# 第十四話 ## 「プロポーズ未満」
# 第十四話
## 「プロポーズ未満」
春。
桜はまだ咲ききっていない。
でも空気は少しだけ柔らかくなっていた。
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雨宮悠人は、
工事現場の帰り道にいた。
制服のまま。
ヘルメットを手に持っている。
コンビニ袋。
中身はいつもの安い弁当。
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でも今日は違う。
ポケットの中に、
小さな箱が入っている。
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指輪じゃない。
まだそこまで覚悟は固まっていない。
でも。
“その次くらいの気持ち”はあった。
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スマホが鳴る。
白石雫。
【今どこですか?】
悠人は少し笑う。
【駅の近くです】
すぐ返信。
【じゃあ、いつものとこ行きます?】
悠人は歩き出す。
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いつものカフェ。
窓際の席。
白石は先に座っていた。
「お疲れ様です」
「お疲れ様です」
もう挨拶は簡単だった。
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白石が悠人を見る。
「今日、なんか顔違いますね」
「そうですか?」
「なんか決めてきた顔」
悠人はむせる。
「怖いこと言わないでください」
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沈黙。
コーヒーの湯気。
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白石が言う。
「悠人さん」
「はい」
「何かありました?」
悠人は少しだけ視線を落とす。
ポケットの箱。
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「あります」
白石の動きが止まる。
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悠人は続ける。
「でも、
ちゃんとしたやつじゃないかもしれないです」
白石は黙って聞いている。
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悠人は少し笑う。
「俺、ずっとさ」
「はい」
「結婚したら人生変わるって思ってたんですよ」
白石は小さく頷く。
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「でも違いましたね」
「うん」
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悠人は箱をテーブルに置く。
でもまだ開けない。
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「結婚したいから一緒にいるんじゃなくて」
少し間。
「一緒にいたいから、
結婚とか考えるようになったっていうか」
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白石は何も言わない。
でも目が少し潤む。
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悠人は続ける。
「白石さんといると、
ちゃんとしてなくてもいい気がするんです」
「それでいいって思えるの、
たぶん初めてで」
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少し笑う。
「だから」
深呼吸。
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「結婚してください、じゃなくて」
悠人は箱を開ける。
小さなリング。
派手じゃない。
安い。
でも選んだ。
ちゃんと。
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「これからも、
一緒にいてください」
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白石は一瞬固まる。
それから、
ゆっくり笑った。
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「それ、プロポーズよりずるいですね」
涙が落ちる。
でも笑っている。
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「はい」
白石はうなずく。
「お願いします」
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店の外。
春の風。
少しだけ暖かい。
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白石が小さく言う。
「ねぇ、悠人さん」
「はい」
「また会いましたね」
悠人は笑う。
「もう毎日会ってますけどね」
白石も笑う。
「それでもです」
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二人は並んで歩く。
“また会いましたね”はもう、
出会いの言葉じゃなかった。
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それはもう、
人生そのものになっていた。




