番外編⑼❸終「決勝の朝――七十人で挑む、創立以来初の全国制覇へ」
番外編⑼も、今回の❸で完結となります。
ついに迎えた――甲子園決勝当日の朝。
高橋肇たちの学校にとって、もしこの決勝で勝利すれば、創立以来初となる甲子園優勝です。
しかし、一条昴監督が最後まで選手たちへ伝えたのは、
「優勝旗を見るな」
「一球、一打、一アウトを積み重ねろ」
という言葉でした。
ここまで戦ってきたのは、レギュラー九人とベンチメンバー十一人だけではありません。
今回は、これまで名前が大きく出ることの少なかったベンチ外の野球部員五十人も全員登場。
投手。
捕手。
内野手。
外野手。
一年生。
二年生。
三年生。
七十人全員が同じ野球部です。
グラウンドに立てなくても。
ベンチに入れなくても。
練習を支え、スタンドから声を送り、マネージャー十一人と一緒に二万羽の千羽鶴を作ってきました。
そして決勝直前。
主将・鈴木和誠のスマートフォンと、甲子園アルプススタンドにいる部員のスマートフォンをテレビ電話でつなぎます。
ロッカールームの二十人。
スタンドの五十人。
離れた場所にいる七十人が――一つの円陣へ。
「何を取りに来た!」
「全国制覇!」
「誰で取る!」
「七十人!」
学校創立以来初となる甲子園優勝。
その歴史を作るための、最後の一日です。
さらに肇のスマートフォンには、二十四人のドラフト候補グループから一人ずつ応援メッセージが届きます。
崇道君彦。
橘川玲央。
白峰蓮司。
神城颯真。
これまで戦ったライバルたちから託される、
「全国制覇してこい」
という言葉。
高校最後の一試合。
すべての想いを胸に――。
いよいよ甲子園決勝のグラウンドへ向かいます。
夕食後。
高橋肇たち野球部員は、すぐに部屋へ戻ったわけではなかった。
ホテルのミーティングルーム。
そこには、レギュラーメンバー九人。
ベンチメンバー十一人。
そして一条昴監督。
計二十一人が集まっていた。
ホワイトボードには大きく、
『決勝 健大高崎高校』
と書かれている。
誰もが、いつも以上に静かだった。
ここまで来た。
地区大会を勝ち抜き。
甲子園へ来て。
横浜高校。
智辯和歌山高校。
大阪桐蔭高校。
東海大相模高校。
仙台育英高校。
いくつもの強豪校を倒した。
そして残された相手は――健大高崎高校。
勝てば全国制覇。
それも。
肇たちの学校にとっては、創立以来初となる甲子園優勝だった。
一条監督がゆっくり言った。
「全員、聞け」
「はい」
「明日」
少し間を置く。
「うちの学校は、創立以来初めて甲子園優勝に挑戦する」
空気が変わった。
「はい」
「今まで何度も甲子園には来た」
「はい」
「ベスト8も」
「はい」
「ベスト4も」
「はい」
「でも」
一条監督はホワイトボードを見る。
「優勝は一度もない」
誰も喋らない。
「だからって」
一条監督が全員を見る。
「お前たちが歴史を背負う必要はない」
肇が顔を上げた。
「明日は、学校のために野球をしなくていい」
「はい」
「OBのためでもない」
「はい」
「俺のためでもない」
「はい」
「お前たち自身のためにやれ」
そして。
「七十人で」
「はい!」
「高校最後の野球をやれ」
「はい!」
一条監督は最後に言った。
「優勝は、その結果としてついてくればいい」
肇が静かに拳を握る。
「監督」
「何だ?」
「でも」
「うん」
「俺は優勝します」
一条監督が少し笑う。
「知ってる」
前薗晃大。
「俺も」
鈴木和誠。
「俺も」
神谷悠斗。
「俺も」
藤堂拓海。
「俺も」
宮坂大智。
「もちろん」
桐生翔。
「ここまで来たら」
長谷川颯汰。
「最後まで」
相馬健吾。
「勝ちたいです」
一条監督は全員を見る。
「なら」
「はい」
「明日はそれをグラウンドで見せろ」
「はい!」
◇◇◇
ミーティング終了後。
二十人はそれぞれ部屋へ戻った。
肇は自分の部屋へ入ると、まずバッグの中から一枚の写真を取り出した。
そこに写っているのは。
あの千羽鶴。
『高橋肇』
『全国制覇』
地区大会前から。
マネージャー十一人。
そしてベンチ入りできなかった五十人の野球部員。
合計六十一人が折り続けた千羽鶴。
ベンチ入り二十人。
一人につき千羽。
合計二万羽。
肇は写真を机の上へ置く。
「明日」
小さく呟く。
「絶対、持って帰るからな」
その後。
スマートフォンを確認する。
由紀子から。
『今日は早めに寝なさい』
真悠。
『兄貴、明日頑張れ!』
眞衣。
『絶対応援する!』
そして千鶴。
『明日は皆さんの最後の一試合ですね。無理をせず、仲間を信じてください』
肇はしばらく画面を見つめる。
返信。
『分かってる』
さらに。
『明日、甲子園で』
送信。
千鶴から。
『はい。甲子園で』
それ以上は送らなかった。
明日。
応援席。
グラウンド。
離れた場所。
それでも。
同じ甲子園にいる。
肇はスマートフォンを伏せる。
ベッドへ横になる。
目を閉じる。
だが。
なかなか眠れない。
「……決勝か」
自分で口にすると。
さらに実感する。
高校最後の試合。
勝っても。
負けても。
高校野球の公式戦は終わる。
そして。
高校卒業。
プロ志望届。
ドラフト。
プロ野球。
そして最終的には。
千鶴へのプロポーズ。
まだ先にいくつもの未来がある。
でも。
その前に。
「明日」
肇はもう一度呟く。
「優勝する」
そしてようやく。
ゆっくりと目を閉じた。
◇◇◇
決勝当日の朝。
午前六時前。
肇は目を覚ました。
アラームが鳴る前だった。
「……早い」
身体を起こす。
肩を回す。
肘。
腰。
脚。
少し疲労は残っている。
でも。
痛みはない。
「大丈夫」
そこへ。
コンコン。
「肇」
前薗。
「起きてる?」
「起きてる」
扉を開ける。
「おはよう」
「おはよう」
前薗がいきなり聞く。
「肩」
「痛みなし」
「肘」
「大丈夫」
「腰」
「少し重い」
「ちゃんと監督に言え」
「言う」
前薗が頷く。
「よし」
肇。
「お前は?」
「大丈夫」
「本当に?」
「お前と同じ質問すんな」
二人が笑う。
「飯行こう」
「うん」
◇◇◇
朝食会場。
レギュラー。
ベンチメンバー。
そして。
ベンチ入りしていない五十人の野球部員たち。
この日だけは。
七十人全員が、同じ空気を共有していた。
ここで。
これまで本編では細かく触れられてこなかった五十人の部員たち。
彼らにも当然。
名前がある。
守備位置がある。
そして。
三年間の野球がある。
三年生。
投手――坂口悠真。
投手――柿崎凌平。
投手――杉山拓斗。
捕手――北村颯太。
捕手――大川湊。
一塁手――河合颯真。
二塁手――福本陽介。
三塁手――中川健斗。
遊撃手――森下大雅。
左翼手――平井颯。
中堅手――藤崎悠人。
右翼手――川島直樹。
外野手――松永蒼空。
内野手――野村晴紀。
内野手――岡田翔平。
外野手――城戸大和。
二年生。
投手――石川陽翔。
投手――松村蓮。
投手――金子大成。
投手――黒田海斗。
捕手――青木悠斗。
捕手――相川陽向。
一塁手――大西颯真。
二塁手――小森拓真。
三塁手――浜田颯。
遊撃手――橋本大輝。
左翼手――西村健吾。
中堅手――田辺蒼。
右翼手――遠藤悠生。
外野手――藤原拓海。
内野手――木村晴斗。
外野手――柴田悠河。
内野手――長岡颯介。
外野手――宮本琉生。
一年生。
投手――高瀬翔太。
投手――山本蓮司。
投手――北川陽斗。
捕手――佐久間大地。
捕手――大森蒼真。
一塁手――桜井悠人。
二塁手――石田拓海。
三塁手――松本颯太。
遊撃手――上原大翔。
左翼手――中村悠真。
中堅手――長谷部蒼空。
右翼手――池田陽向。
外野手――和田颯介。
内野手――前川琉生。
外野手――藤井晴翔。
内野手――山岸颯真。
合計五十人。
彼らは。
スタメンではない。
ベンチメンバーでもない。
テレビに大きく名前が映ることもほとんどない。
だが。
打撃投手を務めた。
守備練習で球出しをした。
道具を運んだ。
試合前のキャッチボールを手伝った。
スタンドから声を枯らした。
そして。
六十一人で。
二万羽の鶴を折った。
朝食中。
三年生投手・坂口悠真が肇のところへ。
「高橋」
「ん?」
「今日」
「うん」
「全部出してこい」
肇が笑う。
「お前もな」
坂口が少し驚く。
「俺はベンチ入ってないぞ」
「関係ない」
「え?」
「声出して」
「うん」
「応援して」
「うん」
「一緒に優勝して」
坂口が少し黙る。
そして。
「分かった」
二人が拳を合わせた。
◇◇◇
朝食終了。
出発準備。
マネージャー十一人。
篠崎美月。
相沢琴音。
西野七海。
高瀬彩花。
藤本美羽。
森下結菜。
小泉杏奈。
水川真帆。
山岸ひなた。
桜木莉子。
白石美琴。
全員がいつも以上に忙しく動き回っていた。
「水!」
「あります!」
「スポーツドリンク!」
「積みました!」
「氷!」
「大丈夫です!」
「救急バッグ!」
「確認済み!」
「タオル!」
「全部あります!」
篠崎美月が最後に。
「千羽鶴の写真も?」
琴音。
「みんなスマホに入れてます」
美月が頷く。
「じゃあ」
少し笑って。
「最後の一日」
十一人。
「はい!」
◇◇◇
ホテル前。
大型バス。
ベンチ入り二十人。
一条監督。
マネージャー十一人。
スタッフ。
彼らがまず甲子園へ向かう。
一方。
ベンチ外の五十人は、学校関係者や応援組とともに別のバスで甲子園へ。
そのため。
ホテル前。
出発前。
七十人全員が集まった。
主将・鈴木和誠が中央へ。
「全員いる?」
「いる!」
「最後だから」
鈴木がスマートフォンを取り出す。
「今日、球場着いてからも一回やろう」
肇。
「円陣?」
「そう」
前薗。
「七十人全員?」
「もちろん」
◇◇◇
そして。
甲子園到着後。
ベンチ入り二十人はロッカールーム。
五十人はアルプススタンド。
離れた場所になった。
それでも。
主将・鈴木和誠が言った。
「やろう」
スマートフォン。
テレビ電話。
相手は、スタンドにいる三年生の坂口悠真。
画面がつながる。
『聞こえる?』
鈴木。
「聞こえる!」
画面の向こう。
坂口の周囲には五十人。
「みんな映って!」
『狭い!』
『もっと寄れ!』
『一年そこ前!』
『二年後ろ!』
騒がしい。
それでも。
五十人が画面へ集まる。
ロッカールーム側。
鈴木。
高橋。
前薗。
神谷。
藤堂。
宮坂。
桐生。
長谷川。
相馬。
さらに十一人のベンチメンバー。
二十人。
そしてスマートフォンの向こう。
五十人。
七十人。
鈴木が言う。
「全員」
一気に静かになる。
「ここまで来た」
『おう!』
「地区大会」
『おう!』
「甲子園」
『おう!』
「一回戦!」
『おう!』
「二回戦!」
『おう!』
「三回戦!」
『おう!』
「準々決勝!」
『おう!』
「準決勝!」
『おう!』
そして。
鈴木が大声。
「残り何試合だ!」
七十人。
「一試合!」
「何を取りに来た!」
「全国制覇!」
「誰で取る!」
「七十人!」
鈴木が拳を上げる。
「学校創立以来!」
全員。
「初の!」
「甲子園優勝!」
そして。
二、三分。
声が止まらない。
「絶対勝つぞ!」
「おおおおお!」
「全国制覇!」
「おおおおお!」
「最後まで!」
「おおおおお!」
「七十人で!」
「おおおおお!」
「マネージャーも!」
「おおおおお!」
「全部連れて!」
「おおおおお!」
「甲子園の頂点!」
「取るぞおおおおおおおっ!」
ロッカールーム。
アルプススタンド。
離れている。
でも。
声は同じ。
気持ちも同じ。
一条監督は少し離れた場所から、その円陣を見ていた。
何も言わない。
ただ。
腕を組み。
小さく頷いた。
◇◇◇
円陣終了。
肇は一度ロッカーへ座った。
スマートフォン。
通知。
二十四人のドラフト候補グループ。
未読。
かなり多い。
開く。
崇道君彦。
『最後、楽しめ』
橘川玲央。
『優勝してこい』
白峰蓮司。
『決勝、全部出してこい』
神城颯真。
『高橋、全国制覇して報告しろ』
成瀬迅。
『決勝進出おめでとう。最後まで頑張れ』
水城拓真。
『捕手の前薗君にも頑張れって伝えて』
桐谷蒼生。
『最後の高校野球、楽しめ』
堂本龍輝。
『怪我だけはするな』
藤原慶士。
『七十人で勝ってこい』
北条悠真。
『捕手目線でも決勝見る』
佐伯海斗。
『甲子園の最後、思い切りやれ』
大河内蓮。
『全国制覇まであと一つ』
高瀬悠生。
『今日は球速よりアウトだぞ』
瀬戸蒼空。
『外野まで飛ばしてこい』
比嘉龍之介。
『沖縄から応援してる』
真田圭吾。
『決勝、絶対見る』
高倉翔馬。
『前薗君とのバッテリー、最後まで頑張れ』
佐々木悠成。
『ホームランでもヒットでも何でもいい。勝て』
牧野大河。
『肇、最後だぞ。楽しめ』
黒木晴翔。
『高校最後の試合、悔いなく』
榊原航平。
『投手として最後まで自分の球を信じろ』
南雲颯太。
『優勝報告待ってる』
さらに他のメンバーからも。
『頑張れ』
『優勝しろ』
『最後まで』
『怪我するな』
『高校最後の試合楽しめ』
一言ずつ。
肇は全部読んだ。
一人ずつ。
そして。
返信。
『みんなありがとう』
既読が増える。
『高校最後の一試合』
少し考える。
『全部出してきます』
そして。
『終わったら必ず報告します』
崇道。
『待ってる』
玲央。
『勝って来い』
白峰。
『全国制覇』
神城。
『行ってこい』
肇。
『行ってきます』
スマートフォンを閉じた。
◇◇◇
その頃。
アルプススタンド。
真悠。
眞衣。
父親。
由紀子。
そして。
東雲千鶴。
吹奏楽部三十人。
チアリーディング部。
学校関係者。
そしてベンチ外部員五十人。
全員が集まっている。
真悠が言う。
「今日で最後なんだね」
眞衣。
「勝っても最後」
「うん」
「負けても最後」
父親が二人を見る。
「だから」
「うん?」
「全部応援してこい」
真悠。
「もちろん」
眞衣。
「声なくなってもいい」
由紀子が千鶴を見る。
「千鶴」
「はい?」
「今日」
「はい」
「大丈夫?」
千鶴が少し笑う。
「緊張しています」
「でしょうね」
「でも」
「うん」
千鶴はグラウンドを見る。
「信じています」
誰を。
とは言わない。
野球部全員。
そういう意味。
でも。
由紀子には分かっていた。
その中でも。
特に一人。
肇。
千鶴は胸の中で静かに呟いた。
――肇さん。
――最後まで。
――頑張ってください。
◇◇◇
ロッカールーム。
一条監督が入ってくる。
「全員」
二十人が立つ。
「準備は?」
「できてます!」
「緊張してるか?」
何人か笑う。
「してます!」
一条監督も笑う。
「それでいい」
そして。
「学校創立以来初の甲子園優勝」
全員が聞く。
「それは結果だ」
「はい」
「試合中に考えるな」
「はい!」
「優勝旗も見るな」
「はい!」
「スコアボードの先も見るな」
「はい!」
「一球」
「はい!」
「一打」
「はい!」
「一アウト」
「はい!」
「一塁」
「はい!」
「それだけ積み重ねろ」
「はい!」
そして。
一条監督。
「最後」
肇を見る。
前薗。
和誠。
全員を見る。
「高校野球を楽しんでこい」
「はい!」
一条監督が手を出す。
二十人の手。
重なる。
「七十人で!」
「全国制覇!」
「行くぞおおおおおおおっ!」
「おおおおおおおおおおっ!」
扉が開く。
その向こう。
甲子園。
高橋肇は帽子を深く被る。
グラブを持つ。
一歩。
また一歩。
仲間たちと歩く。
全国制覇。
学校創立以来初の甲子園優勝。
そして。
高校最後の一試合。
すべてが。
もうすぐ始まる。
高橋肇は心の中で呟いた。
――七十人で。
――絶対に。
――優勝する。
そして選手たちは――。
全国の頂点を懸けた最後のグラウンドへ向かっていった。
番外編⑼❸終「決勝の朝――七十人で挑む、創立以来初の全国制覇へ」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
これにて番外編⑼は完結となります。
❶では、甲子園準決勝突破後の勝利インタビュー。
一条昴監督。
そして高橋肇。
二人が多くの記者から質問を受けました。
高校通算68本塁打。
最速160km。
高校卒業後のプロ入り。
二刀流への思い。
U18日本代表。
全国制覇。
肇自身の高校野球生活が終わりへ近づく中で、少しずつその先の未来についても語り始めています。
❷では、家族との時間。
母・由紀子には、
「甲子園で優勝する」
「高校を卒業する」
「プロ野球の世界へ進む」
そして最終的には、
「千鶴へプロポーズする」
という未来を改めて伝えました。
双子の妹・真悠と眞衣にも決勝への意気込みを伝え、最後は東雲千鶴へ。
「吹奏楽部として応援してください」
「心の中でも応援してください」
そして、
「愛してます」
学校では決して言うことのできない想いを、決勝前夜だからこそ電話越しに伝えました。
そして今回の❸。
最も大きなテーマとなったのは――「七十人」です。
これまでは試合へ出場する二十人が中心でした。
しかし、その二十人だけで甲子園決勝まで来たわけではありません。
ベンチ入りできなかった五十人。
彼らもまた、毎日の練習を一緒に過ごしてきました。
打撃投手を務めた者。
守備練習を手伝った者。
ボールを拾った者。
道具を運んだ者。
スタンドから声を枯らした者。
そしてマネージャー十一人とともに、地区大会前から千羽鶴を折ってきた者。
今回は、そんな五十人全員の名前とポジションも明らかになりました。
レギュラーでもなく。
ベンチメンバーでもない。
それでも、一人一人に名前があります。
一人一人に高校野球があります。
だからこそ決勝直前。
鈴木和誠がスマートフォンを取り出し、甲子園アルプススタンドの部員とテレビ電話をつないだ円陣には、大きな意味がありました。
ロッカールームにいる二十人。
スタンドにいる五十人。
画面越しではあっても――。
七十人全員が同じ円陣へ。
「何を取りに来た!」
「全国制覇!」
「誰で取る!」
「七十人!」
そして、
「学校創立以来初の甲子園優勝!」
二、三分にわたって叫び続けた七十人。
これまで何度も一条監督が言ってきた、
「七十人で戦う」
という言葉が、決勝を前に本当の形になりました。
さらに肇には、二十四人のドラフト候補グループから一人ずつメッセージ。
「最後、楽しめ」
「怪我するな」
「全国制覇してこい」
「優勝報告を待ってる」
崇道。
玲央。
白峰。
神城。
かつては敵だった選手たちも、今では同じ世代の野球仲間として肇を送り出します。
高校通算68本塁打。
70本まであと二本。
しかし、もう数字は重要ではありません。
最速160kmも。
本塁打数も。
ドラフト評価も。
決勝の九回が始まれば、すべて関係ありません。
必要なのは――。
相手より一点多く取ること。
そして二十七個のアウトを取ること。
勝てば。
学校創立以来初となる甲子園優勝。
そして高橋肇にとっても、高校野球最後の試合で全国の頂点へ立つことになります。
地区大会から始まった最後の夏。
六十一人が折った二万羽の千羽鶴。
野球部七十人。
マネージャー十一人。
一条監督。
吹奏楽部。
チアリーディング部。
学校の仲間。
家族。
由紀子。
父親。
真悠。
眞衣。
そして――千鶴。
さらに全国で出会ったライバルたち。
すべての想いを胸に。
次はいよいよ――甲子園決勝。
対戦相手は健大高崎高校。
高橋肇たちの高校最後の夏。
そして学校創立以来初の全国制覇を懸けた、本当の最終決戦が始まります。




