器の有無が全てではないが、決して無視できる要素ではない。


(無手で何をしてくる?)


 若干楽しそうにしながら迎え撃とうとするセンリに向け、接近するシューゴは左手から三本目の短剣を投じた。


「なっ!?」


 どこに隠し持っていたのか不明だが、驚きつつもセンリは自身の短剣でそれを叩き落す。

 その間にさらに接近したシューゴは四本目の短剣を右手で振るう。


「おぉっ!?」


 再度驚きながらもセンリは紙一重で攻撃を回避。すかさず反撃するがシューゴもそれを回避すると今度は距離を取り、再び空手だったはずの左手に握られていた短剣を投擲する。


「やるね。だったらこっちも。「つよくなる」!」


 回避しながらセンリが自身を強化して接近すると、シューゴはまたしてももいつの間にか左手に握られている短剣も含め、短剣二刀流で迎え撃つ。


「おいおい、どうなってんだアレ」

「どうせ収納系の魔法から、次々に取り出してるだけだろ?」

「いや、収納系の魔法を展開した様子は無い。本当に突然出現しているぞ」

「一体どうやって……。あれ? 最初に投擲したあの二本以外の短剣、どこにいった?」


 一人の冒険者が指摘したように、最初に投擲した二本以外の短剣がどこにも無い。

 パーティーメンバーであるコトネ達はシューゴが「具現短剣」を使っているんだと気づき、消えた短剣を探したり突然出現する短剣に首を傾げたりする周囲の様子を少し面白そうに眺めていた。

 一方で手合せの方は、見た目ではシューゴが押しているが余裕があるのはセンリの方。

 手数と速さで次々と打ち込むものの、センリはそれら全てを余裕で捌いていく。

 二本の短剣による連撃も、合間で挟むローキックや肘打ちや膝蹴りも、全てが余裕な様子で捌かれてしまう。

 時折意表を突いて距離を取りながら「螺旋廻弾」や「疾風刃来」を放っても、回避されるか「かぜのまく」という防御系の魔法で防がれてしまう。


(駄目だ。この人は驚きはしたけど動揺はほとんどしていない)


 シューゴが使っている短剣は最初に投擲した物以外、全て「具現短剣」で生み出した物。

 今回の戦い方はシューゴが前々から試してみたかった戦術の一つで、武器を手放したように見せて「具現短剣」による短剣での攻撃。いわば至近距離からの奇襲。

 無いと思わせておいた武器を使うことで相手に動揺を誘い、「具現短剣」の正体や仕組みを見抜かれる時間を与えないように次から次へ短剣を生み出しながら投擲と近接戦闘を繰り出して相手を押し切る。

 これが今回シューゴがセンリ相手に使っている戦術なのだが、ちょっと驚かせた程度でセンリに動揺は見えない。実に冷静かつ的確に攻撃を捌き回避し、シューゴの実力を見定めるように戦っている。


(まるで師匠とやっているみたいだ)


 思い出すのは、冒険者学校へ入学する以前のコタロウとの修業の日々。

 どう攻撃しても避けられるか捌かれ、どれだけ思考して練った策を仕掛けても通用しない。

 特に近接戦ではそれが顕著に分かるほど、身体能力だけでなく技術も経験も差があり過ぎると実感させられたあの日々。

 コタロウとセンリとでは戦闘スタイルこそ違うが、実力的にはセンリの方が僅かに上に感じた。

 それも当然。視力に異常が出て引退しようとしていたコタロウと、支部長という地位に就いていても未だに現役バリバリの国防軍の軍人としての日々を送るセンリ。仮に実力が同じだとしても、視力に異常が出て引退し自身の鍛練を控えるようになったコタロウでは、健康体で鍛練の日々を送るセンリには敵わない。

 こうして今も倒されずに戦っていられるのは、これは勝負ではなく研鑽も兼ねた手合せだからだ。


「やるじゃないか。速さ、鋭さ、連撃の巧さ、回避、体術、魔法、どれもその年にしては上出来だ」

「それはどう、も!」


 既に本気で攻撃しているのにまだ余裕を見せるセンリに、「螺旋廻弾」を準備しつつ「標的誘導」で脛と額と肩に照準を定めようとするが、まるでそれを察したかのようにセンリの動きは速くなった。ただし攻撃はせず、ただ撹乱するように動くだけに留められている。


(速すぎる!)


 プリンセススパイダー戦でもそうだったが、「標的誘導」は狙う箇所に照準を定めるまで数秒かかる。

 その間に素早い動きをされたり、激しい攻撃をされると上手く照準を定められなくなってしまう。

 場数を踏めばその弱点も解消されるだろうが、今のシューゴの技量と経験ではまだ無理だった。


「それがあの不規則に動く魔法攻撃のネタかい? なるほど、照準を合わせるとは面白い魔法だな」

(だから、なんで分かるんだよ!)


 「感電地」を見破られた時もそうだったが、近接攻撃はともかく魔法を使おうとするのが見破られる理由が分からない。

 そういう魔法を無詠唱で使っているのかとも思ったが、だとしたらこれまでに使った「つよくなる」と「かぜのまく」を口にしていたのは何故か。

 気づかれないためのフェイクか、それとも魔法でなく何か別の理由があるのか。

 考えても分からないシューゴはこの思考を中断し、狙いが定まらないまま放った「螺旋廻弾」が外れると手合わせに集中するよう頭を切り替える。


(せっかくだ、色々試してやる!)


 相手はこっちの力を見極めようと後手に回り加減もしてくれている。ならばと、シューゴは考えうる全ての戦術を試してみることにした。

 もとよりこれは研鑽のための集まり。せっかく格上の相手と手合わせをしているのだからと、かつてコタロウと手合わせをしていた頃の気持ちに戻って「浮遊動盾」を出現させ、それを足場にした三次元的攻撃を仕掛けだした。

 魔法も「火炎放射」や「感電地」といった、自重している魔法以外の戦闘用魔法を全て駆使して出せるだけの引き出しを開けていく。

 その十数分後、疲れきった上に傷だらけのシューゴは大の字で仰向けに倒れ、息一つ乱れていないセンリはいい汗を掻いたと爽やかな笑みを浮かべていた。


「はっはっはっ。なかなか楽しかったよ。あの盾を足場に空中を自在に動き、立体的に近接戦と魔法攻撃をしてくるとはね」

「全部避けられるか、防がれるかしましたけどね」


 特に魔法での攻撃への反応が桁違いで、まるでどこに出現するかを読み取っているかのようだった。

 広範囲に放つことで回避を困難にする「螺旋廻弾」も「疾風刃来」も、発動と同時に出現場所と軌道を読み取られて回避行動を取られるほどで、ハッキリ言って異常なほど反応速度早い。

 それを暴く事もできなかったシューゴはとにかく手数で攻めてみたが通じず、最終的にはこれが格上の攻撃だとばかりに攻め込まれ、数分持ちこたえるのが精一杯で敗北した。

 しかし、内容という点では周囲からは高く評価されてる。。

 無詠唱なのはともかくとして、多彩な引き出しに空中を動き回る盾を利用した立体的攻撃には動く盾も含めて関心が集まり、投擲されても途切れない短剣は武器を具現化する魔法によるものだと気づくとその有用性から自身も創っておこうと言いだす者が多い。

 苦虫を噛み潰したような治安維持部隊隊長の男を除いて。


「しっかしやるね少年。魔法の威力や無詠唱を使える点もだけど、何より近接戦のための鍛え方がいい。良い師に教わって、教えを忘れず自己鍛錬を重ねたみたいだね」


 一度の手合せでそこまで分かるのかと思いつつ、褒められている上に隠す事でもないのでシューゴは体を起こして正直に答える。


「ええ、とてもいい師匠でした」

「それはなによりだ。良き人との出会いは良き人生に繋がる。かくいう私の旦那もだな」

「あの……その話は必要ですか?」

「まあまあ、黙って聞いてくれ。そもそも旦那との出会いは」


 逃がさないとばかりに肩を掴み、酔っ払いの絡み酒のように夫との出会いを語りだすセンリ。

 長くなりそうだと察したシューゴは周囲へ助けを求めようとするが、各隊長や教官は担当している冒険者と軍人へさっさと自分達の訓練に戻れと言い、軍人は大人しくそれに従い冒険者達も巻き込まれたくないのかそそくさと逃げる。

 ごめんねと謝る素振りを見せながらコトネ達も逃げてしまい、取り残されたシューゴは聞く必要も無いセンリの夫の話を延々と聞かされることとなった。

 しかもそれが娘の話にまで発展した時は、シューゴは目の前が真っ暗になる気分だった。


「支部長、強いし公正だし良い人なんだけどなぁ」

「旦那自慢と娘自慢の話がやたら長いんだよな」

「あの坊主も気の毒に……」


 そう呟く教官や隊長に対し、治安維持部隊隊長の男は恨めしそうにシューゴを睨み続ける。


(ふざけんな……。聞いてないぞ、あのクソガキがあんなに強いなんて)


 彼がシューゴの戦闘を直に見るのは今回が初めて。

 事前に聞いていたのは四文字の癖に生意気にも威力の高い魔法を使うということと、冒険者学校へ入学する前に元Bランク冒険者から二年ほど修行を受けていたということだけ。

 無詠唱のことすら教えられず、実際の強さに関する情報は全く無い状況でセンリとの手合わせを見た彼は具体的な情報を渡さなかったツグトへの怒りと、たった四文字なのにあれだけの魔法を使い、なおかつ自身より強いと思わせてしまうシューゴへの怒りで顔が真っ赤になっている。


(絶対にあいつを貶めて、汚名を返上してやる)


 そう決めた男は奥歯を噛みしめつつ、同僚に促されて自身が担当をしている班へ戻って行った。


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