第40話「世界一――十八人で掴んだ日の丸の頂点」
第40話「世界一――十八人で掴んだ日の丸の頂点」
ついに迎える――U-18日本代表、世界一を懸けた決勝戦。
五十人の候補選手から選ばれた十八人。
高橋肇。
前薗晃大。
白峰蓮司。
崇道君彦。
神城颯真。
橘川玲央。
そして全国各地から集まった仲間たち。
甲子園では別々の高校を背負い、時には倒さなければならない相手として戦った選手たちが、今では同じ「JAPAN」のユニフォームを着ています。
目指すものはただ一つ――世界一。
そして決勝戦。
先発マウンドを任されたのは、私立富山第二高等学校の高橋肇。
捕手は、甲子園全国制覇をともに成し遂げた前薗晃大。
富山第二バッテリーが、今度は日の丸を背負って世界の頂点へ挑みます。
しかし今回、肇が大きな存在感を見せるのは投手としてだけではありません。
四番打者・高橋肇。
第一打席。
一死一、二塁。
世界大会の決勝という大舞台で放った打球は――左中間スタンドへ。
先制の3ラン本塁打。
さらに第四打席。
今度は相手の最速155km級右腕と九球にわたる勝負。
そして最後に甘く入った154kmを捉え――二本目の本塁打。
この決勝戦で本塁打を記録した日本人選手は、高橋肇ただ一人。
しかも、その唯一の選手が二本を放つことになります。
一方、投手としても六回二失点。
前薗との配球で、ストレートだけに頼らず、カーブ、スライダー、シュートを駆使。
甲子園で見せた160kmだけではなく、世界大会を通して身につけた「勝つための投球」で強打者たちへ挑みます。
そして最後のアウト。
世界一が決まる瞬間に、ボールをつかむのは誰なのか。
十八人。
代表スタッフ。
一条昴監督。
そして代表候補に選ばれながら、最後の十八人には入れなかった三十二人。
すべての思いを背負った決勝戦です。
さらに夜には、第36話から毎話続いてきた千鶴とのテレビ電話も。
「全国一の次は世界一、本当に叶えましたね」
その言葉に対して、肇が返すのは――。
「次の夢も叶える」
甲子園全国制覇。
U-18世界一。
そして、そのさらに先へ。
高橋肇の高校野球人生における、大きな節目となる第40話です。
決勝戦の朝。
高橋肇は、目覚まし時計が鳴るよりも少し早く目を覚ました。
天井を見つめたまま、しばらく動かなかった。
今日で決まる。
勝てば――世界一。
甲子園で全国制覇を成し遂げた夏。
そこから間を置かず、五十人のU-18日本代表候補が集められた。
そこから選ばれたのは十八人。
高橋肇。
前薗晃大。
白峰蓮司。
崇道君彦。
神城颯真。
橘川玲央。
水城拓真。
成田蓮。
甲斐悠成。
成瀬迅。
桐谷蒼生。
北条悠真。
大河内蓮。
瀬戸蒼空。
比嘉龍之介。
名古屋悠成。
飛騨悠人。
駿河大和。
学校も違う。
地方も違う。
甲子園では敵だった選手もいる。
それが今では――。
同じ「JAPAN」のユニフォームを着ている。
「……十八人で勝つ」
肇はベッドから立ち上がった。
右肩を回す。
痛みはない。
身体も軽い。
昨日は六回一失点。
最高球速154km。
160kmを一球も投げなかったにもかかわらず、世界の強豪打線を抑えることができた。
球速だけではない。
スライダー。
カーブ。
シュート。
緩急。
配球。
そして前薗との呼吸。
世界大会を通じて、投手として一段階成長できた感覚があった。
ただし今日は。
投手・高橋肇だけではない。
打者・高橋肇としても――。
世界一を掴みに行く。
◇◇◇
朝食会場。
十八人が集まっていた。
普段より会話が少ない。
決勝。
誰もが意識していた。
そこへ肇が座る。
前薗が隣を見る。
「眠れた?」
「普通に」
「緊張は?」
「ある」
白峰が向かいから笑う。
「高橋でも緊張するんだ」
「するって!」
君彦。
「甲子園決勝の時、楽しそうだったぞ」
「あの時も緊張してた」
玲央。
「今日は?」
肇は少し考える。
「楽しみの方が大きい」
神城。
「やっぱりな」
全員が笑った。
肇が十八人を見回す。
「なあ」
「何?」
「今日勝ったら、本当に世界一なんだよな」
白峰。
「当たり前だろ」
「全国一の次が世界一って……」
前薗が言う。
「まだ取ってない」
肇は笑った。
「そうだった」
そして。
「じゃあ取ろう」
誰かが返事をするより早く。
君彦。
「取る」
白峰。
「もちろん」
玲央。
「ここまで来て準優勝で帰るつもりないから」
神城。
「十八人で勝とうぜ」
前薗。
「おう」
十八人の気持ちが、一つになっていった。
◇◇◇
試合前ミーティング。
スタッフが決勝の対戦相手を分析する。
今大会でも圧倒的な攻撃力を誇るチーム。
一番から九番まで切れ目がない。
特に三番、四番、五番。
三人とも長打力がある。
さらに守備力も高い。
投手陣も三人の好投手を揃えていた。
先発予定の右腕は最速154km。
二番手は技巧派左腕。
そして抑えには155kmを記録する大型右腕。
スタッフ。
「簡単な試合にはなりません」
全員が頷く。
「日本の先発は――」
一瞬。
静かになる。
「高橋肇」
「はい!」
肇が立ち上がった。
「捕手、前薗晃大」
「はい!」
富山第二バッテリー。
甲子園を制した二人が。
世界一を懸ける決勝でも先発する。
一条昴監督が肇を見る。
「高橋」
「はい」
「昨日のことは覚えているな?」
「もちろんです」
「160kmはいらない」
肇は笑った。
「分かっています」
前薗。
「俺も見張ります」
「だから今日は分かってるって!」
十八人から笑い声。
緊張が少しだけ解けた。
一条監督は続ける。
「それから今日は四番としても出る」
「はい」
「投げて、打って、全部自分で決めようとするな」
肇は少し黙った。
「十八人で勝つんだろ?」
「はい」
「なら仲間を信じろ」
肇は力強く答えた。
「はい!」
◇◇◇
決勝戦。
球場には大観衆。
日本からも多くのファンが応援に訪れている。
テレビ中継も始まった。
日本では。
富山第二の生徒たち。
野球部員たち。
マネージャーたち。
真悠。
眞衣。
父親。
由紀子。
そして――東雲千鶴。
多くの人々が画面の向こうの十八人を見守っていた。
選手紹介。
そして。
「四番、ピッチャー、高橋」
大歓声。
肇はグラウンドへ向かう。
「行こう、前薗」
「おう」
◇◇◇
一回表。
日本の攻撃。
一番・飛騨悠人。
初球。
152km。
ストライク。
二球目。
変化球。
ファウル。
三球目。
外角。
カキンッ!
ショートゴロ。
一アウト。
二番。
瀬戸蒼空。
粘る。
七球目。
四球。
一死一塁。
三番。
橘川玲央。
初球。
153km。
ファウル。
二球目。
スライダー。
ボール。
三球目。
152km。
カキンッ!
センター前!
一死一、二塁。
そして――。
一打席目。
四番。
高橋肇。
球場の空気が変わった。
「肇!」
「行け!」
日本ベンチから声。
肇は打席へ。
相手投手を見る。
初球。
153km。
外角。
ストライク。
「速い」
二球目。
スライダー。
外。
ボール。
三球目。
154km。
内角。
肇が振る。
ファウル!
1ボール2ストライク。
追い込まれた。
前薗がベンチから見つめる。
白峰。
「速球来るか?」
君彦。
「いや、変化球じゃないか」
四球目。
チェンジアップ。
低め。
肇は止めた。
ボール。
2ボール2ストライク。
五球目。
スライダー。
外。
ボール。
フルカウント。
そして六球目。
153km。
真ん中から少し内側。
肇の目が変わった。
踏み込む。
振り抜く。
カキィィィィィン――!!
乾いた音が球場全体へ響いた。
打球は。
高い。
左中間。
外野手二人が追う。
しかし。
その頭上を越えた。
さらに伸びる。
伸びる。
そして――。
スタンドへ。
「入ったぁぁぁぁぁ!」
スリーランホームラン。
日本。
3対0。
肇は一塁を回る。
拳を強く握る。
「よっしゃあああああ!!」
日本ベンチ総立ち。
前薗。
「肇ぉぉぉ!」
白峰。
「本当に打ちやがった!」
君彦。
「決勝だぞ!」
玲央は肇より先にホームへ戻り、待っていた。
瀬戸も。
そして肇。
ホームイン。
三人が次々と仲間に迎えられる。
この決勝戦。
日本人選手で本塁打を放ったのは――。
この時点で。
高橋肇ただ一人だった。
◇◇◇
一回裏。
今度は。
投手・高橋肇。
前薗がマスクを被る。
初球。
151km。
ストライク。
二球目。
カーブ。
空振り。
三球目。
スライダー。
空振り三振!
「よし!」
一アウト。
二番。
シュートで詰まらせる。
セカンドゴロ。
二アウト。
三番。
152km。
ファウル。
カーブ。
ボール。
スライダー。
ファウル。
最後。
外角低め。
153km。
見逃し三振。
三者凡退。
肇は静かにマウンドを降りる。
前薗。
「完璧」
「まだ一回」
「分かってるじゃん」
「今日は冷静だよ」
「ホームラン打った直後なのに?」
「それとこれとは別」
◇◇◇
三回。
日本3対0。
だが相手も決勝まで勝ち上がった強豪。
簡単には終わらない。
先頭打者。
ライト前。
次打者。
送りバント。
一死二塁。
一番打者。
肇の150km。
センター前。
一死一、三塁。
前薗がマウンドへ。
「ここ大事」
「分かってる」
「三点あると思うな」
「0対0だと思って投げる」
「それでいい」
二番。
初球。
シュート。
ファウル。
二球目。
カーブ。
空振り。
三球目。
スライダー。
打った。
ショートゴロ。
二塁。
一塁。
しかし一塁はセーフ。
三塁走者が生還。
3対1。
二死一塁。
三番。
カキィン!
左中間二塁打。
一塁走者が一気に三塁へ。
二死二、三塁。
そして四番。
球場が大きく沸く。
前薗。
「肇」
「うん」
「楽しむなよ」
「分かってる」
初球。
119kmカーブ。
ストライク。
二球目。
152km。
ファウル。
三球目。
シュート。
ボール。
四球目。
スライダー。
ファウル。
五球目。
カーブ。
ボール。
2ボール2ストライク。
六球目。
153km。
ファウル。
粘る。
七球目。
スライダー。
またファウル。
肇が息を整える。
そして。
八球目。
前薗のサイン。
肇が頷く。
シュート。
内角。
打者が振る。
詰まった。
セカンドフライ!
アウト!
チェンジ!
肇は大きく息を吐いた。
「危なかった……」
前薗。
「ナイス」
一点だけ。
3対1。
◇◇◇
肇の二打席目。
三回表。
一死走者なし。
相手は警戒していた。
初球。
ボール。
二球目。
ボール。
三球目。
外角。
ストライク。
四球目。
ボール。
3ボール1ストライク。
五球目。
外角。
肇は打つ。
カキンッ!
右前打。
「よし!」
ホームランではない。
だが確実に出塁。
続く水城拓真が送り。
名古屋悠成がタイムリー。
肇がホームへ。
4対1。
◇◇◇
五回。
相手が再び反撃。
四番。
二塁打。
五番。
タイムリーヒット。
4対2。
六番。
四球。
無死一、二塁。
肇の球数も増えていた。
一条監督がベンチから見つめる。
前薗がマウンドへ。
「肇」
「まだ行ける」
「それは知ってる」
「抑える」
「じゃあ、一個ずつ」
「うん」
七番。
カーブ。
ショートゴロ。
ダブルプレー!
二死三塁。
八番。
スライダー。
空振り三振。
最少失点。
4対2。
肇が吠える。
「よし!」
◇◇◇
六回表。
肇の三打席目。
相手は二番手左腕へ交代。
技巧派。
初球。
チェンジアップ。
ストライク。
二球目。
外角スライダー。
ファウル。
三球目。
ボール。
四球目。
ボール。
五球目。
外角低め。
肇が逆方向へ。
カキンッ!
ライト前。
この日。
三打席。
本塁打。
右前打。
右前打。
三打数三安打。
前薗が呆れる。
「投げながら何でそんな打てるんだよ」
肇。
「知らない」
「知らないって何だよ」
◇◇◇
六回裏。
肇は最後のイニングへ。
一番。
センターフライ。
二番。
三振。
三番。
四球。
二死一塁。
四番。
最後の対決。
初球。
カーブ。
ストライク。
二球目。
151km。
ファウル。
三球目。
スライダー。
ボール。
四球目。
シュート。
ファウル。
そして。
五球目。
前薗が構える。
外角。
肇は大きく振りかぶる。
154km。
ストレート。
打者が振る。
空振り!
三振!
「よっしゃあああ!」
六回。
2失点。
8奪三振。
肇の役目が終わった。
一条監督が言う。
「高橋」
「はい」
「ここからは任せろ」
肇は仲間を見る。
白峰。
君彦。
神城。
「はい」
そして笑う。
「任せます」
◇◇◇
七回表。
日本。
4対2。
そして。
肇の四打席目。
相手投手は三番手。
最速155kmの大型右腕。
球場がざわめく。
肇はすでに三安打。
しかも一打席目に本塁打。
相手バッテリーが慎重に入る。
初球。
155km。
外角。
ボール。
二球目。
154km。
ストライク。
三球目。
スライダー。
空振り。
1ボール2ストライク。
追い込まれた。
四球目。
155km。
ファウル。
五球目。
フォーク。
肇は止める。
ボール。
2ボール2ストライク。
六球目。
154km。
ファウル。
七球目。
スライダー。
ファウル。
粘る。
八球目。
155km。
外角。
肇は見送る。
ボール。
フルカウント。
そして。
九球目。
投手が投げた。
154km。
わずかに甘く入る。
肇。
踏み込む。
腰を回す。
バットを振り抜いた。
カキィィィィィン――!!
一打席目とは違う。
打った瞬間。
誰もが分かった。
肇自身も。
相手投手も。
捕手も。
外野手も。
日本ベンチも。
「行った……!」
打球は。
一直線に。
右中間スタンドへ。
着弾。
ホームラン。
この試合。
二本目。
高橋肇。
決勝戦で――二本塁打。
日本人選手で本塁打を記録したのは、最後まで高橋肇ただ一人。
その肇が。
一打席目。
そして四打席目。
二本もスタンドへ運んだ。
日本。
5対2。
肇はゆっくり一塁を回る。
二塁。
三塁。
そしてホーム。
十八人が待っている。
「肇ぉぉぉぉ!」
「二本目!」
「化け物!」
「決勝だぞ!」
「本当に高校生かよ!」
肇は笑いながらホームを踏んだ。
「よっしゃああああ!」
◇◇◇
日本では。
富山第二の野球部員たちが絶叫していた。
「二本目ぇぇぇ!」
「高橋ぃぃ!」
マネージャーたちも。
真悠も。
眞衣も。
父親も。
由紀子も。
総立ち。
眞衣。
「お兄、すごすぎる!」
真悠。
「決勝で二本って……!」
由紀子は目元を押さえる。
父親は画面を見たまま。
「……あいつ、本当に世界まで行ったんだな」
そして。
千鶴。
テレビの前で。
両手を胸元で握っていた。
「肇さん……」
教師としてではない。
恋人として。
誰よりも。
嬉しかった。
「すごいです……」
◇◇◇
七回裏。
マウンド。
崇道君彦。
153km。
フォーク。
スライダー。
三者凡退。
八回。
白峰蓮司。
ヒットを一本許す。
しかし。
後続を抑える。
無失点。
そして日本は九回表。
さらに一点を追加。
6対2。
いよいよ。
九回裏。
世界一まで。
あとアウト三つ。
マウンドへ向かったのは。
神城颯真。
前薗がマスクを被る。
肇は一塁守備。
全員の表情が変わる。
一人目。
初球。
150km。
ストライク。
二球目。
フォーク。
空振り。
三球目。
151km。
ファウル。
四球目。
フォーク。
空振り三振!
一アウト。
「あと二つ!」
日本ベンチから声。
二人目。
ショートゴロ。
遊撃手が捕る。
一塁へ。
肇が捕球。
「アウト!」
二アウト。
あと一人。
球場中が立ち上がる。
日本ベンチ。
十八人。
スタッフ。
一条監督。
全員が。
その瞬間を待っている。
最後の打者。
相手四番。
神城。
初球。
150km。
ファウル。
二球目。
スライダー。
ボール。
三球目。
151km。
ファウル。
1ボール2ストライク。
あと一球。
前薗がサイン。
神城が頷く。
第四球。
フォーク。
打者が振る。
バットに当たった。
カキンッ!
打球。
一塁方向。
肇。
「俺!」
前へ出る。
バウンド。
グラブへ。
捕った。
そのまま。
一塁ベースを踏む。
「アウトォォォォ!」
試合終了。
日本。
6対2。
世界一。
一瞬。
肇は一塁ベースの上で止まった。
「…………」
そして。
理解した。
「勝った……」
前薗がマスクを放り投げる。
神城が両手を上げる。
白峰。
君彦。
玲央。
水城。
十八人が飛び出す。
肇も走る。
「うおおおおおおおお!!」
マウンド中央。
全員が抱き合った。
「世界一!」
「やった!」
「勝ったぞ!」
「日本一じゃない!」
「世界一だ!」
肇は前薗と抱き合う。
「前薗!」
「肇!」
「世界一だぞ!」
「お前、二本打ちやがって!」
白峰が飛びつく。
「高橋!」
君彦も。
「やったな!」
玲央。
「俺たち世界一だ!」
一条監督も。
スタッフも。
笑っていた。
泣いている者もいた。
◇◇◇
しかし。
この世界一は。
ここにいる十八人だけで掴んだものではなかった。
最初に集められた候補は。
五十人。
代表になれたのは。
十八人。
つまり。
三十二人は。
日の丸を着ることができなかった。
肇は表彰式を待つ間。
そのことを思い出していた。
候補合宿。
同じグラウンドで。
同じ球を追い。
同じ日本代表を目指した。
それでも。
選ばれる者。
選ばれない者。
必ず分かれる。
前薗が隣に立つ。
「肇?」
「……三十二人のこと考えてた」
前薗も黙る。
「あの人たちが弱かったわけじゃない」
「うん」
「俺たちが代表になったから」
「うん」
「その分まで戦わなきゃって思ってた」
前薗。
「今日、勝ったじゃん」
「うん」
「だったら胸張って報告しよう」
肇は頷いた。
「そうだな」
選ばれなかった三十二人。
甲子園で敗れた高校球児。
富山第二のベンチ外部員。
マネージャー。
家族。
学校。
応援してくれた人たち。
いろいろな思いが。
十八人の背中には乗っていた。
だからこそ。
世界一という結果には。
十八人だけでは数え切れないほど多くの人の思いが詰まっていた。
◇◇◇
表彰式。
十八人の胸に。
世界一の証。
肇はメダルを見つめる。
甲子園。
全国一。
そして。
U-18。
世界一。
「……本当に取ったんだ」
白峰。
「何今さら実感してんだよ」
「いや……」
肇は笑う。
「すごいなって」
君彦。
「お前が決勝で二本打ったんだろ」
玲央。
「しかも日本のホームラン全部、高橋」
神城。
「投げても六回二失点」
前薗。
「だから一人で勝ったみたいな顔するなよ」
肇。
「してない!」
十八人が笑う。
そして。
記念撮影。
全員が肩を組む。
「JAPAN!」
シャッター。
世界一の十八人。
その瞬間が。
一枚の写真として残った。
◇◇◇
その日の夜。
ホテル。
祝勝の夕食を終え。
ミーティングも終わった。
肇は部屋へ戻る。
ベッドの上には。
世界一のメダル。
しばらく眺める。
そして。
スマートフォン。
通知が大量に届いている。
家族。
富山第二の仲間。
野球部員。
マネージャー。
U-18候補だった選手。
甲子園で戦った選手。
だが。
肇が最初に開いたのは。
千鶴との画面だった。
その瞬間。
着信。
千鶴。
肇はすぐに出た。
「千鶴!」
画面の向こう。
千鶴が笑っていた。
目元が。
少し赤い。
「おめでとうございます、肇さん」
「ありがとう!」
「世界一ですね」
「うん!」
「本当に……」
千鶴は少し言葉を詰まらせた。
「本当に、おめでとうございます」
「千鶴、泣いた?」
「少しだけです」
「本当に?」
「……かなり泣きました」
肇が笑う。
「見せたかった」
「何をです?」
肇はメダルを画面へ。
「これ」
千鶴。
「見えていますよ」
「世界一」
「はい」
「取った」
「はい」
千鶴は。
ゆっくり言った。
「全国一の次は世界一、本当に叶えましたね」
肇は。
その言葉を聞いて。
少し黙った。
甲子園へ行く。
全国制覇する。
日本代表になる。
世界で戦う。
世界一になる。
いくつもの夢。
一つずつ。
叶えてきた。
「うん」
肇は答えた。
そして。
千鶴を見る。
「でも」
「はい?」
「まだある」
「夢が?」
「うん」
千鶴は微笑む。
「次は何ですか?」
肇は。
迷わなかった。
「次の夢も叶える」
「…………」
「絶対に」
千鶴には。
その言葉が。
野球だけを意味していないことが分かった。
プロ野球。
ドラフト。
そして――。
卒業後。
二人がずっと待っている未来。
千鶴。
「では」
「うん」
「それも楽しみに待っています」
肇。
「待ってて」
「はい」
「ちゃんと叶えるから」
「信じています」
◇◇◇
それから。
決勝戦の話になった。
千鶴。
「一打席目のホームラン」
「うん」
「驚きました」
「俺も」
「打った本人が驚くんですか?」
「決勝で入るとは思わなかった」
「しかも四打席目も」
「二本目」
「日本の選手で本塁打を打ったのは肇さんだけだったんですよ」
「そうらしいね」
「それを二本も」
肇が笑う。
「千鶴が見てると思ったから」
「またそういうことを」
「本当だよ」
「では私が見ていなかったら?」
「打つ」
「結局打つんじゃないですか」
二人が笑った。
◇◇◇
千鶴。
「投手としてもお疲れさまでした」
「六回二失点」
「十分です」
「160出なかった」
「必要ありません」
「即答!」
「第39話でも分かったでしょう?」
肇。
「うん」
「速さだけではありません」
「前薗にも監督にも言われた」
「私からも言います」
「はい」
「プロへ行っても、身体を大切にしてください」
肇は。
その言葉で少し止まる。
「プロ……」
「行きたいのでしょう?」
「うん」
「なら」
千鶴は真剣な顔になる。
「次はそこですね」
肇。
「うん」
甲子園全国制覇。
U-18世界一。
高校通算70本塁打。
160km台。
決勝で二本塁打。
ここまで来れば。
当然。
次に待っているものがある。
プロ野球。
そして。
十二球団のスカウト。
肇自身も。
それを理解していた。
◇◇◇
「千鶴」
「はい?」
「帰ったら」
「はい」
「会える?」
千鶴は笑う。
「もちろんです」
「膝枕」
「はい」
「抱きしめて」
「はい」
「いっぱい話したい」
「それも」
「あと」
肇は止まる。
千鶴。
「何ですか?」
「……何でもない」
「怪しいですね」
「帰ってから言う」
「分かりました」
二人には。
まだ守らなければならない約束がある。
高校卒業までは。
教師と生徒。
学校では。
東雲先生。
高橋君。
それを最後まで守る。
その先で。
二人には。
別の未来が待っている。
◇◇◇
テレビ電話も終わりに近づく。
千鶴。
「肇さん」
「うん?」
「改めて」
「うん」
「世界一、おめでとうございます」
「ありがとう」
「本当に格好良かったですよ」
肇は照れる。
「もう一回言って」
「嫌です」
「千鶴!」
「一回だけです」
「じゃあ昨日のも」
「何です?」
「大好き」
千鶴は少し笑う。
そして。
「大好きですよ、肇さん」
肇。
「俺も」
少し間。
「大好き」
そして。
「愛してる」
千鶴は。
画面越しに肇を見つめた。
「……その言葉の続きは」
「うん」
「帰ってきてから聞かせてください」
肇は頷く。
「分かった」
「待っています」
「千鶴」
「はい?」
「次の夢も叶えるから」
千鶴は優しく微笑んだ。
「はい」
「信じています」
「おやすみ」
「おやすみなさい、肇さん」
通話終了。
◇◇◇
高橋肇。
高校三年生。
私立富山第二高等学校。
甲子園全国制覇。
U-18日本代表。
そして――世界一。
決勝戦。
一打席目。
スリーラン本塁打。
四打席目。
ソロ本塁打。
日本代表で本塁打を記録した唯一の選手となり、その一人が二本を放った。
投手としても六回二失点。
最後のアウトは。
一塁を守っていた肇自身が取った。
しかし。
世界一は。
肇一人のものではない。
選ばれた十八人。
選ばれなかった三十二人。
監督。
スタッフ。
それぞれの高校。
家族。
仲間。
応援してくれた人たち。
すべての思いを背負って掴んだ――。
日の丸の頂点。
そして。
全国一。
世界一。
二つの夢を叶えた高校生には。
すでに。
次の扉が開こうとしていた。
プロ野球。
十二球団。
スカウト。
ドラフト。
高橋肇という名前を巡って――。
新たな戦いが、富山で始まろうとしていた。
第40話「世界一――十八人で掴んだ日の丸の頂点」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ついに――。
U-18日本代表。
世界一です。
決勝戦の結果は、6対2。
五十人の候補選手から選ばれた十八人が、同じ日の丸を背負って世界の頂点へ立ちました。
そして今回、高橋肇が残した決勝戦の記録。
投手として――六回二失点。
打者として――四打席目までに四打数四安打。
その中でも特に大きかったのが二本の本塁打です。
第一打席。
一死一、二塁。
相手エースの153kmを捉え、左中間スタンドへ先制3ラン。
そして第四打席。
154kmから155kmを投げ込んでくる相手の大型右腕と九球に及ぶ勝負。
最後に甘く入った154kmを振り抜き、右中間スタンドへ二本目。
この世界大会決勝で、日本人選手として本塁打を記録したのは――高橋肇ただ一人。
しかもその一人が、一試合で二本。
甲子園決勝ではサイクルヒット。
そしてU-18世界大会決勝では二本塁打。
大舞台になるほど結果を残してきた肇が、今回も四番打者として日本を大きく前へ進めました。
しかし――。
今回一番大切だったのは、肇一人の記録ではありません。
先発した肇。
その球を受けた前薗晃大。
七回を抑えた崇道君彦。
八回を任された白峰蓮司。
そして九回。
世界一を決める最後のマウンドに上がった神城颯真。
打線でも、
橘川玲央。
水城拓真。
名古屋悠成。
飛騨悠人。
瀬戸蒼空。
比嘉龍之介。
ほかの代表選手たちが、それぞれの役割を果たしました。
最後の打球が一塁方向へ転がり。
それを肇が捕球。
そのまま一塁ベースを踏んだ瞬間――。
世界一。
甲子園全国制覇の時とは違う十八人が、今度は世界の頂点で抱き合いました。
そして、忘れてはいけない存在がいます。
最初にU-18日本代表候補として集められたのは五十人。
正式な代表へ選ばれたのは十八人。
つまり三十二人は、日の丸を着ることができませんでした。
同じ代表を目指して練習した仲間。
同じブルペンで投げた投手。
球を受けた捕手。
対戦した打者。
それぞれに悔しさがあったはずです。
だからこそ、今回の世界一は十八人だけのものではありません。
選ばれなかった三十二人の思いも背負って掴んだ世界一です。
そして夜。
第36話から続いてきた千鶴とのテレビ電話。
世界大会中、毎日のように顔を合わせてきた二人。
実際には遠く離れていても、声を聞き、試合を振り返り、時には「会いたい」「寂しい」と本音を伝え合いました。
そんな千鶴から今回伝えられた、
「全国一の次は世界一、本当に叶えましたね」
という言葉。
甲子園全国制覇。
U-18日本代表入り。
そして世界一。
肇は次々と夢を叶えてきました。
ですが――。
まだ終わりではありません。
「次の夢も叶える」
その言葉が指すもの。
まず待っているのは――プロ野球。
富山第二高校へ戻れば、肇を見るためにプロ野球十二球団のスカウトが動き始めます。
最速160km。
高校通算70本塁打。
甲子園全国制覇。
甲子園決勝でのサイクルヒット。
U-18世界一。
そして世界大会決勝で、日本人唯一となる本塁打を二本。
投手として見るのか。
打者として見るのか。
それとも――二刀流なのか。
ここから高橋肇を見る目は、さらに厳しく、そして熱くなっていきます。
そしてもう一つ。
肇が千鶴へ言った「次の夢」。
それが野球だけを意味していないことを、千鶴自身も分かっています。
プロ野球。
高校卒業。
そして、その先で待っている二人の未来。
第36話から第40話まで続いたU-18日本代表編は、十八人で掴んだ世界一という最高の形で幕を閉じました。
次回からは――。
第41話〜第45話。
「プロ野球スカウト本格始動編」
世界一となった高校生・高橋肇を見るため、十二球団の視線が富山へ集まり始めます。




