番外編⑼❶「決勝進出のその裏で――一条監督と高橋肇、記者たちに囲まれた勝利インタビュー」
番外編⑼❶では、甲子園準決勝を二対一で制し、ついに決勝進出を決めた直後の裏側を描きます。
試合が終われば、すぐに休めるわけではありません。
まず待っていたのは――勝利インタビュー。
一条昴監督の周囲には、約二十人もの記者。
準々決勝以降、勝利監督として注目を集め続けてきた一条監督へ、
「高橋を九回まで続投させた理由は?」
「前薗とのバッテリーをどう評価している?」
「決勝でも高橋を先発させるのか?」
「七十人で戦うという言葉の意味は?」
と、次々に質問が飛びます。
そして高橋肇にも――。
勝利投手として多くの記者が集まります。
最速160km。
高校通算68本塁打。
投手と四番を兼任するドラフト候補。
高校卒業後は大学へ進学するのか。
プロ野球へ進むのか。
二刀流を続けたいのか。
高校通算70本を意識しているのか。
全国制覇と個人記録、どちらを優先するのか。
約二十もの質問に、肇自身の言葉で答えていきます。
そして、その日の夜。
今度は二十四人のドラフト候補が集まるグループチャットから、
「決勝進出おめでとう」
という大量のメッセージ。
崇道君彦。
橘川玲央。
白峰蓮司。
神城颯真。
甲子園で戦ったライバルたちからも、次々と祝福が届きます。
高校通算68本。
70本まであと二本。
しかし肇が今、一番欲しいものは記録ではありません。
高校最後の一試合。
そして――全国制覇。
甲子園決勝を前にした、グラウンドの外での一日です。
甲子園準決勝。
仙台育英高校との一戦。
九回裏。
一対一。
一死満塁。
四番・高橋肇が申告敬遠された後。
打席へ入った前薗晃大が三塁方向へ強い打球を放ち、その間に鈴木和誠がホームへ生還。
二対一。
サヨナラ勝ち。
高橋肇たちは、ついに甲子園決勝進出を決めた。
野球部七十人。
マネージャー十一人。
そして応援席。
全員が歓喜に包まれている。
しかし――。
試合終了後。
一条昴監督と高橋肇には、まだもう一つ大きな仕事が残っていた。
甲子園球場内に設けられた取材エリア。
そこには、すでに大勢の記者が待ち構えていた。
一条監督がその場所へ姿を現した瞬間。
「一条監督!」
「こちらお願いします!」
「今日の采配について!」
「決勝進出の率直な感想を!」
「高橋投手を九回まで続投させた理由は!」
次々と声が飛んでくる。
一条監督は少し苦笑しながら、用意された席へ座った。
「すごい人数だな……」
周囲には約二十人の記者。
新聞。
スポーツ紙。
テレビ局。
高校野球専門誌。
インターネットメディア。
準々決勝以降、一条監督は勝利監督として連日のように取材を受けていた。
大阪桐蔭高校戦。
東海大相模高校戦。
そして仙台育英高校戦。
三試合連続で一点差。
しかも、
一対〇。
一対〇。
二対一。
当然、注目されないはずがなかった。
「ではお願いします」
一人の記者が最初に手を挙げる。
「まず、決勝進出を決めた今のお気持ちを教えてください」
一条監督は少しだけ考えた。
「嬉しいです」
そして続ける。
「ただ、それ以上に選手たちがよくここまで耐えてくれたと思います」
「準々決勝、三回戦、そして準決勝と接戦が続いています」
「はい」
「どの試合も一球で終わるような試合でした」
別の記者。
「今日、九回まで高橋投手を続投させた理由は?」
「本人の状態と、捕手の前薗の判断です」
「前薗選手にも確認された?」
「はい」
「私は高橋本人だけを見て決めているわけではありません」
一条監督は答える。
「前薗が一番近くで球を受けていますから」
「球威が落ちている」
「制球が乱れている」
「何か違和感がある」
「そういう部分は捕手の方が分かる時があります」
「では、前薗選手の意見もかなり重視している?」
「当然です」
◇◇◇
三人目。
「高橋選手に三振を狙わせすぎないようにした意図は?」
「ここまでの登板数です」
「高橋は今大会、かなり投げています」
「だから全部の打者を力でねじ伏せる必要はない」
「守備がありますから」
四人目。
「今日も守備陣が高橋投手を助けました」
「そうですね」
「むしろ、そこが今日一番良かったところです」
五人目。
「一条監督は以前から『七十人で戦う』と話されています。決勝でもその考えは?」
一条監督は即答した。
「変わりません」
「ベンチ入りしている二十人だけでここまで来たわけではないですから」
「練習を支える部員もいます」
「スタンドで応援する部員もいます」
「マネージャーもいます」
「全員です」
六人目。
「先日、マネージャーとベンチ外部員が千羽鶴を作っていたという話も聞きました」
一条監督が少し笑う。
「選手たちは本当に驚いていましたね」
「監督は知っていたんですか?」
「途中からです」
「二十人分で二万羽というのは?」
「私も最初聞いた時は『本当にやるのか』と思いました」
記者たちから少し笑いが起きる。
七人目。
「その千羽鶴は選手たちの力になっている?」
「なっています」
「ただし、プレッシャーにはしてほしくありません」
「願いですから」
「重荷ではなく、背中を押してくれるものとして受け取ってほしいです」
◇◇◇
八人目。
「準決勝で仙台育英高校がスクイズを仕掛けて同点にしました。その場面は?」
「ある程度想定していました」
「ただ、止められませんでした」
「そこは相手が上手かったです」
九人目。
「それでも動揺はなかった?」
「少なくとも選手たちは以前より落ち着いていました」
「高橋もすぐ切り替えていました」
十人目。
「高橋投手の精神的な成長を感じますか?」
「かなり」
一条監督は少し笑った。
「昔なら自分で全部やろうとしていました」
「今は?」
「前薗に頼る」
「守備に頼る」
「黒崎や早川たち投手陣にも任せる」
「ずいぶん変わりました」
十一人目。
「決勝では高橋投手を先発させますか?」
一条監督は即答しなかった。
記者たちが一斉にペンを構える。
「まだ言いません」
笑いが起きる。
「相手もまだ分析します」
「高橋の身体も見ます」
「黒崎、早川、久我もいます」
十二人目。
「決勝でも奇策はありますか?」
「それも言いません」
また笑い。
十三人目。
「高橋選手自身は『全国制覇』を何度も口にしています」
「はい」
「監督としては?」
「今までは言わせてもいいと思っていました」
「でも決勝は?」
「最後の一試合です」
一条監督は少し表情を引き締める。
「今度こそ、本当に全国制覇を取りに行きます」
◇◇◇
十四人目。
「大阪桐蔭、東海大相模、仙台育英という強豪を連続で破りました。チームとしてどこが一番成長しましたか?」
「一点を大切にできるようになったことです」
「以前は?」
「長打で一気に取ることを考えすぎていました」
「特に高橋がいるので」
「今は送りバントでもいい」
「犠牲フライでもいい」
「四球でもいい」
「一点入ればいい」
十五人目。
「前薗選手が二試合続けて決勝打を放っています」
「本当に助けられています」
「高橋が警戒される分、五番の前薗は重要です」
十六人目。
「前薗選手と高橋投手のバッテリーについて」
「信頼関係が強いです」
「ただ、よく喧嘩もします」
記者たちが笑う。
「試合中にですか?」
「軽くですけど」
「『力むな』『分かってる』『分かってない』みたいな」
さらに笑いが起きる。
十七人目。
「高橋投手の球速について、今大会160kmも記録しています」
「球速はもうどうでもいいです」
一条監督はきっぱり答えた。
「決勝で140km台でも抑えればそれでいい」
十八人目。
「では160kmを狙わせない?」
「狙わせません」
十九人目。
「高校通算本塁打数も注目されていますね」
「はい」
「現在六十八本です」
高橋肇の高校通算本塁打――六十八本。
甲子園三回戦。
大阪桐蔭高校戦で放ったサヨナラ本塁打が、高校通算68号。
その後。
東海大相模戦では三塁打。
仙台育英戦でも二塁打。
本塁打数そのものは六十八本のままだった。
そして二十人目。
「決勝を前に、選手たちへ一言お願いします」
一条監督は少し考えた。
そして。
「楽しめ」
その一言。
「ここまで来たんです」
「最後くらい」
「緊張も怖さも全部持ったまま、甲子園を楽しんでほしいです」
◇◇◇
一方。
その少し離れた取材スペース。
今度は高橋肇。
こちらにも約十人の記者が待っていた。
だが。
実際に質問される内容は、次から次へと続いていった。
「高橋選手!」
「お願いします!」
肇は少し緊張した表情で椅子へ。
「……よろしくお願いします」
一人目。
「まず、決勝進出を決めた率直な感想は?」
「嬉しいです」
「でも」
肇は少し笑った。
「まだ一試合あります」
二人目。
「今日も九回まで投げました。疲労は?」
「あります」
記者たちが少し驚く。
以前なら「大丈夫」と答えていたかもしれない。
「でも痛みはありません」
「疲れていることは認めるようになった?」
「監督と前薗に言われました」
笑いが起きる。
三人目。
「前薗選手がまた決勝打でした」
肇が笑う。
「最近、俺より打ってる気がします」
「嫉妬は?」
「ないです」
「本当に?」
「勝てれば誰が打ってもいいです」
四人目。
「以前からそうでしたか?」
肇は少し考えた。
「いや」
「前は自分で決めたいと思ってました」
「今は?」
「仲間が決めても嬉しいです」
◇◇◇
五人目。
「今大会、160kmを記録しました。決勝でも狙いますか?」
「狙いません」
即答。
「出たら?」
「出たら出たで」
「目的は?」
「アウトです」
六人目。
「現在、高校通算本塁打は何本ですか?」
「六十八本です」
「70本を意識していますか?」
「全然」
「あと二本ですが?」
「本当に意識してないです」
「決勝で二本出れば70本ですよ?」
肇は笑う。
「それより優勝したいです」
七人目。
「では高校通算70本より全国制覇?」
「比べるまでもないです」
八人目。
「大阪桐蔭戦で68号となるサヨナラ本塁打を打ちました」
「はい」
「その後、本塁打が出ていないことは気になりますか?」
「気になりません」
「東海大相模戦は三塁打」
「はい」
「今日も二塁打」
「はい」
「長打は出ています」
「塁に出ればいいので」
◇◇◇
九人目。
「あなたは投手としても打者としてもドラフト候補です。高校卒業後は大学進学ですか?」
肇の表情が少し真剣になる。
「大学には行かないつもりです」
記者たちのペンが一斉に動く。
「ではプロ志望?」
「はい」
「プロ野球の世界へ行きたいです」
十人目。
「プロ志望届も?」
「時期が来たら出したいと思っています」
十一人目。
「希望球団はありますか?」
「今はありません」
「どこでも?」
「指名していただけるだけでありがたいです」
十二人目。
「投手と打者、プロではどちらを?」
肇は少し考える。
「できるなら両方やりたいです」
「二刀流?」
「簡単じゃないのは分かっています」
「でも挑戦はしてみたいです」
◇◇◇
十三人目。
「白峰蓮司選手、崇道君彦選手、橘川玲央選手など同世代のドラフト候補とは交流がありますか?」
肇は少しだけ迷って。
「あります」
「連絡を取っている?」
「はい」
「どんな話を?」
「野球です」
「ドラフトも?」
「少し」
十四人目。
「今年のU18日本代表への意欲は?」
「選ばれたら嬉しいです」
「同世代の選手たちと日の丸を背負いたい?」
「はい」
十五人目。
「今大会で最も印象的だった投手は?」
肇は少し考える。
「白峰」
「大阪桐蔭の?」
「はい」
「打てなかったから?」
「それもあります」
「神城もすごかったです」
十六人目。
「最も印象的だった打者は?」
「橘川」
「智辯和歌山?」
「はい」
「俺から何本も打ってきたので」
◇◇◇
十七人目。
「準決勝前から全国制覇を意識していましたか?」
「甲子園に来る前からです」
「地区大会から?」
「はい」
「ずっと?」
「ずっとです」
十八人目。
「一条監督の采配について、高橋選手から見てどうですか?」
肇は少し笑った。
「俺がやりたいことを止める人です」
記者たちが笑う。
「具体的には?」
「もっと投げたいって言ったら止めます」
「もっと打ちたいって言ったら止めます」
「160出したいって言ったら『いらない』って」
さらに笑い。
「でも?」
「全部正しいです」
「今だから分かります」
十九人目。
「決勝で自分が決勝打を打ちたいですか?」
肇は少し考える。
「打てたら嬉しいです」
「でも」
「前薗でも、和誠でも、宮坂でも」
「誰でもいいです」
「最後に一点多ければ」
そして二十人目。
「最後に、決勝へ向けてお願いします」
肇は正面を見る。
たくさんの記者。
カメラ。
マイク。
その向こう。
応援してくれている人たちを思い出す。
一条監督。
野球部七十人。
マネージャー十一人。
父親。
由紀子。
真悠。
眞衣。
そして。
誰にも言えない――千鶴。
「最後の一試合」
肇は言った。
「七十人で勝ちます」
少し間。
「全国制覇して帰ります」
◇◇◇
その日の夜。
取材。
身体のケア。
夕食。
ミーティング。
すべてを終えた肇は、ホテルの部屋でようやくスマートフォンを開いた。
通知。
「……多っ」
二十四人のドラフト候補グループ。
未読が大量に溜まっている。
開く。
最初。
崇道君彦。
『決勝進出おめでとう』
橘川玲央。
『また勝ったな』
白峰蓮司。
『決勝まで行ったか』
神城颯真。
『おめでとう』
さらに次々。
成瀬迅。
『高橋、決勝おめでとう!』
水城拓真。
『あと一つだな』
桐谷蒼生。
『準決勝見た』
堂本龍輝。
『九回まで投げるのすごいけど無理するな』
藤原慶士。
『前薗君また打ったな』
北条悠真。
『捕手として前薗君すごい』
佐伯海斗。
『決勝楽しみにしてる』
大河内蓮。
『優勝まであと一つ』
高瀬悠生。
『決勝も投げる?』
瀬戸蒼空。
『高校最後の一試合、楽しめ』
比嘉龍之介。
『沖縄から見る』
真田圭吾。
『全国制覇してこい』
高倉翔馬。
『前薗君によろしく』
佐々木悠成。
『外野まで飛ばしてこい』
牧野大河。
『肇、決勝おめでとう!』
黒木晴翔。
『本当にここまで来たな』
榊原航平。
『投手として最後まで頑張れ』
南雲颯太。
『決勝絶対見る!』
そして。
さらに何人ものメッセージ。
『おめでとう!』
『全国制覇まであと一勝!』
『頑張れ!』
『怪我だけはするな』
『最後楽しめ』
肇は画面を見ながら、しばらく黙っていた。
少し前まで。
ほとんど知らなかった選手もいる。
甲子園で戦った選手もいる。
戦っていない選手もいる。
U18日本代表経験者もいる。
これからプロを目指す選手たち。
二十四人。
全員。
今は。
肇の決勝進出を祝ってくれている。
肇は返信した。
『みんなありがとう』
既読が一気に増えていく。
『ここまで来ました』
そして。
『あと一試合』
少し考える。
『絶対勝つとは言います』
『でも』
『まず最後の高校野球を楽しんできます』
白峰。
『それでいい』
玲央。
『珍しく監督みたいなこと言う』
肇。
『成長したから』
崇道。
『自分で言うな』
神城。
『高橋らしい』
笑いのスタンプ。
そして玲央。
『高校通算68本だろ?』
肇。
『そう』
『あと2本で70』
肇。
『記者にも言われた』
白峰。
『狙う?』
肇。
『狙わない』
神城。
『絶対少し狙ってる』
肇。
『本当に狙わない!』
崇道。
『でも甘い球来たら?』
肇。
『打つ』
玲央。
『ほら』
チャットが一気に盛り上がる。
肇も笑った。
そして。
最後に一つ送った。
『決勝終わったらまた話そう』
崇道。
『了解』
玲央。
『勝ってから来い』
白峰。
『待ってる』
神城。
『全国制覇して報告しろ』
肇は画面を見る。
『分かった』
『行ってくる』
送信。
スマートフォンを置く。
今日。
勝利投手として十人以上の記者に囲まれた。
高校通算68本。
最速160km。
ドラフト。
プロ。
U18。
二刀流。
色々なことを聞かれた。
しかし。
今の肇にとって。
一番大切なのは、そのどれでもない。
高校最後の一試合。
甲子園決勝。
全国制覇まで――。
あと一勝だった。
番外編⑼❶「決勝進出のその裏で――一条監督と高橋肇、記者たちに囲まれた勝利インタビュー」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、甲子園準決勝の勝利直後。
普段はあまり描かれていなかった「試合後の取材」に焦点を当てました。
まず一条昴監督。
準々決勝以降、
大阪桐蔭高校。
東海大相模高校。
仙台育英高校。
全国でも知られる強豪校を次々に破ったことで、一条監督自身にも大きな注目が集まっています。
しかも直近三試合は、
大阪桐蔭高校戦――一対〇。
東海大相模高校戦――一対〇。
仙台育英高校戦――二対一。
すべて一点差。
当然ながら、
「なぜ高橋を続投させたのか」
「なぜ球速を追わせないのか」
「なぜ守備に任せるようになったのか」
という采配について、記者から次々と質問されました。
しかし一条監督が一貫しているのは、
「高橋一人では勝てない」
という考えです。
高橋。
前薗。
レギュラー。
ベンチメンバー。
ベンチ外部員。
マネージャー。
七十人全員で甲子園を戦う。
その考え方は、決勝でも変わりません。
そして高橋肇。
こちらも、今や全国から注目される選手となりました。
投手として最速160km。
打者として高校通算68本塁打。
甲子園一回戦では一試合4本塁打。
二回戦では3本塁打。
大阪桐蔭高校戦では、高校通算68号となるサヨナラ本塁打。
その後はホームランこそ出ていませんが、
東海大相模高校戦では三塁打。
仙台育英高校戦では二塁打。
長打力そのものは変わっていません。
そして記者から当然聞かれた、
「高校通算70本を意識していますか?」
という質問。
現在68本。
決勝で二本打てば――70本。
しかし肇の答えは、
「それより優勝したいです」
でした。
以前の肇なら、70本という数字にも強くこだわったかもしれません。
ですが今は、
「最後にチームが一点多ければいい」
という考えへ変化しています。
準々決勝。
準決勝。
二試合連続で最後の一打を放ったのは前薗晃大。
それを肇自身が心から喜べるようになったことも、大きな成長でしょう。
そしてもう一つ重要だったのが、将来についての質問。
肇ははっきりと、
「大学には行かないつもりです」
「プロ野球の世界へ行きたいです」
と答えました。
さらに投手と打者の両方を続ける、
「二刀流」
への挑戦にも意欲を見せています。
もちろん、まだドラフト会議は先。
どの球団から指名されるのかも分かりません。
それでも、高校卒業後の進路は少しずつ明確になっています。
そして夜。
二十四人のドラフト候補グループには大量の祝福。
崇道君彦。
橘川玲央。
白峰蓮司。
神城颯真。
かつて敵として戦った選手たちから、
「あと一つ」
「全国制覇してこい」
「決勝も頑張れ」
という言葉が届きました。
そこで改めて話題になった――高校通算68本。
「あと二本で70」
と言われても、
「狙わない」
と答える肇。
ただし、
「甘い球が来たら?」
と聞かれれば、
「打つ」
と即答してしまうところは、やはり肇らしいところです。
そして最後。
「決勝が終わったら、また話そう」
と二十四人へ伝えた肇。
次にグループへ戻ってくる時。
どんな報告をすることになるのか。
準優勝なのか。
それとも――全国制覇なのか。
長かった高校最後の夏も、残された試合はたった一つ。
高校通算68本。
最速160km。
ドラフト候補。
U18。
プロ野球。
未来にはたくさんのものが待っています。
しかし今は、そのすべてより先に――。
甲子園決勝。
高橋肇たちは、全国の頂点を懸けた最後の一試合へ向かいます。




