# 第十話 ## 「また会いましたね」
# 第十話
## 「また会いましたね」
雨は上がっていた。
翌朝の空は、やけに澄んでいた。
まるで何もなかったみたいに。
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雨宮悠人は、
工事現場の朝礼に立っていた。
鬼塚の声が飛ぶ。
「気合入れろよお前ら!」
いつも通りの朝。
でも、昨日の夜だけが、
少し違って見える。
白石雫の部屋。
タオルの匂い。
雨音。
「安心します」
その言葉がまだ残っていた。
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昼休み。
坂本が弁当を食べながら言う。
「お前さぁ」
「はい」
「なんか最近、
人生楽しそうだよな」
「そんなことないですよ」
即答したのに、
少しだけ否定しきれない。
坂本がニヤつく。
「女だろ」
「違います」
「絶対そうだろ」
うるさい。
でも、
悪い気はしない。
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その夜。
悠人は婚活パーティー会場の前に立っていた。
来てしまった。
理由は分からない。
ただ足が動いた。
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受付。
いつものスタッフ。
「雨宮さん、
今日もありがとうございます」
「いやもう店員みたいになってますよね俺」
「常連様ですので」
やめてほしい。
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会場に入る。
その瞬間だった。
視線が止まる。
「あ」
そこにいた。
白石雫。
目が合う。
二人、同時に固まる。
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数秒。
沈黙。
それから白石が、
小さく笑った。
「……また会いましたね、雨宮さん」
悠人も笑う。
「ですね」
でも今日は、
いつもと違った。
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席につく。
白石が小声で言う。
「来ると思ってました?」
「いや……正直迷ってました」
「私もです」
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少し間。
会場はいつも通り騒がしい。
でも二人の間だけ、
静かだった。
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白石が言う。
「雨宮さん」
「はい」
「私ね」
少しだけ間。
「婚活、やめようと思ってます」
悠人は驚く。
「え」
白石は続ける。
「もういいかなって」
「いいって……」
白石は少し笑う。
「ちゃんと誰か探すの、
疲れちゃって」
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悠人は言葉が出ない。
同じ気持ちだったから。
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白石が続ける。
「雨宮さんは?」
悠人は少し笑う。
「俺も……今日で最後にしようかなって思ってました」
白石は少し目を丸くする。
「奇遇ですね」
「奇遇ですね」
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ベルが鳴る。
マッチングタイム。
でも二人は動かなかった。
周りは連絡先交換で騒がしい。
でも二人だけ、
椅子に座ったままだった。
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白石が言う。
「なんか変ですね」
「何がです?」
「婚活で会ったのに、
婚活やめる話してるの」
悠人は笑う。
「終わり方としては最悪ですね」
「でもちょっといいかも」
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スタッフが言う。
「マッチング成立の方は——」
その声を遮るように、
白石が立ち上がる。
悠人も立つ。
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会場の外。
夜。
風が少し冷たい。
二人並ぶ。
白石が言う。
「じゃあ」
「はい」
少し間。
白石は笑う。
「婚活じゃない場所で、
また会いましょう」
悠人も笑う。
「それ、もう言わなくてもいい気がします」
「なんでです?」
悠人は少し照れながら言う。
「もう“また会う”前提な気がするので」
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白石は少しだけ驚いて、
それから笑った。
「……ずるいですね、それ」
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雨はもう降っていない。
でも二人の距離は、
もう戻らなかった。
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そして、いつものように。
白石は言った。
「また会いましたね、雨宮さん」
今度は少しだけ、
違う意味だった。




