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四文字で魔法を創造して  作者: 斗樹 稼多利
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研鑽会参加


 カタギリタウンの片隅に建つ、どこにでもある至って普通の宿屋。

 夜中に別々の部屋から出て来た数人が、周囲の警戒をしながら一つの部屋へ集まっていく。

 彼らは帝都から派遣された本命の調査員達で、ツグトとマサヨにかかっている内乱容疑について調べていた。


「全員集まったな。気づかれている様子は?」

「尾行はされていません」

「魔法で追跡、または監視している様子も無し」

「我々の中に裏切った者も無しです」


 不穏な単語も飛び出るが、国の重要機関に所属する彼らにとって裏切りによる誤った情報を得て任務を失敗する事ほど、不利益であり不名誉なことはない。


「よし。では現在までの調査結果を共有しよう」


 リーダー的位置にいる男の進行により調査結果を伝えて情報を共有していく。

 彼らがカタギリタウンを訪れて半月。それだけの期間があればかなりの情報が集められていた。

 怪しい傭兵集団との接触、駐屯地の治安維持部隊の隊長との密会、冒険者ギルド以外の各ギルドや組合の幹部級の面々とのやり取り。

 それらの人物達との会話の内容も合わせて報告し、容疑の証拠を固めていく。


「他に報告は?」

「子飼いを使い、囮となっている弟君を監視中。害を与えるかは不明」

「囮となってくれている礼に、襲撃か何かをするのが分かったら手紙で伝えてやれ」

「承知」


 その後もいくつかのやり取りを交わした後、彼らはそれぞれの部屋へと戻って行った。


 ****


 ランクアップして数日。

 この日は依頼を受けずに冒険者ギルド裏の鍛錬場で修行をしていたシューゴ達の下へ、ギルドの女性職員が尋ねてきた。


「合同研鑽会ですか?」

「はい。この町のDランク以下の冒険者と駐屯地に所属している国防軍の隊員によって、年に一度行われているんです」


 手渡してくれた合同研鑽会の案内には、上位冒険者か国防軍の教官か隊長の前で手合わせをして実力判定を行い、それによって同等くらいと判断された相手との実践訓練、パーティー同士による対人集団戦の訓練、夜間は野営と見張りをしているところへ奇襲をかけられた際の訓練といった内容が書かれている。

 参加は強制ではなく当日参加可能の希望者制で、場所は国防軍の駐屯地。期間は朝の早めの時間から翌朝までのほぼ丸一日。参加費は無いが食料は各自で持参すること。そういった点も含めて四人で読み、参加の可否を決める。


「どうする? 明日みたいだけど」

「是非参加したいです! どのような強者がいるか、楽しみです!」


 真っ先に参加を表明したのは、やはりというかなんというかシノブ。

 彼女にすれば強い相手と戦えるのならば、魔物でも人間でも関係無いようだ。


「いいんじゃない? パーティー同士の対人集団戦の訓練なんて、滅多に出来ないし」

「私もいいと思う。実力試しになるし」

「じゃあ参加決定」


 反対意見が出ないのとシューゴ自身も興味があったため、あっさりと参加を決めると鍛錬を午前中で切り上げ、午後を研鑽会に参加するための準備に宛てる。

 泊まる場所は駐屯地の訓練場での野営だが、既に「収納空間」には野営のために必要な物が入っているのでそれ以外の物、食料を中心に揃えるために市場へ向かう。

 チージア帝国内では麦も栽培しているが主流は稲作のため、国防軍や冒険者が持ち歩く食料は硬く焼いた黒パンではなく干し飯という、一度炊いて乾燥させた米であることがほとんど。

 だがシューゴ達には時間経過をしない収納系魔法、アカネの「ほぞんばしょ」がああるため長期保存は気にせず生鮮食品を購入していく。ただ、米に関しては炊いている時間がもったいないため、水で戻せる干し飯を購入した。


「肉はこの前の依頼で手に入れたのが残っているから、それでいいよね?」

「レッドディアーか。だったら肉はいいな」

「それではアレを、エビを買って行きましょう」

「アタシはエビよりもイカがいいわね。あの歯ごたえは気に入ったわ」


 まるで夕食の食材でも買いに来たかのような感覚で食料を買い、劣化しないようにアカネの「ほぞんばしょ」へ放り込んでいく。

 時間経過しない収納系の魔法を創っていれば、食料の買い出しなどこんなものである。

 そうして準備を整えると翌日のため、早々に戻って休むことにした帰り道。周囲の目を気にしてかコトネが小声でシューゴに話しかける。


「ところで本当に参加していいの? この前の絡んできた国防軍の人、ひょっとしたらアンタの兄貴と繋がっているかもしれないんでしょ?」


 内容に魅力を感じて参加を口にしてしまったが、後々になってコトネはその事を思い出した。

 だがシューゴとてそれは分かっている。


「別に駐屯地にいる国防軍全体が影響を受けている訳じゃないんだ、そこまで心配はしなくていいだろう。少なくとも、あそこのトップはそういう人じゃない」


 以前のイザコザの際、偶然通りかかって場を収めてくれた支部長の女性軍人。

 彼女のような地位の人物が向こう側でないのなら、前回のイザコザの相手も下手な事はしない。そうシューゴは予想している。


「それに案外、こっちからのこのこ現れたら向こうが墓穴を掘って自滅してくれるかもしれないだろ?」

「なるほど。それは面白そうね」


 その手の展開が好きなコトネが悪い笑みを浮かべて同意した。

 なお、合同研鑽会の話を聞いたカズトは自分も参加したいと駄々をこね、その場にいた私兵の一人から説教を受けることとなった。



 ****



 翌朝、早朝から出発したシューゴ達は駐屯地行きの馬車へ乗り込む。

 この馬車は今回の合同研鑽会の参加者用に用意されたもので、これともう一便に乗り遅れたら自力で駐屯地へ向かわなくてはならない。

 案内にもちゃんと書いてあるのだが、乗り遅れてしまって走って向かうパーティーが必ず一組か二組あるのだと、同乗した顔見知りの冒険者達がシューゴ達に喋る。

 なんでも彼らは昨年それをやらかしてしまい、走って向かって受付時間にギリギリ間に合ったらしい。


「というか、これって何度も参加できるんですか」

「条件はDランク以下ってだけで、参加の回数制限は無いからな」


 そう語る彼らはカタギリタウンで生まれ育ったため、冒険者になって以降は毎年参加しているらしい。


「研鑽会での評価を知ると、去年より実力が上がったって実感できるよな」

「そうね。討伐依頼を選ぶ時の判断基準にもなるしね」


 単に実力を磨くだけでなくそうした使い方もできるのかとシューゴは感心し、どうして同じ事を帝都ではやらないのだろうかと思う。


(やっぱり人数の関係かな)


 カタギリタウンと帝都では、駐在している国防軍の人数も冒険者の人数も大きく違う。

 仮に対象ランクをEかFに下げたとしても相当な人数が集まるのが予想される。それが理由で開催をし難いのだろうと、シューゴは思った。

 実際のところその予想は当たっており、それに加えて予算の問題もあった。国防軍とて予算のやりくりには、色々と苦労しているのが実情である。


「あっ、見えてきましたよ」


 外を見ていたシノブの声に反応して外を見ると、外壁に囲まれた駐屯地が見えてくる。国の防衛施設とあって華美さは無いがしっかりした造りをしている。

 門を潜る際に身分証明を確認されて受付を済ませてから中へ誘導され、連れて行かれた先は冒険者ギルド裏の鍛錬場よりもずっと広い演習場。その片隅では若い軍人達が準備運動をしていた。

 大人数での団体行動を訓練するためには、これぐらいの広さが必要なのだと誘導してくれた軍人が言う。


「開始まではまだ時間があるから、君達も体をほぐしておくといい」


 そう言い残して去って行く軍人を見送り、一行は演習場の片隅で準備運動や柔軟体操を開始する。

 しばらくすると第二陣も到着し、彼らも加わって準備をしつつ顔見知りと会話をしていく。


「ところで、上位冒険者はいつ来るんですか? 馬車には乗っていなかったみたいですけど」

「ああ。そいつらなら前日入りして、ここの教官と打ち合わせしてんのさ」


 近くにいた顔見知りの冒険者から説明され、なるほどと納得しながら建物の方を見る。

 年季が入っていそうだがしっかりした造りは簡単に壊れそうになく、そこのどこかで打ち合わせをしているかここを眺めるかしているんだなと思った。

 その建物の中では打ち合わせを終えた教官と各隊の隊長と上位冒険者が、廊下を移動しながら演習場で準備をしている若手軍人と冒険者を眺めている。


「おっ、今年も活きの良さそうな冒険者が来ているじゃないか」

「当然ですよ。そういうそちらこそ、なかなかの粒揃いじゃないですか」

「いやいや、まだまだヒョッコですよ」


 年に一度のこの催しで何度か顔を合わせたことがある教官と冒険者の会話を、ツグトと繋がりのある治安維持部隊隊長の男はつまらなさそうに聞いている。

 彼も隊長という立場にあるため、今回の催しに運営側として参加させられていた。


(ちっ。たった五文字と六文字程度の下劣な奴が、何を言ってやがる。あそこにいる奴らなんて、全員選ばれた人間である俺とは違う下等な奴ばかりじゃないか。何が粒揃いだよ。そういうのは最低でも八文字を使える奴の事を言うんだよ)


 この場において文字数が八文字以上の人間は彼一人。他は全員七文字以下。

 だがその実力は本物で、この場にいる面子ではこの男が最も弱い。

 文字数が多いだけに魔法は強力なのだが、ただそれだけで総合的に見れば他の面々の方が強い。だがこの男はそれを受け入れず、魔法が強力な自分こそこの中で最強だと信じて疑っていない。そこをツグトとマサヨから目をつけられた。


(ちっ。この前の件でツグト様からは叱責されるし、イライラするぜ)


 そう思いながらふと演習場を見た男の目に、談笑しながら準備運動をしているシューゴ達の姿が映った。


(おいおいマジかよ! 獲物が向こうから飛び込んで来たぜ!)


 この時、男の頭の中に余計な考えが浮かぶ。

 せっかくのこの機会を活かせば、ツグトから褒められて汚名返上できる上にストレス解消になる。

 そのためにはなんとしてもシューゴの担当になる必要があるため、どうしようかと策を巡らせていると冒険者の一人もシューゴに気づく。


「おっ、あの坊主も来てるじゃねえか。あいつは俺が面倒見てやろうかな」

「誰の事? あら、あの子ね。だったらアンタじゃ役不足よ、アタシがやるわ」

「いやいや、ここは僕がやりますよ。昔は彼と色々話していたから、やりやすいでしょうし」

「……それは私も同じ。譲る気は無い」


 一人が気付いたのを切っ掛けに、冒険者達が次々とシューゴの面倒を見ると言い出す。


(おいおい! なんであのクソガキがこんなに人気あるんだよ!?)


 男は知らなかった。シューゴが幼い頃から冒険者ギルドに入り浸って、冒険者達に顔を覚えられていることを。

 そんな彼らにしてみれば、現在は同業者として活躍しているシューゴは成長した弟のような感覚。面倒を見れるのなら見たいという気持ちは強い。


「ほう、顔見知りがいるのか。だったら担当は任せられないな。君達がそんな事をするとは思えないが、万が一にもひいき目で見られると彼のためにならない」

『えぇぇぇっ』


 教官の一人がそう告げると冒険者達は残念そうな声を上げ、男は心の中で歓喜した。

 このタイミングで自分が担当をすると言えば、自然な流れで担当になることができる。

 そう思っていた所へ、新たな横やりが入った。


「だったらこいつも外しておきな。この前ちょっと町であの坊主達とやりあったから、担当になったら気まずいだろう」

(こんのクソ支部長があぁぁぁっ!)


 男が心の中で叫んだ通り、横やりを入れたのはこの駐屯地の支部長。

 彼女もこの駐屯地の責任者として今回の合同研鑽会の打ち合わせに参加。若手の育成具合を確認するために見学する予定になっている。


「そうなのですか? 分かりました。そうしておきます」

(ちっくしょう!)


 計画が水の泡になった男は地団駄を踏み、不満不平を声を大にして叫んだ。心の中で。



 ****



 馬車に間に合わず、町から走って来て辛うじて受付時間に間に合った冒険者数名が合流して数十分後、教官と隊長と上位冒険者が現れて集合をかける。

 合同研鑽会に参加する軍人と冒険者が集まると、進行役の教官が前へ進み出る、


「これより、国防軍と冒険者による合同研鑽会を開始する。今回の内容は事前に案内で知っているだろうが――」


 簡単な開会の挨拶をして研鑽会の内容が改めて説明されている最中、シューゴ達は先日揉めた男と仲裁に入った支部長の女性を見つけた。

 向こうも向こうで気づいたのか、男は忌々しそうな視線を向け、支部長の女性は笑みを浮かべて小さく手を振る。


(おいおい……)


 双方の反応に苦笑いを浮かべつつ、シューゴは支部長の女性について一つ思い出す。

 あの時の去り際に小声で告げられた、「そこの地面に何かした、無詠唱使いの少年」という言葉。

 無詠唱使いなのは魔法を行使すれば気づかれることだが、どうして気づいたのかは分からない。

 「螺旋廻弾」や「火炎放射」のような目立つ魔法ならともかく、「感電地」という実際に浴びなければ気づかない類の魔法にどうして気づいたのか。それが段々と気になってきた。

 そんな事を考えているうちに説明が終わる。


「ではまずは、班ごとに分かれて担当の前で一対一での手合わせをしてもらう。振り分けはこちらでやったから、その通りに分かれるように」


 各担当は予め作成しておいた軍人の名簿と冒険者が受付で記入した名簿から作った担当対象の名簿を持っており、参加者は名前を呼ばれるとその人物の下へ向かう。

 シューゴ達は先ほどの支部長達のやり取りの関係も有り、全員が国防軍の教官が担当の班へ割り振られた。

 メンバーは軍人が八名、冒険者がシューゴ達を含め十二名の合計二十名。


「それでは、呼ばれた組み合わせで戦ってもらう。実力を評価するだけだから、勝ち負けは気にするなよ。武器はこっちで用意した訓練用の模造品を使うこと。魔法も使っていいが、加減には気をつけるように」

『はい!』


 こうして開始された実力判定のための手合わせ。

 最初に呼ばれたコトネの対戦相手は斧使いのEランク冒険者。見るからにパワー重視の相手に対し、「うずまきのや」で牽制しつつ「はやくうごく」で接近して細剣の突きで翻弄する。相手も斧の間合いに持って行くため、身体強化系の魔法で防御力を上げて耐えつつ攻撃用の魔法で間合いを開けようとするが、速さに付いていけず防戦一方。だが、ペースを握って押している事でコトネが調子に乗ってしまう。

 さっさと決めようとして動作が大きくなった隙を突かれ、力で押し返されて体勢を崩した隙に強烈な一撃を浴びる。

 辛うじて細剣で防いだものの押し負けて転び、斧を喉元に当てられる。


「そこまで」


 決着がついた所で教官が止め、二人へ評価を効かせる。


「同じ前衛でも戦い方の違う双方、それぞれの戦い方をよくやっていた。君は防御主体で隙ができるまで耐え忍び、君は速さで翻弄した。どちらも自分の戦いができていたが、課題もあるな」


 斧使いの課題は素早い相手対策。相手の動きを見切るか、動きそのものを鈍らせるか止める工夫が必要。

 コトネの課題は終わるまで油断しない精神的な鍛練と、打たれ弱さ対策。肉体面よりも精神面の鍛錬を重ねるよう言われた。


「よし、次」


 同じような手順で二人ずつ呼ばれて手合わせをして、決着がついたら終了して評価を聞かされる。

 アカネの課題は接近された場合の対処をもっと考えること。シノブは攻めに集中しすぎる癖があるから、そこを修正すること。

 そしてシューゴは最後の対戦カードに登場し、短剣を右手にだけ持って盾とメイスを持った軍人と対峙する。


「始め!」

(まずは軽く……「疾風刃来」!)


 牽制のつもりで放たれた「疾風刃来」だが、無詠唱で放たれたことで不意打ちのような形になり隊員が動揺し、対応が遅れてしまう。

 慌てて盾を構えたものの、彼が使っているのは防御用ではなく接近戦で相手の攻撃を流して捌くための小型のもの。

 それで広範囲に放たれる「疾風刃来」を完全に防げるはずがなく、数発が脚に命中。切れないように刃先を丸めて勢いも抑えていたが、脛に命中して隊員は痛さで意識がシューゴから逸れてしまう。

 軽い牽制のつもりだったのが思わぬ結果になったが、この隙を逃すつもりはシューゴには無い。


(身体強化)


 間髪入れず「身体強化」を施し、意識が逸れている隙に接近。

 相手が顔を上げた時には既に懐に飛び込まれており、盾で押そうにも「身体強化」を施したシューゴに逆に押されて倒れそうになり、苦し紛れのメイスも柄の部分を空いている左手で押さえられ、倒れたところに短剣を突き付けられる。


「……そこまで!」


 部下の無様な負け方に頭痛でもしたのか、教官が苦い表情で戦いを止める。

 その後の評価で、シューゴには偶然にしてもできた隙を逃さなかった点を評価した言葉をかけ、直後に軍人へ向けて厳しい叱責が行われた。

 まるでシューゴへの評価を早々に切り上げ、部下の負け方に対する注意を優先したかのような行動に、評価をあっさり終わらされたシューゴだけでなく既に手合わせを終えていた面々は戸惑う。だが、あの負け方じゃ仕方ないかとも思い、早く終わることを祈る。

 なお、叱責をしている教官は若手の間では叱り魔と陰で呼ばれているほど説教が長いことで有名で、この叱責は他の班の手合わせが全て終わるまで続くこととなった。


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