将武その12「上げよ、徳川 家康!!」前編
「轢ッ殺し…だと。おい、酒井。お前アイツらとやり合ったのか?」
轢ッ殺し……
その名を酒井と共に屋上で聞いた永吉は、フェンスをがしりと掴みながら武田と長尾の二人を見下ろしていた。
二人は戦闘中だった。
早雲を織田軍に連れていく為だ。頑なに戻らないと拒む早雲に対し、多少手荒だが致し方ない。
そんな中現れた仁双楠の二人。いずれも、大きな勢力だ。早雲が東乱楠にいない間に問題を起こしていたのか?永吉は早雲に問いかける。
「いや、連中のことは何も知らねぇ…アゲパンの修行中、甲斐女華や越後聖歌とは揉めてねぇからな…」
「長篠レディースと駿河愚連隊を傘下に加えた甲斐女華に…長尾組の小娘…クソが、忙しい時にとことん邪魔が入りやがる。」
「長篠レディース…?…あっ。」
早雲は何かを思い出した様子で気まずそうに声を上げた。長篠レディース…そういえば、総長の縄張りにうっかり入って、そのままライディング将武となった。だが、その時は互いの走りを褒め合い事態は収まったはず。永吉にその事を話すと、苛立った様子で永吉は眉間に皺を寄せた。
「タケさんとオレを呼んでたな…行って誤解を解かねぇと!」
「行かせねぇぞ酒井ッ!!……話はまだ終わってねぇだろうが。テメェが嫌だと言うなら、足折ってでもカシラのもとに連れてくぞッ!!」
永吉は、早雲を行かせるつもりは無い。
朱い将気を四肢に纏い、獣の如く縦横無尽に駆けながら攻撃を仕掛けることにした。
喧嘩殺法・獣肢ッ!!
朱色の獣が穿くのは将武・森 長可ッ!!
「オレはもう戻らねぇ…自分で道を決めてぇんだよ。永吉。」
拳を構える早雲。
彼の表情の様に、空を覆う鈍色の雲は晴れることがない。ただ、彼らを見下ろすだけ。
そんな二人の様子を隠れて見ながら、嘲笑う影が一人。
かち、かち、かち、と…ベルトのツク棒を指先で弄りながら、彼は黒縁メガネ越しにグリーンの瞳をニヤリと細めた。
「律儀だねぇ、森ぃ…ヒヒッ…」
かつん。
ここは美術室。教師も生徒も、各自の教室で待機を言い渡されているため、誰も来やしない。
かん。こん。
屋上は端しか見えないが、森 永吉と、酒井 早雲が戦闘をしているということは分かる位置。そして、校庭で対峙する葵 竹康と、仁双楠の龍虎の様子も、ここからよく見える。
貸し切りの特等席でじっくりと楽しむとしよう。
「忠実なのは関心だがなぁ?言われたことだけを真っ直ぐこなすのは小学生でもできるんだよ。ヒヒッ…」
男性の頭部から首までを象った白い石膏像には、彼の投げたアイスピックが刺さっていた。
右目、左目、喉、口…銀色のアイスピックは、周囲にヒビを入れることなく石膏像に刺さっている。
蜂須賀 転助は、窓の外を眺めたまま、自身の得物で的当てを楽しんでいた。決して的に視線を向けることなく、的確に石膏像の顔に当てていた。
「それにしても…ヒヒヒッ、葵 竹康。まさに両手に花だなぁ、嬉しいだろ?……あのガキが失敗した時も…松永にまた暴れてもらえばいい…そして轢ッ殺しぃ…せいぜい、ワガハイの手のひらの上で踊るがいい。」
コン!!
最後に眉間。蜂須賀は、石膏像に視線を向けると、嬉しそうに口角を三日月のように吊りあげた。
「ヒッヒヒ、ビィーンゴォ。」
校庭に辿り着いた千代子を、仁双楠の龍虎は鋭く睨み付けた。
「テメェが葵 竹康か。よくもアタシらの仲間を…!!」
武田 立歌は、今にも食い掛かりそうな虎の如く怒りの表情を向けている。
千代子には全く覚えがない。誰かを襲うなど、彼女の兄、竹康であってもするものか。
だが、何かの勘違いだと言ったところで、今の彼女たちは退くことはないだろう。
『この凄まじい将気…千代子、こやつら…ただならぬ強さを秘めておるぞ。心してかかるのだ。』
将武・徳川 家康の声は厳しい声で千代子に対して警告をした。
「轢ッ殺しは、どうなさいましたの?貴方と共に待っているのではなくて?」
今度は、長尾 鶴姫が千代子に話しかけた。
轢ッ殺し…榊原が言っていた、酒井 早雲のかつての呼び名。
千代子は、返答に詰まる。
早雲は、榊原たちが探しているのだ。来るとしても、時間がかかるだろう。
だから、一人で何とかしなくてはならない。
強力な将武使いを二人…
シンプルな殴り合いの戦いは、千代子にとってこれが二度目でもある。
一度目は榊原との戦闘だが、あの時は榊原も油断をしていたから、これがほぼ初めての戦闘のようなものだ。
不安はある。だが、逃げようとは二度と考えない。
考えるものか、臆するな。
実戦経験など関係ない。
二人は葵 千代子が倒さなくてはならない。
「お前たちは、オレ一人で充分だ。」
強がりだ。本当は不安でたまらない。
だが…決めたのだ。大切なものを、仲間を守るためならば…どんな相手でも逃げるものか。
それに、井伊 虎徹との戦いで竹康の呼び掛けにすぐ駆け付けてくれた早雲が、ここまでの怒りを買うようなことをするはずがない。
彼が自分を守ってくれたように…
今度は、酒井 早雲を守ろう。
「テメェ…!!舐めてんじゃねぇぞ!!轢ッ殺しにアタシらの仲間をやられたんだ!!さっさとアイツも…!!」
立歌の怒号を、鶴姫が制した。
「おちつきなさい、立歌。……やはり織田軍が内部分裂を起こしていたのは、本当だったのですね。そちらの苦労も察しがつきましてよ。その中で轢ッ殺しを引き入れたのは、流石と言うべきですわ…葵 竹康。」
鶴姫は、千代子へ向けて柔らかに笑みを向けて、続いて…警棒を高らかに構えた。
「そして貴方たち二人から、わたくし達はヒントを得ましたの。敵対してきたからこそ、互いのことをよく知っている…故に、大きな力となる事を。」
「大きな、力…!」
千代子は目を見開く。
鶴姫の持つ警棒が電撃を纏ったのだ。
同時に立歌がギターをかき鳴らし…マイクも持たずに、歌いはじめた。
炎の嵐のような、熱い音色だ!!
いざ 燃えたぎれ 燃えあがれ 炎
宿敵と往く アタシの 虎の牙
龍雷よ 轟き照らして
今こそ雄叫びを上げる時ッ!!
武田 立歌は歌う。
手を取り合い、立ち上がることを決意した龍虎の歌を。
すると立歌の弾いていたギターのボディは、その情熱的な歌を、彼女の魂を体現するかのように熱く、ごうごうと燃え始めた!!
魂の炎を纏ったギターを構え、そして高く跳躍し、千代子へ向けてギターを大きく振りかぶる立歌!!
そして鶴姫の警棒が振るわれ、立歌のギターへと、将気が上乗せされるッ!!
歌え、詠え、謳え、虎よ!!!
熱き魂、今こそ此処に!!!
「駆 斗 毘 露 燻 狼ォオオオオ流ッッッ!!!!」
爆裂の駆斗毘露燻狼流!!!
立歌の攻撃は千代子へ向けて兜割りのように襲い掛かる…!そして弾かれたように鶴姫もまた、身を低くしながら疾走を始めた。二人同時に畳み掛けるつもりだが…ただではやられない!!
千代子は両手を体の前でクロスし、マッチに火を灯す様に、手首から指先へかけて強く擦り合わせる。
すると、立歌のギターと同じく千代子の手が一気に炎に包まれた――。
手刀の連撃は黄金の闘志と共に焔となりて、虎の牙と鍔迫り合い!
そう、その技の名は…!!
「朱刀連!!!」
『千代子よ!!いざ、参ろうぞ!!』
闘魂、炎上!!
いざ尋常に、将武ッ!!!
爆炎のぶつかり合いにより、校舎内にもその音が響き渡る。忠勝と榊原は屋上へと向かっていた。階段を抜かして走りながら、忠勝は榊原に声をかける。
「あっちはもう始まっちまったか…!榊原先輩ッ、ホントに屋上にいるんですか酒井は!」
「ええ、感じるわ。アタシの将武でビンビン感じてる!!酒井の将気と…やばいわね、織田軍の森 永吉の将気も!あいつも居る…おそらく轢ッ殺しを連れ戻すためよ!」
将武使いの感知を得意とする将武、榊原 康政。
その能力によって榊原は酒井 早雲の居場所を探し当てることが出来た。
だが榊原は同時に嫌な予感も感じている。将武を通して、確かに感じている。
まるで耳の端っこで、気色の悪い虫が静かに忍び寄っているのを感じ取るような…そんな予感。将武使いの気だということは確かだが…
この暗い予感はなんなのだろう。
そして、同時刻。屋上では早雲が追い詰められていた。
鉄パイプを担いだ永吉は、冷たく早雲へ向けて言い放つ。
「さっきの言葉、取り消すぜ酒井。平和ボケして無かったと思ったが…オレの見当違いのようだ。」
フェンスに背中をつけるように追い詰められた早雲…振りかぶられる鉄パイプ…
開かれた扉。忠勝と榊原が漸く辿り着いた!!
「酒井ッ!!」
早雲の名を叫ぶ忠勝。
間に合わない。榊原が鼓帝架を伸ばすより、永吉の鉄パイプが早い…!早雲は防御の体勢をとりながら目を閉じる…!!
だが、大きな金属音によってそれは阻まれた。
鉄パイプの方が速い?
否……そう、否――。
鉄パイプよりも、もっと速いものが…
森 永吉の攻撃から、早雲を守った。
目を開いた早雲。その先には真っ黒なバイクだ。自分のバイク、獲飛巣喰よりも大きな…無人のバイクだ。
「なんだ、あれ…あのバイク…人が乗ってないぞ!?」
驚愕の表情を浮かべ、言葉を述べたのは忠勝だ。
無人の巨大バイクは、八つ目のヘッドライトをギョロッと永吉へ向ける。睨みつけられたような感覚に、永吉は眉間の皺を深め、飛び退くように距離を取った。
「…邪魔しやがって、何だテメェはッ!!」
前輪をガコン、と大きな音を立て屋上の床にめり込ませると、バイクを中心に黒い将気が雨雲のように立ち上り、鈍色の雲に、暗雲が重なる。
黒い、黒い雨が降り出した。
雨粒は、地に落ちる。地に落ちて、地を這った。
かさ、かさ。かさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさ。
ぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽた。
それは、黒い蜘蛛だ。
蜘蛛の子が、降って、落ちて、這って、消える。
黒い蜘蛛の群れから現れたのは漆黒のライダーだ。
黒いライダースジャケット、黒のレザーパンツ。そして、早雲とよく似た黒いキャップと、蜘蛛糸のような銀の模様が描かれた黒のバイク。
その男の出現に、早雲は驚いた。
「お前…は……!?」
「この黒い将気…ここに来るまで感じてた嫌な気配の正体はアイツだったのね…!」
そして永吉は、苛立ちの矛先をその名と共に…男へ向ける。
「火ッ転死……松永…八雲…!!!」
「轢ッ殺しの酒井と決着をつける為に、お前たち織田軍と手を組んだんだ、その前にカタをつけようとするなよ、森 永吉。」
松永 八雲は、ドッドッドッ、と唸るバイクのハンドルを握ったまま永吉に静かに言葉をかける。
「待てよ、オレはもうその名は…!!」
もう、その名は捨てた。
早雲が言う前に、松永は早雲へ向けて非情な一言を浴びせる。
「お前の犯した罪は、その名は、決して捨て去ることはできない。」
「言いたい放題抜かすんじゃないわよッ!!」
松永の言葉を遮るように榊原が将武を伸ばし、攻撃を仕掛ける。
しかし…松永は自身のレザーパンツの両サイドへ手を突っ込み…将武パンツを…
上げたッ!!!
再び松永とバイクが漆黒に包まれ、榊原が突き出した鼓帝架は黒い将気によって弾かれる。そう、これは…!!
「これは…アゲパン…ッ!?」
早雲はサングラス越しに目を見開いて驚く。
同じバイク乗りの将武使い…松永 八雲。
その将武を上げた瞬間、彼の腰に将武に秘めた魂を象徴とする家紋が現れるッ!!
暗雲に鈍く輝く蔦紋……
将武・松永 久秀――!!!!
「――行くぞ、火進孤路。」
それが、彼のバイクの名前か。
漆黒の鉄馬と、ひとつになった火ッ転死。
松永は、巨体をその場で回転させてマフラーから黒いガスを噴出する。屋上がガスで包まれると、彼の声だけが…闇の中で響く。
「次に会う時は、轢ッ殺しの名を賭けて勝負をするぞ…酒井。舞台は用意してやる。」
振り払っても、振り払っても、黒いガスが晴れない。
消せない罪悪のように…暗いトンネルの中に居るように、前が見えない。
鬱陶しそうに、榊原が将気を放出しながら鼓帝架を伸ばし、高速回転する。
プロペラのように榊原を中心に将武を振るうことで、ようやく煙が晴れる。
もうその場に松永 八雲は居なくなっていた。
「大丈夫かッ、酒井!!」
榊原と忠勝が、早雲の元へ駆け寄って、彼を気遣う。早雲の表情は、険しいものだった。
不意に携帯の着信音が鳴る。音の主は永吉…電話の相手は、蜂須賀 転助だ。
「クソが…次から次へと邪魔しやがる…!!なんだ蜂須賀ッ!!いま取り込み中だ!!」
『遅いぞ森ッ!何度も連絡してたのだぞワガハイも!まずいことになった…今回の騒動で長尾組…越後聖歌の下っ端がカシラの居る旧校舎へ向かっている!』
「なんだと……!?」
『お前が行くんだ森、ワガハイはお前と違って忙しいんだ!カシラの助太刀に行け!!』
切られる電話。キレた表情の永吉。
「…………覚えてろ酒井。お前の居場所はコッチだ。」
フェンスに手をかけ、大きく飛んだ永吉は校舎の壁を蹴り、旧校舎の方向へと向かう。着地した永吉は、そのまま通学路を走っていってしまった…。
「ヒッヒヒヒ!!単純だぜ、ホントにな。」
美術室で笑う蜂須賀 転助。
永吉との通話を終えて、ひとしきり笑う。
すると彼は気を落ち着かせるように、フゥ…とため息をついて、飴の包み紙を開けると口に含んだ。
ハニーミルク、と包み紙にフレーバーが記載されている。
かきゅ、とギザギザな歯の上で転がる飴の音。
「さァて、お歌の準備は出来たかな?勝利の女神サマ。ぜひともハッピーにしてくれよ、ワガハイと…織田軍の為にな……ヒッヒッヒッ!」
一方その頃、東乱楠高校駐車場にて…
井伊 虎徹は悩ましげに顎先に指を添えて立ち尽くしている。
結城 鈴々を止める為には、まずマネージャーとカメラマンを引き離し、二人を利用する必要がある。その為には、何らかのアクシデントを起こす必要があった。
彼は今、そのための材料探し中なのである。
「あったあった。結城 鈴々の所属事務所の車…わかりやすいマークつけちゃって…それじゃ、始めるかな。」
虎徹がポケットから取り出したのは、釘だ。
控え室の掃除中、ロッカーに入っていた釘バットの釘。さすが三年生のヤンキーのロッカーだ、こっそり拝借して正解だった。
虎徹は釘を車のタイヤに刺して、パンクさせておく。
「んー…シチュエーションとしては、こんな感じかな…?」
虎徹は作戦の整理を始める。
酒井を探すため駐車場に行って見たら、退路を塞ぐために学校の周りで待ち伏せしていた武田・長尾の部下達に出くわし、抵抗するも苦戦。そこで鈴々が所属するアイドル事務所の車が見つかり、鈴々がこの学校にいることがバレて しまい、人質にしようと校舎内に侵入してきた。
「堂々と来るとしたら、甲斐女華の傘下、長篠レディースあたりかな。」
鈴々は視聴覚室の中に待機させておき、マネージャーとカメラマンと共に安全経路の案内として、駐車場で取引を持ち掛ける。いざとなったら、将武を使えばいい、が…『赤備え』では、洗脳していることがバレバレだ。
「それに、あの二人の情報は使えるしね。」
もう、調べは済ませてあるのだ。
マネージャーは、鈴々の専属になる前に、当時担当していたアイドルにセクハラの容疑をかけられたが…鈴々の弁護によってそれは冤罪とされ、そのアイドルは痴漢冤罪の濡れ衣を着せられた挙句に芸能界から去っている。
カメラマンは過去に盗撮を行っていた。グラビア雑誌に載せるから、という名目で…本来は自己の趣味の為に撮影をしていた。
この二人がニュースで世に出ていないとすると、鈴々と共に事務所で隠蔽していることになる。鈴々が脅迫していたのは、この二人の過去の弱みを握っている為だろう。
「さて、下準備は出来たことだし…あとは苦戦したということにするために服も汚して…血とかは諦めるか。赤ペンじゃ、あからさまにバレるし……うん?」
誰かくる。複数のバイクのエンジン音が近づいてきた。虎徹は車の陰に隠れ身を潜めながら、様子を伺う。
バイクに乗った、女子の集団だ。ゴテゴテな装飾の施された愛車に跨り、花鳥風月と大きく描かれた赤い旗。
先陣を切るのは、金色のくせっ毛に、赤いヘアピンを付けて、袖を通さず肩にかけた白い特攻服姿の女子。
「ここが東乱楠高校か…」
女暴走族・長篠レディース総長…
馬場 春風…到着!!
「本当に来るとはね…でも好都合だ。」
虎徹は当てずっぽうとはいえ、自分の思い通りに長篠レディースが来た事に驚きつつ、好都合だと口角を上げた。
うまく交渉すれば、こちらの戦力になるかもしれない。
だが、もしかすると武田 立歌の助太刀のため、葵ヤンキーズを討ちにきた可能性もある。
彼女たちは何か会話をしているようだ…
見つからないよう息を潜めながら、聞き耳を立ててみることにする。
肩にかかるくらいの、青く染めた髪の左側を少しとって緩く団子状にまとめたヘアスタイルの女子が、春風に話しかけた。
「春姉さん、ホントにいいんすか?お館に黙って東乱楠に来ちまって…」
「気にすんな、飛鳥。責任は全て私が取る。それに今回の騒ぎは、どうしても"アイツ"がやったとは思えねぇ。…それを確かめる為にも、私は行かなきゃなんねぇんだ!」
だからお前達は無理について来なくても良かったんだぞ?
春風は飛鳥に目線を向けながらそう言葉をかけると、飛鳥は、口調強めに春風の隣に立った。
「そういう訳にはいかねぇっすよ。まったく…
春姉さんは思い込んだらすぐ一人で突っ走るから見てて危なっかしいっす。そうっすよね、麗花。」
飛鳥が後ろで菓子を食べていた、緑髪の背の低い女子…麗花の方を振り向いた。
麗花が手に持っているのは、ブーチョコランタンの紅茶ラテ味。溶けて手に付いたチョコレートが、黄色いジャージの袖口を汚してしまっている。
「まぁまぁ、そこが春ちゃんの良いところでもあるんだから、その位にしなって。ねー、皐月ちゃん。」
のほほんとした口調で、皐月に顔を向ける麗花。
古風なロングスカートを履いた一番背の高い彼女は、真剣な眼差しで春風へと想いを伝える。
「総長。あたい達は確かに甲斐女華の傘下だが、あたい達にとってのアタマはどんな時でも
馬場 春風 ただ一人。どこまでもお供します!」
長篠レディース、花鳥風月の勢揃いか。
好都合で、それでいてハイリスク。
味方に出来れば心強いだろう。しかし失敗すれば、自分は袋叩きにされるかもしれない。
だとしても……
「タケ兄ぃの為だ…利用できるのなら、やってやる。」
もう少し様子を見て、然るべきタイミングで声を掛ければ…
カラン。
何かが落ちた音。しまった、持っていた釘が手元から…!!
虎徹の背筋を冷や汗が伝った気がする。
「誰だッ!!」
最初に気付いたのは皐月だ。一行がずんずんと近付いてくる。まずい、見つかった…!!
そして、囲まれる虎徹。ラインストーンでデコレーションしたメリケンサックを手に嵌めた飛鳥が、口元を吊り上げ笑った。
「盗み聞きっすか。春姉さん、どうしますか。」
「ありゃりゃ、聞かれちゃったぁ?バチッといっとく?」
麗花の袖口から覗く電流…スタンガンか。
厳しい眼差しで見下ろす春風…
井伊 虎徹……窮地!!
数分後、視聴覚室ではマネージャー達が準備を終え、あとは校庭で争う三人が消耗するのを待つのみ。
鈴々は窓から外を眺めながら、マネージャーに買わせた炭酸飲料を飲んでいた。
「ぷはぁッ。ブログじゃキャラ作りの為に炭酸飲めないってことにしてるけど、やっぱ美味いわ〜。今頃ブタ共も暑い中スタンバッてひしめき合ってるのかな?ご苦労だよね〜♪」
「り、リンリン…全校放送でテレビに繋いだけど、その前に校長先生と打ち合わせをしてただろう?東乱楠高校の成り立ちとか、色々…呼んでこようか?」
マネージャーが恐る恐る鈴々に尋ねたが、彼女はジトリと目線を向けてから嘲笑をかけた。
「あんなハゲとツーショットぉ?勘弁してよ。テレビ映るからって調子こいて長ったらしい話を聞かされるウチの身にもなれっての。それに、あの眩しいアタマのせいで肌にシミ出来たらどうするわけ?ウチが歌って、アンタたちは撮る!それでいいんだよ。」
まだ中身が残っているペットボトルをダンッ!と音を立てて机に置いて、鈴々はマネージャー達を睨みつけた。
「てか、勝手にウチのお菓子をこんなクソ田舎の学校のオカマにくれてやるとかマジなんなの!?しかもお気に入りのヤツを!ライブの為に黙ってたけど、次やったらテメェらのしでかしたことバラしてやるから。」
カメラマンはマネージャーと顔を合わせ、互いに首を横に振る。
鈴々に逆らったり口答えなど、彼らにできることは無い…
ゴン、ゴン。と…視聴覚室の扉が鳴った。ノックにしては荒々しい…カメラマンが扉を開けると、そこには…首にかけていたヘッドホンも壊され、顔に殴られたような、大きな痣をいくつも作った虎徹が倒れ込むように視聴覚室の中へと入った。
「だっ、大丈夫か君ッ!!」
「ぐっ…ひどい目にあった…は、早く鍵を閉めて!!」
カメラマンが慌てて扉を閉めて、鈴々が気遣うように虎徹に駆け寄った。先程の傲岸不遜な態度など感じさせないような…ぶりっ子そのものの態度で覗き込む。
「はわわっ!?い、井伊くん!?どうしたの?ひどい怪我してるじゃん!」
「うぅ…結城さん、大変だ。トゥーチャンネルで結城さんが東乱楠に来ていることを知った長篠レディースが攻めてきた…!」
「そ、そんなっ!?長篠レディースって、いま攻め込んできている甲斐女華の傘下だろう…!」
マネージャーが顔を蒼白にしながら、まさかの窮地に驚き慄く。
「酒井先輩を探しに駐車場に行ったらばったり出くわして、この有様だよ…君たちが乗ってきた車も横倒しにされて、血眼になって結城さんを探してる…きっと人質にして、タケ兄ぃを脅すためだ…」
「なんてことだ…鈴々、ここは帰った方が…!」
カメラマンが鈴々へライブは不可能と判断したのか、そう口にすると強く睨まれた。俯いている虎徹には見えないため、カメラマンはその視線に耐えきれず、口を噤む。
計画は続ける、そう鈴々の視線が言っていた。
「逆に結城さんはこの中から出ない方がいい…僕が、安全に外に行ける道を案内するから、二人で僕と一緒に来て欲しいんだ。視聴覚室には厳重に鍵をかけておくから、奴らも簡単には入ってこれないようにしておく…さあ、一緒に…!」
「わ、私が肩を貸すよ!リンリン、すぐ戻るからね!」
「う、うん!!」
マネージャーが虎徹を支えながら、廊下へと出ていく。ひとり取り残された鈴々は、冷や汗をかきながら固唾を飲み込んだ。
「マジかよ…!クソッ!!」
駐車場に辿り着いた虎徹達は、早速横倒しにされていると言われた車の前に来た。
マネージャーは車の安否を確認するが、先程虎徹が言ったように、横倒しになどされていないことに違和感を感じ、振り返る。
「い、井伊くん?タイヤはパンクしてるけど、倒されてはいないが……」
「うん、そうだね。」
「そうだね、って…え…?」
怪我を負って、喋るのも辛そうにしゃがんでいた虎徹は乱れた学ランをピシッと着直して、立ち上がった。壊れたヘッドホンを首から外し、右手に持ってぶらぶらと揺らしながらため息をつく。
「リアリティ求めるためとはいえ…気に入ってたんだけどな。まぁ、また買えばいいか。」
負傷などまるで嘘のように、普段と変わらぬ様子で黒髪をかきあげ不敵に笑い、戸惑うマネージャーとカメラマンを前にしながら、虎徹は声を上げる。
「もう出てきていいよ。」
鈴々の車を、そして彼らを囲むように現れたのは…攻め込んできて虎徹を殴ったはずの、長篠レディースだった。
「なっ、え、ええ!?い、井伊くん!?」
「さて、お二人さん…僕と取引をしないかい?」
井伊 虎徹……作戦成功!!
その頃校庭では、千代子が龍虎の猛攻を受け、窮地に立たされていた。
虎が歌い、龍が導き…時に龍はその牙をもって襲いかかって、虎が助ける。
朱刀連によって立歌の攻撃を受け止めると後方からの鶴姫による雷撃が襲い、
距離を取ろうとすれば立歌はギターと自身の歌で更に強化を重ねる。阻止しようとすれば鶴姫が、手数の多い警棒による近距離攻撃で牽制を掛け、そこから更に立歌の大技が千代子に向けて放たれる。
将武使いとの実戦経験の少なさもそうだが、この二人の完璧な連携攻撃によって千代子は押されていた……
疾風に響け 虎の咆哮よ
音さえも超えた 爆速の牙
吼えろ 唸れ 叫んで 唄え
雷は 紅と疾風になるッ!!
虎が奮うこの爪は 喰らう為のこの牙は
静かなる闘志を刻むのさ
のっぴきならねぇ 退く気もねェッ!!
阻むモノなら山でも砕く!!
いざ押し通るぜ 宿敵(わが友)よッ!!!!
風林火山・龍虎饗宴!!
「くっ…!!」
『ぬう、このままでは我らが圧倒的に不利…!!千代子よッ、今こそ余を上げるのだ!!』
「上げるって、アゲパン…!?できるのか…!?」
『上げぬうちから己が力を疑うでないッ!!千代子よ……兄の道を往くと決めたお主ならばできる!!初めて故に、制限時間は僅かなものだろう、もって一分ほどか…しかしこの場を切り抜けるには、これしかない!!隙を作り、そして余を上げるのだ!!』
「ああ、わかったぜ家康さんッ!」
「ぶつくさ喋ってんじゃねェッ!!これで…!!!」
「木ッ端喰らわせてやりますわッ!!!」
挟撃、窮地!!
龍虎のトドメの牙は千代子へと迫り来る!!
だが、千代子は両手を広げ、そして…打ち鳴らした!!!
パァン!!!!!!!!と、音が鳴り響き凄まじい黄金の光が龍虎の視界と、耳を支配する。
爆音と閃光を伴う音響手榴弾の如き最強の"猫騙し"……その名も!!
「超光殺音…ッ!!」
至近距離で技を食らった二人は、目をおさえて悶える。
ここからが、反撃開始だ!!!
「うぎゃああああっ!!め、目がッ、目がァ…!!」
美術室にいた蜂須賀も、突然の光と音によってダメージを受けたようだ。眼鏡を外して目を擦り、涙目で定まらない視界をどうにかピントを合わせるように瞬きをする。これだけ離れていても、このダメージとは…
千代子の技は、否。将武・徳川 家康の力は…いったいどれほどの力を隠しているのか…
どうにか元に戻った視界に安堵しながら、蜂須賀は眼鏡をかけ直して外を見ると…千代子は、ズボンの中に両手を入れていた。
その立ち姿は…まさに、仁王!!
「タケさん…アレをやるんだな…!!」
息を飲みながら、早雲は屋上から榊原、忠勝と共に千代子を見る。
彼は葵 竹康によってその境地へと至った。
話には聞いていたが…ここで見ることができるとは。
「本に書いてあった伝説は、本当だったんだな……」
忠勝は、祖父母の経営する古書店で読んだ伝説を思い出す。
「誠の志を持って道を往く覚悟を決めた将武使いが、己の隠された力を…将武を上げる事で、行き着く境地……それ即ち…!」
ア ゲ パ ン ッ ッ ! ! ! !
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!!!!!!!!!」
上げよ、徳川家康!!
輝け――。
東 将 大 権 現 ッ!!!!!!!!!!
千代子と家康を中心に雄々しく輝く黄金の将気は、光の柱となって天の暗雲を貫き、東乱楠高校を、東乱楠の町そのものを、眩く照らす。
「ぎゃあアッ!!また目がァ!!」
黄金の疾風が吹き乱れ、美術室にいた蜂須賀は吹き飛ばされながら再び悶絶する。風で机に置いていた飴の包み紙が吹雪のように舞い散った。
そして、この時を静かに、木陰から見つめる者がいた。銀色の髪を片方だけ編み込み、手首にはミサンガをつけ、丸い形の眼鏡をかけた一見地味な男子。彼は、年齢よりも大人びた口調で…真剣な眼差しでその光を見つめる。
なんと、雄々しき光なのだろう。
「まさか、これほどとは…葵 千代子。所有者の身体能力を爆発的に上昇させ、限界なく成長する家康公の力とはいえ…彼女がこんなにも早くアゲパンの境地に到達するとは……血は争えないと言うことか、竹康。」
土御門 明良。彼は千代子の成長を驚きながらも、更なる脅威が迫っていることを危惧する。
そう、これは序章だ――。
「君ならきっと今頃飛び跳ねて喜んでいることだろう。しかし、君達兄妹を巻き込んでしまった私が言えた義理ではないが、葵 千代子……これで君は、もう後戻りは出来ない。」
この伝説は、まだ始まったばかり――。
「これ程の強大な将気を解き放ってしまったんだ…日本中の将武パンツ使い、特に西の英雄達は全員感じ取っているだろう……あの男も…」
新たなる伝説の幕が、開かれる――。
その予感と共に…未だ見ぬ戦士たちもまた、千代子の発した金色の輝きを目の当たりにしていた。
彼も、その一人である。
誰よりも、彼女の成長を喜ぶ彼が……
北。
飯綱照津神社。
「凄い将気ですね、神威様。神威様。大事な人なので二回お名前を呼んでみました。」
狐耳付きのカチューシャをつけた芥子色の髪の少女が、鳥居の上で遥か遠くの光を眺めながら、二回呼ぶほど大事な人へと声を掛けた。
「カッカッカッ!黒羽よ。毎度の事ながら"なちゅらる"に儂を口説くでないわ……それにしても、確かに凄まじい将気よ。相変わらず元気そうでなによりじゃ……家康殿。」
神威と呼ばれた、狐耳の巫女服を着た古風な口調の少女。大きな尻尾と、将気を感じてふわふわとそよぐ耳は本物のようだ。
「おおっ、スッゲー!ここからでもハッキリと家康さんの光が見える!…千代子の奴、やっとアゲパンを使えるようになったんだな。」
「これ!竹坊主!お主何をこんな所で油を売っておる!!儂が与えた"とれえにんぐめにゅう"は、ちゃんとこなしたのであろうな?」
葵 千代子の実の兄、葵 竹康。
彼は白い道着に黒い帯をしめた格好をしていた。天を突く輝きを、妹の成長を若葉色の瞳を輝かせて見つめていると、近づいて詰め寄る神威に対してムッと眉間に軽く皺を寄せながら軽く腕を回す。
「トレーニングメニューって…ここに来てから毎日毎日見習い将武使い百人と組手させられてばかりじゃんか…なぁ神威さん、まだ
"あの技"は教えてくれねぇのか?明良は別として、あいつにはとっくに教えたんだろ?」
「はぁ…お主何も聞いてなかったのか。あやつはここから遥か遠くの南の地で準備を整えてから合流すると言っておったではないか。だからお主より早く教えておいたのじゃ。わかったか竹坊主。」
「ああ、そういや…明良もそんなこと言ってたな。南では将武パンツを使って、ヤバイ研究をしてる奴等がいるからそいつらの研究所を潰しに行くって…あいつなら一人でも大丈夫だと思うけど、やっぱり心配だなぁ。」
爽やかな風が、黄金を乗せて竹康の髪を揺らす。
パン!!と両頬を手で打って気合を入れると、彼は帯を締め直した。
「……よっしゃ!!俺も負けてられねぇな。さっさと修行終わらせて、西へ向かうとするか!」
そして、西――。
「イィィヤッホーーーウ!!!!」
「ま、待って下さいよー。夜一郎さーん!もう、とっくに奮導寺の山は越えたんですから、下に降りて普通に歩きましょうよー!」
ここは袴ヶ原。
高級かつ、歴史を重んじた外装のビル施設や住居が立ち並ぶ。
そんな街中に響く声の主たちは、建物から建物へ跳び、時折電信柱の上で着地して、再び飛び上がる。
一人は、何とも特徴的な髪型。
ヤンキー定番のリーゼントヘアだ。金色とも、茶色とも言えぬ髪色で、その巨躯の羽織る学ランの背には、猿仁全開と白い筆文字の刺繍が施されている。
彼の名は、羽柴 夜一郎。
東乱楠高校の三年生である彼は、得物のゴルフクラブを電線に向け、引っ掛けるように振るう。
その硬いはずの金属棒は、彼の持つ将武パンツの力で伸縮自在のゴムの如くよくしなり…電気を通すことなく電線へと引っかかって、滑るように移動する。
そんな彼を追いかける小柄な少年。
癖のある紅い髪に、きっちりと着た制服と、学生ボタンに煌めく、"奮"の文字。
両サイドのウエストにスリットを入れたスラックスからは、赤と青の布がテープのように長く伸びて、前方にある標識や電柱へ巻き付いて、少年は引き寄せられるように移動している。
彼は、浅井 一。
私塾・奮導學院の生徒だ。
「オラオラ、一っ!ペースが落ちてんぞー!それにこっちの方が楽だし、スリルがあって面白ぇじゃあねーか!!」
「スリルなんてもう島津との戦いで充分味わいまし…!夜一郎さん、見て下さいあそこ!東の方角。」
一が指を差した先には、暗雲を貫く黄金の光の柱。その輝きを見た夜一郎は眉を顰める。
「あれは、いったい何だ、計り知れねぇ力を感じるな…。」
「あの辺は確か東乱楠の方角ですね…まさか東の将武使いが何か問題を起こし…やっ、夜一郎さん!前!前!!」
「へっ?」
夜一郎、既に遅し!!
前方に迫るマンションの一室の窓が開いていて、そのまま中に直行してしまう。
部屋には着替え中の女性…赤面する両者!!
「キャーーーー!!!!!」
「ウキャーーーー!!!!!」
響き渡る驚きと羞恥の悲鳴と、若干の喜びが混ざった猿の悲鳴……
「や、夜一郎さーん!!!」
羽柴 夜一郎、浅井 一……彼らが東に辿り着くのは、もう少し遅くなりそうだ。
同時刻、私塾・奮導學院の屋上…
生徒達が東より突如現れた光によって騒然とする中で、握り飯を食べる少女。隣には重箱が幾重にも重なっており、可愛らしい水筒も置いてある。
くようの。と平仮名で刺繍された風呂敷が、風でぱたぱたと端が揺れている。
「あーん、ムグムグ…うむ!やはり、
ここから見える景色を眺めながら食べるおむすびは格別だなっ!」
「九曜様!やはりここでしたか。」
背に木製の薙刀を背負った黒髪の女生徒、
島 清近が、九曜に話しかけた。ストレートな髪をきっちりと総髪にまとめた二人は、年の離れた姉妹のようにも見える。
「おお、きよ、どうしたのだそんなに慌てて…きよも食べるか?お茶もあるぞ?」
振り返った九曜は、至って慌てた様子もなく普段通り。いつもの風景を眺めるように、水筒のカップに注がれた緑茶を飲んだ。
両手で握り飯を持つ姿が小動物のように可愛らしい。
「何を呑気なことを言ってるのですか…今、目の前に見える光の柱が気にならないのですか?」
「きよ、少し落ち着け。既にわかっていると思うが、あれはアゲパンの境地に到達した者の将気だ…まことに見事な黄金の将気よ。」
「あの光は東の地から発せられているみたいですね…おそらく、あの野蛮な猿と同じ、…東乱楠の将武使いかと。」
むす、と厳しそうな表情の清近に対して九曜は口の端に米粒を付けながら笑った。
年相応の、しかしどこか戦人のような凛々しさが仄かに感じられる笑みだった。
「うむ、これほど雄々しくも美しい将気を放つとは…、先の島津との戦いで助太刀に来てくれた羽柴といい、やはり東の将武使いは侮れんな!」
「…黄金の将武使い…まさか。」
これが、始まりの始まり。
東と西。
時を超えた猛将の魂が込められたパンツと褌の戦いの序章。
さぁ、さぁ。
将武パンツ入り乱れる番長物語が…
ここから、始まる!!!!!
なぜ、彼女は戦うのか。
それは人が、パンツを穿くのと同じ程に簡単な答え。
大切なモノを守るため。
葵 千代子は、光の中で凛と立ち…
龍虎と対峙する。
「本気は……ここからだッ!!!」
次回も尋常に……将武!!!!!!!




