↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
59/74

番外編⑾❶「家族への報告――甲子園の次は、日の丸を目指して」


番外編⑾❶では、第33話で明らかになった「U18日本代表候補入り」を、肇が改めて家族へ報告します。


千鶴はすでに学校で教頭から聞いているため、今回報告するのは――父親、母・由紀子、そして双子の妹・真悠と眞衣。


甲子園全国制覇という大きな夢を叶えたばかりの肇に届いた、次なる可能性。


それは、今度は富山第二のユニフォームではなく、「日の丸」を背負って戦うという新しい舞台でした。


しかも富山第二から候補入りしたのは肇だけではありません。


甲子園で肇の160kmのストレートを受け、最後までバッテリーを組んできた捕手・前薗晃大も候補入り。


さらに、二十四人のグループチャットで交流している崇道君彦、橘川玲央、白峰蓮司、神城颯真たちにも候補入りの知らせが届き始めています。


甲子園では敵だった選手たちが、次は同じ日の丸を背負う仲間になるかもしれない。


しかし、まだ「日本代表」ではなく「日本代表候補」。


家族からの祝福を受けながらも、肇はその違いを誰よりも理解しています。


甲子園の次は、日の丸へ。


高橋家の家族五人で交わされる、次なる夢についてのお話です。



甲子園全国制覇から少し経った日の夜。


私立富山第二高等学校では、すでに普段の学校生活が戻り始めていた。


高橋肇もまた、全国から注目される甲子園優勝投手ではなく、一人の高校三年生として授業を受け、放課後には野球部で身体を動かす日常へ戻っている。


しかし――。


その日常の中で、新たな大きな知らせが届いた。


U18日本代表候補。


富山第二から候補として名前が挙がったのは二人。


エース兼四番――高橋肇。


そして捕手――前薗晃大。


肇は一条昴監督から直接その知らせを聞いた。


千鶴も学校で教頭からすでに聞いている。


だから、次に伝えなければならない相手は決まっていた。


家族だった。


◇◇◇


その日の夕方。


肇は久しぶりに家族全員が揃う時間に実家へ帰っていた。


玄関を開ける。


「ただいま」


すぐに奥から声。


「おかえりー!」


真悠だった。


続いて眞衣も顔を出す。


「兄貴、おかえり」


「ただいま」


「今日こっちでご飯食べるんでしょ?」


「そのつもり」


「お母さん、もう作ってるよ」


キッチンから由紀子の声。


「肇、手洗ってきなさい」


「分かってるよ」


「甲子園優勝しても、手洗いはしてください」


「します!」


真悠と眞衣が笑う。


「甲子園優勝関係ないじゃん」


「お母さんらしい」


肇も笑いながら洗面所へ向かった。


全国制覇。


160km。


サイクルヒット。


高校通算70本塁打。


そんな肩書がいくつ増えても。


家に帰れば。


母親から「手を洗いなさい」と言われる。


それが肇には、どこか嬉しかった。


◇◇◇


夕食。


父親。


由紀子。


肇。


真悠。


眞衣。


家族五人が食卓を囲んだ。


「いただきます」


「いただきます!」


しばらくは普通の会話だった。


学校のこと。


夏休み明けのこと。


真悠と眞衣の学校生活。


甲子園後に学校で行われた全校集会。


そして、富山へ凱旋した日の話。


父親が笑う。


「学校でも相当騒がれたらしいな」


「まあ……」


「全国優勝したんだから当然でしょ」


由紀子が言う。


真悠。


「兄貴、学校でもすごいよ」


眞衣。


「廊下歩いてるだけで見られてる」


肇。


「本当にやめてほしい」


父親。


「今だけだ。諦めろ」


「父さんまで……」


「甲子園決勝であんな試合したら仕方ない」


真悠が指を折りながら数える。


「二塁打」


眞衣。


「三塁打」


真悠。


「満塁ホームラン」


眞衣。


「ヒットでサイクル」


真悠。


「最後に3ラン」


二人。


「五打席五安打!」


肇。


「もういいって!」


食卓に笑い声が広がった。


しかし。


肇には。


今日、この家へ来たもう一つの理由がある。


少しして。


箸を置いた。


「父さん」


「ん?」


「母さん」


由紀子が肇を見る。


「何?」


「真悠、眞衣も」


双子も顔を上げた。


父親がすぐに気づく。


「何かあるのか?」


「うん」


肇は一度、息を吸った。


「今日というか、学校で正式に聞いたんだけど」


「うん」


「俺――」


少し間を置く。


「U18日本代表候補に選ばれた」


数秒。


誰も言葉を発しなかった。


最初に反応したのは。


真悠。


「……え?」


眞衣。


「U18?」


「うん」


「日本代表?」


「まだ代表じゃない」


肇はすぐ訂正する。


「日本代表の候補」


それでも。


双子の表情が一気に変わった。


「すごいじゃん!」


「兄貴!」


二人が同時に立ち上がる。


「ちょっと待って!」


「甲子園の次、日本代表!?」


「だからまだ候補だって!」


「候補でもすごい!」


「日の丸じゃん!」


父親も驚きながら。


「本当に来たのか」


「うん」


「学校へ正式に?」


「今日、一条監督から」


父親はゆっくり頷いた。


「そうか……」


そして。


「おめでとう」


肇。


「ありがとう」


由紀子も笑顔だった。


「おめでとう、肇」


「ありがとう、母さん」


しかし。


由紀子は母親だった。


喜びだけでは終わらない。


「でも」


「うん」


「身体は大丈夫なの?」


肇は少し笑う。


「やっぱり最初にそこ聞くんだ」


「当然でしょう」


「大丈夫」


「甲子園でかなり投げたでしょう?」


「今は投げ込みも減らしてる」


「肩は?」


「大丈夫」


「肘」


「大丈夫」


「本当に?」


「本当」


父親も言う。


「そこは一条監督も考えてるだろ」


「うん。むしろ監督から、今は無理して投げるなって言われてる」


由紀子はようやく少し安心した。


「だったらいいけど」


◇◇◇


真悠が尋ねる。


「兄貴だけ?」


「何が?」


「富山第二から候補」


「いや」


肇は笑った。


「前薗も」


「えっ!」


眞衣。


「前薗先輩も!?」


「うん」


真悠。


「すごい!」


眞衣。


「甲子園のバッテリーじゃん!」


「まだ二人とも候補だけどな」


父親が言う。


「前薗君も評価されたか」


「うん」


「いい捕手だったからな」


父親は甲子園の試合を思い出していた。


「お前が160kmを投げられるのも、捕ってくれる人間がいるからだ」


肇は頷く。


「俺もそう思ってる」


そして。


「U18でも一緒に行けたらいいなって、今日二人で話した」


「そうか」


「うん」


◇◇◇


眞衣が興味津々で尋ねる。


「他には誰が候補なの?」


「まだ全部は知らない」


「でも知ってる人いる?」


「いるよ」


肇はスマートフォンを取り出す。


「あの24人のグループあるだろ?」


父親。


「ドラフト候補の?」


「うん」


真悠。


「君彦さんとか?」


「そう」


崇道君彦。


橘川玲央。


白峰蓮司。


神城颯真。


甲子園を通じて知り合った同世代の強豪選手たち。


「みんなのところにも候補の連絡が来始めてる」


眞衣。


「じゃあさ」


「ん?」


「甲子園で戦った相手と、今度は同じチームになるかもしれないってこと?」


肇は頷く。


「そういうこと」


「すご……」


真悠。


「白峰さんも?」


「候補に入ってる」


「君彦さんも?」


「うん」


「神城さんも?」


「うん」


眞衣。


「それで兄貴も?」


「候補なら」


真悠と眞衣が顔を見合わせる。


そして。


「見たい!」


「絶対見たい!」


肇は笑った。


「まず代表に選ばれないと」


◇◇◇


父親は腕を組んだ。


「肇」


「ん?」


「嬉しいか?」


少し意外な質問だった。


「もちろん」


「甲子園より?」


肇は考える。


「それは比べられない」


「そうか」


「甲子園は富山第二のみんなで目指した場所だから」


父親が頷く。


「じゃあU18は?」


「全国の選手と」


肇は少し考えて。


「日の丸を背負って戦ってみたい」


食卓が静かになる。


「甲子園で戦った相手と同じチームになるのも楽しみだし」


「うん」


「今まで一度も対戦したことがない選手もいる」


「うん」


「そういう選手と野球してみたい」


父親は笑った。


「なら目指せ」


肇が父を見る。


「甲子園優勝したからって、そこで満足する必要はない」


「うん」


「次の目標ができたなら」


そして。


「全力で取りに行けばいい」


肇は力強く。


「うん」


と答えた。


◇◇◇


夕食後。


真悠と眞衣は肇をリビングへ連れていった。


「兄貴」


「何?」


「座って」


「何で?」


「いいから」


肇がソファへ。


双子は左右に座る。


真悠。


「U18っていつ?」


「まだ候補の段階だから詳しいことはこれから」


眞衣。


「ポジションは?」


「それも分からない」


「投手?」


「投手として評価されてると思うけど」


真悠。


「四番は?」


「知らないって」


眞衣。


「ホームラン打って」


「代表にも選ばれてないのに?」


「選ばれる前提」


「やめろ」


真悠。


「160kmも」


「それも毎回出すものじゃない」


眞衣。


「サイクルヒットも」


「国際大会で簡単に出るか!」


三人で笑った。


そして。


少し静かになる。


真悠が言った。


「でも」


「ん?」


「本当におめでとう」


眞衣も。


「私も」


「ありがとう」


「甲子園優勝した時も嬉しかったけど」


真悠。


「日本代表のユニフォーム着てる兄貴も見てみたい」


肇は。


少し照れながら。


「俺も着たいよ」


◇◇◇


少し離れたところでは。


由紀子と父親が二人を見ていた。


由紀子。


「本当に遠くまで行くわね」


父親。


「まだ高校生だけどな」


「甲子園」


「うん」


「今度はU18」


「うん」


「その次は……」


父親には分かっていた。


ドラフト。


プロ野球。


肇自身が決めている未来。


大学へ進学せず。


高校卒業後はプロの道へ。


そして。


さらにその先。


千鶴へのプロポーズ。


父親は静かに言った。


「本人が選んだ道だ」


「分かってる」


由紀子も頷く。


「だから応援する」


◇◇◇


そして。


家族への報告が終わった後。


肇はスマートフォンを手にした。


千鶴へメッセージ。


『家族にU18候補のこと話した』


少しして既読。


『皆さん、喜んでいましたか?』


『めちゃくちゃ』


『真悠と眞衣が日本代表のユニフォーム見たいって』


返信。


『私も見たいです』


肇の指が止まる。


そして。


笑った。


『じゃあ頑張らないと』


千鶴。


『はい』


もう一通。


『でも無理はしないでください』


肇。


『母さんと同じこと言ってる』


しばらくして。


『由紀子先輩と私は、そこについては同じ意見です』


肇は思わず笑った。


『分かりました』


千鶴。


『代表候補、おめでとうございます』


『ありがとう』


『選ばれたら、また改めてお祝いします』


肇はその文章を見つめた。


『約束』


千鶴。


『約束です』


◇◇◇


甲子園全国制覇。


それを一番近くで見守ってくれた家族。


父親。


母・由紀子。


真悠。


眞衣。


そして。


すでに学校で知らせを知っていた千鶴。


肇にとって。


家族への報告を終えて初めて。


U18日本代表候補になったことが、本当に実感できた気がした。


まだ。


日の丸を背負えると決まったわけではない。


候補。


ただそれだけ。


だからこそ。


一条監督が言った言葉を思い出す。


――候補になったことを喜ぶのは今日まで。


肇は自分の右手を見る。


甲子園で何度もボールを握った手。


160kmを投げた手。


そして。


全国制覇をつかんだ手。


次にこの手で握りたいものは。


日の丸を背負って投げる――白球。


「……絶対、選ばれる」


小さく呟いた。


甲子園の次は。


世界へ。


高橋肇の新しい目標が、はっきりと動き始めていた。



番外編⑾❶「家族への報告――甲子園の次は、日の丸を目指して」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。


今回はU18日本代表候補に選ばれたことを、肇自身の口から家族へ報告する回となりました。


父親。


母・由紀子。


双子の妹・真悠と眞衣。


甲子園を目指していた頃から肇を応援し、全国制覇の瞬間まで見届けてきた家族です。


だからこそ、甲子園の次に「U18日本代表候補」という知らせが届いたことは、家族にとっても大きな出来事でした。


特に真悠と眞衣にとっては、兄が日の丸のユニフォームを着るかもしれないというだけで大興奮。


一方、母親である由紀子が最初に心配したのは、やはり肇の身体でした。


甲子園では何試合も登板し、160km台のストレートも何度も投げた肇。


肩や肘に無理をしていないか。


甲子園が終わった直後だからこそ、代表入り以上に息子の身体を心配する由紀子の姿も描きました。


そして父親からの、


「次の目標ができたなら、全力で取りに行けばいい」


という言葉。


甲子園優勝をゴールにせず、さらにその先へ進もうとする肇の背中を、家族は再び押してくれます。


また今回は、富山第二から前薗晃大もU18日本代表候補になっています。


甲子園では「高橋肇」という名前が大きく注目されましたが、その160kmの球を受け、変化球を組み合わせ、試合を作ってきたのは前薗です。


もし二人とも正式に代表入りできれば――甲子園を制した富山第二のバッテリーが、今度は日の丸を背負って再び組む可能性もあります。


さらに崇道君彦、橘川玲央、白峰蓮司、神城颯真たち全国の強豪選手も候補入り。


甲子園ではライバル。


U18では仲間。


そんな新しい関係が生まれるかもしれません。


そして最後に肇が報告したのは、すでに候補入りを知っている千鶴。


「私も見たいです」


千鶴もまた、日の丸のユニフォームを着る肇の姿を楽しみにしています。


ただし――まだ候補。


正式な代表選手に選ばれたわけではありません。


だから肇が最後に胸へ刻んだのは、一条監督から言われた言葉。


「候補になったことを喜ぶのは今日まで」


甲子園全国制覇を成し遂げた右腕で、次は日の丸を背負って白球を投げるために。


高橋肇の次なる挑戦――U18日本代表への道が始まります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。