079. ルルナの耳
ルルナだけでなく、マリールまでもが行く気満々なようだ。バルドは溜息をついて、アエラウェに声を掛ける。
「アエラウェ。イクスとエレンの三人だけでこの場を何とか出来るか?」
「そうねぇ……」
アエラウェは一番の不安要素であるイクスをちらりと見ると、イクスは鼻息荒く胸を張った。
「まかせてくれ! アエラウェ様は何としても私がお守りする!」
どんと自らの胸を叩くイクスに、アエラウェは嫌そうに顔を顰めた。アエラウェではなく被害者やエレンの事を守って欲しいのだが、イクスは真っ先にアエラウェを守ろうとするだろう。
それにやたら鼻息が荒いのが気持ち悪い。正直バルドにまで行かれてしまったら、どうなるかわからない。アエラウェの堪忍袋はとても切れやすいのだ。
そんなある意味アエラウェの危機に、救いの声が響く。
「――こんなとこに居た! バルドの旦那、ダメだ。領主がどこにもいない!!」
「エドナ叔母さん!」
「エドナ……!! 助かったわ……!」
息を切らして現れたエドナに、エレンとアエラウェが飛び着く勢いで駆け寄る。エレンはともかく、アエラウェにまでこんなに熱烈に出迎えられると思ってもいなかったエドナは、目を忙しなく瞬かせた。
「ねえ、モルガお姉ちゃんは!?」
領主が見つからないという事は、モルガは一体どこに居るのだろうか。ホビット達は領主館にモルガが入ったのを見たと言っているし、攫われた被害者が集められたこの部屋にも姿はない。
縋り付く様にエドナのスカートを掴むルルナを、アエラウェがそっと抱きしめ、背中を撫でる。
「ルルナ、落ち着いて」
「アエラウェ様……」
モルガは領主と一緒に連れて行かれてしまったのだろうか。もう二度と会えないのではないかと、ルルナは涙を流してアエラウェを見上げる。
そんなルルナを落ち着かせるように、アエラウェは泣く事は無いのだと明るく笑って、片目を閉じて見せた。
「貴女の耳で探せない? ここを見つけられたのもルルナだわ」
「――っ、はい!!」
アエラウェの言葉に目を見開き、零れていた涙を乱暴にぬぐい鼻をすすると、ルルナは脇目も振らずに部屋の外へと跳び出した。
「エドナ! お願い! トート達も!!」
「はい!」
「「「わかった!」」」
「待ってください! 私も……!」
「駄目よマリーちゃん。ここは足が速いエドナ達に任せましょ。トート、私が預かってた薬よ。持ってって!」
獣人のルルナの脚に追いつけるのは、ホビットとエドナくらいだ。
アエラウェが投げた小瓶をトートが受け取ると、エドナとホビット達は直ぐにルルナを追っていく。マリールは心配そうに、その後姿を見送るしかなかった。




