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お薬いかがですか?  作者: ほる
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07. エルフ最強の遺伝子


「はーい。じゃあ遠慮なく使わせて頂きますね! えーと、お湯沸かしたいので、火種ありますかね? あ、それと手を洗いたいので、水もまたお願いして良いですか?」

「ええ、お安い御用だけれど……マリーちゃん、生活魔法は使えないの?」


 マリールが腕まくりをしながら、申し訳なさそうに隣に立つアエラウェを見上げれば、アエラウェは不思議そうに首を傾げた。


 そう言えば、と、バルドも不思議に思う。

 確かマリールのタグには、魔法性質に水と火があった。相反する性質を持つのは珍しいが、生活魔法と言われる初期魔法であれば、性質に適用が無くても訓練次第である程度行使する事が出来る。


 この世界の住人の殆は、その生活魔法と言われる初期魔法か、魔法を閉じ込めた魔石を使い生活をしていて、水を汲み上げる必要も無く、火種を起こして火を付ける作業も無い。風魔法で洗濯物も乾かせるし、畑を耕すのだって土魔法だ。照明は光の魔法で賄える。


 そして魔石とは、魔物から入手する核の事を呼称するものであったが、今では鉱石に魔法を閉じ込めて作った石の事を指す。魔物から入手するものは魔核と呼ばれ、区別されるようになった。


 魔石は魔法が苦手だったり使えない者の為に、過去に現れた『異界の迷い子』が開発したもので、それぞれの魔法属性と相性の良い鉱石に魔法を閉じ込めれば、誰でも使えるようにしたものだ。

 例えば水ならラリマー等の青色の石で、火ならカーネリアン等の赤い石が使われている。魔法を閉じ込められる量も鉱石のランクで変わるので、値段もピンキリで流通していた。そして魔石作りは魔力を持つ者には小銭稼ぎに持って来いの内職仕事で、商業ギルドの魔道具士組合が管理している。ちなみに名も無かった鉱石の名称をつけたのも、その『異界の迷い子』だ。


 魔物から取れる魔核は魔石と違い使い切りだが、効力や持続性が魔石よりも高く、桁違いに魔力量が多い魔核は、強い魔物から入手出来るので値段もやはり高い。だが主に国や軍が買い取り、国防の為に使われるので、こちらも冒険者にとって良い収入源になっていた。魔核の管理は冒険者ギルドがしている。


 バルドが思考に耽っている間に、アエラウェは疑問を覚えながらも言われた通りに、まず流しの水槽に先程作っていたのと同じように水玉を作ってやった。それで手を洗ったマリールは手鍋にも水を入れてもらうと、沸かして欲しいと頼む。


 すかさずバルドが水の入った小鍋を受け取ると、瞬時にして湯を沸かしてしまった。バルドにかかれば、マグマをも作り出す高温火力で沸騰させるのも一瞬だ。鍋ごと蒸発させないようにするのが腕の見せ所である。バルドは大きな図体の割に、意外と火魔法の繊細なコントロールに長けていた。


 マリールはひとしきりバルドの火魔法に興奮して礼を言うと、木筒から匙で数杯の茶葉を取り出し投入してから、軽く鍋を揺すった。茶葉が開き蒸すまで、ほんの暫くの間放置だ。


「――実はそうなんです。魔力は凄いあるって言われてるんですけど、どうしても火と水と風が使えなくて。いつもはポル姐……私を育ててくれた人がくれた魔石に魔力を込めて使ってるんですけど……。この街に来るまでに過度に使ったからか、割れてしまって」

「使いこなせない……? 発動は出来るってことかしら?」


 眉を八の字にして、マリールは盆の上に人数分のカップを並べる。茶葉がカップの中に入らないように、鍋の底に茶葉が沈むのを待ってからゆっくりと注ぐと、緑色のお茶が草の青臭い爽やかな香りを立ち昇らせた。


 アエラウェがそのお茶を盆ごと、先程バーカウンターから逃げ出したホビット達の座るテーブルへと運んでくれる。

 その間に、マリールは葉の包みを広げた。包みの中には更に小分けした包みが入っていて、その包みごとそれぞれの小皿に盛り付けて、盆に載せていった。


「いいえ、性質の適正に火・水・風もあるので、使える筈なんですけど……どうしても怖くなって発動も出来ないんです。一度無理矢理、火の魔法を発動させようとしたら、暴発というものを起こしかけてしまいました。それが結構な範囲で焦土になるところだったらしくて」

「焦土……?」

「距離的には、エスティリア共和国 のサナの街からカンテラの街まで焦土になるらしいです。私はサナの街に行った事ないから、どれくらい離れてるのか分からないけど……。なので、火と水と風等の攻撃にも使える魔法は絶対使わないようにと言われています」


 エスティリア共和国 のサナの街とカンテラの街まで、軍の早馬で休憩せずに交代して駆けても五日はかかる。馬にも寄るだろうが、大凡750~800kmの距離が焦土と化すと言うのだ。


 一体何の災厄だ。


 アエラウェは、マリールにそんな馬鹿げた事を信じ込ませた人物が気になった。


「それは、誰から……?」

「この世界で目覚めた時に私を拾って育ててくれた、ポル姐です」

「ポルネエ……? さっきも思ったけれど、変わった名前ね?」

「ええーと、なんだっけ正しい名前……ポルガラさん? だったかな? ごめんなさい、いつもポル姐って呼んでたから……」

「「「「「ポルガラ!!」」」」」


 男達は思わず、バン!とテーブルに手を叩き付け、椅子から立ち上がる。ホビットのトート以外、ラルムとサルムは椅子から転げ落ち、尻もちをついて仰天した。

 男達のあまりの驚きようと声の大きさに、小皿を載せた盆を運んでいたマリールが「ひゃっ」と小さく悲鳴を上げながら、身を竦ませる。


「も、もしかして、お知り合いです? この国に行くようにって言ったくれたのも、ポル姐なんですよ。……もしかして知り合いが居るから薦めてくれたのかな?」


 マリールは驚いたものの、気を取り直して皿をひとつひとつ、皆の前に配膳していった。

 配膳し終えたマリールは、バルドとアエラウェの間に一つ開けられていた席を見つけ、いそいそとよじ登る。


 座ってみればバルドと目線が近くなって嬉しかったのか、マリールは隣のバルドを見上げ「えへへ」とはにかんだ。

 その姿がまるで小動物のようで、バルドは思わずマリールの頭を、よしよしと撫でてしまった。

 すると途端に、マリールは殊更嬉しそうな笑顔を溢れさせた。その浮かれぶりは、まるで周りに花でも飛んでいるかのようだ。


 まるで親子のような戯れを眺めながら、アエラウェは先程の衝撃に思考が付いて行けず、少しぼうっとする頭で口を開いた。


「……そうね。知り合いと言えば知り合いね……」

「俺等は知り合いじゃないけど、知ってる」

「つーか、世界中ほぼ全ての奴が知ってると思う」

「知らないのなんてさ、まだ話せない赤ん坊くらいじゃね?」

「というか、まだ生きてたのか……」


 皆がポルガラを知っているとは思わず、マリールは目を丸くした。世界中の人に知られている人物なんて、マリールの魂の居た世界でも存在しなかったのではないだろうか。

 慕う育ての親が有名だと知って、マリールは嬉しくて頬が緩む。


「ポル姐ったら凄い有名人なんですねぇ! 確かにとんでもない超ド級の美人さんでした! あと乳がでかい!」


 「こんくらい!」と、マリールは短い腕でめいっぱい胸の前に弧を描く。恐らくH…いや、Iカップくらいだろうか。もしかしたらマリールの腕の長さでは、その大きさを表すには足りていないかもしれない。


「まじか……」

「乳か……」

「乳……」


 ホビット達は夢見るように、会った事がないポルガラの乳に想いを馳せて、だらしなく顔を弛緩させた。ホビットの美人基準は胸と尻が如何に大きいかどうからしい。ちなみにドワーフもオークも同じ基準だそうだ。


 そんなホビット達のあり様にマリールは急に不安になり、隣のバルドを上目遣いで見上げる。マリールにじっと見詰められたバルドは、まるで責められているように感じ、居心地悪く身じろいだ。


「な、なんだ?」

「……旦那様も、乳、大事、です?」

「あ、ああ、まあ、……あった方がいいな?」

「……!!」


 マリールのダメージは大きい。何せ八歳児の身体。まだ胸よりぽっこりおなかの方が出ているからだ。

 それにマリールは気になる事も耳にしていた。


 その真相を確かめるべく、マリールは恐る恐る伺うように、今度は逆隣に座るアエラウェを見上げた。


「うん? なあに?」

「あの、師匠に聞いたんですけど、エルフさんって……」

「エルフがどうしたの?」


 小首を傾げるアエラウェに、マリールは一度唇を噛み締めて俯いてしまう。それから覚悟を決めたのか、真剣な眼差しでウエラウェに問うた。


「貧乳の遺伝子最強って本当ですか……!?」

「「「「ひんっ……」」」」


 マリールの爆弾発言に、ホビット達は揃って信じられないと両手で口を押える。まさかエルフが貧乳しかいないとは、ホビット達もバルドも思っても居なかったのだ。


 エルフはこの世の美を集約して産まれてくると言われる程、男も女も美しい者しか生まれないという。だがマリールによれば、その完璧な美にはあの、白くて柔らかくて、触れた者には此の世の桃源郷を夢見せてくれる、幸せを呼ぶ膨らみが無いと言うではないか。


 あまりの事にホビット達も救いを求めるように、悲壮な表情でアエラウェを見た。


 エルフはエルフの国がある森から滅多に出て来ない事で有名で、誰もエルフの女性を見た事が無い。こうして人の統治する国に住んでいるアエラウェの存在が稀有なのだ。そしてアエラウェも鉄板の絶壁ではあるが、男性だ。きっと女性とは違う筈だ。


 ホビット達の真剣な眼差しから逃れるように、アエラウェはそっと長いまつ毛を伏せ、その美しく形の整った唇を開く。


「……ええ。エルフは男も女も、同じくらい絶壁よ……」


 アエラウェの容赦ない最後通牒に、マリールとホビット達は雷が脳天に突き落ちたかの様なショックを受けた。ホビットの中で「エルフは無い」と心に刻まれた瞬間だった。


 マリールはと言うと、何やら下を向いてぶつぶつと呟いている。


「ふふ……。もう駄目だ……終わった……。これから成長してもぺたんこのままなんて……。っこれでは乳が好きだという、パイラーの旦那様に浮気されてしまうぅぅぅぅ!!!」


 本気の涙を流しながら項垂れ、床を叩くマリールの肩に、アエラウェは ポン、と優しく労わるように手を置いた。その眼差しは菩薩のように穏やかだ。


「大丈夫よ、マリーちゃん。女は胸じゃないわ」

「アエラウェさん……」

「テクニ「「「わーーーーーー!!」」」よ」


 揃って項垂れていたホビット達は、咄嗟にアエラウェの言葉を大声で遮り、バルドは両手でマリールの耳を塞いだ。


 マリールの涙は突然の大声に驚き、ぴたりと止んだ。


「ちょっと! やめてくださいよ! 子供に何を吹き込もうとしてるんスか!!」

「あらぁ、女の子の成長って早いらしいわよ?」

「もうやだ、この大人――!!」

「警備兵の皆さん! この人捕まえて――!!」


 ぎゃーぎゃー騒いでいるオネエルフとホビット達からマリールを遠避ける為に席を代わると、バルドは頑張って話を逸らす事を試みた。


「ま、まあ、その、マリール。もう食って良いか?」

「旦那様……! 初めての共同作業ですね!? ケーキ入刀にファーストバイトですね!!?」

「お……おう?」


 マリールが何を言っているのか分からないが、目をきらきらさせて見つめてくるからには、恐らく夫婦の何かだろう。バルドはまたしても困惑気味に頷いてしまった事を、数分後には激しく後悔する事になるのであった。



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