表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

# 第十四話 ## 「プロポーズ未満」

# 第十四話


## 「プロポーズ未満」


春。


桜はまだ咲ききっていない。


でも空気は少しだけ柔らかくなっていた。


---


雨宮悠人は、

工事現場の帰り道にいた。


制服のまま。


ヘルメットを手に持っている。


コンビニ袋。


中身はいつもの安い弁当。


---


でも今日は違う。


ポケットの中に、

小さな箱が入っている。


---


指輪じゃない。


まだそこまで覚悟は固まっていない。


でも。


“その次くらいの気持ち”はあった。


---


スマホが鳴る。


白石雫。


【今どこですか?】


悠人は少し笑う。


【駅の近くです】


すぐ返信。


【じゃあ、いつものとこ行きます?】


悠人は歩き出す。


---


いつものカフェ。


窓際の席。


白石は先に座っていた。


「お疲れ様です」


「お疲れ様です」


もう挨拶は簡単だった。


---


白石が悠人を見る。


「今日、なんか顔違いますね」


「そうですか?」


「なんか決めてきた顔」


悠人はむせる。


「怖いこと言わないでください」


---


沈黙。


コーヒーの湯気。


---


白石が言う。


「悠人さん」


「はい」


「何かありました?」


悠人は少しだけ視線を落とす。


ポケットの箱。


---


「あります」


白石の動きが止まる。


---


悠人は続ける。


「でも、

ちゃんとしたやつじゃないかもしれないです」


白石は黙って聞いている。


---


悠人は少し笑う。


「俺、ずっとさ」


「はい」


「結婚したら人生変わるって思ってたんですよ」


白石は小さく頷く。


---


「でも違いましたね」


「うん」


---


悠人は箱をテーブルに置く。


でもまだ開けない。


---


「結婚したいから一緒にいるんじゃなくて」


少し間。


「一緒にいたいから、

結婚とか考えるようになったっていうか」


---


白石は何も言わない。


でも目が少し潤む。


---


悠人は続ける。


「白石さんといると、

ちゃんとしてなくてもいい気がするんです」


「それでいいって思えるの、

たぶん初めてで」


---


少し笑う。


「だから」


深呼吸。


---


「結婚してください、じゃなくて」


悠人は箱を開ける。


小さなリング。


派手じゃない。


安い。


でも選んだ。


ちゃんと。


---


「これからも、

一緒にいてください」


---


白石は一瞬固まる。


それから、


ゆっくり笑った。


---


「それ、プロポーズよりずるいですね」


涙が落ちる。


でも笑っている。


---


「はい」


白石はうなずく。


「お願いします」


---


店の外。


春の風。


少しだけ暖かい。


---


白石が小さく言う。


「ねぇ、悠人さん」


「はい」


「また会いましたね」


悠人は笑う。


「もう毎日会ってますけどね」


白石も笑う。


「それでもです」


---


二人は並んで歩く。


“また会いましたね”はもう、

出会いの言葉じゃなかった。


---


それはもう、

人生そのものになっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ