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四文字で魔法を創造して  作者: 斗樹 稼多利
24/45

ランクアップと海辺


 カタギリタウンを訪れて半月が経過。

 その間にシューゴは周囲からツグトやマサヨのことを聞きつつ、パーティーの女性陣と共に快進撃を続ける。

 半月前にプリンセススパイダーを討伐したのを皮切りに、二日に一度は修業に励みつつ依頼を受けて次々に魔物を撃破していく。

 件のシューゴのランク昇進は実績不足で見送りになったものの、ギルド内において実力は高く評価された。

 冒険者ギルドは腕があっても登録時期の関係でランクが低い冒険者に対し、ランクを上げるための実績になりそうな依頼を対象者へ勧めることをしている。

 腕に見合ったランクを与えるためのこの取り組みに乗っ取り、シューゴ達にはギルドから依頼が勧められるようになっていた。


「喜んでお受けします!」


 ただ、これに反応したのはシューゴではなくシノブ。

 未知の魔物と戦えると張り切る彼女を宥めつつ、この日も請け負った依頼の対象である魔物を狩るために出かけていた。

 その魔物と相対するとコトネは訳が分からず困惑して、戦いだすとアカネから泣きが入った。


「ちょっと、森の中にカニがいるのはともかく、なんで普通に前進してくるのよ!? カニはカニらしく横歩きしなさいよ!」

「ふえぇ……。殻が硬くて矢が刺さらないよぅ」


 魔物の名前はマッドクラブ。

 主に沼地の泥の中に生息しており、大きさは一般的な豚くらい。

 何故か前進と後退ができる上に外殻が硬く、生半可な物理攻撃では亀裂一つ入らない。加えて強力な鋏は鋼鉄さえも切ることができる。

 その堅い外殻は防具の素材として利用されており、身肉は泥の中に生息しているのに全く泥臭さが無く、それどころか海で取れる普通のカニより数倍美味として貴族の食卓に並ぶほど。

 ただし遠距離攻撃はできず、動きそのものもさほど俊敏ではないため、槌や斧のような武器か特定の効果のある魔法さえあればEランク冒険者でも対応できるとされている。


「やはりこの殻は、槌や斧のような威力の高い武器でないと傷一つ入りませんね!」


 ヒットアンドアウェイで攻撃を繰り返すシノブだが、彼女の剣でも外殻には傷一つつかない。


「それでいて下手に殻を割ったら売却価値が下がるから、面倒な魔物だな!」


 繰り出される鋏による攻撃を回避しながら関節を斬りつけるが、刃は通らず逆に弾かれる。

 とても近接戦でどうにかできなさそうだが、下手に魔法で攻撃して価値のある殻を破壊するわけにもいかない。

 どれぐらい堅いのかを確かめるため、試しに接近戦をやってみたシューゴとシノブとコトネは即座に距離を取って戦法を変える。


「他の冒険者から聞いた攻略法通りに動きを止めるから、その隙に弱点を突くぞ」


 迫ってくるマッドクラブの群れの足下に「感電地」を発動させると、数体が感電して仰向けやうつ伏せで倒れる。

 残りも片っ端から痺れさせ、どうにか動きを止めるのに成功。痺れているうちに弱点とされている口の中へ剣なり矢なりを入れ、体重をかけて突き刺して倒した。


「これ、動き止めないと口の中を刺すなんて無理でしょ」

「雷系の魔法か拘束系の魔法が無いと狙えないというのが、よく分かりました」

「弓矢使いには天敵だよ、この魔物」


 女性陣が口々に愚痴を言っているうちに解体しようとしたシューゴだが、関節さえも硬くて上手く刃が入らず四苦八苦する。


(「身体強化」して強引にやればできなくもないけど、刃が欠けそうだな)


 最近新調したばかりの短剣を破損させたくないシューゴは短剣を鞘に収め、代わりに「具現短剣」を使って解体に取り掛かる。

 力任せに関節の僅かな隙間へ刃を押し込み切断し、殻の中から身肉を引っ張り出す。

 しっかりとした身肉は多少力任せに引っ張り出しても千切れず、ズルリと殻の中から出てきた。

 あくまでカニのため、獣肉のような脂こそ無いが生でも食べられそうなほど鮮やかな鮮紅色をしており、思わずシューゴは唾を飲み込む。


「だ、駄目だよ、食べたら。魔物の肉を生で食べたら、お腹を壊すくらいじゃ済まないよ」


 止めに入ったアカネの言う通り、魔物肉を生で食べると体に様々な害を与える。

 毒で苦しむというより、生肉に含まれる成分があらゆる内臓の機能に障害を発生させて生命活動の維持を困難にしてしまう。

 加熱すればその成分は消滅して安全になるため、絶対に加熱処理をするように言われている。


「分かってるよ。でも、美味そうな色だな……」

「……そうだね」


 危険だと分かっていても、つい食べたくなってしまうほどの鮮やかな色合い。

 どうにか解体した身肉をアカネの「ほぞんばしょ」へ、殻はシューゴの「収納空間」へと放り込んで解体の続きに取り掛かる。

 そうして回収したマッドクラブを冒険者ギルドへ提出すると、受付の女性職員が満面の笑みで対応してくれる。


「はい、確かにお預かりしました。そしてシューゴさんはこの依頼の成功をもって、Dランクへのランクアップが決定しました!」


 女性職員がおめでとうございますと言って拍手を送ると、それにコトネ達も加わって拍手を送る。


「それとコトネさんとアカネさんも、Eランクへのランクアップが決定しました」

「本当ですか!?」


 興奮したコトネはシューゴを押しのけ女性職員に詰め寄る。


「はい。むしろ、これだけの成果を出してランクアップしないはずがありませんよ」

「半分おこぼれみたいな感じですけどね」


 自虐的にコトネが言うように、二人がランクアップをする要因となったのはシューゴをランクアップさせるための依頼を一緒に受けていたから。

 おこぼれと言われても仕方のないことだとは二人とも理解している。


「だとしても、ちゃんと戦闘に参加して役目をこなして結果を出してるんだ。気にすることは無いと思うぞ」

「そうですよ。ふふふっ、この調子なら私のランクアップもそう遠くないうちに」


 ランクアップすれば魔物の領域の奥地へ行きやすい上に、より強い魔物の討伐依頼も受けられる。

 それを目的にしているシノブが笑うが、女性職員からシノブさんはまだ先の話ですねと言われると崩れ落ちた。

 単独でプリンセススパイダーを倒したか倒していないかの差は、思っていた以上に大きいものだった。


「それでは手続きをしますので、ギルドカードを提出してください」


 ランクアップする三人のギルドカードを提出し、手続きが終わるまでの間を他の冒険者との会話で過ごす。

 ここで行うのは魔物や最近の情勢について話を聞くだけでなく、ツグトとマサヨの情報と二人と似たような思想の持ち主に関する情報収集。ツグトとマサヨについての情報はこれまでと変わらずあまり良くない話が多く、ここ最近も商業ギルドや漁業ギルドの幹部と密会をしていたという噂が流れている。

 その二つのギルドの幹部とやらも二人と同じ思想をしていると、情報通を自称する年配の冒険者は語った。


「あくまで噂の範囲だけどな」

「充分ですよ、自称情報通さん」

「お前な!」


 シューゴと年配の冒険者のやり取りに、双方のパーティーメンバーは笑いに包まれる。

 そうしている間に手続きが終わり、依頼の報酬の他にランクアップした三人へ新たなギルドカードが手渡された。


「おめでとうございます。今後のご活躍も期待しています」


 女性職員からの祝福に一礼したりお礼を言ったりした後、Dランクから受けられる依頼を確認するために一度掲示板の前へ向かう。

 さすがにこれから新たな依頼を受けることは無いため、ちょっとした下見感覚で依頼書を見ていく。


「おぉぉっ! やはりランクが上がると討伐対象の魔物が違いますね!」

「落ち着け。あくまで俺が受けられるだけで、パーティー全体から見れば受けられるかは内容次第だぞ」


 例えリーダーのシューゴがDランクでも他のメンバーのランクはそれ未満のため、Dランクの依頼を簡単には受けられない。受けられるとすれば、Eランクの依頼に近いものぐらい。

 これも余計な被害や死者を出さないギルド側の配慮であり、措置であった。


「とりあえず俺達にできるとすれば、これかな」


 シューゴが指差したのは、海岸に出現するようになったウォークフィッシュの討伐。

 海に住む魔物にも一応領域のようなものはあるが、天候や潮の関係で割と簡単に領域の外に出て浜辺に現れたり、漁船を襲ったりする。

 そのため海のある港町や漁村といった所では、冒険者が浜辺の巡回をしたり漁船に同行したりするのは珍しくない。あくまで依頼があればだが。


「これってどういう魔物なの?」

「えっと……」


 幼い頃に読んだ魔物の資料から該当する情報を引っ張りだしたシューゴは、記憶にある内容を説明する。


「全長一メートル前後の四足歩行の魚だ。ヒレもあるけど基本的にその足で泳いだり、陸上を移動するんだ。足はなんかヒレが進化したみたいな感じ」

「なにそれちょっと気持ち悪い」


 どんな姿を想像したのかコトネが表情をしかめる。


「ちなみに鱗は装飾品の素材として価値があるけど、身の方は水っぽくて不味いんだって」

「美味しくない魚など、滅んでしまえばいいんです!」


 カタギリタウンに来て以降、新鮮な海産物を使った食事が気に入ったシノブが声を大にして叫ぶ。

 それに同意するように多くの冒険者が頷いていた。


「それなのにDランク冒険者が必要なんだね」

「割と強いらしいからな。前方に素早く跳躍して鋭い牙で噛みついたり、口から水鉄砲のような攻撃をするって資料にあった記憶がある」

「よくそんな事まで覚えているわね」

「何度も繰り返し読み込んだからな」


 ちなみにそうやって覚えた本の内容を、夜の見張り中や移動中に頭の中で読んでいたりする。しかも一言一句間違えずに。

 なお、シューゴにそんな密かな特技があることは、本人以外に知る人はいない。


「どうせ海に行くのなら、味の美味しい魔物を狩りたいです」


 普通そこは泳ぐとか釣りなのだが、魔物を狩りたいというのがシノブらしい。


「だったら……まあ、あれがいいとこかな」


 指差したのはEランクの依頼で粘滑タコという魔物の討伐依頼。

 普段は沖の方の海底にいるこの魔物が現れたのは貝類がよく取れる岩場で、貝類を捕食されて困っていると書かれている。


「あれは美味しいの?」

「魔物だから生は無理だけど、煮ても焼いても炒めても美味い。距離を取って魔法で攻撃して、毒性のある墨を飛ばしてくることにさえ気をつけていれば問題は無い」


 逆に近づいて絡まれると、色々な意味で大変な事になる。

 この魔物は地上では常に特殊な体液を体表に纏っており、物理攻撃はこれによって滑って威力が激減し、それでいて粘りも兼ね備えているので絡まれたら抜け出すのが困難。

 厄介であり矛盾しているような性質のこの体液だが、加工して作る化粧水には美肌効果があるため貴族の女性にとても人気がある。


「では、今のうちに手続きをして明日狩りに行きましょう!」


 鼻息荒く提案するシノブに苦笑しつつ、一行は依頼書を手にして受付へ手続きに向かった。

 その後は時間があるということで軽く鍛錬をして帰ったのだが、コトネとアカネのランクアップを知ったカズトとトシキが負けてたまるかと護衛の仕事を放って依頼を受けに行こうとしてためシューゴによって物理的に沈められた後、ツグト達の件が終わったら護衛を変わるから我慢するよう説得された。



 ****



 ここ半月で町中におけるシューゴ達の行動を子飼いに尾行させて調べていたツグトとマサヨは、シューゴはタイガの護衛としてではなくショウマの指示で領地で自分達がやっている事を調べているのだと確信していた。彼らの情報収集行為が囮だとも気づかずに。


「母上。我々の崇高な行いを父上は良く思っていないようですね」

「所詮はあの人も低俗な人間だった、ということよ。私達のような選ばれた人間の行いを理解出来ていないのね」


 自分の夫だというのに平然とそう言い切ったマサヨは額に手を当て、溜め息を吐きながら首を横に振る。


「しかし母上、もしも出来損ないを通じて父上が我々の崇高な行いを知り国が動いたら厄介です」

「やはりこの国は駄目ですね。私達のような選ばれた人間が、正しい方向へ導くことを最も嫌っているのですから」


 遂にはチージア帝国における差別嫌悪の風潮まで批判しだしたが、二人にとってはごく普通の考え。

 彼らにとってこれは差別ではなく、出来損ないと低俗と崇高に区別しているだけと認識しているのだから。


「まあ大丈夫でしょう。あの出来損ないが証拠を掴めるとは思えません」

「……そうね。でも万が一ということがあるかもしれないわ。入念に秘匿するよう、同志の人達にも伝えておきましょう」


 そう結論付けた二人の意識はシューゴへ向いており、屋根裏でそれを見聞きしている本命の調査員が潜んでいるのには全く気付いていなかった。



 ****



 翌日、粘滑タコの討伐のため海岸の岩場に向かったシューゴ達は、水中から出てフジツボを捕食していた粘滑タコの群れと遭遇して戦闘を開始した。

 定石通りに距離を取って魔法攻撃に専念し、放たれる毒性の墨は落ち着いて回避する。万が一に備えて解毒薬も用意してあるが、特に必要も無くシューゴ達有利で戦闘は続く。


「やはりEランクの依頼では、少しもの足りませんね」


 「ほのおのつるぎ」という剣の形状をした炎を放つシノブは、自分で選んだ依頼なのに不満を口にする。


「お前な。自分でこれやろうって言って、率先して受けておいて何だその反応は」


 いつも通り無詠唱を用いているシューゴは、「標的誘導」でロックオンした粘滑ダコの眉間を「螺旋廻弾」で正確に撃ち抜きながらシノブの反応に苦言を漏らす。


「一晩経って、その時の熱が冷めた感じなのかしら?」

「よっと。まあ確かにあまり強くないけどね」


 「うずまきのや」という回転する水の矢を放つコトネは冷静に分析し、毒性の墨を回避したアカネは「ひょうかいおとし」という氷の塊を相手の頭上へ落とす。

 思ったよりも数は多かったが順調に倒していき、無事に討伐は成功。後は粘滑ダコを回収するだけかと思いきや、そんな簡単な話ではなかった。


「いやあぁぁぁっ!」

「粘る! 滑る! なんですかのこの体液は!?」

「ひゃわあぁぁあっ! ヌルって粘って、なんか気持ち悪いよぉ!」


 岩に擬態して隠れていた数体が回収のために近づいてきた女性陣に絡みつく。

 滑って粘る独特の体液の感触に悲鳴を上げ、吸盤でしっかりくっ付いている粘滑ダコを剥がそうとするが体液のせいで上手く掴めない。

 悲鳴を聞いて駆けつけたシューゴだが、その光景に思わず視線を外してしまう。

 というのも、体液のせいで服がピッタリ肌にくっ付いてスタイルがハッキリ分かってしまっている上に服が透けているのに加え、粘滑ダコが絡みついている光景がなんだか見てはいけないものを見ている気にさせたからだ。


「シューゴくぅん! 助けてえぇっ!」

「わ、分かった。しばらく動かずに我慢してくれ」


 視線を外しながらそう伝え、心底嫌そうな表情で耐えながら動きを止める三人に絡む粘滑ダコの眉間へ「標的誘導」を使い、「螺旋廻弾」で正確に撃ち抜いた。

 力尽きた粘滑ダコは吸盤からも足からも力が抜け、勝手に体から離れて落ちる。

 だが、女性陣の状態は変わらない。


「うえぇぇ。ベタベタしてヌルヌルして気持ち悪いです」

「はうぅぅぅ……」

「ちょっとシューゴ! こっち見ないでよ!」

「分かってるよ!」


 「螺旋廻弾」が命中して粘滑ダコが力尽きていくのを見届けた直後から、シューゴはコトネ達に背を向けて見ないようにしている。

 だが、全く見ていなかった訳ではなかったため、三人のスタイルと体液塗れになった光景はしっかり脳裏に焼き付いていた。

 特に最も強く焼き付いている光景は、半月前にちょっと気まずくなっていたのがどうにか普段通りに戻ったアカネの姿。


(ダボダボの服で分かり辛かったけど、アカネって割とあるんだな、胸……)


 シューゴ・カタギリ十五歳。いかに体と魔力と思考力を鍛えていようとも、まだまだそういうお年頃である。

 この後、女性陣は岩場の陰で体を洗って「ほぞんばしょ」に入れておいた着替えに着替え、その間にシューゴが粘滑ダコを回収していった。

 ただ解体方法が分からないため、そのまま「収納空間」へ放り込んで冒険者ギルドまで運び、ギルドの解体職人に解体を頼むことにした。


「まあそうだろうな。こんな変な体液があるこいつを捌くには、ちょっとコツがあるからな」


 そのコツについてシューゴが尋ねると。


「秘密だ秘密。自分らでやるようになったら、こちとら商売あがったりだ」


 笑いながらそう言って、粘滑ダコの入ったバケツを解体部屋へと運んで行く。向こうも仕事である以上、やはり簡単には教えることはしないようだ。

 しばらくして討伐証明の口部分、体液が溜められたバケツ、そして処理された粘滑ダコの体を受け取って討伐証明と体液を受付へ提出する。

 解体費用を差し引いた報酬を受け取る際、身は売ってくれないのですかと男性職員に尋ねられると四人は声を揃えて言う。


「「「「これを食べるためにこの依頼を受けたので、持って帰ります」」」」


 こうして持ち帰った身は調理され、美味しくいただかれた。

 ただ今回の一件で、粘滑ダコに絡まれた時の気持ち悪い感触を思い出してしまうと女性陣が主張したことから、しばらく海付近での依頼は受けないようになった。

 その事が話題になる度、絡まれた光景を思い出してしまうシューゴも心の中で静かに同意している。


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