025. 干し肉を狩に
「――んじゃ、動きますかね。此処での開業届けも草入り飴と粉末スープのレシピ登録も、夜には書類と一緒に今の組合長連れてくるんで。そのつもりで居てください」
「ええ、お願いするわね」
「宜しく頼む」
「宜しくお願いします!」
「「「よろふぃくー」」」
エドナは早速自分の役割を果たすべく、活き活きと冒険者ギルドを出て行った。現役時代を思い出しているのか、どこか愉し気にして。
マリール達も冷めてしまった朝食で腹を満たし、それから肉屋に依頼を受けたピピ角牛狩へと直ぐに出掛ける事にした。
午前中に商業ギルドへ行って飲食組合で開業届けとレシピ登録する予定が、エドナの苦情訪問に拠って行かずに済んでしまったからだ。
商業ギルド側に行かずに済んで、マリールは正直ほっとしていた。
またうっかりあの、ぽよんでたゆんな美女に遭遇したら堪らない。嫉妬の炎でバルドの雄っぱいをぽよんぽよんしてしまうかもしれない。リラックス時の筋肉は柔らかいというのは本当なのか確かめてしまうかもしれない。というか確かめたい。
嫉妬と煩悩に悶々としながら、マリールは昼のお弁当を人数分作る。
余ったパンに切れ目を入れて、牛の乳脂に塩を混ぜたバターを塗り、間に水気をきちんと拭いた葉野菜とトマトの厚切り、それにまた焼いた腸詰肉を挟むと言うシンプルなものだが、これなら肉しか食べたがらない男達に野菜も一緒に食べさせる事が出来る。
それから酒の入っていた空瓶を六本貰い良く洗ってから、中にアエラウェ印の水、それから果物を輪切りにしたもの、そしてまたもや良く洗った草をいくつも詰めた。それに蜂蜜をたっぷりと塩をほんの少し入れて、良く振り混ぜる。
新たな草の登場に、ホビット達が揃って「うへぇ」と顔を顰めた。
「まーた違う雑草出て来た……」
「まじだ」
「雑草美味しいの?」
「いや、道に生えてる雑草てんぷらにして食べてる人みたいに言わないでくださいよ……。これこっちの世界だと雑草扱いされてるんですけど、ちゃんと薬草ですよ? こちらの世界では名前が付いてないから元の世界の名前で呼んじゃってますけど、今入れたのはレモングラス・アップルミント・ベルベーヌ・レモンバームです。酸っぱい果物はビタミンCが沢山入ってるから、これから運動して疲れた体にも良いし、美容にも良いでんす! デトックスウォーターって言うんですよ」
「――美容ですって!?」
マリールが雑草の説明をすれば、美容に良いと言った途端にアエラウェが食いついた。
その勢いにマリールは笑いながら、人数分のデトックスウォーターを作る。
「アエラウェさんにも、ちゃんと作りましたから。お仕事の合間に飲んでくださいね?」
出掛ける五人分は纏めて籠に入れて、マリールの背負い鞄の時間停止ポケットに。一人分は果物の大きな葉で包んで、薬草入りのデトックスウォーターと共にアエラウェに渡す。
アエラウェは他の依頼管理業務があるので留守番だ。依頼も受ける冒険者も少ないので、アエラウェだけで事足りるらしい。
もういっそのこと、冒険者ギルド長はアエラウェで良いのではないかとマリールは思ってしまったが、それを言うと旦那様なバルドが悲しそうな顔をするのが目に見えて想像出来るので言わないでおいた。
気遣いが出来る女。流石老齢の魂を持つ幼女である。
「それと、薬なんですが。念の為に皆さんにも持っていて貰っても良いですか? 旦那様も居るから大丈夫だとは思うんですけど、私、割とすぐ死にかけるんで……」
「くれるの!?」
「やったー!」
「スゲー薬ゲットだぜ!!」
「おまえら……マリールの緊急時用だ。使うなよ」
「いや、使っても良いんですけど、私の分も念の為に取って置いてくださいね?」
小瓶はバルドの太い人差し指程度の大きさで、それに、それぞれの色の薬を詰め替えて行く。一瓶に小さな薬が青六つ・黄二つ・赤二つの、合計十粒が丁度収まった。
軟木で作った栓でしっかりと蓋をしてから、皆に配る。アエラウェにも一応持っておいてくれと渡してから、マリールは自分の分も肩に掛けたポシェット型の拡張鞄に仕舞った。
ちなみのこの拡張鞄はカモフラージュの為に買って貰ったもので、あまり物が入らない。すぐ使う物だけこの鞄に入れ、取り出して使っている。
肩紐を腰に巻きつけてベルトポーチとしても使う事も出来る、便利な2wey仕様だ。
マリールの中身空っぽの背負い鞄はバルドの腰ベルトに引っ掛けて、ヒップバッグのように後ろに回した。これでいざと言う時には、直ぐにマリールを鞄へ逃がす事が出来るだろう。
「――よし。それじゃ夜までには帰るぞ」
「「「おー!」」」
「マリーちゃん、くれぐれも気をつけて。危なかったら直ぐに逃げるのよ?」
「はい! お土産に美容に良いのがあれば採って来ますね!」
「っんまぁぁぁぁ! 何ていい子!!」
感動したアエラウェがマリールを抱き締めようとがぶり寄れば、出掛ける前からダメージを与えられては堪らないと、賺さずバルドがマリールを抱き上げる。
抱き締め損ねて頬を膨らませるアエラウェを置いて、バルド達はピピ角牛が生息している山へと、その足を動かし始めた。
ピピ角牛は岩肌が多い険しい山頂部に生息しているが、水飲み場が丁度山の中腹辺りにある。そこで待ち構えるつもりだ。
「いってきまーす!」
バルドの肩越しに、マリールがぶんぶんと手を振っている。
姿が見えなくなるまで何度も手を振るマリールに、アエラウェも手を振り返し続けた。
マリール達が見えなくなってから、アエラウェは振り続けていた手をそっと下すと、そのまま頬に手を当て呟く。
「――許可出しちゃったけど、なんだか凄く心配だわ……。子供用の抱っこ紐とか、着けさせた方が良かったんじゃないかしら……?」
アエラウェの心配は的中することになるのだった。




