051. 森は鳥さんがいっぱいです
マリール達が穴に落ちたその頃。バルド達は順調に森へ入り、順調に襲ってくる魔獣を狩り、順調に月桂樹の採取に取り掛かれずにいた。
「あっれー? こんなに森の入り口にまで魔獣って出て来てたっけ?」
「これ何匹目だよも~……」
「三十一匹目かな~っと、あぶなっ!」
トートに襲い掛かる大きな鳥型魔獣の爪が、寸での所で鋼蜘蛛の糸に足ごと落とされる。ラルムとサルムは次々と石の槍を作り出しては、魔獣を串刺しにしていった。
一方、バルドの方はと言えば。子供達を背後から狙い襲ってくるものだけを、ワンパンで沈めているのだが、ワンパンなので派手さも無く、とてもあっけない。子供達はホビット達の派手な戦い方に夢中で、バルドのワンパンには気付きもしなかった。
襲ってくる鳥の魔獣はピピ角牛のボスより遥かに弱いが、如何せん数が多い。そして夏の終わりの蚊と同じく執拗に飛んでは狙ってくる。ホビット達も流石にこの量はおかしいと眉間に皺を寄せ、うんざりしていた。
マリールに貰っていた獣避けの布玉は、鳥や植物系の嗅覚が弱い魔物には効果が無いとは言え、こんな森の入り口に沸く程居ただろうか?
トートが戦う手を止めぬまま、子供達に振り返る。
「――なあ。チビ達さ、森に毎週来てただろ? いつもこんなんだった?」
「二ヶ月くらい前から少しずつ増えてたけど……でも先週は二十匹くらいで、引率してくれたハウノおじさんが倒してくれた」
「僕らに留めを刺す練習もさせてくれたんだよ。だから僕らちょっと強くなったんだ!」
「「「……なんかすんません」」」
子供達の経験値上げの事など考え付きもしなかったホビット達は、現れる魔獣を次々と始末してしまっていた。次が来たら土の檻で囲って、子供達に経験を積ませてやろうと反省をする。
そして冒険者ギルドマスターであるバルドはと言えば、手加減して魔獣が弱ったら子供達へ回すつもりが、突然襲ってくるのに身体が勝手に反射攻撃し、ワンパンで殺ってしまうのを繰り返していた。
今回の引率者達は、引率者として未熟な者ばかり揃っていた。
「ハウノか……」
バルドがぽつりと、その名を呼んだ。
ハウノはカロルクから指名依頼が来て、今メルクには居ない。
戻ったら真っ先に依頼達成報告をしに冒険者ギルドに寄るものだが、アエラウェからもハウノが戻ったとは聞いていなかった。
カロルクからメルクまで往復で四日。もうとっくに戻っていてもおかしくはないのだが、向こうで何かあったのだろうか。
考え込むバルドの横で、ラルムが首を傾げた。
「あそこの冒険者、全員出払う程忙しいのか? ちょっと前もリンツさん呼ばれてなかったっけ」
「さあ? どうだろうな。ハウノさんも首傾げてたけど、依頼金が良いから行くって言ってたぞ」
「まさかそのままカロルクの所属に……なーんて」
そこまで話して、ホビット達は「しまった」という顔でバルドをちらりと見上げた。
ハウノはベテランの冒険者で、以前はエドナとハンスと共にパーティを組んでいて、遠方から難易度の高い指名依頼が入る程の実力を持っていた。
その武器は柄の両側端に湾曲した剣身があり、左右揃いの双剣で獲物を狩る姿は、バルドも見事と惚れ込むほどの腕を持つ。
エドナとハンスが引退してしまってからは、二人が店を構えるメルクを拠点に決めて、一人冒険者として活動していた。
そして何より特筆すべきは、ハンスは少女趣味の冒険者ギルドでも動じない、強い精神力を持っている事だ。
「……そうか」
バルドはハウノの事を思い出し、見るからに萎れて肩を落とした。ホビット達が言うように、違う街の冒険者ギルドを拠点と決めて、このままメルクに戻らないのではないだろうか。
依頼達成報告は、何も受けた冒険者ギルドでしなくてはならない決まりはない。多少時間はかかるが、報酬を他の冒険者ギルドで受け取ることも可能だ。
「――ギルマスの精神安定剤だったからなぁ、ハウノさん」
「ギルマス、そんなしょげるなよ~。ハウノさんならちゃんと帰って来るって!」
「そうだよ! マリーちゃんの事、嫁だよって紹介しないとね?」
「「「「嫁!?」」」」
バルドを励ますホビット達の言葉の中に聞き捨てならない一言を聞いて、子供達が丸い目をして一斉にバルドを見た。
この鬼のようなギルドマスターの嫁が、あの自分達と同じ年頃のマリールとは聞き間違いだろうか。それが本当なら、ルルナは今日来なくて正解だったかもしれない。
年長のマルクとビートは警戒して、キッとバルドを睨み付ける。
可愛いな、と仄かに好意を持った女の子が、既に四倍も五倍も歳が離れてそうな怖い鬼顔おっさんの餌食になっていたのだ。いくら冒険者ギルドマスターと言えど、とんでもない悪者だった。
この先冒険者ギルドで依頼を受けれる年齢になる少女達には、決して一人にならないように言い聞かせなくては。
今日だけでかなり上がったバルドに対する子供達の好感度は、今正に急降下でマイナスを振り切っていた。
「そ。嫁ちゃん。って言っても、書類上の期間限定のだけどな~」
「……俺、マリーちゃんなら本物の嫁になると思う」
「それもとんでもない強引さでな……。ギルマス、気をつけてな……」
「……」
いつもはバルドをからかうホビット達も、マリールの事を思い出すと若干同情してしまう。マリールならば、いつか嬉々として謎の新薬でも創り出し、バルドに一服盛りそうだ。惚れ薬とか媚薬とかの怪しい類のものを、もしかしたら既に作ってあるかもしれない。
老齢の魂を持つ幼女は、男達に若干怯えられていた。




