番外編⑽❶「全国の強豪たち――二十六道県、それぞれが見た高橋肇」
番外編⑽❶では、甲子園決勝の裏側――全国各地の強豪校で、高橋肇の活躍を見ていた高校球児たちの様子を描きました。
そして今回、物語開始からこれまで明確には記載してこなかった、肇が通っている高校の名前を初めて正式に明かしました。
その高校は――
私立富山第二高等学校。
富山県にある私立高校であり、高橋肇が野球部のエース兼四番として所属する学校です。
これまで物語の中では「肇の学校」「肇たちの高校」といった表現を中心にしてきましたが、甲子園優勝を果たし、全国的にその名が知られるようになった今回を一つの節目として、正式な高校名を登場させました。
そして全国制覇を成し遂げたことで、高橋肇だけではなく、
「富山県代表・私立富山第二高等学校」
という学校名そのものも、一気に全国の高校野球ファンへ知られることになります。
しかし今回の主役は、富山第二だけではありません。
北海道から鹿児島まで――。
全国二十六道県の強豪校。
甲子園へ出場した選手。
地方大会で涙を呑んだ選手。
U18日本代表経験者。
今年のU18日本代表入りを目指す選手。
ドラフト候補として注目される選手。
それぞれが甲子園決勝を見ながら、
「高橋肇とは、いったいどんな選手なのか」
「対戦してみたい」
「同じチームで戦ってみたい」
そんな思いを抱き始めます。
甲子園という一つの大きな物語は終わりました。
しかし今度は――全国の高校球児たちがつながっていく、新しい物語の始まりです。
甲子園決勝。
富山県代表・私立富山第二高等学校が健大高崎高校を九対四で破り、創立以来初となる全国制覇を成し遂げた――その頃。
日本全国。
北海道から鹿児島まで。
今回の甲子園に出場した選手。
地方大会で惜しくも敗れた選手。
過去にU18日本代表で戦った選手。
そして、これからU18日本代表入りを狙う高校球児たち。
彼らの間で、ある一人の名前が話題になっていた。
――高橋肇。
私立富山第二高等学校。
三年生。
エース兼四番。
最速160km。
高校通算70本塁打。
そして甲子園決勝では、二塁打、三塁打、満塁本塁打、単打を放ってサイクルヒットを達成。
さらに第五打席では3ラン本塁打。
投げては160kmのストレートだけではなく、スライダー、カーブ、シュートを操って完投。
あまりにも規格外。
だからこそ。
全国各地の強豪校では、同じような会話が始まっていた。
◇◇◇
北海道。
北海高校。
野球部の部室では、甲子園決勝の映像がテレビに映っていた。
三年生エース・北条冬馬。
捕手・白石拓真。
中堅手・大泉颯。
北条は腕を組みながら画面を見る。
「……160kmか」
白石が笑う。
「そこじゃないだろ」
「じゃあどこだよ」
「決勝でサイクル打って、その後もう一本ホームラン」
大泉が呆れたように言った。
「投手の成績じゃねえよな」
「高校通算70本だって」
北条は画面を見る。
「U18で選ばれたら、一回ブルペンで受けてみたいな」
白石。
「俺が受ける」
「捕手だからって独占するな」
「じゃあ誰が受けるんだよ」
三人が笑う。
しかし、その表情は真剣だった。
「高橋肇……」
「同じ高校生なんだよな」
◇◇◇
秋田県。
金足農業高校。
三年生投手・佐々木岳。
遊撃手・小野大地。
捕手・成田蓮。
佐々木がスマートフォンの記事を見ていた。
「SSS評価」
成田。
「もともとだろ?」
「決勝前からな」
小野が横から画面を見る。
「これ、ドラフト何位なんだろうな」
「一位候補だろ」
「投手として?」
「打者としてもだろ」
佐々木が首を振った。
「俺なら投手で見たい」
成田。
「俺なら打者」
小野。
「じゃあ二刀流でいいじゃん」
三人。
「……それだ」
◇◇◇
山形県。
鶴岡東高校。
三年生の右腕・庄司晴翔。
捕手・最上颯真。
右翼手・遠藤大河。
庄司は決勝の録画を巻き戻した。
「ここ」
画面には、肇のスライダー。
最上が身を乗り出す。
「曲がり幅すごいな」
「160より俺はこっちが気になる」
遠藤。
「でも俺は打撃」
「やっぱり?」
「満塁ホームランの後、サイクル狙える状況でちゃんと単打を打ってる」
庄司が頷く。
「ホームラン狙わなかったんだよな」
「そこが怖い」
◇◇◇
福島県。
聖光学院高校。
三年生投手・相馬悠成。
捕手・二階堂陸。
一塁手・白河大智。
相馬はニュースを見終えると、小さく息を吐いた。
「甲子園優勝か……」
二階堂。
「富山第二、強かったな」
白河。
「高橋だけじゃないけどな」
「そう」
相馬が頷く。
「前薗って捕手もいい」
二階堂が反応する。
「分かる?」
「高橋に160投げさせ続けてない」
「そこなんだよ」
捕手の二階堂は嬉しそうに言った。
「高橋ばっかり注目されるけど、前薗の配球かなり面白いぞ」
「U18なら?」
「二人とも候補だろ」
◇◇◇
新潟県。
日本文理高校。
三年生投手・長岡悠真。
三塁手・星野颯太。
捕手・新田航。
長岡。
「高校通算70本……」
星野。
「お前、そこ何回言うんだよ」
「俺、通算二本」
「比較するな」
新田が笑う。
「しかも160km」
「俺、最速143」
「だから比較するなって」
三人で笑った後。
長岡が真剣な顔になる。
「でもさ」
「ん?」
「U18で一緒になれたら、絶対話しかける」
「何聞く?」
「どうやったら160出るんですかって」
星野。
「普通だな」
◇◇◇
長野県。
松商学園高校。
投手・真田蓮。
捕手・小諸悠斗。
遊撃手・諏訪晴翔。
真田。
「俺、高橋と対戦したい」
諏訪。
「投手同士じゃ対戦できるだろ」
「打者・高橋と」
小諸。
「打たれるぞ」
「最初から決めつけるな」
「決勝で二塁打、三塁打、二本塁打だぞ」
「……やっぱり投げたくない」
二人が笑った。
◇◇◇
山梨県。
山梨学院高校。
エース・甲斐悠成。
捕手・富士川蓮。
外野手・八代翔。
甲斐は腕を組む。
「U18で高橋と同じ投手陣になったら」
富士川。
「うん」
「俺、多分登板減る」
八代が笑う。
「弱気になるなよ」
「160投げる奴がいるんだぞ!」
富士川。
「でも連戦なら投手は何人も必要だろ」
「……それもそうか」
甲斐が再び画面を見る。
「だったら一緒に日の丸背負ってみたい」
◇◇◇
岐阜県。
県立岐阜商業高校。
投手・長良拓海。
捕手・加納颯。
中堅手・飛騨悠人。
長良。
「高橋のカーブ、見た?」
加納。
「見た」
「160の後にあれ来たら無理じゃない?」
飛騨。
「打者からしたら嫌だろうな」
「お前なら?」
「初球から振る」
「160来たら?」
「……頑張る」
◇◇◇
静岡県。
常葉大学菊川高校。
三塁手・駿河大和。
投手・遠州蓮。
捕手・清水悠真。
駿河は肇の満塁本塁打を何度も見ていた。
「このスイング」
遠州。
「また見てる」
「速いんだよ」
清水。
「プロのスカウトみたいだな」
「打者として気になる」
「U18選ばれたら聞けよ」
「何を?」
「打ち方」
駿河が笑う。
「企業秘密って言われそう」
◇◇◇
愛知県。
中京大中京高校。
エース・尾張蓮司。
捕手・三河颯真。
一塁手・名古屋悠成。
尾張が言う。
「愛工大名電の連中も絶対見てるよな」
三河。
「東邦も」
名古屋。
「愛知のドラフト候補、みんな高橋の話してる」
尾張。
「そりゃするだろ」
そして。
「投手で160」
三河。
「打者で70本」
名古屋。
「甲子園優勝」
三人。
「……反則だろ」
◇◇◇
三重県。
三重高校。
投手・伊勢悠斗。
捕手・志摩大河。
左翼手・桑名翔。
伊勢。
「俺は白峰蓮司の方が完成度高いと思ってた」
志摩。
「決勝前までは?」
「うん」
桑名。
「今は?」
伊勢は少し考える。
「分からん」
「高橋?」
「白峰も高橋も、方向性が違いすぎる」
志摩が頷く。
「だから二人ともSSSなんだろ」
◇◇◇
滋賀県。
近江高校。
投手・琵琶悠真。
捕手・長浜蓮。
二塁手・彦根颯太。
長浜。
「前薗と話してみたい」
琵琶。
「高橋じゃなくて?」
「俺、捕手だから」
「なるほど」
「160投げる投手をどうリードしてるのか聞きたい」
彦根。
「本人に聞けば?」
琵琶。
「俺?」
「160投げる時どんな気持ちですかって」
「知らんわ」
◇◇◇
鳥取県。
鳥取城北高校。
投手・砂丘大地。
捕手・米子蓮。
遊撃手・倉吉悠真。
砂丘。
「富山第二って、今年一気に全国区になったな」
米子。
「優勝校だからな」
倉吉。
「高橋だけじゃなく、全員Bランク以上って評価されてたらしい」
砂丘。
「そりゃ強いわ」
米子。
「七十人全員で戦うって話もいいよな」
三人は黙って頷いた。
◇◇◇
島根県。
石見智翠館高校。
投手・出雲颯真。
捕手・松江大雅。
右翼手・石見悠斗。
出雲。
「俺、U18入りたい」
松江。
「急にどうした?」
「高橋と同じチームで投げたい」
石見。
「対戦じゃなくて?」
「味方の方がいい」
「正直だな」
◇◇◇
岡山県。
創志学園高校。
投手・吉備蓮司。
捕手・倉敷悠真。
三塁手・瀬戸大河。
吉備。
「高橋のシュート、結構えぐい」
倉敷。
「160ばっかり報道されるけどな」
「そこなんだよ」
瀬戸。
「スライダーもある」
「カーブも」
「それで打者として70本」
三人が沈黙する。
吉備。
「……何から対策すればいい?」
◇◇◇
山口県。
下関国際高校。
投手・長州颯太。
捕手・萩悠真。
中堅手・岩国大河。
長州。
「決勝で五打席五安打?」
萩。
「うん」
「七打点?」
「うん」
「投手?」
「うん」
「160?」
「うん」
長州は天井を見る。
「意味分からん」
◇◇◇
徳島県。
鳴門高校。
投手・阿波蓮。
捕手・渦潮悠斗。
遊撃手・徳島颯真。
阿波。
「U18の選考、相当激しくなるぞ」
渦潮。
「今年ドラフト候補多いからな」
徳島。
「高橋、白峰、橘川、崇道、神城……」
阿波。
「そこへ俺たちも入る」
渦潮。
「言ったな?」
「入る」
◇◇◇
香川県。
高松商業高校。
外野手・讃岐大河。
投手・高松悠成。
捕手・丸亀蓮。
讃岐。
「俺は打者として高橋と話したい」
高松。
「俺は投手」
丸亀。
「俺は前薗」
二人。
「また捕手は前薗か」
丸亀。
「当たり前だろ!」
◇◇◇
愛媛県。
済美高校。
投手・伊予悠真。
捕手・道後颯。
一塁手・松山蓮。
伊予。
「高橋、決勝でも最後まで投げたんだよな」
道後。
「そう」
「身体大丈夫かな」
松山。
「お前、敵の心配してるの?」
「同じ投手だからだよ」
道後が頷く。
「U18があるならなおさら休ませないとな」
◇◇◇
福岡県。
九州国際大付属高校。
投手・博多龍之介。
捕手・小倉大雅。
中堅手・筑紫悠斗。
博多。
「九州にもいい投手いるって見せたいな」
小倉。
「誰に?」
「高橋に」
筑紫。
「高橋が九州を下に見てるって聞いたことないぞ」
「気持ちの問題!」
◇◇◇
佐賀県。
佐賀北高校。
投手・有田蓮。
捕手・唐津颯太。
二塁手・吉野悠真。
有田。
「甲子園って何が起こるか分からないな」
唐津。
「決勝でサイクルだもんな」
吉野。
「しかもその後3ラン」
有田。
「漫画でもやりすぎって言われるぞ」
◇◇◇
長崎県。
創成館高校。
投手・長崎大河。
捕手・島原悠斗。
外野手・佐世保蓮。
長崎。
「俺、高橋に聞きたいことある」
島原。
「160の投げ方?」
「違う」
佐世保。
「ホームラン?」
「違う」
「じゃあ何?」
「緊張しないのか」
二人が黙る。
「……それは聞きたい」
◇◇◇
熊本県。
九州学院高校。
投手・火国悠真。
捕手・阿蘇大地。
遊撃手・熊本蓮。
火国。
「高橋って、決勝前夜も普通に寝られたのかな」
阿蘇。
「知らん」
熊本。
「本人に聞け」
火国。
「U18で一緒になったら聞く」
阿蘇。
「まず選ばれろ」
「お前もな!」
◇◇◇
宮崎県。
日南学園高校。
投手・日向颯真。
捕手・高千穂蓮。
中堅手・宮崎悠斗。
日向。
「高校通算70本」
高千穂。
「何?」
「俺もホームラン打ちたい」
宮崎。
「お前投手だろ」
「高橋も投手だろ!」
「それを基準にするな!」
◇◇◇
鹿児島県。
神村学園高校。
投手・薩摩大河。
捕手・霧島悠成。
左翼手・桜島蓮。
薩摩。
「俺は対戦したい」
霧島。
「高橋と?」
「うん」
桜島。
「打たれても?」
「それでも」
「何投げる?」
薩摩は少し考える。
「初球、ストレート」
霧島。
「満塁ホームラン打った球もストレートだったぞ」
「……じゃあフォーク」
◇◇◇
そして千葉県。
木更津総合高校。
投手・房総悠真。
捕手・成田大河。
中堅手・柏颯。
三人は練習終了後。
誰もいなくなったグラウンドのベンチで、甲子園決勝のハイライトを見ていた。
房総が言う。
「今年のU18」
成田。
「うん」
「高橋は入るだろうな」
柏。
「ほぼ確実じゃない?」
「白峰も」
「橘川も」
「神城も」
「崇道も候補」
房総がスマートフォンを閉じる。
「だったら」
二人が見る。
「俺たちもそこへ行こう」
成田が笑う。
「いいね」
柏も立ち上がる。
「全国の強豪から集まるんだろ?」
「ああ」
「なら面白そうだ」
◇◇◇
北海道。
秋田。
山形。
福島。
新潟。
長野。
山梨。
岐阜。
静岡。
愛知。
三重。
滋賀。
鳥取。
島根。
岡山。
山口。
徳島。
香川。
愛媛。
福岡。
佐賀。
長崎。
熊本。
宮崎。
鹿児島。
千葉。
二十六道県。
学校も違う。
ポジションも違う。
甲子園へ来た者。
地方大会で敗れた者。
U18経験者。
初めて代表入りを狙う者。
ドラフト候補。
大学進学を考える者。
それぞれの未来も違う。
しかし。
この日の彼らが見ていたものは同じだった。
富山県。
私立富山第二高等学校。
高橋肇。
甲子園優勝。
高校通算70本塁打。
最速160km。
決勝でのサイクルヒット。
そして二本塁打。
全国の高校球児たちの間で。
その名前は、完全に知られる存在となった。
だが。
肇自身はまだ知らない。
北海道から鹿児島まで。
これほど多くの選手たちが自分の投球と打撃を見て。
「一緒に戦ってみたい」
「対戦してみたい」
「話してみたい」
そう思い始めていることを。
そして――。
その中の何人かとは。
遠くない未来。
『U18日本代表』
という一つのチームで、本当に顔を合わせることになる。
甲子園は終わった。
だが。
全国の高校球児たちの夏は、まだ完全には終わっていなかった。
番外編⑽❶「全国の強豪たち――二十六道県、それぞれが見た高橋肇」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回はこれまでとは大きく視点を変え、高橋肇本人ではなく、全国各地の高校球児たちから見た「高橋肇」を描きました。
そして今回、もう一つ大きな設定が正式に明らかになりました。
高橋肇が通っている高校――
私立富山第二高等学校。
これまで長く「肇の学校」として描いてきた高校ですが、甲子園全国制覇という大きな節目を迎えたことで、今回初めて正式名称を明かしました。
富山第二高校。
野球部員七十人。
マネージャー十一人。
監督・一条昴。
エース兼四番・高橋肇。
捕手・前薗晃大。
主将・鈴木和誠。
そして多くの仲間たち。
地区大会から始まった彼らの最後の夏は、学校創立以来初となる甲子園優勝という最高の結果で幕を閉じました。
その中心にいた肇は、
高校通算70本塁打。
最速160km。
甲子園決勝で史上二人目となるサイクルヒット。
さらに同じ試合で二本塁打。
投手としても最後までマウンドを守り抜き、全国制覇を成し遂げました。
しかし、これほどの活躍をすれば当然――全国の同世代も黙ってはいません。
北海道。
東北。
関東。
甲信越。
東海。
近畿。
中国。
四国。
九州。
全国各地の強豪校で、
「高橋と対戦したい」
「同じチームで戦いたい」
「160kmを受けてみたい」
「打者として話してみたい」
「前薗のリードも気になる」
さまざまな声が上がり始めました。
これまで肇にとって彼らは、ニュースや大会結果で名前を見る全国の高校球児でした。
しかし、これから先は違います。
甲子園優勝によって全国へ名前を轟かせた肇。
そして、全国各地にいる同世代の強豪選手たち。
彼らを結びつける次なる舞台は――
U18日本代表。
敵だった選手が仲間になるのか。
まだ一度も対戦したことのない選手と初めて出会うのか。
そして、すでに二十四人のグループチャットでつながっている崇道君彦、橘川玲央、白峰蓮司、神城颯真たちとの関係はどう変わっていくのか。
甲子園全国制覇はゴールではありません。
富山県・私立富山第二高等学校の高橋肇。
その名前が全国へ広がったことで――新しい高校野球の物語が動き始めます。




