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# 第十一話 ## 「ちゃんとした関係」

# 第十一話


## 「ちゃんとした関係」


それから数日後。


婚活パーティーの受付から、

雨宮悠人の名前は消えていた。


理由はシンプルだった。


もう、行く必要がなくなったからだ。


---


とはいえ。


人生が劇的に変わったわけじゃない。


朝は現場へ行くし、

鬼塚は相変わらず怒鳴る。


坂本は相変わらず軽口を叩く。


世界は、普通のまま動いている。


ただ一つだけ違うのは——


帰り道に“誰かに連絡したい”と思うことだった。


---


夜。


スマホが鳴る。


白石雫。


【今日、少し早く終わりました】


悠人は笑う。


【じゃあいつものとこ行きます?】


すぐに返信。


【はい】


---


「いつものとこ」


それは、

特別な場所じゃない。


駅前の小さなカフェ。


婚活会場でもない。

高級レストランでもない。


ただのカフェ。


でも二人にとっては、

少しだけ特別だった。


---


カフェ。


白石がカップを持ちながら言う。


「こういうの、

付き合ってるって言うんですかね」


悠人はむせる。


「急に言いますね」


「気になって」


「いや……でもまだ……」


言葉が止まる。


“付き合う”って何だ。


ちゃんと告白してない。


手も繋いでない。


でも。


一緒にいるのは、当たり前になっていた。


---


白石は少し笑う。


「曖昧ですね」


「ですね」


沈黙。


でも嫌じゃない沈黙。


---


悠人は少し考えてから言う。


「白石さん」


「はい」


「俺たちさ」


「はい」


「ちゃんとした関係じゃないですか」


白石が少し首を傾げる。


「ちゃんとした関係?」


悠人は続ける。


「よく分からないけど、

無理してないし、

気まずくもないし、

一緒にいて楽だし」


白石は少し黙る。


---


そして、小さく笑った。


「それ、十分じゃないですか」


悠人も笑う。


「ですよね」


---


外は夜。


人が行き交う。


でも二人の時間は、

少しだけゆっくりだった。


---


白石がぽつりと言う。


「雨宮さん」


「はい」


「私ね、

前はずっと“条件”で人見てたんです」


悠人は黙って聞く。


「でも今は、

一緒にいて疲れない人のほうが大事かもって思ってます」


---


悠人は少しだけ笑う。


「俺、条件ひとつも満たしてないですよ」


「知ってます」


即答だった。


白石は続ける。


「でもそれでいいです」


---


沈黙。


少しだけ風が吹く。


---


白石は少しだけ視線を逸らして言う。


「じゃあさ」


「はい」


「これってもう、付き合ってるでいいんじゃないですか」


悠人は固まる。


「え」


白石は少し赤くなる。


「違うんですか?」


悠人は笑ってしまった。


「いや……俺もよく分かってなかっただけで」


少し間。


そして、言う。


「……じゃあ、そういうことで」


白石は小さく頷く。


「はい」


---


外に出る。


夜風。


二人並んで歩く。


もう“婚活会場”はない。


でも“また会いましたね”は、

まだ続いている気がした。


---


白石がふと笑う。


「雨宮さん」


「はい」


「これからも言いますね」


「何を?」


白石は少しだけいたずらっぽく笑う。


「また会いましたね」


悠人も笑う。


「それ、もう日常すぎますね」


---


そして二人は歩き出す。


特別じゃない夜道。


でも、

少しだけ特別な関係として。


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