将武その15「今日のトークはブーメラン!?」
なんでなんで〜!?
リンリンのライブは、これからが本番なのに!
オカマのお兄さんと井伊くんが飛び入り参加!
しかも新コーナーが始まるって!
ワクワク〜☆
なわけねぇだろ!!
何がどうなってやがるんだ!?
ふざけんじゃねぇぞ!!新コーナーとか認めねぇからな!!
全員が、あんぐりと口を開けて突然始まった東乱楠Radioを観ている…忠勝も、まさかこんなことが起きるとは思っていなかった。虎徹と榊原でライブを阻止するとは言っていたが…これから一体何を始めるのだろう。
『というわけでやってくわよ、東乱楠Radio!このコーナーはこのアタシ、三年の榊原 村正と!』
『一年、井伊 虎徹がお送りする新コーナー、今日のトークはブーメラン!ここでは、ゲストの結城さんに色んな質問をして、普段言えないようなことを赤裸々に語ってもらおうというコーナーだよ。』
『あぁ〜んなことや、こぉ〜んなこと、赤裸々に語ってもらうわよ〜!見てみてこのハガキ!お便りこんなにたっくさんきてるんだから!覚悟はいーい?リンリンちゃん?』
どっさりと机の上に置かれたハガキを見せる榊原。それは伏せて置かれており、中身は読めない。
鈴々は突然の出来事に面食らったが…すぐに持ち直していた。
そうだ、ウチはアイドルだ……この程度のアクシデント、適当に遊んでまたライブを再開すればいい。そうすれば東乱楠も、龍虎たちもおしまいだ。
覚悟は出来てるか、だって?
本当のぶりっ子をみせてやる…!!
『えぇ〜っ、リンリンのあんなことやこんなことぉ?リンリンってば、恥ずかしいなぁ♪どんな質問が来るんだろう!わくわく!』
『いいわねぇ〜その意気よ!それじゃ一つ目の質問!』
榊原はハガキを一枚めくって、それを読み始める。鈴々と榊原の身長差で、鈴々は読めないが……中身は白紙だ。
『ラジオネーム…ヒャハハコッペパンさんからね。えーと、なになに〜…?』
榊原は白紙のハガキに、さも本当にお便りの文が書いてあるように読み始めた。
"リンリンこんにちは!いつも登校中に、アテンション☆リンリンを聴いて、気分アゲアゲで、ハッピーな朝の時間を過ごしています!ブログにも書いてあったんですが、リンリンの大好きなチョコレートチップスの、ブーチョコランタンは何味が好きですか?"
『…という内容ね、これ、いったいいくつ味あるの?アタシ今日初めて食べたけど、止まんなくなっちゃうのよねぇ。じゃーリンリンちゃん、質問に答えちゃって!』
『あのハート型のお菓子だよね?リンリンもね、すっごくだいすきなの♪一番好きなのは、やっぱり新しいのかな?キャラメルとチョコがかかってるやつ!』
「あ、リンリンもブーチョコすきなんだぁ。」
「麗花がいつも食べてるやつっすよね?」
「うん、リンリンが言ってたキャラメルチョコと、紅茶ラテと、いちごとぉ、オレンジチョコ。私は紅茶ラテがお気に入りだよ〜。」
校庭にいた長篠レディースは親衛隊を見張りながら談笑を始めた。
親衛隊たちは下手に動けない状態である。彼らは鈴々の歌があってこそ、力を発揮することが出来るのだから。
『井伊グループのお菓子、気に入ってくれて何よりだよ。ついでに僕も赤裸々に言っちゃうけど、そのブーチョコランタンはね…ハート型じゃなくて、僕が毎日穿いてるブーメランパンツがモデルなんだ。』
『えっ……!?』
まさかの真実に鈴々の表情が引き攣った。ぶりっ子を決めていた口角がピクピクと痙攣している。彼女の心情はあまりにも動揺していた。
は!?ブーメランパンツ!?いまこいつ、パンツって言った!?
こいつが、毎日穿いてるパンツをモデルにしたポテチを……ウチ、毎日…美味い美味いって食べてたの!?
『うれしいなぁ、僕が毎日穿いてるパンツの形をしたお菓子が好きだなんて。君の事務所にも、ブーチョコランタン全種類一年分を父さんに送っといてってメールしたから、ぜひこれからも宣伝よろしくね?』
『やっだぁ〜良かったじゃないのぉ、リンリンちゃん!あ、いまあるけど食べる?好きなんでしょ?パンツ型チョコチップス。』
『い、いらない……』
この……こん畜生ぉ〜!!
ひっぱたきたい…!今すぐひっぱたきたい!
パンツパンツうるせぇ!!
こいつら、わざわざパンツだけ強調して発音しやがる…!!
内なる鈴々は、怒りながらも抑えろ、今は抑えろと落ち着くために自分に言い聞かせている。
ダメダメ、笑顔を絶やさないで!!
笑顔だ、笑顔…!!
「パ、パンツの形をしたお菓子を売ってるなんて…麗花ぁ、大丈夫っすか?」
さすがに女子にとってはエグい事実を突きつけられたのだ。飛鳥は麗花の方へ視線を戻すが……彼女はポリポリと紅茶ラテ味のブーチョコランタンを変わらず食べていた。
「いままでハート型だと思ってたよぉ。びっくり〜。」
「た、食べるんすかそれでも…」
「飛鳥ちゃんもたべる?」
「い、いらねっす……」
赤裸々なブーメラントークはまだまだ続くようだ…この質問も、まだ…まだ序の口。トークは始まったばかりだ。
『ハァイ、じゃあ次の質問ね!まだまだ始まったばかりだから、楽しんでって♡次は…ラジオネーム…なぶりコロネさんからの質問。』
"こんにちは!いつもパシャスタで、かわいいマンチカンのブーケちゃんと、リンリンのツーショット写真に癒されてから学校に来てます!
私は犬を飼っているんですが、動物の仕草で、いちばんかわいいと思えるのは、リンリンにとって、どういうときですか?"
『…らしいわ!アタシ、犬派なのよねぇ。ネコちゃんもかわいいけど。』
『結城さんの飼い猫、確かに可愛いよねぇ。僕は猫派だな。上品なペルシャとか、膝にのせたいね。それで、どう思う?結城さん。』
『ワンちゃんもネコちゃんも、おすわりしてる時は特に可愛いよね〜♪そうそう、飼ってるブーケちゃんが、最近お手を覚えたの!すーっごく可愛かった!それ以来、リンリンはお手が好きになっちゃったなぁ♪』
『あらあら〜、芸達者なのね!リンリンちゃんのパシャスタのアカウント、フォロワー増えてるんじゃない?帰ってからみんなのコメント、読むのが楽しみね♡』
普通の質問…はじめはヒヤッとしたけど、この程度なら…この程度なら大丈夫。ライブの再開は、あと質問に二回くらい答えてからでもいいか…
鈴々の表情に、余裕が戻ってきた。
アイドル故に、トークに多少の起点はきかせないといけない。彼女はいつもよりも饒舌な自分に驚きつつ、榊原と虎徹を内心鼻で笑った。
『癒されたところで次の質問行きましょ!面白くなってきたし、リンリンちゃんも調子が出てきたみたいだしね!ハイハイ、次の質問はラジオネーム、クイックルコテカさんから〜!』
『コテッ…!?ちょっと、それ絶対に先輩だよね?』
虎徹はジトッと目線を榊原に向けながら唇を尖らせたが、榊原はどこ吹く風で楽しそうに白紙のハガキを読み上げ始める。
『いいじゃないのよぉイイコちゃん。アンタもあとで質問しちゃいなさい!それじゃリンリンちゃん。次も動物に関する質問よ!』
"お手、おすわり、おまわり、伏せ。いろいろとワンちゃんには仕込める芸がありますが、その中のひとつ…
『ちんちん』とは、いったいなにが語源なのでしょうか?"
校庭から親衛隊の罵声が上がり始めた。鈴々を気遣う言葉も聞こえるが…
「あのカマ野郎ォオ!!!リンリンに…なっ、なんてこと言わせようとしてるんだ!!」
「リンリーーン!!だめだ!チンチンなんかいっちゃだめだ!!!!」
「いくらかわいいアイドルでもチンチンだけはダメだ!!!リンリンかわいいけど……それだけは…チンチンは言っちゃダメだよー!!」
「チンチンだけは言っちゃダメだ!!リンリン…ちんちんは…チンチンのことだなんて言っちゃダメだぁーーっ!!」
「「「「「チンチ…あっ間違えた!!リンリーーーーーン!!!」」」」」
「やかましいッッ!!!」
豚たちの連呼で顔を真っ赤にした皐月が一喝する。鶴姫も紅潮した両頬を手で覆った。立歌は顔を青ざめさせて、同情の言葉を口にする。
「い、いつも邪魔されて鬱陶しかったが…ここまでくると同情するぜ…」
「き、聞いちゃいけませんお館…!!」
『そ、それで……どうなの?結城さん。』
おずおずと虎徹が気遣うように鈴々に聞いてみる。鈴々は顔中をピクピクと痙攣させながら、今にも言ってしまいそうだ。
そう、意思に反して…答えて、しまいそうなのだ。
やばい……なにか、なにか、おかしい…!!
口が、勝手に……動こうと、している…!!!
この質問は答えちゃいけない!わかってる!分かってるんだよ!!なのに…っ!!
口が勝手に、質問に答えようとしている!!!
『ち、ちん……』
『はい時間切れーっ!!正解は、"鎮座する"のちんでしたぁ〜!!中学生にはちょっとむずかしかったかしらぁ?え、リンリンちゃんもしかして?あららぁ〜〜っ??ナーーーニを想像しちゃったのかしらぁ?クイックルコテカさんからの質問もう一個いっとくぅ〜??』
『う、うえええ〜ん!!ひどい〜!!』
鈴々は顔を両手で隠しながら泣き出してしまう。もちろん嘘泣きだ。隠れた顔は羞恥も怒りもごちゃ混ぜの、見せられない顔になっている。
ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょう!!ちくしょおおおお〜〜ッ!!
笑顔…スマイル…スマイルだ…リンリンスマイル…!!
終わったら速攻でこいつらをぶっ飛ばせばいいんだ…!!豚どもを呼び寄せて、それから…!!
『もう、ダメじゃないか榊原先輩。ぶっつけ本番の生放送で浮かれてるのは分かるけど、女の子にそんな際どい質問をしちゃ可哀想だ。ごめんね、結城さん。次で最後にするから、ね?』
『うう……井伊くん…わかった。』
優しげな虎徹の微笑みと、深いブラックの瞳に射抜かれ、落ち着きを取り戻す鈴々。
次が、最後の質問だ。ライブを即再開してしまえば、鈴々の勝利は目前。
そうだ、落ち着いて…答えを、考えろ。
『それじゃ、最後の質問は僕からするよ。結城さん……』
『……』
『今日は……どんなパンツ穿いてるの?』
「「「「あッ、あのクソガキャァァアアアアアアア!!!!!!」」」」
特大ブーメランである!!
榊原を注意しておいて、このパンツ発言。
怒らない方が難しいとも言える虎徹の質問に親衛隊たちは鼻息を荒くしながら怒り狂っていたが……男子校舎からは歓声が湧き上がった!!
「イエーーーイ!!」
「いいぞー、井伊ーッ!!」
「何色かも聞いてくれよーーっ!」
パーンーツ!!!
パーンーツ!!!
パーンーツ!!!
さあさあ盛り上がってきた。
男子校舎から、手拍子と共にこだまするパンツコール。
その中で、家康はなにかに気付いたようだ。
先程のクイックルコテカ…榊原の質問に対しての鈴々の様子、そしてブーメラン。
合点がいった。
『ふむ、どうやら"奥の手"を使いよったな?』
「奥の手…?どういう事、家康さん?」
『まぁ、見ておれ…あえてタネを先に言うが…あの娘は、井伊の将武の力で……質問に絶対に答えを返さなくてはならない状態にある。』
「赤備えのこと?けど、鈴々は正気だよ?さっきから…ずっと。頭にブーメラン被ってないし…鈴々は一回もブーメランなんて言ってないよ?」
将武・井伊 直政の能力…それは、赤備えだけではない。
『見ておればわかるぞ、千代子。彼奴の将武、井伊直政の…"布赤"の力が。』
『さぁ、答えてもらおうか、結城さん…』
今 日 は ど ん な パ ン ツ を 穿 い て る の ?
その質問に、結城 鈴々は…答えなくてはいけない。
『け、けっ……けけっ…けひ…けいッ……』
否。答えざるを、得ない。
答えてしまうのだ。
動くな、口を動かすな…言うな、言っちゃダメ…!!!
『けいッ……と……毛糸、の……!!』
"井伊の布赤"にかかった者は……
だめだ、口がっ、なんで、なんでなんでなんで
勝手に口が、口がぁぁぁ……!!!
意思に反して、虎徹のする質問になんでも答えてしまう。
やめろ、やめろ、やめろぉおおおおおお!!!!
そう、今の彼女のように……
『毛糸の………しッ、しょ、将武パンツ…結城 …秀康……ですっ…!!』
『へぇ、毛糸の将武パンツかぁ。じゃあ…折角の生放送だ。能力も細かーく…教えてもらうよ?あはっ、顔が"真っ赤"だよ、大丈夫?結城さん。』
パチン。制服ズボンのサイドに指を入れて、虎徹は将武を鳴らしニヤリと笑った。
この技の本当に恐ろしいところは、赤備えのように洗脳されていると周囲に…なにより、本人に気付かれない事。
唯一の難点は、発動条件が二つ必要だという事。
さあ、さあ。今をときめくアイドルの…
化けの皮を剥ぐ時間だ。
将武パンツ使い、結城 鈴々――!!
『…だっ…大丈夫なわけ、ない、だろーが…!!』
沈黙に包まれる校舎と、校庭。その声が、鈴々の口から出されたものと理解するのに、数秒かかった。
ゴンッ!!と、音を立てて、鈴々はマイクを床に叩きつける。そしてマイクを手に取り直して、かっと目を見開き…歯茎をむき出しにしながら怒号を上げた!!
『あぁ、あぁ、そうだよ!!!将武パンツ使いだ!!!!ぜぇえーーーーんぶ計画の内なんだよクソ野郎ォ!!!!轢ッ殺しと葵 竹康を餌にしてテメェら二人ぃ!!期限切れのメス豚共をぶっ潰す計画なんだよぉバァアーーーーーーーーカァ!!!!そのためにせっかくのオフの日を!!!こんなド田舎のド底辺で!!!掛け算出来りゃ入れるような高校に来てまでライブしてやりに来たんだ!!!!大人しくどっちも潰れてテメェらもウチの将武パンツの力で豚の仲間入りをしてくれりゃあ、織田軍のバックアップも取れてウチの天下だったってのによーーーぉぉお!?ぜーーんぶ丸潰れじゃねぇかコンチクショオオーーーがぁああッ!!!!』
鈴々の怒号の末に残ったのは、沈黙だった。
さらけ出してしまったのだ、本性を。全校生徒の見ている場所で、ぶっつけ本番の、生放送で……
『やれやれ、こんなにコロッと引っかかるなんて思わなかった。僕の布赤をかけておいて正解だったよ。』
『テッメェ…!!将武パンツ使いだったのか…!!いつからウチにこんな小細工を!!』
もう、隠してはいられない。鈴々は口調もそのままに虎徹を睨み付けた。握りしめたマイクは今にも握り潰してしまいそうである。
『初めからだよ。会って、君と挨拶をした時だ。君の手を握って、僕の将武・井伊 直政の将気をこっそり君にくっ付けておいたのさ。そして、発動の為に君に対して……"赤"とついた単語をかける…顔が赤いよってね。覚えてるかい?』
"井伊の布赤"……その条件は二つ。
ひとつめは、術者が対象と身体的に接触しているということ。
ふたつめは、対象へ向けて"赤"と付く単語を口に出して言うこと。
虎徹は鈴々と初めて会った際に、宇佐見と樺地を押し退けて自分から鈴々と接触を図った。
握手をし、井伊グループのCMに出ないかと誘って、頬を染めた鈴々に対して、確かに言ったのだ。
"あはは、顔が赤いよ結城さん。"
『あの時、か…!!このウチにいい子ぶって擦り寄りやがって…!!』
『それは君にも言えるだろう?僕がいる限り、この東乱楠高校で好き勝手はさせない。』
『ぐっ…くそが……!!』
『君と僕とでは…いい子を演じた経験も、質も違うんだよ。』
狼狽える鈴々に対して、虎徹は余裕たっぷりの様子で指をさして宣言する。彼らの勝利だ。
『てっ、テメェら!なんで途中で辞めさせなかったんだよ!?グルになってウチに恥かかせやがって!!どうなるか分かってるんだろうなぁ!?』
鈴々は今も撮影を続けるマネージャーとカメラマンたちに矛先を向けるが、二人はニッコリといい笑顔だ。
『いやぁ、ボク達これ成功させたら井伊グループで雇ってくれるって彼に言われてるんだよね。』
『もう彼のお父さんとも話がつけてあるし、番組的にも美味しかったし…それよりもリンリン、まだカメラまわってるよ。』
『なっ……!?』
まだ生徒たちが観ている。鈴々に幻滅する者達が大半を占めた、東乱楠高校の生徒たちが、まだこの東乱楠Radioを、視聴している。
けれど終わらせなくては。番組も終わりの時間ということだ。
『ちょっとぉ、イイコちゃん。一番年上のアタシを差し置いて進めないでちょうだい?まだ東乱楠Radioは終わってないでしょ?赤裸々ブーメラントーク、全部答えてくれたリンリンちゃんおつかれさま♡そんなリンリンちゃんには、これからのアイドル生活を頑張れるように、このアタシからお仕置きという名のプレゼントを贈ってア・ゲ・ル♡』
榊原は再び…雄々しく反り立つ将武を…榊原 康政を出した。その紫色の於亀は妖しく紫の将気を放っており、実におぞましい。
それはぐんぐん上がる番組の視聴率のように伸びて…
ブァルァァァァァ……と…!
その先端から…花弁のように…!!
八つに鼓帝架が分かれてそれぞれが別の生き物のように荒々しく動き始めた!!!
『ひっ!?お、お仕置きって…!!』
『安心してちょうだい、アタシ…女の子には優しくする主義なのよ。男子が女子を殴ったら、男が廃るじゃない…ねぇ、リンリンちゃん?紫色の薔薇の花言葉って…なんなのか知ってる?』
八岐大蛇の如く乱れ狂う鼓帝架のひとつを指先でツツツ……となぞりながら榊原はくすりと微笑む。黙っていれば、鼓帝架がなければ万人が惹き付けられそうな…優しい微笑み。
『し、しらない…… ゆ、ゆるして…そんなの無理…そんなのむり、そんなの…!!』
紫の薔薇の花言葉……それは……
『大 人 の 気 品 よ ♡』
戦慄!!!!
絡みつく八岐於亀!!!!
『いぎゃああああああああああああ!!!!』
鈴々の絶叫が、こだまする…
鼓帝架に全身を擽られ…笑い声混じりの断末魔を、あげる。
『うわぁこれは番組的にやばい!!カメラ止めて!!止めてー!!』
慌ててマネージャーがカメラを切り、音だけが校舎内に響き渡る…将武の効果が切れ、校舎の壁に映し出されていた映像も消えた。
『いやぁあ!!あはっ、ひひっひいいいいい!!!ひひひひっ、いやぁあくすぐらないで!!!!ごめんなさい!!!ごめっんなさいやぁぁあそこはだめえええええ!!!ごめんなっさっ、ごめんなさぁあはははははははいいいいいいい!!!!』
結城 鈴々……仕置完了!!!!
鈴々の将武による身体強化が無くなると、春風の将気による風も止み、残された鈴々☆親衛隊たちは前屈みになりながら退却しようとする…
「あ、あああ……リンリンが…リンリンが…」
「に、逃げるぞみんな……戦略的撤退!!」
「「「「お、応っ!!」」」」
逃げようとする豚を阻んだのは、バシィン!と地面を打ち、鳴らされた竹刀の音。皐月だ。
「誰が逃がすって言った、豚野郎。」
「よくもやりたい放題やってくれたっすね……こっちもお仕置きターイムっすよ!」
メリケンサックをはめた飛鳥が、ニヤリと笑った。
長篠レディースたちが、前方、後方をバイクで囲み威圧するようにバイクの排気音を鳴らす。
怯える豚たちに、麗花が…次に彼らに起こることを無慈悲に宣告する。
「産地直送ぉ〜、焼豚コースにご案内〜♪」
「や、やき、ぶた……!?はっ!!」
右方より近付くのは、朱刀連で両手に炎を宿した千代子と、肩に担いだギターのボディに怒りの炎を纏わせた立歌。
立歌は乱れたポニーテールを風に揺らして…修羅の如く、睨みつけた。
「あ、あわわわわわ…!!こ、こっちだ!みんなこっちに…ひいっ!!」
左方からは、バチバチと電気を纏う警棒を手のひらの上でパシン、パシン…と軽く叩きながらにじり寄る鶴姫。その立ち姿は、さながら調教師だ。
そして三人は…
これから焼豚となる彼らへ最高の言葉を贈る。
「「「豚のような悲鳴をあげろ。」」」
「「「「ぶっ、ぶひいいいいいい!!おたすけええぇぇえええええ!!」」」」
親衛隊たちが千代子達によって制裁を喰らっている中、視聴覚室では榊原のくすぐりの刑により失神した鈴々をマネージャーたちが回収し、そそくさと帰ってしまった。
視聴覚室の中で一息つく榊原と虎徹。二人の共闘は、これが初めてである。
「あー…緊張したわぁ、アドリブって大変。イイコちゃん…あんたの将武も"奥の手"を使えるのね。アタシの"紫込み"のように。」
"奥の手"…
特定の将武パンツには、そうした第二の能力が備わっているものもある。鼓帝架を納めた榊原は、虎徹に対して感心の言葉をかけた。
たいていの場合、奥の手は扱いがとにかく難しいからである。
「けど、あれだけのことをしたあんたが…ここまでタケちゃんの味方をするなんてね。アタシはそっちの方がビックリだわ。さっきの布赤、だったかしら?もしかしてアレ、アタシ達にこっそり使ってたりなんかしてないでしょうね?」
「そんなことしないよ……僕をあんなに真っ直ぐ見てくれたのは、タケ兄ぃが初めてだからさ。こんな僕でも、こうして受け入れてくれたタケ兄ぃに対して歯向かうなんて出来ない。なにより、そんなことは絶対にしない。これだけは…断言する。僕は、タケ兄ぃの為だけにこの力を使うと決めたから。」
私利私欲のために将武を使うのではなく…
大切なモノを守ろうと戦う葵 竹康を守る。
それが井伊 虎徹が決めた新たな道だ。
榊原は密かに、虎徹の成長を喜びつつ千代子の仁徳に改めて驚いていた。
今は、失踪している兄の代わり…だが、それでも逃げずに自分に立ち向かい、虎徹を改心させた彼女に対して、彼は褒めてやりたい気持ちをぐっと堪え、心のうちにしまう。
まだ、織田との戦いが残っているからだ。
「でも、そのタケちゃんに対する思いが行き過ぎるのは心配ね。そのせいでヘマをやらかしそうだわ、あんた。」
「その時は任せる。僕が間違った方向に行ったら、榊原先輩が止めてくれよ。先輩なんだから。でも僕は、たとえタケ兄ぃに捨て去られようとも、タケ兄ぃの為に…自分のやり方で守ってみせる。」
虎徹の言葉は、偽りがない。その目には確かに、確固たる決意があったから。
だが意地悪く、榊原は口角を吊り上げる。
「タケちゃんがあんたを簡単に見捨てないって分かってて、それ言ってる?」
「……さぁね。」
「ふんっ、やっぱり可愛くないわ…あんた。」
親衛隊たちを討ち取り、東乱楠から仁双楠へと帰ろうとする長篠レディースと、立歌…そして鶴姫を、千代子たちが見送る。校門に辿り着くと、立歌は千代子へ向けて、にかっと笑った。
「決着はお預けだな竹康。次こそは勝つぜ。」
「ああ、その時も全力で。けど、今度はウチの店にも来いよ。うちのパンは美味いからな。」
互いに握手を交し、健闘を称える。
立歌は鶴姫にも千代子に挨拶をするように促すが、彼女は先程助けられた際に羽織らされた学ランを、きゅっと握りしめた。
「それ、返してやれよ鶴姫。大事なもんなんだから。」
初めてなのだ。鶴姫にとって、男らしい男という存在は。いつも、付き合ってきた男は自分がヤクザの家の人間だということを知ると尻尾をまいて逃げてしまった。
家にいる者たちもそうだ。自分を頭首の娘だと言うだけで、対等に扱ってくれない。
果敢に立ち向かい…自分を抱くように守ってくれた、強く、青い瞳……鶴姫の頬は、さらに紅く染まった。
「……葵 竹康。その…さっきは、助けてくれたこと…感謝しますわ。」
視線を逸らしながら千代子へ学ランを返す鶴姫。その様子を見た春風が目を丸くして声をかけた。珍しい動物を見たような表情である。
「お前…もしかして惚れた?」
「おっ、おだまりなさい!」
「春姉さんも人のこと言えねぇでしょ!」
「だっ、だれが…!飛鳥、私はアイツの走りを認めてるだけでだな…!!……葵、轢ッ殺しの件は、絶対に酒井がやったことじゃあない。だから、守ってやってくれ…なにかあれば、私もすぐに駆けつけるからさ。」
この通りだ。と春風は千代子へ向けて、頭を下げる。千代子はそれに対して、強く頷いた。
かくして、心強い味方を得た千代子たち葵ヤンキーズ。しかし……暗躍する魔の手は、すぐそこに来ていたのであった。
「フン、あのガキは失敗したか。するだろうとは思っていたが、まぁ……余興にはなったな、ヒヒッ。」
美術室で一部始終を見届けていた男。
蜂須賀 転助は飴の包み紙をくしゃりと手の中で潰した。
がらりと開く扉に、蜂須賀は目線を向ける。
入ってきたのは、新聞部の部長だ。
一枚の新聞の原本を持って、彼は入ってくる。アイスピックが大量に刺さった石膏像を見て、部長は怯えながら蜂須賀に原本を渡した。
黒縁眼鏡をかけた蜂須賀の目は、すらすらと書き上げられた記事を読み終えると、ニヤァァ…と気味悪く細められる。
「こ、これでいいのかい?」
「ふむ……上出来だ。コピーをとって、明日学校中に貼れ。従わないとどうなるか……分かってるな?」
コン!!
再びアイスピックを投げた蜂須賀。その鋭い尖端は、先程投げて眉間に刺さったままのアイスピックそのものに当たって、石膏像は砕け散る。新聞部の部長は一層怯えた様子で頷き、原本を持って美術室を後にしてしまう。
「さて、ワガハイは帰るかな。明日が楽しみだなぁ、酒井…ヒヒッ…!」
一方その頃…袴ヶ原駅。
「ふー……やっと駅に着いた。普通に走った方が早かった気がする…夜一郎さん、今度こそ、大人しくしててくださいね?」
「ああ、流石にこれだけ人がいりゃあ暴れようがねぇだろ。ぶち破る窓も、ぶつかりそうな看板もねぇからな!そう心配すんなよ、一。」
駅に到着した夜一郎たちは、東乱楠へ向かう電車を待っていた。
一は疲れきった様子ではあるが、制服のネクタイをピシッと直し気を引き締める。東乱楠に居る、"兄"との幼き頃の思い出に浸りながら。
「一、電車きたぜ!待ってろミッちゃーーん!!!」
すたたた、と走って電車に乗っていく夜一郎に遅れてついて行く一。もうすぐ会えると思うと、つい表情が緩んだ。
「もうすぐ東乱楠かぁ…元気にしてるといいな、兄者……って、夜一郎さん!!これ真逆の電車!!」
「えっ!?」
ぷしゅうううう……と、慈悲もなく電車のドアは閉まって夜一郎はそのまま電車で運ばれていく…袴ヶ原駅に、一の疲れも混ざった悲鳴があがった。
「や、や、夜一郎さぁあ〜〜〜ん!!」
次回も尋常に……将武!!




