第38話「甲子園のライバルが仲間になる日――十八人で挑む世界の強豪」
第38話「甲子園のライバルが仲間になる日――十八人で挑む世界の強豪」
U-18日本代表は国際大会開幕から二連勝。
そして迎える第三戦。
今回の相手は、これまで以上の強力な打線を持つ世界屈指の強豪です。
150km台のストレートにも対応する上位打線。
185cmを超える三番打者。
190cm近い体格を誇り、150kmを超える内角球さえ長打にする四番打者。
さらに五番にも広角へ長打を放てる強打者が控えています。
そんな相手に挑む日本代表。
今回の先発は神城颯真。
高橋肇は四番・一塁手として先発出場し、前薗晃大、橘川玲央、水城拓真らとともに得点を奪いにいきます。
そして試合終盤には――再び肇がマウンドへ。
しかし今回の肇は、ただ160kmを投げるだけではありません。
118kmのカーブ。
シュート。
大きく曲がるスライダー。
そして最後に投じる156kmのストレート。
球速そのものではなく、緩急によって速球をさらに速く感じさせる。
世界の強打者との対戦を通じて、肇の投球にも少しずつ変化が生まれ始めています。
そして何より今回描かれるのは――「仲間」。
甲子園では絶対に負けたくなかったライバルたち。
白峰蓮司。
崇道君彦。
神城颯真。
橘川玲央。
それぞれ違う高校のユニフォームを着て戦っていた選手たちが、今では同じ「JAPAN」を胸に世界一を目指しています。
もちろん夜には、千鶴とのテレビ電話も。
第36話、第37話と続いてきた、遠く離れた二人だけの時間。
そして今回は、これまでなかなか言葉にしなかった千鶴から、肇がずっと聞きたかった一言も――。
全国のライバルから、日本代表の仲間へ。
十八人で挑む第三戦です。
二連勝。
U-18日本代表は、順調なスタートを切っていた。
しかし――。
高橋肇の中から、緊張感が消えたわけではない。
むしろ試合を重ねるほど、世界の高校野球のレベルを実感していた。
150kmを超えるストレートを簡単にファウルにする打者。
少しでも甘く入れば、長打にする四番。
日本の高校野球では見慣れない体格。
そして何より。
一人一人が、自分たちの国を背負って本気で勝ちに来ている。
三戦目の朝。
肇はホテルの食堂で朝食を食べながら、前薗晃大の隣に座っていた。
「前薗」
「何?」
「今日、俺は?」
「俺に聞くなよ」
「捕手だから知ってるかと思って」
「スタッフじゃないんだから」
向かい側にいた白峰蓮司が笑う。
「高橋、昨日投げたくて仕方なさそうだったもんな」
「だって試合出たいじゃん」
崇道君彦も言う。
「初戦で五回投げただろ」
「もう休んだ」
「一日だけだぞ」
「十分」
「十分じゃない」
前薗と君彦が同時に言った。
肇。
「また二人で言う……」
その横から橘川玲央。
「今日は打者で暴れてくれればいいじゃん」
「玲央は?」
「俺もスタメン予定」
「じゃあ一緒に打とう」
「もちろん」
白峰が肇を見る。
「俺たち、甲子園では敵だったのにな」
その言葉で。
全員が少しだけ静かになった。
大阪桐蔭。
横浜。
東海大相模。
智辯和歌山。
そして。
私立富山第二。
少し前まで。
全国一という一つしかない場所を奪い合っていた。
だが今は。
同じ食卓を囲んでいる。
胸に刻まれる文字も同じ。
JAPAN。
肇が笑う。
「不思議だな」
君彦。
「甲子園では絶対負けたくなかった」
白峰。
「俺も」
玲央。
「今は?」
白峰は即答した。
「こいつらとなら世界一になりたい」
肇も頷いた。
「俺も」
前薗。
「じゃあ今日も勝つぞ」
「おう!」
◇◇◇
午前のミーティング。
スタッフがスクリーンに対戦国の映像を映す。
今日の相手は、今大会でも優勝候補の一角。
最大の特徴は。
強力な打線だった。
一番から九番まで振りが鋭い。
さらに。
中心打者の三人は別格だった。
三番。
身長185cmを超える右打者。
四番。
190cm近い大型スラッガー。
五番。
広角に長打を放つ左打者。
スタッフ。
「特に四番です」
映像。
151kmの内角球。
カキィィィンッ!
打球は。
左翼スタンド上段。
肇。
「……すご」
白峰。
「これ、詰まってない?」
君彦。
「ほぼ芯だろ」
前薗。
「内角150超えてるぞ」
一条昴監督も腕を組んで映像を見る。
「高橋」
「はい」
「もし登板することになったら、力勝負だけはするな」
「分かっています」
「本当に?」
「昨日千鶴にも……」
肇は。
途中で止まった。
「……いや、何でもないです」
一条監督だけが。
肇を見る。
二人の関係を知っている一条には、その続きが分かった。
だが。
他の選手たちは知らない。
前薗。
「誰?」
肇。
「何でもない!」
「今、誰かの名前言わなかった?」
「気のせい!」
一条監督が助け舟を出す。
「高橋」
「はい!」
「話を戻すぞ」
「はい!」
一条はスクリーンを見る。
「相手四番は速球に強い。むしろ速球を待っている」
「はい」
「だったら?」
肇。
「緩急」
「それだけか?」
「内外角を使って、同じ球速帯を続けない」
「そうだ」
前薗も映像を見ながら言う。
「初球にカーブでも面白そうですね」
「俺も思った」
肇と前薗。
一条監督は二人を見る。
「登板することになったら、二人で考えろ」
「はい!」
◇◇◇
そして。
スターティングメンバーが発表された。
肇は――。
四番・一塁手。
投手ではない。
前薗は捕手。
橘川玲央。
水城拓真。
名古屋悠成。
飛騨悠人。
瀬戸蒼空。
比嘉龍之介。
そして他の代表選手たちが並ぶ。
先発投手は。
神城颯真。
肇が神城の肩を叩く。
「頼んだ」
神城。
「お前は打て」
「もちろん」
「ホームラン?」
一条監督。
「高橋」
「まだ何も言ってません!」
全員が笑う。
◇◇◇
試合開始。
一回表。
日本代表の攻撃。
一番。
飛騨悠人。
初球。
速球。
ファウル。
二球目。
変化球。
見送る。
三球目。
外角。
カキンッ!
センター前。
「よし!」
いきなり出塁。
二番。
送りバント。
一死二塁。
三番。
橘川玲央。
肇はネクストバッターズサークルから見つめる。
甲子園では。
対戦相手。
今は。
自分の前を打つ仲間。
玲央。
初球を見送る。
二球目。
外角。
カキィンッ!
右前。
二塁走者。
三塁へ。
一死一、三塁。
そして。
四番。
高橋肇。
球場から歓声。
肇は打席へ。
「お願いします」
相手投手を見る。
右腕。
球速は150km前後。
初球。
149km。
外角。
ストライク。
二球目。
変化球。
ボール。
三球目。
150km。
内角。
肇が振る。
カキンッ!
詰まった。
しかし。
打球は右方向。
深い。
右翼手が捕球。
三塁走者。
タッチアップ。
ホーム。
セーフ。
犠牲フライ。
日本。
1対0。
肇はベンチへ戻る。
玲央。
「最低限」
「ホームラン打ちたかった」
一条監督。
「高橋」
「冗談です!」
◇◇◇
一回裏。
神城颯真。
初球。
150km。
ストライク。
二球目。
変化球。
空振り。
三球目。
151km。
ファウル。
四球目。
フォーク。
空振り三振。
「ナイス!」
日本ベンチが沸く。
しかし。
三番打者。
一死一塁。
神城の150km。
カキィィンッ!
左中間。
長打。
一塁走者が生還。
1対1。
さらに。
四番。
肇が一塁から見る。
「でか……」
映像以上だった。
神城。
初球。
カーブ。
ボール。
二球目。
スライダー。
ファウル。
三球目。
151km。
内角。
カキィィィンッ!
打球が。
センター後方へ。
「行った……?」
しかし。
瀬戸蒼空が。
フェンスぎりぎりでジャンプ。
パシッ!
捕った。
「うおおおおお!」
日本ベンチ総立ち。
肇も一塁から拳を上げる。
「瀬戸!」
瀬戸がボールを掲げる。
本塁打性の打球を。
守備で消した。
肇は思う。
――これだ。
投手だけじゃない。
打者だけじゃない。
守備でも。
日本代表は戦える。
◇◇◇
三回。
2対2。
完全な接戦。
肇の二打席目。
二死走者なし。
初球。
変化球。
ボール。
二球目。
150km。
ファウル。
三球目。
148km。
ストライク。
追い込まれる。
四球目。
低め。
ボール。
五球目。
スライダー。
肇は。
バットを止める。
ボール。
フルカウント。
六球目。
149km。
外角。
カキンッ!
センター前。
ヒット。
一塁。
続く水城拓真。
初球。
肇がスタート。
「走った!」
捕手が二塁へ。
セーフ!
盗塁成功。
水城。
「肇!」
「返して!」
水城。
三球目。
カキィィンッ!
左中間。
肇が三塁を蹴る。
ホーム。
3対2。
水城が二塁上で拳を上げる。
肇もベンチ前で叫ぶ。
「ナイス!」
水城。
「お前もナイスラン!」
甲子園では。
一人の本塁打で点を取ることも多かった。
だが。
今は違う。
ヒット。
盗塁。
タイムリー。
繋いで取る一点。
◇◇◇
五回。
日本。
3対3。
神城は粘った。
しかし。
球数が増えている。
一死二、三塁。
四番。
日本ベンチに緊張が走る。
神城。
スライダー。
ファウル。
カーブ。
ボール。
ストレート。
ファウル。
そして。
フォーク。
空振り!
三振!
二アウト。
五番。
内野ゴロ。
チェンジ。
神城は吠えた。
「よっしゃああ!」
ベンチへ戻る。
肇が真っ先に迎える。
「ナイス!」
神城。
「疲れた……」
「四番すごいだろ?」
「めちゃくちゃ怖い」
「俺も投げたい」
神城。
「感想おかしいだろ」
◇◇◇
六回。
日本が動く。
玲央。
ヒット。
肇。
四球。
無死一、二塁。
水城。
送りバント。
一死二、三塁。
名古屋悠成。
犠牲フライ。
4対3。
続いて。
比嘉龍之介。
タイムリー。
5対3。
日本ベンチが沸く。
白峰。
「いいぞ!」
君彦。
「二点差!」
肇はベンチで仲間たちとハイタッチ。
誰か一人ではない。
全員で。
一点ずつ。
◇◇◇
しかし。
七回裏。
相手打線が牙を剥いた。
日本の二番手投手。
先頭。
ヒット。
二番。
四球。
無死一、二塁。
三番。
タイムリーヒット。
5対4。
そして。
四番。
ベンチが動く。
一条監督も他のスタッフと話す。
肇はその様子を見る。
「……まさか」
スタッフ。
「高橋」
肇。
「はい!」
「準備」
「はい!」
前薗も立つ。
「行くぞ」
「おう!」
ブルペンへ。
肇は投球練習を始める。
一球。
149km。
二球。
151km。
前薗。
「飛ばすな」
「分かってる」
スライダー。
カーブ。
シュート。
ストレート。
前薗。
「行ける?」
「行ける」
「相手は四番からだぞ」
肇が笑う。
「最高じゃん」
「だから熱くなるな!」
◇◇◇
無死一、二塁。
日本。
5対4。
投手交代。
球場アナウンス。
高橋肇。
ざわめきが大きくなる。
初戦。
五回無失点。
最速160kmを持つ日本の右腕。
しかも。
打者としても四番。
肇はマウンドへ。
前薗が来る。
「肇」
「うん」
「160は禁止」
「分かってる」
「四番、速球待ってる」
「初球は?」
前薗。
「カーブ」
肇が笑う。
「俺も同じ」
◇◇◇
相手四番。
初球。
カーブ。
118km。
打者。
タイミングが合わない。
ストライク。
二球目。
シュート。
内角。
ファウル。
0ボール2ストライク。
追い込んだ。
球場がざわつく。
前薗のサイン。
肇は首を振る。
もう一度。
首を振る。
三度目。
頷く。
スライダー。
外へ。
大きく曲がる。
相手四番。
バット。
止まらない。
空振り!
三振!
「よっしゃ!」
肇が叫ぶ。
一アウト。
五番。
初球。
ストレート。
151km。
ファウル。
二球目。
カーブ。
ボール。
三球目。
シュート。
詰まらせる。
ショートゴロ。
二塁。
一塁。
ダブルプレー!
「アウト!」
スリーアウト!
無死一、二塁。
相手四番から。
無失点。
肇は拳を握る。
前薗が駆け寄る。
「ナイス!」
「前薗!」
二人がグラブを合わせた。
◇◇◇
八回。
日本。
追加点。
橘川玲央が二塁打。
肇の第四打席。
一死二塁。
初球。
外角。
ボール。
二球目。
内角。
ストライク。
三球目。
変化球。
肇は待った。
そして。
カキィィィンッ!
左中間。
長い。
長い。
フェンス直撃。
玲央がホームへ。
肇は二塁へ。
6対4。
タイムリーツーベース。
玲央がホームから叫ぶ。
「肇!」
肇。
「玲央!」
甲子園では。
敵だった二人。
今は。
同じ一点を喜んでいた。
◇◇◇
八回裏。
肇。
続投。
一番。
三振。
二番。
センターフライ。
三番。
四球。
そして。
再び四番。
前薗がマウンドへ。
「どうする?」
肇。
「今度は向こうも変化球を考えてる」
「俺もそう思う」
「じゃあ」
前薗。
「最後だけ」
肇。
「うん」
初球。
スライダー。
ボール。
二球目。
カーブ。
ストライク。
三球目。
シュート。
ファウル。
1ボール2ストライク。
そして。
四球目。
前薗が構える。
外角高め。
肇。
大きく振りかぶる。
投げる。
ズバァァンッ!
球速表示。
156km。
相手四番。
空振り。
三振!
肇は吠えた。
「よっしゃあああ!」
160ではない。
しかし。
三球の変化球を意識させてからの156km。
速さを。
より速く感じさせる。
前薗が笑う。
「それだよ!」
肇も笑う。
「分かった!」
◇◇◇
九回。
日本。
7対4。
最後のマウンドには。
白峰蓮司。
捕手は成田蓮。
肇は一塁。
白峰。
一人目。
三振。
二人目。
ショートゴロ。
二アウト。
最後。
相手五番。
初球。
150km。
ファウル。
二球目。
スライダー。
空振り。
三球目。
151km。
外角。
見逃し。
「ストライク!」
試合終了。
日本。
7対4。
三連勝。
「よっしゃあああああ!」
十八人が飛び出す。
肇。
白峰。
君彦。
神城。
玲央。
前薗。
水城。
全員が集まる。
白峰。
「三連勝!」
神城。
「俺、今日めちゃくちゃ疲れた!」
肇。
「ナイスピッチ!」
神城。
「途中から投げた奴が簡単に抑えやがって!」
肇。
「前薗のおかげ」
前薗。
「珍しく素直」
玲央。
「今日、肇ちゃんとチームプレーしてたな」
「いつもしてる!」
君彦。
「本当に?」
「してる!」
笑い声。
肇は。
周囲を見る。
少し前まで。
甲子園で倒さなければならなかった選手たち。
今は。
勝利を一緒に喜んでいる。
肇は小さく呟いた。
「……仲間なんだな」
前薗。
「今さら?」
「改めて思った」
◇◇◇
その夜。
ホテル。
ミーティング。
夕食。
身体のケア。
肇は肩をしっかり冷やした。
一条監督が確認する。
「違和感は?」
「ありません」
「明日は状態を見て決める」
「はい」
「今日はよかった」
肇が驚く。
「監督が普通に褒めた」
「高橋」
「すみません」
一条監督は少し笑う。
「特に四番への配球だ」
「前薗と考えました」
「初球118kmのカーブから、最後156km」
「はい」
「160を投げなくても、156を160以上に感じさせられる」
肇は頷く。
「今日、分かった気がします」
「忘れるなよ」
「はい!」
◇◇◇
そして。
自室。
肇はスマートフォンを手に取る。
時間。
日本との時差も考える。
今日も。
約束している。
テレビ電話。
発信。
数秒。
千鶴が映った。
「こんばんは、肇さん」
「千鶴!」
「お疲れさまでした」
「見てた?」
「もちろんです」
「三連勝!」
「おめでとうございます」
肇は嬉しそうに笑う。
「今日、途中から投げた」
「見ていました」
「四番、二回三振取った」
「それも見ていました」
「どうだった?」
千鶴は少し考える。
「昨日より、もっと格好良かったです」
肇が止まる。
「……え?」
「何ですか?」
「もう一回」
「嫌です」
「千鶴!」
「一度しか言いません」
「録画したかった!」
「やめてください」
肇は笑う。
◇◇◇
千鶴。
「でも」
「うん?」
「今日、160kmを投げませんでしたね」
「最高156」
「はい」
「監督にも褒められた」
「一条先生が?」
「うん」
「それは良かったですね」
「千鶴も褒めて」
「もう褒めました」
「もっと」
千鶴は少し呆れながらも。
「よく我慢できました」
「子供扱いしてない?」
「少し」
「ひどい」
千鶴が笑う。
「でも本当に良かったと思います」
「うん」
「速い球を投げることではなく」
「うん」
「打者を抑えることを考えていましたから」
肇。
「初球118kmだったんだ」
「カーブですね」
「そう」
「最後156」
「うん」
「38km差ですか」
「そう」
「打者からすれば、かなり速く感じたでしょうね」
肇が嬉しそうに言う。
「千鶴、野球詳しくなった?」
「誰のせいだと思っています?」
「俺?」
「毎日のように野球の話を聞いていますから」
「嬉しい」
◇◇◇
少しして。
肇はベッドへ横になる。
スマートフォンを立てる。
「千鶴」
「はい」
「今日さ」
「はい」
「玲央が打って」
「はい」
「俺が返して」
「はい」
「神城が投げて」
「はい」
「最後は白峰が締めた」
「はい」
「前薗も俺と組んだし」
千鶴は静かに聞く。
「甲子園ではさ」
「はい」
「全員、敵だったんだよ」
「そうですね」
「白峰なんて大阪桐蔭だし」
「はい」
「君彦も、神城も、玲央も」
「はい」
「でも」
肇は少し笑う。
「今は仲間なんだよな」
千鶴。
「素敵ですね」
「うん」
「高校野球だから経験できることかもしれませんね」
「甲子園で負けたら終わりだった」
「はい」
「でも今は、その相手と一緒に世界一を目指してる」
千鶴は微笑んだ。
「肇さん」
「何?」
「良い仲間に出会いましたね」
「うん」
肇は即答した。
「すごくいい仲間」
◇◇◇
千鶴。
「ところで」
「ん?」
「今日、ミーティング中に私の名前を言いかけませんでした?」
肇が固まる。
「……何で知ってるの?」
「一条先生から」
「監督ぅ……」
千鶴が笑う。
「前薗君たちには?」
「誤魔化した!」
「危ないですね」
「ごめん」
「気をつけてください」
「はい」
「卒業までは」
「秘密」
「そうです」
肇は画面越しに千鶴を見る。
「でも」
「はい?」
「卒業したら?」
千鶴は一瞬黙る。
「その話は、帰ってきてからです」
「また逃げる」
「逃げていません」
「じゃあ約束」
「何をです?」
「帰ったらちゃんと話す」
千鶴は少し考えて。
「分かりました」
「本当?」
「はい」
肇は嬉しそうに笑った。
◇◇◇
そして。
いつものように。
何でもない話。
学校。
授業。
真悠。
眞衣。
由紀子。
父親。
富山第二野球部。
日本代表。
世界大会。
いろいろな話をした。
会えない。
触れられない。
それでも。
画面越しに顔を見るだけで。
肇は落ち着いた。
「千鶴」
「はい」
「帰ったらさ」
「はい」
「膝枕して」
「またですか?」
「お願い」
「はいはい」
「あと抱きしめて」
「分かりました」
「あと胸元で休ませて」
千鶴は少し困ったように笑う。
「それも毎日言っていますね」
「だって落ち着くから」
「帰ってきてからですよ」
「うん」
「今は世界大会に集中」
「はい」
千鶴。
「世界一になるのでしょう?」
肇。
「なる」
「なら」
「うん」
「十八人で勝ってきてください」
肇は。
少しだけ目を閉じる。
そして。
「分かった」
「はい」
「一人じゃなくて」
「はい」
「十八人で世界一になる」
「応援しています」
◇◇◇
通話終了の時間。
千鶴。
「では、今日はここまでです」
「あと五分」
「三分」
「また?」
「三分」
「四分」
「三分」
「三分半」
千鶴が笑う。
「昨日と同じ交渉ですね」
「じゃあ四分」
「増やさないでください」
二人は笑った。
最後。
「千鶴」
「はい?」
「大好き」
千鶴は。
少しだけ頬を赤くする。
そして今日は。
逃げなかった。
「……私も、大好きですよ」
肇が。
完全に止まった。
「え?」
千鶴。
「では、おやすみなさい」
「待って!」
「おやすみなさい」
「千鶴! 今のもう一回!」
「一回だけです」
「お願い!」
千鶴は笑う。
「明日も頑張ったら、考えます」
「絶対頑張る!」
「ふふっ。おやすみなさい」
「おやすみ!」
通話が終わった。
肇は。
しばらくスマートフォンを見つめる。
そして。
枕へ顔を埋めた。
「……明日も絶対勝つ」
理由が一つ増えた。
◇◇◇
三連勝。
世界一へ。
また一歩。
しかし。
高橋肇が手に入れたものは。
勝利だけではなかった。
甲子園では。
倒すべきライバルだった。
白峰蓮司。
崇道君彦。
神城颯真。
橘川玲央。
そして全国の強豪校から集まった選手たち。
今では。
同じ日の丸を背負う仲間。
誰かが投げ。
誰かが守り。
誰かが繋ぎ。
誰かが返す。
160kmを投げる高橋肇だけではない。
十八人で戦う。
U-18日本代表。
そして。
遠く離れた日本には。
肇の帰りを待つ千鶴がいる。
甲子園のライバルたちは仲間になった。
次に目指す場所は。
ただ一つ。
世界の頂点だった。
第38話「甲子園のライバルが仲間になる日――十八人で挑む世界の強豪」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
日本代表――三連勝。
今回は、肇自身の活躍以上に「十八人で戦う」という意味が強く表れた試合になりました。
先発した神城颯真。
打線を繋いだ橘川玲央。
走者を返した水城拓真。
本塁打性の打球をフェンス際で捕った瀬戸蒼空。
終盤を締めた白峰蓮司。
そして前薗晃大をはじめとする仲間たち。
もちろん肇も、四番として犠牲フライやヒット、盗塁、タイムリーツーベースを記録し、終盤にはマウンドへ。
しかし今回特に大きかったのは、相手四番との勝負でした。
初球118kmのカーブ。
シュート。
スライダー。
そして二度目の対戦では、変化球を意識させてからの156km。
160kmではありません。
それでも打者にとっては、数字以上の速さに感じる一球。
これまで「どこまで速い球を投げられるか」に注目されてきた肇が、「どうすれば打者を抑えられるか」を考える投手へ少しずつ成長しています。
そして今回、もう一つ大きかったのが甲子園のライバルたちとの関係です。
少し前までは――敵。
勝たなければ、自分たちの夏が終わる相手でした。
それが今では、
「こいつらとなら世界一になりたい」
そう言える仲間になっています。
学校も違う。
地域も違う。
甲子園では敵同士。
それでも今、胸にある文字は全員同じ――「JAPAN」。
そして試合後の夜には、今回も千鶴とのテレビ電話。
学校では秘密にしなければならない二人ですが、遠征中の夜だけは恋人として話せる大切な時間です。
そんな中、千鶴からついに伝えられた、
「……私も、大好きですよ」
という一言。
肇にとっては、この日の勝利と同じくらい嬉しい出来事だったのかもしれません。
第36話から続いている二人のテレビ電話も、世界大会が進むにつれて少しずつ二人の気持ちを近づけています。
そして肇が千鶴へ約束したこと。
「一人じゃなくて、十八人で世界一になる」
三連勝。
世界の頂点まで、また一歩。
甲子園で戦ったライバルたちとともに、日の丸を背負った十八人はさらに大きな戦いへ向かいます。
次はいよいよ――世界一へ向けて絶対に落とせない大一番です。




