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お薬いかがですか?  作者: ほる
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035. 虫と毒入り



「――え。じゃあ、何? あんな必死になって隠そうとしてた薬は、とっくにゴルデア国でも広まってるって事?」

「ナ ニ ソ レ」

「あんなに長い事、真面目に会議して決めたのにさ~」

「マリール……」

「マリーちゃん……」

「嬢ちゃん……」

「「「……」」」

「すみませんでした! 正直、売らなければ良いものと思っておりました!!」


 呆れの眼差しで針の筵状態なマリールは、誠心誠意、謝罪の土下座を試みた。


 売ったらタグに販売記録として残り、無許可で販売していると捕まるが、売ってないのだから記録には残らない。

 

 それに、ゴルデア国のどの街でも薬の販売許可証が貰えないのは、単にマリールが子供だからだと思っていたのだ。

 だからマリールの「売らなきゃオッケーでしょ?」理論は、バルド達に出会い、凄く効く薬の存在がこの国でばれたらどんなに危険かを懇々と説明されてからは封印して、気軽に薬を配るのは止めていた。


 ちょっとエドナに飲んで貰ったり、山で商人達に使ってしまったが。


 

「……もう! そういう事は先に言ってくれないと!」


 アエラウェが腰に手を当てて、ぷりぷりと頬を膨らませながらマリールを叱り付ける。隠し事をされていたら、守ろうにも守れない。


「うっ……ご、ごめんなさい……」


 実は枯れ葉色に変身するアエラウェが怖くて言い出せなかったのだが、アエラウェの言い分は尤もだ。

 集団で動くなら情報共有は基本である。それを怠るのは大人としてありえない。マリールは子供とはいえ、中身は立派な老齢の魂なのだから。


 マリールは可哀想になるくらい肩を窄めさせて、素直にアエラウェの説教を聴いた。よっぽど反省しているようだ。


 説教されて小さくなっているマリールを哀れに思ったのか、バルドが救いの手を差し伸べる。


「……まあ、薬術士組合から販売許可が貰えないのは変わらんのだから、やる事は変わらんだろ」

「そ、そうですよ! 今までメルクには薬の事を知っている人は居なかったんでしょう? 薬を頂いた人は内緒にしてるかもしれませんよ? ――私の場合は、盗賊から盗まれた分の補填目当てに、まんまと捕まって話してしまいました……が……」


 商人も追いかけフォローをしようと試みる。だが、アエラウェの絶対零度の瞳で見咎められ、みるみる声が萎んでいった。美人に睨まれるのは本当に怖い。


 マリールの超理論にたっぷり呆れてから、エドナは諭すようにマリールに言った。


「――でもねぇ、嬢ちゃん。薬が無料で貰えるって分かったら、悪い人でなくても悪い人になっちゃうかもしれないよ?」

「悪い人に……?」

「そうですよ。うちの旦那様も無理してメルクに入ったのは、盗賊被害の補填だけで無く、あわよくばマリールさんの薬で儲けようと企んでいたからですし」

「なぁんですってぇぇ!?」

「ひぃぃぃぃぃ! ほんの、ほんのちょっと思っただけですうぅぅぅ!!」


 従者による爆弾投下に、アエラウェが射殺さんばかりに商人を睨みつける。この商人は助からなくても良かったのではないかと、ホビット達もエドナとエレンもこっそり思ってしまった。亡くなったもう一人の従者が哀れ過ぎる。


「わたし、とんでもないことを……」


 薬で皆ハッピーになれると思っていたけれど、悪の道に踏み外させてしまうなんて。マリールは自分のしてきた事に自信を無くし、涙目でしょんぼりと俯いてしまった。


「いや、マリーちゃん。悪いのはこの商人みたいに欲出す奴だから」

「元々悪いやつだから」

「そうそう、エリスィア共和国とアルメティス皇国じゃ、こんなやつ居なかったんでしょ? こんな奴らの為にマリーちゃんが気を遣わなきゃならないなんて、本当、理不尽だよね~」


 ホビット達はマリールを慰めるついでに、ザクザクと商人に切り付けて行く。全方位敵だらけのこの状況に、商人は白目を剥いて今にも倒れそうだ。自業自得である。


「――あの、では薬を飴として飲食組合にレシピ登録するのは、予定通りと言うことで、宜しいですか?」


 何だかごちゃごちゃとしてしまったが、結局方針は変わらないとのことで、エレンが再度本題を切り出した。驚きの連発で、エレンは妙に冷静になっているようだった。


「ああ。食堂の件も頼む。それから粉末のスープストックだったか」

「はい。では、書類はこちらになります」


 エレンは手提げ鞄から二種類の書類を取り出し、マリールの座る応接セットのテーブルに広げた。


 書類と言ってもテンプレートのようなもので、鉱石で出来た薄いプレートに必要項目を記入すると、組合所にある記録石にデータを転移記録してくれるという優れ物だ。今回、食堂の開業届け用とレシピ登録用の二種類が持ち出されている。


 マリールはエレンの説明を受けながら、必要箇所に記載していく。レシピは粉のスープストックと粉末スープストック、それに青色の薬でもある草飴だ。


「――黄色と赤色の薬はどうしますか? さっきも言いましたけど、私はもうバレてもいいんじゃないかと思うんです。ただ、黄色い薬の材料はちょっと微妙なの入りというか……。赤色の薬は間違いなく、飲食組合には向いていない材料ですし……」


 全て書き終わると、マリールは顔を上げてエレンに聞いた。確かエレンはハンスという人の為に、黄色い薬を必要としていた筈だ。黄色と赤色の薬も飴として登録しても良いのなら、そうしたい。


 薬の材料が微妙と聞いて、ホビット達がざわめき出した。


「え。赤色のって食べれるものじゃないの?」

「蘇生出来ちゃうくらいだから、やっぱ凄い材料なんじゃね?」

「やめろよー。ここに赤色の薬既に飲んでる人居るんだから、まさか材料が食い物系じゃないなんて、そんなこと」

「「……」」


 赤い薬で命拾いをしている商人と従者は、言われて見れば何を材料にしているのか、気にもしていなかった。

 蘇生出来ると言う事は、やはり不死鳥の肝とか不老魚の砂肝とか、とにかく不老不死の伝説を持つものだろうか。それならば薬の代金は、とてもではないが払えない。

 伝説級の素材は、白金貨を何枚積んだらいいのかも予想出来ない代物だ。


「うーん。赤色の薬は、まあ詳しくは濁しますけど……。お値段が張る不思議生物の肝と、マンドレイクなんかの猛毒を含む薬草が使われています。呼吸興奮、それから中枢神経系に作用する薬草も数種類組み合わせてあるので、薬術士によって無毒化出来ていないと毒飴になっちゃうんです。――あ、私のはちゃんと薬になってるから、大丈夫ですよ?」


 肝は当たっていたが、毒草は想像していなかった。バルド達は揃って顔を青くする。


 低級の青色の薬は雑草ときれいな水だけだったのに、上級の赤色ともなると、途端にハードルが高かった。こうなると、黄色の薬の微妙な材料とは一体どういうものなのかが気になる。


 アエラウェは恐る恐る、マリールに聞いた。


「き、黄色は? 確か中級ポーション用の採取依頼だと、月下草と宿木の枝と、ニョッキリ茸に不休鳥の嘴と……」


 だがアエラウェは、そこまで言いかけて口を閉ざしてしまった。そういえばゴルデア国のポーションは詐欺ポーションだったのだ。参考になる筈も無い。


 マリールはアエラウェが口にした材料名に目を見開いて驚いた。


「うっわ、お高目の材料ばっかり使うんですね~……」

「マリールのは違うのか?」


 バルドが聞くと、マリールはあっさりと材料を説明してくれた。


「はい。私のは、きれいな水に冬虫夏草に、ローズマリーとホーリーバジル、ホーソンとミルクシスル、ケルプにローズヒップ、あとゴトゥコーラとカレンデュラですね。あ、どれもこっちの世界で漏れなく雑草扱いされてます。高いのは冬虫夏草くらいかなぁ」

「良かった、雑草きた! 虫入りだけど!」

「こんなに雑草を待ち望んだ事は無いよな! 虫入りだけど!」

「やっぱマリーちゃんは雑草がないと! 虫入りだけど!」

「いや、雑草雑草、虫入りって連呼しないでくださいよ……。ちゃんとした薬草なんですってば」


 薬として使われる『冬虫夏草』は、フユムシナツクサタケの子実体とその寄主である昆虫の幼虫を乾燥したものである。


 動植物全般に寄生する茸は薬の材料として存在していたのだが、マリールはこの世界でも同じ効能を持つ寄生茸だけを使用している。


 だが、そんなものの存在を知らないホビット達には、名前にある『虫』だけが印象付いたようだ。虫はともかく、黄色い薬が安定の雑草薬で、一同揃ってほっと胸を撫で下ろす。


 だが、アエラウェだけは嫌そうに顔を顰めてしまった。


「虫もちょっと、嫌よねぇ……」


 元は森で生活するエルフなのに、どうやら虫がお嫌いらしい。すっかり人間国に毒されて、都会っ子みたいになっていた。


 エレンが嬉しそうに声を上げる。


「ハンスさんならイケルと思います!」

「あいつなら虫も平気で食うね。ていうか食ってたね」

「虫炒りか……酒のつまみに食ってたな」

「え、虫も食用に扱ってるんですか? どうします? 飲食組合的にいけます?」

「「「「「「「やめよう」」」」」」」

「ですよね~」


 虫も食べると言っていたのに、飲食組合にレシピ登録は駄目らしい。


 取り合えず、今回は青色の薬だけを草飴として登録するようだ。ハンスは虫もイケルらしいので、エレンとエドナの為にも是非飲ませてあげたいと、マリールは思った。


「――私達、虫入りも飲んだんですね……」

「言うな……」


 赤色の薬も黄色の薬も飲んでいる商人と従者の二人は、そう力無く呟くと、なんとも複雑な表情で沈黙するのであった。

読んでくださりありがとうございます。

それとブクマが増えてました……! ありがとう。 好き。

また読みに来ていただける様に頑張ります。



【改稿箇所について】


『冬虫夏草』は茸だよ、とご指摘を受けました。いつもありがとうございます。


寄生した虫ごと食べるので、説明文を足しました。

すごく…説明臭いです。



それと「茸」なんですが、総じて薬草と呼ばせて頂きます。

フユムシナツクサタケの他にも、セミタケ、ノムシタケ、サナギタケ、ハナサナギタケ等あるのですが、ポピュラーなフユムシナツクサタケだけを作中に出しました。

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