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四文字で魔法を創造して  作者: 斗樹 稼多利
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VS姫蜘蛛


 シューゴの短剣とプリンセススパイダーの指先が衝突し、甲高い音が空間に響き渡る。

 しかし数合の打ち合いでシューゴの方が力負けして押され、体勢を崩して乗っている「浮遊動盾」から落ちそうになる。

 そこへ襲いかかってくる突きを回避するため、自ら「浮遊動盾」から飛び降りて地面に着地する。


(接近戦は向こうの方が上かっ!)


 数合の打ち合いで近接戦では勝ち目が無いと悟ったシューゴは、魔法で倒すしかないと判断した。

 実際問題、格上の魔物をシューゴが一人で倒すには幼い頃からずっと続けて来た魔力の制御鍛錬による、豊富な量と極めて高い質の魔力を用いた魔法攻撃しかない。


「――!」


 分析をしている間にも逃がさないとでも叫ぶように声を上げ、両手から糸が放たれる。


(身体強化!)


 蜘蛛の巣状に広がったいくつもの糸を回避するため、「身体強化」で身体能力と身体機能を強化し、攻撃を見切った上で全て回避していく。


(疾風刃来)


 全てを回避した直後に反撃の魔法を放つ。

 反撃の「疾風刃来」に込められた魔力は洞窟の崩落のことなど考えず威力を重視してあり、空気を切り裂かん勢いで放たれた刃は加減をしていたものとは比べ物にならない勢いで飛んでいく。

 あれは不味いと本能的に察したプリンセススパイダーは右手から離れた個所へ糸を飛ばして付着させ、自身をそこへ移動させての回避行動を取る。

 しかし完全な回避はできず、脚が二本切り落とされる。避けられたものも含めて全ての刃はそのまま天井に命中し、その辺りを崩落させた。

 脚を切り落とされたプリンセススパイダーは痛みから声を上げる。


「――!」


 ところがこれで動きが止まるどころか怯むこともなく、左手から糸を放って反撃してくる。


「ちっ。脚を切り落としたのに、影響無しかよ」


 回避をしながら舌打ちをするシューゴは今度は「螺旋廻弾」を放つ。

 すると今度はいくつもの糸を放ち、蜘蛛の巣を何枚も重ねて隙間を封じた糸の壁を作った。

 それに命中した「螺旋廻弾」は糸に絡められて速度と回転力が落ち、やがて糸に包まれた状態で止まってしまう。


「マジかっ!?」


 思わぬ対処方法に声を上げて驚いてしまう。


「――!」


 驚いた様子に得意気そうな声を上げたプリンセススパイダーは、壁を這いまわりながら糸で攻撃してくる。

 それらを回避して「螺旋廻弾」と「疾風刃来」での反撃を試みるが、相手も壁から天井へ移動したり糸を利用して遠距離移動をしたりと、攻撃を悉く回避する。


(くそっ、動きが不規則で「標的誘導」の照準が定まらない)


 確実に相手に当たるようになる「標的誘導」だが、常に縦横無尽に動き回るプリンセススパイダーの不規則な動きは「標的誘導」の照準を定めるのを妨げ、狙いを付けさせてくれない。

 致し方なく照準を定めずに攻撃しているが、最初に脚を切り落として以降は相手も警戒しているためどうしても防がれ、避けられてしまう。

 一方のプリンセススパイダーも同様で、遠距離攻撃の糸を回避されてしまうため接近戦に持ち込もうとしても、「螺旋廻弾」と「疾風刃来」による反撃とシューゴの素早さにより近づこうにも近づけない。

 どっちも決め手に欠けた状態で魔法と糸による応酬をする戦いに、思わず見とれていたシノブがハッとしてコトネとアカネに呼びかける。


「こうしてはいられません! 早くこの糸から脱出して、シューゴ殿を援護しないと!」

「どうやってよ。これ粘るし伸びるから、抜け出せないのよ!」


 どうにか抜け出そうとしても糸は丈夫な上に粘りがあり、ちょっとやそっと動いた程度では切れることは無い。


「そうだ。この糸って水で粘りが無くなるのよね。アカネの魔法で」

「やりたいのはやまやまだけど、この体勢じゃ糸に水をかけられないよぉ」


 脚がもつれて転びそうになった状態で糸に捕まったアカネは両手を地面に着けていて、このままでは水を糸に浴びせることができない。


「それにこの糸、魔力を乱す効果があるみたい。魔力が上手く制御できない」


 魔法を使いたくとも、肝心の魔力をしっかり制御できていないと魔法は使えない。

 彼女達を捉えている糸にはアカネの推測通り魔力の制御を乱す効果があり、魔法を使いたくとも制御が乱れて魔法として成立しない。


「こうなったら力ずくでえぇぇぇぇっ!」


 力任せに抜け出そうとシノブがもがいて暴れるが、糸は切れず外れず抜け出せず無駄に体力を消費しただけに終わった。

 息を切らすシノブにコトネもアカネも呆れた後、戦闘中のシューゴへ視線を向ける。

 行き先を悟られないよう、「浮遊動盾」による足場を動かしたりフェイントを交えたりしつつ、空中を縦横無尽に動きながら魔法での攻撃を続けている。


「どうして魔法でしか攻撃しないんだろう?」

「多分、それしか倒せる手段が無いからよ」


 通常なら最低でもDランク五人がかりで戦う魔物。

 序盤の数合の攻防で接近戦は分が悪いと判断したシューゴが魔法で倒すしかないと判断したため、時折挟むフェイントを除いて接近する様子を見せないのだろうとコトネは察した。

 本人にも接近戦をしようという意図は無く、どうにか魔法で仕留めようとしている。


「だったらもっと広範囲にやっても」

「そんなことしたら、確実に生き埋めになるわよ」


 威力を加減はしていない抉れた壁や天井を見れば分かるが、弾丸も刃も数がさほど多くない。

 理由は単純明快。この洞窟内で威力だけでなく量の加減もしなければプリンセススパイダーは倒せるだろうが、確実に崩落して生き埋めになってしまう。

 そうなれば例え相手を倒しても、崩落で生き残れる保証が無い。仮に生き残れたとしても、奥に入り込んでいる状況から脱出するのは難しい。

 全員で生きて帰るためにそれだけは避けたいシューゴは、威力こそ本気でやっているが量に関してはセーブしている。

 ところがそのために決定打に欠いてしまっている。

 さらに、糸を回避し続けたことで問題が生じてしまう。


「しまった!」


 気づけば回避した蜘蛛の巣が地面のあっちこっちに張られ、動ける範囲が限定されていた。

 相手が壁や天井といった上からの攻撃を仕掛け、それを避け続けた結果だ。


「――!」


 動きが止まったところへ、尾から出した糸で自身を吊るしながらプリンセススパイダーが接近する。

 左手からは糸を放ち、右手は近接戦闘ように指を揃えて突きの体勢を取っている。

 立ち位置と糸の状況から普通の回避は無理と判断したシューゴは、継続中の「身体強化」による身体能力を利用して斜め方向に跳躍する。

 そこへ追撃の糸が迫るが、それは壁を蹴って再度跳躍して回避。

 しかし、そうなればもう回避の手段は無い。

 空中を移動できないのに跳んだのが間違いだ。そう告げるかのように笑みを浮かべたプリンセススパイダーが鋭い指先での突きを繰り出す。

 だが、その考えは間違っていた。


(浮遊動盾)


 足元に出した「浮遊動盾」に乗ったシューゴはそれを操り、突きを回避してこれまでとは逆に相手の真上を取った。

 急な空中移動にプリンセススパイダーは驚愕の表情を見せ、千載一遇の隙を逃すまいとシューゴは魔法を唱える。


周刃貫刺しゅうじんかんし


 冒険者学校に在学中、「標的誘導」の前に創った十番目の魔法。

 それによってプリンセススパイダーの周囲三百六十度に刀のような形状の刀身がいくつも出現し、一斉に襲い掛かり体を貫き刺していく。


「――!」

「「「ひっ」」」


 悲鳴のような声を上げ、糸が切れたことによって地面に落ちたプリンセススパイダー。

 拘束されたまま戦いを見守っていたコトネ達は、落下による振動と凄惨な見た目に小さな悲鳴を上げた。

 しかし、プリンセススパイダーはまだ絶命していない。


「――! ――!」


 体を起こそうともがき、断末魔の叫びに近い声を上げて上空で「浮遊動盾」に乗っているシューゴに向かって吠える。


「悪いな、何を言っているのか全然分からない」


 「周刃貫刺」を解除すると傷口から人のものとは違う色をした、血液なのか体液なのか分からない液体が噴き出る。

 体液が減って力が抜けたプリンセススパイダーは崩れ落ち、立ち上がろうとするが脚は二本が斬りおとされ、残る脚も腕も刺し傷だらけで少し起き上がっては崩れ落ちを繰り返す。


「じゃあな。蜘蛛の姫君」


 動けなくなった相手へのトドメは「疾風刃来」による首の切断。

 完全に沈黙したのを確認後、ようやく気が抜けたシューゴは「浮遊動盾」の上で片膝を着く。


「はあ、はあ……。これは、本気でヤバかった……」


 攻撃は全て回避できていたものの、強敵との攻防で体力的疲労と精神的疲労が限界近くまで達していた。

 それでも動けていたのは緊張状態で一時的に疲労を忘れていたのと、脳内でのアドレナリン等による作用が大きい。実際、緊張の糸が切れた途端に疲労感が一気に押し寄せ、立ち上がるのも辛いぐらいにシューゴは疲労している。


「シューゴ殿、お見事!」

「わぁ、一人で勝っちゃったし……。魔法の威力はあるから、可能性はあると思ってたけど」

「か、勝ったなら助けてぇ!」


 褒めていたシノブと驚いているコトネは助けを求めるアカネに改めて自分達の状況を思い出し、空中にいるシューゴへ助けを求める。


「ああ、ちょっと待ってろ」


 乗っている「浮遊動盾」を操作して近くに行き、壁にくっ付いている糸を短剣で切ろうとするが伸びて粘って上手く切れない。

 刃の角度を変えても力加減を変えても切り方を変えても切れない。


「仕方ない、ちょっと勿体ないけど」


 「収納空間」から取り出した予備の水袋の中の水をかけ、まずはアカネを捕らえている糸の粘りを失わせる。その後は壁や地面の方を破壊し、糸をはずしていく。

 ようやく解放されたアカネはホッと胸を撫で下ろす。


「じゃあ悪いけど、後はアカネの魔法でなんとかしてくれ。もう水袋の中身が残り少ないんだ」

「任せて。「みずをはなつ」」


 アカネの放つ水が地面を覆うほどの糸とコトネとシノブを捕らえている糸に浴びせられ、厄介な粘りを失わせていく。ただ地面の方はともかく、二人を捕らえている糸に浴びせるということは。


「うえぇぇ、ビショビショ」

「アカネ殿ぉ……」

「ごめんねごめんね! ある程度の勢いでやらないと、粘りが洗い流せないみたいで」


 謝るアカネの前には、水を浴びてビショビショになってしまったコトネとシノブの姿。

 服が体に張り付いて透けて少々不味いことになっているため、シューゴは黙って二人に背中を向けた。

 ただし、心のフィルムには二人の濡れ姿がしっかりと記憶されたのは、言うまでもない。



 ****



 地面に張られた糸に水を浴びせて粘りを失わせて移動できるようにした後、濡れてしまった二人を先ほどの空間に残して「火炎放射」による焚火で暖を取りつつ服を乾かしてもらっている間に、シューゴとアカネはもう一方の通路の奥にある空間の調査へ向かった。


「うわー、こんなに卵あるし」

「なんか気持ち悪いよ……」


 そこにはプリンセススパイダーが産んだ卵が大量にあった。

 他にも食事をした後に放置したのか、服や武器が散らばっている。


「とりあえず、これは全部破壊だな。これが全部孵化したらたまったもんじゃない」


 大量の卵から孵化するバインドスパイダーを想像したアカネは、体を抱えて身震いする。


「確実に処分できるよう、焼却処分がいいかな。まだ孵化には時間がかかりそうだけど、さっさと回収する物を回収しよう」


 空間内に張り巡らされている糸にアカネが水を浴びせ、粘りを落とした状態にして糸を回収していく。

 通路で倒したバインドスパイダーからも討伐証明と素材を入手して「収納空間」と「ほぞんばしょ」に入れていくが、その間のシューゴの表情はいま一つ冴えない。


「どうかしたの? どこか怪我した?」


 ひょっとして我慢して隠しているだけで、どこか怪我をしているのかもしれない。

 そう思って尋ねたがシューゴは首を横に振る。


「じゃあ、どうしたの?」

「色々とさ、考えが足らなかったのかなって思って。戦いの内容も、戦いが始まる前の判断も。結果的にはなんとかなったけど、これでいいのかなって」


 そう呟いて溜め息を吐きつつ、バインドスパイダーから触覚を切り取っていく。

 もっと考えれば安全に済んだんじゃないのか、プリセススパイダーという格上の相手に一人で挑むなんて自体にはならなかったんじゃないか。戦いを終えて興奮が冷め、頭の中が急速に冷静になってこのようなことが頭に浮かんだ。

 そんな話を聞いたアカネはしばし黙った後、静かに手を上げてシューゴの頭上へ手刀を落とした。


「調子に乗らない!」

「たっ!?」


 思わぬ人物の思わぬ行動にシューゴは頭を押さえ、頭上にクエスチョンマークを浮かべながらアカネの方を向く。


「シューゴ君。あなたは何様のつもり?」

「へっ?」

「何様のつもりなのっ!? 冒険者になって一ヶ月しか経っていない十五歳のEランク程度の新米が、格上の魔物相手に勝って生き残れたのに何を言っているのかなっ!」


 大人しいアカネのぐいぐい来る様子と強い口調、険しい表情に困惑するシューゴは腰も気も引いてしまう。


「確かにシューゴ君は強いよ。よく考えているし、魔法は圧倒的だし、近接戦も私達の中じゃ一番強い。でもね! 私達は若輩の新米なの! 力はあっても経験とか知識とか足りないものが、まだまだたくさんあるんだよ!? それなのに格上相手に勝って無事に生き残れたんだから、今はそれでいいじゃない!」


 捲し立てるように言葉を放ち、その度に顔が近づくためシューゴは仰け反るような体勢になっていく。


「そんな生意気なことを考えるのは、今の私達じゃ十年早いよ」


 真剣な表情で目線を合わせて告げられた言葉に、困惑も戸惑いも迫ってくるアカネへの動揺も吹っ飛んだシューゴは顔を少し俯かせ、自分の気にしていた事とアカネから言われたことを頭の中で改めて繰り返し気づく。

 謙虚でいたつもりで、調子に乗って生意気になっていたんだと。

 反省しようとしたことを反省するのは悪くないが、内容が高望み過ぎていると。

 突き詰めればそのくらいはいくだろう。しかし、自分達はまだその領域をずっと低い所から見上げている段階なのに、そこの辺りを基準にしてしまっていたと。


「……そうだな、今の俺達にはまだ早すぎるな」

「そうだよ、今はプリンセススパイダーに勝って全員生き残った。この結果だけでいいじゃない」


 素直に認めたシューゴへ向けるアカネの表情が和らぎ、笑みを浮かべる。

 間近でそれを見たためかシューゴの顔は真っ赤になって、今さらながらアカネとの距離に照れと戸惑いと困惑が混ざり合い気持ちが揺らぐ。

 あからさまにそっぽを向き、言い辛そうに一言告げる。


「……近い」


 ここでようやくアカネもお互いの距離に気づき、一気に耳まで真っ赤になって震えだす。


「ご、ごめんなさあぁぁぁいっ!」


 何も悪くないのに謝って距離を取るアカネ。

 シューゴもシューゴで顔を真っ赤にしてそっぽを向いたまま、固まってしまっている。

 この手の物語の本も読んでいるシューゴが第三者的視点にいれば、「フラグが立ったな」と呟いている所だが、当事者となっている現状でそんな事は頭に浮かばなかった。

 その後、二人は微妙に距離を取った状態でバインドスパイダーの解体と剥ぎ取りを続行した。

 それらを終えてプリンセススパイダーとの戦闘があった空間へアカネが向かうと、服がある程度乾いたコトネとシノブは既に服を着ており、ここで倒したバインドスパイダーの解体と地面に張られていた糸の回収を終えていた。


「だって暇だったんだもん」

「ただ、あれだけはちょっと……」


 服を着ているからと呼ばれたシューゴも交えて悩むのは、放置されたままのプリンセススパイダー。

 討伐証明も解体方法も分からないため、とりあえず放置して後で相談しようということにしたようだ。

 「収納空間」から取り出した魔物に関する本で調べると、討伐証明はバインドスパイダーと同じく触覚、素材は体内の糸と蜘蛛の頭部にある顎と内臓の一部。ただし解体方法までは載っていない。

 とりあえずやってみようとしたものの、バインドスパイダーとは勝手が違う上に強引に解体すれば素材となる内臓を傷つけてしまう恐れがあり手が出せない。


「こうなったらこいつごと持って帰って、冒険者ギルドの解体職人に頼むしかないな」


 冒険者ギルドには解体の職人が常駐しており、狩ったはいいが解体できない魔物や解体が困難な魔物を解体してくれる。

 手数料は取られるが素材を潰して一銭も手に入らないよりはマシのため、利用者は割といる。


「じゃ、じゃあ、俺がこいつを持って行くから、糸は頼めるか?」

「う、うん」


 視線を合わさず、どこかよそよそしい二人の様子にシノブは首を傾げ、何かあったなと察したコトネはニヤニヤと笑みを浮かべた。

 こうしてカタギリタウンにおける彼らの初仕事は、ちょっとした波乱と変化を残して終わった。


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