番外編⑼❷「決勝前夜――家族と千鶴へ伝えた約束、そして最後の対戦相手」
番外編⑼❷では、甲子園準決勝を突破し、決勝進出を決めた日の夕食前。
高橋肇が、まず家族へ自分の気持ちを伝えます。
最初に電話をかけた相手は――母・由紀子。
甲子園で優勝すること。
高校をきちんと卒業すること。
大学には進学せず、ドラフトを経てプロ野球の世界へ進みたいこと。
そしてその先で――東雲千鶴へ正式にプロポーズしたいこと。
高校一年生の頃から千鶴を想い続けてきた肇。
しかも千鶴は、由紀子にとって高校時代の後輩でもあります。
そんな二人の未来について、母と息子が改めて話します。
続いて、双子の妹・真悠と眞衣とは約十分間のテレビ電話。
準決勝で肇が申告敬遠され、最後は前薗晃大が試合を決めたこと。
高校通算68本塁打であること。
そして決勝への意気込み。
家族らしい少し賑やかな会話を交わします。
そして最後に電話するのは――千鶴。
「優勝してくる」
「吹奏楽部として応援してください」
「そして、心の中でも応援してください」
学校では決して言えない想いを電話越しに伝え、最後には、
「愛してます」
という言葉も。
そんな家族との時間を終えた直後。
マネージャーリーダー・篠崎美月から、もう一つの準決勝の結果が届きます。
健大高崎高校対青森山田高校。
その勝者こそ――高橋肇たちが甲子園決勝で戦う、最後の相手。
高校最後の夏。
いよいよ、全国制覇を懸けた最後の一試合へ向かいます。
勝利インタビューを終えた高橋肇がホテルへ戻った頃には、夕食まで少し時間が残されていた。
仙台育英高校との準決勝。
二対一。
九回裏のサヨナラ勝ち。
ついに甲子園決勝まで来た。
だが、まだ終わっていない。
高校最後の夏に残された試合は――あと一つ。
部屋へ戻った肇はベッドへ腰を下ろし、スマートフォンを手に取った。
二十四人のドラフト候補たちとのグループチャットは、先ほどまで大いに盛り上がっていた。
しかし、今度は別の人へ話したかった。
連絡先を開く。
『母さん』
由紀子。
肇は少しだけ画面を見つめてから、通話ボタンを押した。
数回の呼び出し音。
「もしもし?」
聞き慣れた母親の声。
「母さん?」
「肇? どうしたの?」
「今、大丈夫?」
「大丈夫よ。ホテルに戻ったの?」
「うん。インタビューも終わった」
由紀子は少し笑う。
「見たわよ」
「もう?」
「テレビでも取り上げられてたから。あんた、随分しっかり答えられるようになったじゃない」
「そこ?」
「昔だったら『絶対勝ちます!』『ホームラン打ちます!』しか言わなかったでしょう?」
「そんな子供じゃないよ」
「高校生でしょう」
「もう三年生」
「高校生には変わりないわよ」
肇も思わず笑った。
準決勝直後まで張り詰めていた気持ちが、母親の声を聞くだけで少しずつ緩んでいく。
「……母さん」
「何?」
「明日さ」
「うん」
「優勝してくる」
由紀子はすぐには答えなかった。
やがて、静かな声。
「うん」
「絶対とは言い切れないけど」
「それでいいのよ」
「でも、勝つつもりで行く」
「もちろん」
肇は少し黙った。
そして、もう一つ。
甲子園へ来る前から考えていた未来について話し始めた。
「母さん」
「うん?」
「俺、高校卒業したら大学には行かない」
「プロでしょう?」
「うん」
「今日のインタビューでも言ってたじゃない」
「見てたんだ」
「息子なんだから見るわよ」
「……それで」
肇はベッドの端へ座り直す。
「プロ志望届を出して、ドラフトで指名してもらえたら、その球団に行きたい」
「うん」
「投手一本になるかもしれないし、打者になるかもしれない。二刀流をやらせてもらえるかもしれない」
「まだ分からないものね」
「うん」
そして。
肇は少し声を小さくした。
「それから……」
由紀子には分かったらしい。
「千鶴ちゃん?」
「……うん」
「やっぱり」
「何で分かるんだよ」
「母親ですから」
肇は頭をかいた。
「俺さ」
「うん」
「甲子園で優勝したい」
「うん」
「高校をちゃんと卒業する」
「うん」
「プロに行く」
「うん」
「そこでちゃんと自分の人生を始めて……」
一度、息を吸う。
「最終的には千鶴にプロポーズする」
電話の向こうが静かになった。
「俺、千鶴と結婚したい」
由紀子はしばらく何も言わなかった。
肇は少し不安になる。
「母さん?」
「聞いてる」
「反対?」
「今さら?」
由紀子の声には少し笑いが混じっていた。
「肇が千鶴ちゃんをどれだけ好きなのか、私が知らないと思ってるの?」
「……知ってると思う」
「高校一年生の頃からでしょう」
「うん」
「最初に聞いた時は、私だって驚いたわよ」
「だよね」
「しかも私の高校時代の後輩が、息子の好きな人になるなんて想像したこともなかった」
肇は笑った。
「俺も後から知ったし」
「そうね」
由紀子の声が少し優しくなる。
「でもね、肇」
「うん」
「プロポーズするなら、その時は高校生じゃない」
「うん」
「プロ野球選手になるかもしれない」
「うん」
「今まで以上に自分の行動へ責任を持たなきゃいけなくなる」
「分かってる」
「千鶴ちゃんの人生も一緒に背負うことになるのよ」
肇は迷わなかった。
「それでも結婚したい」
「……そう」
「千鶴だから」
由紀子が小さく笑った。
「だったら、まず卒業しなさい」
「はい」
「その前に明日の決勝」
「はい」
「プロポーズの心配なんて明日はしなくていいから」
「分かってるよ」
「本当に?」
「一条監督にも同じこと言われそう」
「だったら監督の言うことを聞きなさい」
「はいはい」
「返事一回」
「はい」
二人で笑った。
最後に由紀子が言った。
「肇」
「何?」
「ここまで連れてきてくれてありがとう」
肇の表情が止まった。
「母さんたちを甲子園まで連れてきてくれたでしょう?」
「……俺だけじゃないよ」
「分かってる」
「七十人で来た」
「そうね」
「マネージャーもいる」
「うん」
「監督も」
「うん」
「みんなで来たから」
「だったら明日も、みんなで戦いなさい」
「うん」
「応援してる」
「ありがとう」
「怪我だけはしないでね」
「分かった」
「じゃあ夕食、ちゃんと食べなさい」
「母さんまでそれ言う?」
「母親だから言うの」
「はい」
通話を切る直前。
肇はもう一度言った。
「母さん」
「何?」
「明日、優勝してくる」
由紀子。
「待ってる」
通話が終わった。
◇◇◇
次に肇がかけたのはテレビ電話だった。
相手は――双子の妹。
真悠と眞衣。
すぐにつながる。
画面いっぱいに二人の顔。
「お兄ちゃん!」
「肇!」
「近い近い」
真悠が画面から少し離れる。
眞衣も笑っている。
「決勝進出おめでとう!」
「ありがとう」
「今日もすごかった!」
「見てた?」
「当たり前じゃん!」
眞衣も。
「ずっと応援してたよ!」
「聞こえてた?」
「絶対聞こえてない」
「じゃあ意味ないじゃん」
「気持ち!」
三人で笑う。
真悠が言う。
「でもさ」
「何?」
「お兄ちゃん、最後敬遠された時、ちょっと不満そうだった」
「分かった?」
「分かるよ」
眞衣。
「絶対、自分で決めたかったでしょう?」
「ちょっとだけ」
「ほら!」
「でも前薗が打ったからいい」
真悠が驚いたように。
「成長したね」
「お前まで言うな」
「前のお兄ちゃんなら絶対『俺が打ちたかった!』って言ってた」
「俺を何だと思ってるんだよ」
「野球馬鹿」
「否定できない」
眞衣が笑う。
「明日も投げるの?」
「まだ分からない」
「一条監督から聞いてない?」
「まだ」
「身体大丈夫?」
「疲れてはいる」
二人が同時に驚いた。
「えっ?」
肇が笑う。
「何?」
真悠。
「お兄ちゃんが自分から疲れてるって言った!」
眞衣。
「珍しい!」
「俺だって疲れるよ」
「いつも大丈夫って言うじゃん」
「監督と前薗から正直に言えって言われてる」
真悠が頷く。
「その方がいい」
「分かってる」
十分ほど。
試合。
ホテル。
甲子園。
学校のこと。
決勝のこと。
他愛のない話を続けた。
そして最後。
真悠が言った。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「明日」
「うん」
「頑張って」
眞衣も。
「絶対応援するから」
肇は微笑んだ。
「ありがとう」
「優勝してね!」
「任せろ」
「ホームランも!」
「そっちは約束しない」
「68本なんでしょう?」
「そう」
「あと二本!」
「お前まで言うな!」
二人が大笑いする。
「じゃあね!」
「ちゃんと寝てよ!」
「分かった」
「おやすみ!」
「まだ夕飯前だけど」
「じゃあ、またね!」
「うん」
テレビ電話が終了した。
肇は画面を見ながら小さく笑った。
「……本当に騒がしいな」
でも。
大切な妹たちだった。
◇◇◇
そして。
三人目。
肇は連絡先を開く。
東雲千鶴。
少しだけ指が止まった。
母親とも話した。
妹たちとも話した。
しかし。
千鶴には、また違う緊張がある。
通話ボタン。
数回。
「もしもし?」
「千鶴?」
「はい」
その声を聞いた瞬間。
肇は自然に笑っていた。
「今大丈夫?」
「大丈夫ですよ。吹奏楽部の子たちも夕食前で、それぞれ部屋へ戻っています」
「そっか」
「肇さんは?」
「俺も夕飯前」
「今日は本当にお疲れさまでした」
「ありがとう」
「九回まで投げていましたから、身体は大丈夫ですか?」
「疲れてる」
千鶴が少し黙る。
「肇さんが自分から言うなんて珍しいですね」
「みんな同じ反応するんだけど」
千鶴が笑う。
「だって、本当ですから」
「でも痛いところはない」
「それなら良かったです」
少し沈黙。
だが、嫌な沈黙ではない。
会えないからこそ。
声を聞いているだけで安心できる。
「千鶴」
「はい」
「明日」
「はい」
「優勝してくる」
千鶴の声が少しだけ柔らかくなる。
「はい」
「だから」
「はい」
「吹奏楽部の応援、お願いします」
「もちろんです」
「俺たちが攻撃してる時、いっぱい演奏して」
「三十人全員で応援します」
「あと」
肇が少し声を落とす。
「先生としてだけじゃなくて」
千鶴は何も言わない。
「心の中でも応援してください」
少し間があって。
「……はい」
「誰にも分からないように」
「もちろんです」
千鶴が静かに続ける。
「吹奏楽部顧問としては、野球部全員を応援します」
「うん」
「学校の教師としても、皆さん全員を応援します」
「うん」
そして。
「でも心の中では――」
千鶴はそこで止める。
肇が待つ。
「肇さんのことも、ちゃんと応援しています」
「ありがとう」
「ですから」
「ん?」
「無理だけはしないでください」
「分かってる」
「160kmを出そうとしない」
「分かってる」
「三振ばかり狙わない」
「分かってます」
「疲れたら監督に言う」
「……はい」
「今、間がありましたよ」
「言います」
千鶴が笑う。
「ならいいです」
肇も笑った。
そして。
夕食の時間が近づく。
長電話はできない。
「千鶴」
「はい?」
「そろそろ行く」
「はい。しっかり食べてきてください」
「分かった」
肇は一瞬迷った。
でも。
言いたかった。
「千鶴」
「はい」
「愛してます」
電話の向こうが静かになった。
「……急ですね」
「明日、試合前はちゃんと言えないから」
「そうですね」
「だから今言っておきたかった」
千鶴の頬が赤くなっていることを、肇は電話越しでも想像できた。
「俺、明日頑張る」
「はい」
「じゃあ」
「肇さん」
「ん?」
千鶴から。
「待っています」
短い言葉。
それだけで十分だった。
「うん」
「おやすみはまだ早いので……」
「また明日」
「はい」
「甲子園で」
「甲子園で」
通話が切れる。
肇はスマートフォンを胸元へ置いた。
「……よし」
立ち上がる。
夕食へ向かおうとした。
その時だった。
コンコン。
部屋の扉。
「肇ー!」
外から声。
篠崎美月。
マネージャーリーダーだった。
「何?」
扉を開ける。
美月は一枚の資料を持っていた。
その表情は少し興奮している。
「決まった」
肇がすぐに理解する。
「第一試合?」
「うん」
今日行われていた、もう一つの準決勝。
その結果。
つまり。
甲子園決勝の対戦相手。
「どっち?」
美月が資料を見る。
「第一試合――」
肇も表情を引き締める。
「健大高崎高校対青森山田高校」
「うん」
「結果は――」
美月が告げる。
「健大高崎高校、4対3、青森山田高校」
肇の目が変わった。
「……健大高崎」
「うん」
「九回まで接戦だったみたい」
「4対3……」
「青森山田も最後まで追い上げたけど、一点届かなかった」
美月は資料を肇へ渡す。
「だから」
そこには大きく記されていた。
『甲子園大会 決勝』
『高橋肇所属校 対 健大高崎高校』
肇はしばらく、その文字を見つめていた。
健大高崎高校。
群馬県代表。
機動力。
走塁。
積極的な攻撃。
堅い守備。
投手陣。
ここまで甲子園を勝ち抜いてきた、最後の相手。
「監督から、夕食後に全員で映像を見るって」
「分かった」
「美月」
「何?」
「ありがとう」
「うん」
美月は少し笑う。
「ついに最後だね」
「うん」
「地区大会前からずっと見てきたけど」
「うん」
「本当に決勝まで来たんだね」
肇は資料を見る。
「まだ終わってない」
美月も頷く。
「そうだね」
「あと一つ」
「うん」
「千羽鶴」
美月が肇を見る。
「二万羽分」
「うん」
「全部連れて行く」
美月は笑った。
「お願いします」
◇◇◇
夕食会場。
すでに部員たちが集まり始めていた。
前薗晃大。
鈴木和誠。
神谷悠斗。
藤堂拓海。
宮坂大智。
桐生翔。
長谷川颯汰。
相馬健吾。
ベンチメンバー。
そして他の部員たち。
肇が入ってくる。
鈴木がすぐ聞いた。
「肇、聞いた?」
「聞いた」
前薗。
「健大高崎」
「4対3」
藤堂。
「青森山田も強かったけどな」
神谷。
「最後まで分からなかった」
宮坂。
「決勝か……」
誰かがその言葉を口にすると。
一瞬。
全員が静かになった。
決勝。
本当に。
ここまで来た。
一条監督が入ってくる。
「座れ」
全員が席につく。
「もう聞いていると思う」
一条監督が言う。
「決勝の相手は健大高崎高校だ」
「はい!」
「だが分析は飯の後だ」
少し笑いが起きる。
「まず食え」
「はい!」
「明日のために食うのも練習だ」
「はい!」
肇も席につく。
料理を見る。
母親から言われた。
――夕食、ちゃんと食べなさい。
千鶴からも。
――しっかり食べてきてください。
肇は小さく笑う。
前薗が気づく。
「何笑ってんの?」
「別に」
「気持ち悪いぞ」
「うるさい」
もちろん前薗は知らない。
肇が少し前まで千鶴と電話していたことも。
「愛してます」
と伝えたことも。
肇と千鶴が恋人であることも。
他の仲間たちも知らない。
それでいい。
今は。
秘密は秘密のまま。
肇は箸を持った。
明日の相手は決まった。
健大高崎高校。
甲子園決勝。
高校生活最後の公式戦。
全国制覇を懸けた最後の九回。
母親には伝えた。
真悠と眞衣にも伝えた。
千鶴にも伝えた。
そして千鶴には――。
愛していると伝えた。
もう迷うことはない。
食事を終えれば、健大高崎高校の分析。
その後は身体を休める。
そして明日。
甲子園へ行く。
肇は心の中で静かに呟いた。
――千鶴。
――見てて。
――絶対に最後まで戦ってくるから。
地区大会から始まった高校最後の夏。
残された試合は、とうとう一つだけになった。
甲子園決勝。
対戦相手――健大高崎高校。
高橋肇にとって。
仲間たちにとって。
そして彼らを支えてきたすべての人たちにとって。
高校最後の夏、その最終決戦が迫っていた。
番外編⑼❷「決勝前夜――家族と千鶴へ伝えた約束、そして最後の対戦相手」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は野球そのものではなく、決勝進出を決めた肇が、大切な人たちへ自分の気持ちを伝える時間を描きました。
まず母・由紀子。
肇は以前から、高校卒業後は大学へ進学せず、プロ野球の世界へ進みたいと考えています。
そして今回、その先についても改めて口にしました。
「最終的には千鶴にプロポーズする」
甲子園で優勝する。
高校を卒業する。
プロ志望届を提出する。
ドラフト会議で指名される。
プロ野球選手として新しい人生を始める。
そして――千鶴との未来へ進む。
まだ高校三年生の肇ですが、自分の中ではその将来像が少しずつ明確になっています。
それに対して由紀子が伝えたのは、
「まず卒業しなさい」
そして、
「千鶴ちゃんの人生も一緒に背負うことになる」
という母親としての言葉でした。
好きという気持ちだけではなく、結婚には責任も伴います。
それでも肇は迷わず、
「千鶴だから」
と答えました。
二人の関係を以前から知っている由紀子だからこそ、反対するのではなく、息子が大人になるまで見守ろうとしています。
そして真悠と眞衣。
双子の妹たちとのテレビ電話は、少し賑やかな時間になりました。
「前薗さんが決めたね」
「お兄ちゃん、ちょっと自分で打ちたそうだった」
「高校通算68本なんでしょう?」
「あと二本で70本!」
家族だからこそ遠慮なく言われる言葉に、肇も普段の高校生らしい顔へ戻ります。
ただし本人は、高校通算70本よりも全国制覇。
記録よりも最後の一勝。
そこはすでに決まっています。
そして今回の中心となったもう一つの電話。
東雲千鶴。
学校では教師と生徒。
吹奏楽部顧問と野球部員。
前薗晃大も。
鈴木和誠も。
他の野球部員たちも、二人が恋人同士であることは知りません。
だから決勝当日も、千鶴は表向きには野球部全員を応援する教師です。
しかし肇は、
「心の中でも応援してください」
とお願いしました。
千鶴も、
「心の中では肇さんのことも、ちゃんと応援しています」
と答えます。
そして電話を切る直前。
肇から伝えた、
「愛してます」
という言葉。
決勝直前の甲子園では口にすることのできない言葉だからこそ、前夜の電話で伝えました。
そして最後。
篠崎美月から届いた、もう一つの準決勝結果。
健大高崎高校――4。
青森山田高校――3。
一点差の接戦を制したのは、健大高崎高校。
これにより、甲子園決勝の組み合わせが正式に決まりました。
高橋肇たちの学校。
対――健大高崎高校。
とうとう最後の相手です。
ここまで、
横浜高校。
智辯和歌山高校。
大阪桐蔭高校。
東海大相模高校。
仙台育英高校。
数々の強豪校を倒してきました。
そして残された最後の一校が、健大高崎高校。
六十一人が折った二万羽の千羽鶴。
野球部七十人。
マネージャー十一人。
一条昴監督。
真悠。
眞衣。
父親。
由紀子。
そして千鶴。
すべての想いとともに向かう――高校最後の公式戦。
甲子園決勝。
全国制覇まで、本当にあと一勝となりました。




