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四文字で魔法を創造して  作者: 斗樹 稼多利
22/45

次男仕掛ける


 偶然遭遇したプリンセススパイダーをどうにか倒したシューゴ達は、巣があったという証拠として卵を一つ割って破片を回収。同じく捕食された冒険者達の遺品を回収した後、残りの卵を「火炎放射」で焼却処分してから町への帰路へ着く。

 先頭をシューゴとシノブが進み、その後ろにコトネとアカネが続く。

 チラチラとシューゴの背中に目を向けるアカネの様子に、コトネはニヤつきながらアカネへ近づき小声で尋ねた。


「ねっ、シューゴと何かあったの?」

「へうっ!?」


 クリティカルを突かれたアカネが妙な声を出したため、どうかしたのかとシューゴとシノブが立ち止まって振り返る。


「あっ、なんでもないの。気にしないで」


 アカネに寄り添っているコトネがそう返すと、首を傾げながらもシューゴとシノブは再び前を向いて歩き出す。


「あああ、あの?」

「まあまあ、まずは落ち着こうか。そして何かあったのか、話してごらん」


 肩を組んで笑顔で尋ねられたアカネは、あからさまに好奇心と面白さだけで尋ねられていることに気づく。

 それでも口でコトネに勝てる気がしないアカネは、結局シューゴを説教した時に起きたハプニングを喋ってしまった。

 もう少し面白い展開を期待していたコトネは少々肩すかし感を覚えるが、これはこれで面白いかもと頭を切り替えて微笑む。


「ファイト! 必要ならキューピット役は任せて」

「だから、そういうんじゃないの。単にちょっと恥ずかしいのと、気まずいだけで」


 何やらコソコソ喋っているのには気づいても、邪魔をしない方がいいと思ったシューゴは気にすることなく歩を進めていく。

 結局コトネとアカネによるこの話は、町の手前に差し掛かるまで続いた。

 その後、冒険者ギルドへ出向いたシューゴ達は依頼中に起きた出来事を全て報告する。


「プ、プリンセススパイダーが? しかも巣を? 本当ですか?」

「本当です。証拠はこれです」


 証拠として受付前の床に「周刃貫刺」で刺し傷だらけになったプリンセススパイダーの死体と卵の破片を、「収納空間」から取り出して並べた。

 すると受付の女性職員達だけでなく、周囲にいた冒険者達も驚きの反応を見せる。


「で、では、本当に?」

「そう言っているじゃないですか」

「誰か、ギルド長に伝えて! 調査隊の派遣と、場合によっては緊急クエストの事案よ!」

「はいっ!」


 女性職員の指示を受けた若い男性職員が返事をしてバタバタと駆けていく。


「そんなに大変な事なのですか?」


 シノブの問いかけに女性職員は頷き、早口で説明する。

 プリンセススパイダーには二通りの出現方法があり、一つは下級の蜘蛛系の魔物からの進化。もう一つはさらに上位種のクイーンスパイダーかアラクネが、自身の後継者として産んだか。

 前者だったら今回シューゴ達が倒したので問題無いのだが、後者の場合は厄介なことになる。


「クイーンスパイダーかアラクネが産むプリンセススパイダーは、複数体いるんです」


 その中から後継者を一体だけ決め、他は同じ魔物の領域内の別の場所に新たな巣を構築する。

 これは巣分けと呼ばれる習性で、長く放置すればやがて蜘蛛系の魔物が領域に溢れ、居場所を求めて領域の外にまで出てしまう恐れがある。

 かつてこれにより、いくつかの村や集落が襲われて壊滅したという記録があると女性職員は言う。


「そういう訳で、このプリンセススパイダーがどっちの理由で出現したのか、調査する必要があるんです」


 説明を聞いたシューゴ達は思った以上に大きかった事実に戸惑い、互いに顔を見合わせて困惑する。

 するとそこへ、ドタドタと足音を立てながら真っ白な顎髭をたなびかせて走ってくるギルド長と思われる老人が現れた。


「話は聞いたぞい! おぉっ!? 確かにこれはプリンセススパイダーとその卵の欠片! これはいかん、副ギルド長! すぐに調査隊を派遣する準備だぞい! それと、誰かを代官様への報告と説明へ向かわせるぞい!」


 慌ただしくやって来て大慌てで指示を飛ばしていく様子に、老人を指差したシューゴは困惑の表情を女性職員へ向ける。


「ちょ、ちょっと慌て者ですけど、あの方がここのギルド長です」


 あれでちょっとだろうかとシューゴ達が見守る中、慌ててはいても的確な指示を出して行くギルド長。

 その辺りはさすがだと思い始めていると、ギルド長が慌てながらシューゴ達の方へ駆け寄って来た。


「君達がプリンセススパイダーを討伐した冒険者かぞい? 場所はどこだぞい? ちゃんと報酬は出すから、調査隊に同行して案内してほしいぞい!」

「は、はい」


 妙な語尾付きで迫られたシューゴは勢いに押されて頷く。


「よろしく頼むぞい! では、わしは対応があるからこれで失礼するぞい!」


 そう言い残してバタバタと去って行くギルド長の慌ただしさに、よくあれでギルド長になれたなとシューゴ達は一様に思った。

 しばしポカンとした後、受付の女性職員からプリンセススパイダーの解体料金を差し引いたうえでの報酬と素材の買い取り金を受け取る。ただ、プリンセススパイダーが傷だらけのため討伐はともかく、素材は値段が付かないと言われてしまった。


「こんな傷だらけにしたせいで内臓は使い物にならねえし、体中の糸も切れちまってる。槍の柄とかに使える脚や腕もズタボロ。こんなの二束三文にもなりゃしねぇよ」


 解体職人からそう言われて落ち込む一幕もあったが、プリンセススパイダー討伐とあって新米冒険者にとってはかなりの金額が支払われた。なお、今回の収入を等分しようとしたシューゴだったが……。


「プリンセススパイダーを倒したのはシューゴ一人なんだから、それは持っていきなさいよ」

「命を救ってくれたお礼と思ってください」

「他は等分でいいから」


 女性陣から頑なにプリンセススパイダーの討伐報酬を受け取るのを拒否され、結局それだけは全額シューゴが受け取ることで決着する。

 その後は回収した冒険者の遺品をギルドへ預け、調査隊の案内の為に翌日もギルドを訪ねるように女性職員から伝えられ、ようやくギルドから引き上げることができた。


「なんか、濃い一日だったわね」


 屋敷への道すがらコトネが呟いた一言に揃って同意する。


「しかも、あの魔物かそれ以上の魔物がいるかもしれないのですか……」

「討伐するのは多分、俺達よりもランクが上の冒険者だろ」

「というより、戦えって言われても無理だよぉ」


 ツグトの目を引くために目立つように言われたものの、いきなりこんな大穴を当てるとは思わなかった一同はとにかく早く帰って休みたかった。特にプリンセススパイダーと激戦を繰り広げたシューゴは、油断すればそのまま寝てしまいそうなほど疲れている。

 そんな状態でどうにか屋敷へ戻ると、使わせてもらっている離れの部屋へ向かってそのまま夕食まで一眠りすることにした。


 ****


「聞いたよ、兄さん。大変だったね」


 夕食の席で合流したタイガはカタギリ子爵領代官のレイトの下で勉強中、冒険者ギルドの使者からレイトと共に報告を聞いたと言う。


「偶々一緒にいたツグト兄さん、憎らしそうに舌打ちしてたよ」

「だろうな」


 今頃はこの事が気に入らずイライラしているか、母親のマサヨに愚痴を言っている頃だろうとシューゴは思う。

 続いて視線をタイガの護衛として選んだカズトとトシキへ向ける。


「それで、そっちはどうだった? ツグト兄さんから何かあったか?」

「五文字だって分かったら舌打ちして使えない呼ばわりされて、ゴミを見るような目をされた」


 胸糞悪いと言いながら食事に箸を突き刺すカズトに、行儀が悪いとコトネが頭を引っ叩く。


「一人になったところを女性と間違えられて色々と誘われたよ。男だって分かると、過剰なほど嫌悪の目を向けてこられて……」


 遠い目をしたトシキの肩に、シューゴとシノブは黙って手を置いて頑張れと呟いた。


「ツグト兄さん、すっかりマサヨ義母さんからの影響を強く受けてるね」

「あの人は父さんの目があっても、徐々に本性を出してきたからな」


 むしろ、よくシューイチが同じ思想に染まらなかったものだとシューゴは思う。


「そんで? 明日は調査隊の案内なんだって?」

「ああ。それはそれで報酬が出るし、さすがに放っておけないからな」

「ていうか、半ば強制的な仕事だけどね」


 案内をできるのがシューゴ達しかいない以上、強制的に調査隊へ参加させられるのは仕方のないこと。

 だが、決してそれは悪い事では無い。

 少々危険が伴う可能性はあるが、調査に参加するであろう上位ランクの冒険者との繋がりを作れるチャンスでもある。

 ランクが大きく違うためこれを機に一緒に仕事をするようになることは無いが、良好な関係を築くことができれば何かあった時に頼れる上、役立つ情報をもらったり稽古をつけてもらったりすることもできる。

 尤も、シューゴの顔見知りが多いカタギリタウンではあまり関係の無い話だ。


「とりあえず、明日は気楽に行こう。あんなこと、そうそう起きることじゃないから」


 仮に起きたとしてもランクが上の冒険者が同行するだろうから大丈夫。一緒に食事をしている全員にそう言い聞かせ、この話は終わった。

 その一方でツグトは、自室でとてもつまらなさそうにしていた。

 冒険者ギルドからの使者がやってきた時、たまたま居合わせて聞いたプリンセススパイダーの出現とその危険性。

 それだけならまだツグトも気にしなかったが、それを報告したのがシューゴのパーティーだと聞くと眉間にしわを寄せ、あまつさえランク的には格上の相手を討伐したと聞いたら強い苛立ちを覚えた。


「あの出来損ないめ。たった四文字しかないのなら、何もせず大人しくしていればいいものを」


 苛立ちは全く治まらず、それをぶつけるように机を叩く。

 ツグトがシューゴを気に入らなくなったのは、あの魔法を披露した日からだった。

 それまではたった四文字の魔法しか創ることのできない、低俗で使えない弟という評価で特に気にもしなかった。それが四文字とは思えない完成度で、高威力の魔法を無詠唱で行使した瞬間から変わった。

 四文字しか持たないこの世で最も選ばれなかった人間のくせに、それを弁えずにいる愚か者。しかも無詠唱を扱い、たった四文字でどんな魔法名を書いたのかを隠している卑怯で生意気な低劣な奴。それがあの日以降ツグトが抱いたシューゴへの気持ち。

 今回の件はそれに拍車をかけ、最早ツグトにとってシューゴはこの世の在り方に反する排除すべき異端者に近いものになっている。


「義兄として、愚か者な義弟はしっかり躾ける必要があるか」


 ニヤリと笑ったツグトはしばし考えた後に手紙のようなものを書くと、窓を開いて「おくりさきへとばす」と呟く。

 すると手紙を魔力が包み込み、風も吹いていないのに勝手にどこかへ飛んで行った。


 ****


 翌日、調査隊への協力のためにシューゴ達は冒険者ギルドへ向かうために出発した。

 ひょっとしたら昨日の件が気に食わないツグトが子飼いの冒険者かギルド職員を使い、何かしら妨害か嫌がらせをしてくるかもしれない。

 そう思って警戒しながら道端での嫌がらせに備え、警戒していたのだが……。


「おう、兄ちゃん。朝っぱらから女を三人も連れてるなんて景気がいいな、ちょっとこっちに恵んで――ぎゃっ!」

「テメェ、今ぶつかったぞ。こりゃあ骨が折れたから治療費もらわないとな。なんならその女達でも――ぎゃっ!」

「おいガキ共。俺らにガンつけただろ。こりゃあちょっと向こうで話し合いをしなくちゃ――ぎゃっ!」


 道中で絡まれたのは、人相が悪いだけの小物感溢れる相手ばかり。

 一人目はともかく、二人目は明らかに自分からぶつかってきた上に、三人目は見れるはずもない後ろから声をかけられた。

 その度にシューゴが無詠唱の「感電地」で痺れさせ、気絶して倒れている間に退散。

 傍から見れば相手が急に倒れたようにしか見えないため、周囲にいた野次馬達は何故倒れたのか分からず首を傾げるばかり。

 そうして厄介事を回避しながらギルドへ向かう一行は、明らかにおかしい展開に一つの可能性を思い浮かべていた。


「ねえ、さっきから絡んでくるアレってさ」

「分かってるって。バカな兄貴がすまない……」


 昨日の今日で、しかもこんなに分かりやすい形で妨害してくるとは思わなかったシューゴは頭が痛くなった。


「これで気づかれないと思っているのでしょうか?」


 小物感あふれる人物しか使ってこない小物ぶりに、何かしてくるんじゃないかと警戒していたのがアホらしく思えてきた。


「さっきまでのは小手調べで、ギルドに着いたら本番ってことはないかな?」


 アカネの推測に、それはどうかなと悩んでから数分後。推測は正解だったことが証明された。

 とても分かりやすい形で。


「……ツグト兄さんって、もうちょっと頭いいと思っていたんだけどな」


 冒険者ギルドの前で、武装した十人近い男達がたむろしている。

 しかもシューゴ達を見つけると、明らかに絡む気満々でニヤニヤしながら近づいてきた。

 これでツグトの子飼いだと気づかないはずがない。


「なんか、まともに対応するのがアホらしく思えてきた」


 思わず呟いたシューゴの発言にコトネ達は黙って頷く。


「おっ――びっ!?」


 声をかけられた途端に敵認定をしたシューゴは、近づかれる前にこれまで通り「感電地」を使用。

 足下からの電流に痺れた男達は一斉に倒れた。


「あの、どうしました?」


 自分のせいではないとしらばっくれるため、急に倒れた男達に近づいて声を掛けておく。

 周囲の人々も何事かと集まる中、別の武装した集団が現れる。


「動くな! これは何事だ。お前がやったのか」


 集団はチージア帝国の国防軍へ支給されている武装をしており、この地域の駐屯地に所属している国防軍の隊員なのが窺える。

 先頭にいるリーダーらしき男はシューゴを指差し、男達が倒れたのはシューゴが原因なのかと声を上げた。

 間違ってはいないが実際にやった証拠はどこにもない。それが無詠唱の利点であり、「感電地」という魔法の特徴。

 だからこそ、シューゴは予定通りにしらばっくれた。


「違います。この人達が急に倒れたんです」

「嘘をつくな! 誰か見ていただろう! こいつが彼らを暴行していたのを!」


 周囲にいる人々にリーダーの男が声を上げる。その表情は笑っており、まるでこの先の展開を想像して愉悦に浸っているように見える。

 それを見たシューゴはこの状況の理由を察した。


(本命はこっちか……)


 道中で絡んできた三人はいわば布石。

 油断したところへ今は倒れている男達を差し向け、また同じ展開だろうと思わせて人通りの多い場所で実力行使を誘う。そこへ国防軍の隊員を遭遇させ、暴行容疑で逮捕させる。

 加えて、その後の釈放に尽力したフリをすることで恩を売るつもりなのかもしれない。

 おおよその筋書きを推測したシューゴは、不安そうなコトネ達に大丈夫だと告げる。


(実力行使はしたけど、周りは誰も気づいていないからな)


 実際問題、リーダーの男が期待していた声はどこからも上がらない。


「お、おい、どうした? 誰か見ていただろう、こいつがこの倒れている善良な町人を暴行したのを」


 全く声が上がらないことにリーダーの男は戸惑い、改めて周囲へ呼びかけるが彼の期待とは違った返事が発せられる。


「いやいや軍人さん。その子の言う通り、そいつらはいきなり倒れたんだよ」

「そうなんです。私が嫌な感じの人達だなって思ってた見ていたら、突然その場に倒れたんです」

「その子は暴行どころか、魔法すら使っていなかったよ?」


 無詠唱と周囲に気づかれにくい魔法を習得していれば、誰も魔法を使ったとは分からない。

 通常ならこうした組み合わせは暗殺し放題のように思えるが、相手に気づかれにくい魔法は例え刃を生み出すようなものでも殺傷力が低下し、肌を傷つけるくらいしかできない。

 実際シューゴの「感電地」も相手を痺れさせて気絶はさせられるものの、感電死させることはできない。


(我ながら悪い技術と魔法を扱うものだ)


 心の中でシューゴがそう思っている一方、周囲の人達から予想通りの返答が無いことに顔を赤くしたリーダーは、近くにいる野次馬の中にいた男の一人に歩み寄って強い口調で問いかける。


「おい、お前は見ていただろう! そうだろう!」

「み、見ていましたが、その……他の皆さんの言う通り、彼らは何もしていません。そいつらが歩いていたら、急に全員倒れたんです」


 男がそう答えると、リーダーの男は怒りの形相になって胸ぐらを掴む。

 これは拙いとシューゴ達が止めに入ろうとすると――。


「これは何の騒ぎだ! そこのお前、何故一般人の胸ぐらを掴んでいる!」


 声を上げたのは、凛々しいという表現がピッタリな妙齢の女性。

 腕を組み仁王立ちをしている姿には、至って普通の私服姿なのに妙な威圧感を発している。

 その姿を見た国防軍の隊員達は全員驚き、直立不動になって敬礼する。リーダーの男も掴んでいた胸ぐらから手を放し、驚愕に包まれた表情をする。


「し、支部長!? 何故ここに!」


 国防軍の駐屯地の正式名称は、国防軍○○駐屯地支部。そこのトップにいる人物は支部長という役職を与えられ、その駐屯地の統括をしている。

 つまりこの女性はここにいる隊員達の上司に当たる。それも勤務先において、最も上の人物。


「なに、非番だから帝都に残してきた娘へ送る物を選んでいて、偶々通りかかっただけさ。そしたら何か騒ぎが起きていて、部下が何やらわめているから様子を見に来たんだよ」


 よりによってこんな時に。

 そんな気持ちが窺える表情をリーダーが浮かべて俯く。

 隊員達も敬礼は解いたものの直立不動なのは変わらず、これからどうなるんだという不安が表情に出ている。


「それで、この騒ぎの理由はなんだい? それと、お前が一般人の胸ぐらを掴んでいたのは何故だ」

「そ、それはそのぉ……」


 武人らしい鋭い視線を向けられ、ついさっきまでの勢いの無くなったリーダーの男は俯いて目を泳がせて言葉を濁すばかり。


「もういい! そこのお前、説明しろ!」

「は、はいぃぃぃっ!」


 ハッキリしない態度を続けるリーダーに苛立った支部長の女性は、後ろに控えている隊員の一人を指差して説明を求める。

 軍人という職業柄上司に逆らい辛い上、思わぬ人物の登場で困惑していた隊員は現場に駆け付けてからのやり取りを全て喋った。その際にリーダーの男から睨みが飛んだが、隊員は上司優先だと心の中で自分に言い聞かせて説明していく。


「なるほどねぇ。何もしていないそこの坊主にあらぬ疑いをかけた上、周囲の証言を無視して自分の意見を押し通そうとして、挙句一般人に掴みかかったのか」


 女性の目つきが一層鋭くなり、説明をした隊員を睨んでいたリーダーの男は顔を真っ青にして脂汗を流し、膝が震えて腰が引けている。

 その様子を見ているシューゴは安心した。

 国防軍の隊員が策略に絡むという事は、最悪ここの駐屯地にいる軍人の上位がツグトと繋がっている可能性が高いと想定していた。しかし支部長と呼ばれた女性に、そんな様子はこれっぽっちも見れない。最上位の人物がこれなら、最悪の場合の可能性は低いと分かった。


「よく見ればそこに倒れているのは、傭兵とは名ばかりの脆弱なボッタクリ集団じゃないか。あっちこっちで乱暴狼藉もやらかして、近々指名手配される予定だと本部から通達が来ている」


 倒れている男達に対してそう言うと、野次馬達が怯えながら距離を取った。


「ほらお前達! そこの坊主が何もしていないのは明白なんだろ! さっさとこのロクデナシ共を拘束して連れて行って、牢屋へぶち込んでおきな! それと帝都の本部へ、通達のあった指名手配候補を捕縛したと連絡しろ」

『はっ!』


 鬼のような形相で部下に一喝すると、職業軍人の習性によって上司の命令に従って動き出す隊員達。リーダーの男も忌々しい表情で渋々と男達を捕縛し、連行していく。

 一部始終を見届けた野次馬達は今の出来事を喋りながら散っていき、シューゴ達も改めて冒険者ギルドへ向かおうとするが、その前に支部長の女性が立ちふさがる。


「あの、まだ何か?」


 警戒しながら尋ねると女性はフッ、と微笑んでシューゴ達にだけ聞こえる音量で呟く。


「今回は相手が相手だから見逃すよ。そこの地面に何かした、無詠唱使いの少年」

「えっ?」


 そう言い残して去って行く女性の背中をシューゴ達は驚きながら見送った。

 どうして気付いたのかと思いながら。


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