# 第十五話(最終章) ## 「また会いましたね、人生の続きで」
# 第十五話(最終章)
## 「また会いましたね、人生の続きで」
夏が近い。
あの春から、少し時間が流れていた。
雨宮悠人の生活は、劇的には変わっていない。
朝は現場へ行く。
汗をかく。
怒鳴られることもある。
帰りにコンビニに寄る。
それでも——
帰る場所だけが、変わっていた。
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アパートの鍵を開ける。
「おかえりなさい」
白石雫の声。
それだけで、一日の重さが少し軽くなる。
「ただいま」
そのやり取りが、
もう当たり前になっていた。
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テーブルには夕飯。
派手じゃない。
でもちゃんと温かい。
白石が言う。
「今日、鬼塚さんどうでした?」
「相変わらずです」
「ですよね」
二人で笑う。
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テレビではニュースが流れている。
誰かの成功。
誰かの失敗。
誰かの結婚。
昔なら、少し焦った。
今はただ、BGMみたいに流れていく。
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白石がぽつりと言う。
「ねぇ、悠人さん」
「はい」
「結婚しても、あんまり変わらないですね」
悠人は少し笑う。
「ですね」
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少し沈黙。
でもそれは、
気まずさじゃない。
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白石は続ける。
「でも」
「はい」
「変わらないのに、
前よりずっといいです」
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悠人は箸を止める。
その言葉は、
うまく返せなかった。
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夜。
ベランダ。
二人で並んで外を見る。
夏の匂いがする。
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白石が小さく言う。
「雨宮さん」
「はい」
「私たちってさ」
「はい」
少し間。
白石は笑う。
「まだ“また会いましたね”って感じしますよね」
悠人も笑う。
「もう毎日会ってるのに?」
「それでもです」
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悠人は少し空を見る。
星は見えない。
でも悪くない夜だった。
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「たぶん」
悠人は言う。
「“また会いましたね”って、
出会いの言葉じゃなくなったんだと思います」
白石は少しだけ振り向く。
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悠人は続ける。
「一緒にいるのが当たり前になっても、
ちゃんと嬉しいままっていうか」
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白石は少し笑って、
目を細める。
「それ、いいですね」
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風が吹く。
カーテンが揺れる。
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白石が小さく言う。
「じゃあ」
「はい」
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「また明日も、
会いましたねって言いましょうか」
悠人は笑う。
「いいですね、それ」
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そして二人は、
当たり前みたいに並んで立っていた。
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特別な奇跡は起きない。
人生は急に変わらない。
でも。
誰かと一緒に生きることは、
それだけで十分だった。
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白石雫は言う。
「また会いましたね、悠人さん」
悠人は答える。
「また会いましたね、雫さん」
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それはもう恋の始まりではなく、
“続いていく日常”の言葉だった。




