# 第十六話(エピローグ) ## 「また会いましたねの、その先で
# 第十六話
## 「また会いましたねの、その先で」
それから、さらに時間が流れた。
季節は一度ではなく、何度か巡った。
春が来て、夏が来て、秋が来て、また冬が来た。
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雨宮悠人は、まだ工事現場で働いている。
鬼塚は相変わらず怒鳴るし、坂本は相変わらず適当だ。
世界は、基本的に変わらない。
ただ一つだけ違うのは——
「いってきます」
「いってらっしゃい」
このやり取りがあることだった。
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白石雫は、家にいた。
以前より少しだけ笑うことが増えた。
前より少しだけ、無理をしなくなった。
料理をしながら、ふと思う。
“ちゃんとした人生”って何だったんだろう、と。
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夜。
二人はスーパーの帰り道に並んで歩いていた。
レジ袋がカサカサ鳴る。
特別な会話はない。
でも沈黙は怖くない。
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白石が言う。
「ねぇ、悠人さん」
「はい」
「今日さ」
「うん」
「卵、安かったですね」
悠人は笑う。
「それ、幸せの話ですか?」
「たぶんそうです」
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少しだけ風が吹く。
コンビニの明かり。
自転車の音。
誰かの笑い声。
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悠人はふと思う。
昔の自分は、
「人生を変えたい」とずっと思っていた。
婚活に行って、
誰かに選ばれて、
何か劇的なことが起きると思っていた。
でも本当は違った。
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白石が隣で言う。
「悠人さん」
「はい」
「私たちってさ」
「うん」
少し間。
白石は笑う。
「まだ“また会いましたね”って言ってますよね」
悠人は少し考えてから答える。
「言ってますね」
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でもそれはもう、
出会いの言葉じゃない。
確認の言葉でもない。
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「今日もここにいるね」
「今日も一緒にいるね」
それだけの意味になっていた。
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白石が小さく笑う。
「じゃあさ」
「うん」
「一生、また会い続けますか」
悠人は少しだけ間を置いて、
笑った。
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「もう、そうなってますよ」
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夜風が通り過ぎる。
二人は歩き続ける。
特別じゃない道。
特別じゃない会話。
でも——
特別じゃないことを、
特別だと思えるようになっていた。
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白石雫が言う。
「また会いましたね、悠人さん」
雨宮悠人が返す。
「また会いましたね、雫さん」
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そして二人は笑う。
それが、この物語の終わりであり、
ずっと続いていく日常の始まりだった。




