06. 棚から牡丹餅
「そんなわけで、どうしましょう。棚ぼた的にバルトさんのお嫁さんにはなれるっぽいけど、目的の世界に名を轟かせる薬術士としての道は、道半ばで潰えました……」
「「「「「棚ぼ……?」」」」」
ちょいちょい謎の言葉を挟んで来るマリールに、男達が首を傾げる。
「えーと、私の居た世界では、とある昔の人が寝転がったところ、その振動で棚の上に隠されていた牡丹餅がボトっと落ちてきて、口の中に入って「美味しいー! 何これラッキー!」って、なった事があったそうで。それから『思いがけない好運を得ること』を、『棚から牡丹餅』と言うようになりました。『牡丹餅』っていうのは、甘く煮た豆でお餅……蒸した穀物を潰してもちもちっとさせたものを包んだものです」
「なるほど。バルドがその牡丹餅なのね。……牡丹餅、食べてみたいわぁ」
オネエルフが舌舐めずりをしながらチロリとバルドを見れば、バルドはさっと顔を背けた。ホビット達は尻を隠して震え上がっている。
「あ、牡丹餅食べます? 作り置きので良ければ。お台所貸して頂ければ、牡丹餅に合うお茶もお入れしますよ?」
「あら、いいわねぇ。今後の事について話し合いも長くなりそうだし、お願いしても良いかしら?」
「はい! 喜んで~!」
マリールが荷物の中から何やら葉の包みと木製の筒を取り出すのを待ち、アエラウェは「こっちよ」と、マリールの手を引き、部屋の奥隅に設えられたバーカウンターの奥へと進む。
バーカウンター裏に設置された台所はなかなかの広さで、壁に設置された酒類を収める棚は空っぽだったが、酒や食料以外は一通りの調理器具と皿類が揃えられており、いつでも使えそうだった。
「ここの待合室、一応食堂も兼ねて台所造り付けたんだけど……一度も使ってないのよねぇ」
「え~!? 何でですか? 勿体無い!」
「作れる人材と、食事を頼む冒険者が居ないからよ」
アエラウェは、ほぅ、と愁いを帯びた表情で溜息を付く。その姿が美し過ぎてマリールがうっとり見とれていると、ガタガタと焦った音が聞こえてきた。
音のするカウンターの向こう側へマリールが背伸びをして視線を向ければ、ホビット達がバーカウンターの足の長い椅子に座ろうと、四苦八苦していた。それを見かねたバルドが、ひょいとホビット達を持ち上げて椅子に座らせてやっている。
その様子にマリールは「イクメン素敵……! 尊い……!!」と、鼻を押さえてぷるぷる震えた。ちなみにホビット達はマリールよりも若干背が高い。
「俺等もギルマスもアエラウェさんも料理作れないから、街の屋台や店で適当に食べてるしなー」
「俺等以外の冒険者は、依頼受けるのと達成報告以外は極力ここのギルド寄り付かないから、他に利用者も居ないし」
「利用者が居れば料理人雇ってくれるんだろうけどなぁ」
「でもアエラウェさん、お料理出来そうですけど……」
「私、可愛いものも美味しいものも大好きなんだけど、作るのは向いてないのよね……」
「破壊する方が得意だもんな……」
「「「うん」」」
つい、ぼそりと呟くバルドに同意して頷くホビット達だったが、すぐに揃って「しまった!」と言う顔をして、恐る恐るアエラウェを見る。
「ええ、私、壊れる程するのが好きなの……」
アエラウェは不気味に微笑んでいる! バルド達はバーカウンターから逃げ出した!




