番外編⑻❶ 「六十一人が折り続けた願い――二十個の千羽鶴と、残された四校」
甲子園準々決勝を突破し、ついにベスト4へ進出した高橋肇たち。
全国制覇まで――あと二勝。
今回の番外編⑻❶では、グラウンドで戦う二十人の選手たちを、ずっと陰から支え続けていた仲間たちに焦点を当てます。
篠崎美月をリーダーとする十一人のマネージャー。
そして野球部七十人のうち、レギュラーメンバー九人とベンチメンバー十一人を除いた五十人の部員たち。
彼らは地区大会が始まる前から、選手たちには秘密であるものを作り続けていました。
それは――千羽鶴。
しかも一つではありません。
ベンチ入りする二十人、一人一人へ贈るための二十個。
合計二万羽です。
試合を応援しながら。
練習を支えながら。
水分やタオルを準備しながら。
ホテルへ戻った後にも。
六十一人が少しずつ折り続けてきた鶴には、
「甲子園へ行ってほしい」
「一試合でも多く勝ってほしい」
「全国制覇してほしい」
そんな願いが込められています。
そして、ついに決まった甲子園ベスト4。
健大高崎高校。
青森山田高校。
仙台育英高校。
そして高橋肇たち。
残されたのは、わずか四校。
仲間たちから託された二万羽の願いとともに、全国制覇への最後の二試合が始まろうとしています。
甲子園準々決勝。
東海大相模高校との激闘を、一対〇で制した高橋肇たち。
九回裏。
高橋肇が神城颯真から放った三塁打。
そして、その肇をホームへ返した前薗晃大のサヨナラタイムリー。
一人で決めた勝利ではなかった。
投手。
捕手。
内野。
外野。
ベンチ。
そしてスタンド。
全員で守り抜いた〇対〇。
最後に二人で作った、一点。
その勝利によって――。
高橋肇たちは、ついに甲子園ベスト4へ進出した。
だが。
準々決勝は、まだすべて終わったわけではなかった。
肇たちが宿泊先へ戻り、軽い身体のケアを終えた頃。
他の球場、そして甲子園では残る準々決勝が進んでいた。
翌日。
地方球場で行われる調整練習。
野球部七十人とマネージャー十一人が集まった。
その開始前。
「全員、ちょっと集まってください!」
女性の声がグラウンドへ響いた。
高橋肇が振り返る。
「ん?」
前薗晃大も。
「マネージャー?」
鈴木和誠が言う。
「何か結果来たんじゃないか?」
そこに立っていたのは――。
三年生マネージャー。
そして十一人をまとめるマネージャーリーダー・篠崎美月だった。
手には記録用のファイル。
その後ろには、残る十人のマネージャーたちも並んでいた。
三年生。
篠崎美月。
相沢琴音。
西野七海。
高瀬彩花。
藤本美羽。
二年生。
森下結菜。
小泉杏奈。
水川真帆。
一年生。
山岸ひなた。
桜木莉子。
白石美琴。
計十一人。
地区大会の頃からずっと。
選手たちの飲み物。
タオル。
道具。
氷。
食事。
記録。
対戦校の情報。
スコア。
そして体調。
ありとあらゆる部分を支えてきた十一人だった。
一条昴監督も選手たちの前へ。
「結果が出たか?」
美月が頷く。
「はい」
一条監督。
「全員聞け」
「はい!」
七十人が静かになる。
美月はファイルを開いた。
「残っていた準々決勝、三試合がすべて終了しました」
高橋肇。
前薗晃大。
鈴木和誠。
全員が耳を傾ける。
「まず第一試合」
一度、ページを見る。
「健大高崎高校対浦和学院高校」
ざわめき。
どちらも全国屈指の強豪。
「結果は――六対五」
少し間。
「健大高崎高校が勝利しました」
「一点差……」
宮坂大智が呟く。
美月は続けた。
「序盤は浦和学院高校が三対一でリードしていました。しかし六回に健大高崎高校が三点を奪って逆転」
「八回に浦和学院高校が再び同点」
「そして九回表」
「全国評価SSの中堅手・成瀬迅選手が二塁打で出塁」
「送りバントで一死三塁」
「その後、犠牲フライで勝ち越し」
「九回裏を抑えて六対五です」
肇が小さく呟く。
「成瀬……」
二十四人のグループチャットにいる一人。
俊足の中堅手。
本人とは、まだ甲子園で対戦したことはない。
だが。
こうして勝ち残っている。
一条監督が聞く。
「成瀬の成績は?」
美月。
「四打数二安打。一盗塁。九回の二塁打を含みます」
「分かった」
そして。
「次」
◇◇◇
美月がページをめくる。
「第二試合」
「京都国際高校対青森山田高校」
部員たちがさらに静かになる。
「結果は――三対二」
「青森山田高校が勝利しました」
「おお……」
何人かが反応する。
「五回終了まで〇対〇」
「六回裏に京都国際高校が二点を先制」
「しかし八回表」
「青森山田高校が三連打で一点」
「さらに二死一、二塁から左中間を破る二点タイムリーで逆転」
「九回裏は三者凡退」
「三対二で終了しました」
鈴木和誠が言う。
「また一点差」
前薗も。
「ここまで来ると本当に差がないな」
一条監督が全員へ。
「聞いたか?」
「はい!」
「ベスト8まで来た学校同士だ」
「はい!」
「簡単に大差にはならない!」
「はい!」
高橋肇は大阪桐蔭戦を思い出す。
一対〇。
そして東海大相模戦も。
一対〇。
ほんの一球。
ほんの一本。
ほんの一つの守備。
それで試合が終わる。
◇◇◇
そして。
美月が最後のページを見る。
「第三試合」
選手たちがさらに注目する。
「仙台育英高校対報徳学園高校」
一条監督が少し表情を変える。
「結果は?」
「四対一」
美月が答える。
「仙台育英高校が勝利しました」
その瞬間。
何人かの選手が顔を見合わせた。
仙台育英高校。
今年の大会でも投打のバランスが高い学校。
「先発投手が七回まで一失点」
「八回から継投」
「打線は三回に一点、五回に二点、七回に一点」
「四対一で勝利です」
高橋肇が腕を組む。
「仙台育英……」
美月がファイルを閉じる。
そして。
「これで」
全員を見る。
「甲子園ベスト4がすべて決まりました」
静寂。
残された四校。
マネージャーリーダーの美月が、一校ずつ読み上げる。
「高橋君たちの学校」
拍手。
「健大高崎高校」
「青森山田高校」
「仙台育英高校」
たった四つ。
日本全国の高校野球部の中で。
この夏。
甲子園に残っている学校は――四校だけになった。
高橋肇はその言葉を聞きながら、静かにグラウンドを見る。
「あと二つ……」
隣の前薗が聞く。
「何?」
「全国制覇」
前薗も。
「うん」
「あと二つ」
鈴木和誠が二人のところへ。
「でも」
二人を見る。
「今は次だけ」
肇が笑う。
「分かってる」
一条監督も聞いていた。
「それでいい」
そして。
「準決勝の正式な組み合わせは、後で発表される」
「はい!」
「今から気にするな」
「はい!」
「身体動かすぞ!」
「はい!」
練習が始まった。
しかし。
選手たちはまだ知らなかった。
今日。
もう一つ。
自分たちの知らないところでずっと進められていたものが、完成しようとしていたことを。
◇◇◇
午前の練習。
ランニング。
ストレッチ。
キャッチボール。
投手陣の調整。
肇は当然、疲労を考えて軽め。
前薗も捕球量を減らされていた。
「高橋!」
一条監督。
「今日は投げ込みなし!」
「はい!」
「前薗!」
「はい!」
「お前も座って受けすぎるな!」
「はい!」
「和誠!」
「はい!」
「お前は足の張り確認!」
「大丈夫です!」
「大丈夫じゃなくてトレーナーに見てもらえ!」
「はい!」
ベスト4。
だからこそ無理をさせない。
三年間のすべてを懸ける試合が、残り二つ。
一条監督も細心の注意を払っていた。
そんな選手たちへ。
マネージャー十一人が何度も水分を運ぶ。
「高橋君」
森下結菜。
「水分」
「ありがとう」
「全部飲んでください」
「はい」
「前薗君も」
小泉杏奈が渡す。
「ありがとう」
「鈴木君」
水川真帆。
「スポーツドリンクです」
「ありがと」
一年生マネージャーも。
山岸ひなた。
「久我先輩!」
「ありがとう」
桜木莉子。
「黒崎先輩、タオルです」
「助かる」
白石美琴。
「早川先輩、水です」
「ありがとう」
選手たちが練習する。
マネージャーたちが支える。
いつもの光景。
だが。
その荷物置き場の奥。
普段は選手たちがあまり触らない大きな箱が置かれていた。
一つではない。
二つ。
三つ。
さらに奥にも。
その中には――。
大量の色紙。
そして。
完成した小さな折り鶴。
◇◇◇
ことの始まりは、地区大会が始まる少し前だった。
三年生マネージャーの篠崎美月が、仲間へ提案した。
「ねえ」
マネージャー室。
十一人が集まっていた。
「今年」
美月が言う。
「最後だから」
相沢琴音が聞く。
「何かする?」
「うん」
美月は少し考えて。
「千羽鶴、作らない?」
西野七海。
「野球部に?」
「そう」
高瀬彩花が頷く。
「いいと思う」
藤本美羽も。
「地区大会から?」
「うん」
ただ。
ここで美月が出した案は、普通の千羽鶴とは少し違った。
「一個じゃなくて」
「え?」
「二十個」
全員。
「二十!?」
マネージャー室に声が響いた。
美月は笑う。
「ベンチ入りする二十人分」
レギュラーメンバー九人。
ベンチメンバー十一人。
合わせて二十人。
一人一人に千羽鶴。
つまり――。
二万羽。
森下結菜が計算して。
「二万?」
「うん」
山岸ひなたが目を丸くする。
「十一人だけでは無理です!」
「だから」
美月は少し笑った。
「手伝ってもらおうと思ってる」
◇◇◇
それに最初に気づいたのは。
レギュラーでも。
ベンチメンバーでもない。
野球部員だった。
野球部七十人。
そのうち。
レギュラーメンバー九人。
ベンチメンバー十一人。
二十人を除けば――五十人。
試合へ出場する機会がほとんどない部員たち。
スタンド。
ベンチ外。
練習補助。
ボール拾い。
打撃投手。
ブルペン補助。
彼らも同じ野球部だった。
ある日のこと。
一年生部員が、マネージャー室の前を通った。
「何これ?」
机いっぱいの折り紙。
そこにいた二年生マネージャー・森下結菜が慌てる。
「見ちゃった?」
「千羽鶴?」
「秘密ね」
「誰の?」
「まだ秘密」
すると。
別の一年生。
「手伝います」
「え?」
「俺らも」
そこから。
一人。
二人。
十人。
二十人。
気がつけば。
ベンチ入りしない五十人の部員たちまで参加することになった。
一年生。
二年生。
そして三年生のベンチ外部員。
三年生たちは、自分たちが試合へ出られない悔しさも持っていた。
それでも。
仲間に勝ってほしい。
「俺らも同じ三年だしな」
「最後だもんな」
「甲子園行ってほしい」
「だったら折ろう」
地区大会前。
まだ甲子園へ行けるかすら分からない頃から。
六十一人。
マネージャー十一人。
ベンチ入りしない野球部員五十人。
全員で少しずつ折り始めた。
◇◇◇
一羽。
二羽。
十羽。
百羽。
五百羽。
毎日。
練習後。
昼休み。
移動時間。
試合の待ち時間。
そして地区大会。
ベンチ入りしている三年生たちがグラウンドで戦っている間。
スタンドにいる部員たちは応援する。
「高橋ー!」
「打てー!」
「前薗ー!」
「抑えろー!」
大声で応援しながら。
試合の合間。
攻守交代。
待ち時間。
ほんの少しだけ。
手元で折る。
「あと何羽?」
「高橋先輩の分、あと百八十」
「前薗先輩は?」
「あと二百三十」
「鈴木先輩は?」
「あと百五十」
誰にも気づかれないように。
もちろん。
レギュラー九人にも。
ベンチメンバー十一人にも秘密。
マネージャー十一人と五十人の部員だけが知っていた。
そして。
甲子園出場決定。
その時点では、まだ完成していなかった。
「間に合わないかも」
一年生が言った。
篠崎美月は首を横に振った。
「決勝まで行くつもりで作る」
その言葉。
誰も否定しなかった。
「じゃあ」
「最後まで折ろう」
◇◇◇
甲子園一回戦。
横浜高校。
十二対三。
試合後も折る。
二回戦。
智辯和歌山高校。
十四対十三。
折る。
大阪桐蔭高校。
一対〇。
サヨナラ。
その夜も。
折る。
東海大相模高校。
一対〇。
ベスト4。
そして――。
ついに。
最後の一羽。
マネージャーリーダー・篠崎美月が折った。
「……できた」
部屋が静かになる。
目の前。
二十個。
一人千羽。
二十人。
二万羽。
色分けもされている。
一人一人に違う組み合わせ。
さらに中央には、それぞれの名前。
「高橋肇」
「前薗晃大」
「鈴木和誠」
「神谷悠斗」
「藤堂拓海」
「宮坂大智」
「桐生翔」
「長谷川颯汰」
「相馬健吾」
そしてベンチメンバー。
黒崎蓮。
早川慶介。
久我直哉。
松岡亮平。
橘優成。
西川陸斗。
安西航。
倉田陽向。
森川駿。
大野蒼真。
榎本悠生。
二十人。
マネージャー十一人。
ベンチ外部員五十人。
六十一人の願い。
◇◇◇
午後。
練習終了。
「全員集合!」
一条監督の声。
七十人が集まる。
ところが。
いつもなら前にいるマネージャー十一人が、今日は後方に並んでいた。
しかも。
何人かが大きな箱を持っている。
肇が不思議そうに見る。
「何だ?」
前薗も。
「何あれ?」
和誠。
「俺も知らない」
一条監督は知っている様子だった。
「篠崎」
「はい!」
マネージャーリーダー・篠崎美月が前へ。
少し緊張している。
「野球部の皆さん」
全員が見る。
「ベスト4進出、おめでとうございます」
「ありがとうございます!」
拍手。
そして。
美月は続けた。
「実は」
後ろを見る。
「地区大会が始まる前から、私たちマネージャー十一人と」
ベンチ外部員を見る。
「試合のベンチに入らない五十人で」
肇たちが振り返る。
五十人。
一年生。
二年生。
三年生。
全員。
「ずっと秘密にしていたことがあります」
肇。
「秘密?」
美月が頷いた。
「持ってきて」
十一人のマネージャーと何人もの部員が、箱を前へ運ぶ。
蓋が開いた。
その瞬間。
肇が目を見開く。
「……え?」
前薗も。
「これ……」
鈴木和誠。
「千羽鶴?」
一つ。
二つ。
三つ。
次々と出てくる。
そして。
二十個。
グラウンドに並んだ。
誰も喋らない。
美月が言う。
「ベンチ入り二十人」
「一人一人に」
少し笑う。
「千羽鶴です」
肇が驚く。
「一人……一個?」
「はい」
前薗。
「二十人だから」
藤堂が計算する。
「二万羽……?」
「はい」
全員が声を失った。
◇◇◇
美月が続ける。
「最初はマネージャー十一人で作るつもりでした」
「でも」
五十人の部員を見る。
「途中でみんなに気づかれました」
三年生のベンチ外部員が笑う。
「机に折り紙ありすぎだったから」
笑いが起こる。
「それで」
美月。
「みんなが手伝ってくれました」
肇は五十人を見る。
「いつから?」
「地区大会前」
「そんな前から?」
「はい」
「俺ら全然気づかなかった……」
前薗が呟く。
一年生部員が言う。
「気づかれないようにしてました」
二年生も。
「試合中も折ってました」
和誠が驚く。
「試合中?」
「応援しながら」
「どうやって?」
「攻守交代とか」
「待ってる時間とか」
「ホテル戻ってからとか」
そして三年生のベンチ外部員。
「俺たち、グラウンドでは一緒に戦えないから」
空気が少し変わる。
「でも」
「同じ野球部だから」
「何かしたかった」
高橋肇は、その言葉を聞いて何も言えなくなった。
甲子園。
テレビに映るのは。
高橋肇。
前薗晃大。
鈴木和誠。
レギュラー。
ベンチ入り選手。
でも。
ここまで来たのは二十人だけではない。
七十人。
ずっと一緒だった。
◇◇◇
一条監督が言う。
「高橋」
「はい」
「前薗」
「はい」
「鈴木」
「はい」
「代表で受け取れ」
三人が前へ。
篠崎美月。
相沢琴音。
西野七海。
三人がそれぞれ千羽鶴を持つ。
美月から肇。
琴音から前薗。
七海から和誠。
肇は両手で受け取る。
自分の名前。
『高橋肇』
その下に小さく。
『全国制覇』
肇の手が少し震える。
「……これ」
美月。
「六十一人分です」
肇。
「ありがとう」
それしか言えなかった。
美月が笑う。
「まだ泣かないでください」
「泣いてない」
前薗が隣を見る。
「目赤いぞ」
「お前もだろ」
前薗も目元が少し赤い。
和誠は完全に黙っている。
「主将」
肇が呼ぶ。
「……何?」
「泣いてる?」
「うるさい」
部員たちから笑い。
◇◇◇
残り十七人へも、一つずつ渡されていった。
神谷悠斗。
「ありがとう」
藤堂拓海。
「これ、すごいな……」
宮坂大智。
「本当に二万羽折ったの?」
桐生翔。
「絶対持って帰る」
長谷川颯汰。
「家に飾る」
相馬健吾。
「重い……でも嬉しい」
黒崎蓮。
「俺のまであるんですか?」
早川慶介。
「ありがとうございます」
久我直哉。
「先輩だけじゃないんだ……」
松岡亮平。
「嬉しい」
橘優成。
「絶対勝ちましょう」
西川陸斗。
「最後まで」
安西航。
「全国制覇」
倉田陽向。
「絶対」
森川駿。
「あと二つ」
大野蒼真。
「みんなで」
榎本悠生。
「勝ちましょう」
二十人。
一人一人。
千羽鶴を抱えた。
◇◇◇
そして。
マネージャー十一人が一列に並ぶ。
篠崎美月。
相沢琴音。
西野七海。
高瀬彩花。
藤本美羽。
森下結菜。
小泉杏奈。
水川真帆。
山岸ひなた。
桜木莉子。
白石美琴。
美月が代表して言う。
「私たちは」
「試合には出られません」
「でも」
「水分を渡すことも」
「タオルを準備することも」
「スコアをつけることも」
「相手の情報をまとめることも」
「全部」
「一緒に戦っているつもりです」
選手たちは黙って聞く。
「あと二試合」
「お願いします」
そして十一人。
一斉に頭を下げる。
「全国制覇してください!」
七十人。
一瞬。
静かになる。
次の瞬間。
主将・鈴木和誠が大声を上げた。
「絶対するぞ!」
「おおおおおおおっ!」
肇も。
「六十一人分の願い、全部持っていこう!」
「おおおおおおおっ!」
前薗。
「七十人で勝つぞ!」
「おおおおおおおっ!」
一条監督は腕を組んでその光景を見ていた。
少しだけ。
目元を拭った。
◇◇◇
その後。
マネージャーリーダーの美月が、最後にもう一枚の紙を取り出した。
「それと」
全員が見る。
「準決勝の組み合わせも正式に決まりました」
空気が切り替わる。
「第一試合」
美月が読み上げる。
「健大高崎高校」
少し間。
「対」
「青森山田高校」
そして。
「第二試合」
肇たち全員が聞く。
「高橋君たちの学校」
「対」
美月がはっきり言った。
「仙台育英高校」
ざわめき。
仙台育英高校。
全国屈指の強豪。
投手力。
打撃力。
走塁。
守備。
どれも高い。
肇が千羽鶴を持ったまま、組み合わせ表を見る。
「仙台育英……」
前薗。
「準決勝」
和誠。
「ここまで来たな」
一条監督が言う。
「相手がどこでも同じだ!」
「はい!」
「全国制覇するなら」
「はい!」
「あと二校!」
「はい!」
「まず仙台育英!」
「はい!」
「全員で倒すぞ!」
「おおおおおおおっ!」
◇◇◇
練習後。
肇は一人、自分の千羽鶴をもう一度見ていた。
一羽。
その一つだけを見ても。
誰が折ったものかは分からない。
一年生かもしれない。
二年生かもしれない。
三年生かもしれない。
美月かもしれない。
琴音かもしれない。
結菜かもしれない。
ひなたかもしれない。
でも。
一羽一羽。
誰かが。
「勝ってほしい」
と思って折った。
全部で千羽。
そして二十人分。
二万羽。
六十一人が、地区大会前から少しずつ作った。
前薗が隣へ座る。
「重いな」
「うん」
「物理的にも」
肇が笑う。
「確かに」
「でも」
前薗も自分の千羽鶴を見る。
「それ以上に重い」
「分かる」
和誠も来る。
「プレッシャー?」
肇は首を横に振る。
「違う」
「じゃあ?」
肇は千羽鶴を見る。
「力」
和誠が笑う。
「俺も」
三人が並んで座る。
甲子園。
残った四校。
健大高崎高校。
青森山田高校。
仙台育英高校。
そして自分たち。
全国制覇まで――あと二勝。
しかし。
今度は。
二十人だけではない。
七十人だけでもない。
マネージャー十一人。
吹奏楽部。
チアリーディング部。
学校の生徒。
教師。
家族。
そして。
六十一人が折った二万羽の鶴。
全部を連れて。
次の甲子園へ行く。
肇は自分の千羽鶴の中央に書かれた言葉をもう一度見た。
『全国制覇』
そして。
小さく言った。
「絶対叶える」
前薗。
「うん」
和誠。
「全員でな」
高校最後の夏。
残された学校は――四校。
高橋肇たちは。
仲間たちが折り続けた千羽鶴とともに、ついに甲子園準決勝へ向かうことになった。
番外編⑻❶「六十一人が折り続けた願い――二十個の千羽鶴と、残された四校」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、これまで選手たちを支えてきたマネージャーとベンチ外の野球部員たちの物語となりました。
まず発表された、残る準々決勝の結果。
健大高崎高校が浦和学院高校を六対五。
青森山田高校が京都国際高校を三対二。
仙台育英高校が報徳学園高校を四対一。
そして東海大相模高校を一対〇で破った高橋肇たち。
これで甲子園に残った学校は、ついに四校となりました。
そんな中で明かされた、選手たちがまったく知らなかった秘密。
マネージャー十一人と、ベンチ入りしていない野球部員五十人。
合計六十一人が、地区大会前から作り続けていた千羽鶴です。
最初はマネージャー十一人だけで始まった計画でした。
ところが、それに気づいたベンチ外の部員たちが、
「俺たちも手伝います」
と参加。
そこから六十一人による秘密の作業が始まりました。
目標は千羽ではありません。
ベンチ入り二十人、一人一人に千羽ずつ。
合計――二万羽。
グラウンドに立てなくても。
ベンチに入れなくても。
同じ野球部の仲間であることは変わりません。
特に三年生のベンチ外部員たちにとっては、自分たちも高校最後の夏。
試合へ出場する仲間を見ながら、悔しい気持ちがなかったわけではありません。
それでも、
「同じ野球部だから」
「何かしたかった」
その気持ちで一羽ずつ折り続けました。
そして完成した二十個の千羽鶴。
高橋肇。
前薗晃大。
鈴木和誠。
神谷悠斗。
藤堂拓海。
宮坂大智。
桐生翔。
長谷川颯汰。
相馬健吾。
さらに十一人のベンチメンバー。
二十人全員へ、一つずつ手渡されました。
肇が自分の千羽鶴に書かれていた、
「全国制覇」
という言葉を見つめる場面。
一羽一羽を誰が折ったのかは分かりません。
けれど、その一羽には必ず誰かの願いがあります。
前薗が言った、
「重いな」
という言葉。
それは千羽鶴そのものの重さだけではありません。
六十一人の想いの重さでもあります。
しかし肇にとって、それはプレッシャーではありませんでした。
「力」
全国制覇へ向かうための、新しい力です。
そして準決勝の組み合わせも決定。
第一試合――健大高崎高校対青森山田高校。
第二試合――高橋肇たちの高校対仙台育英高校。
全国制覇まで、あと二勝。
次はいよいよ甲子園準決勝。
六十一人が折った二万羽の鶴。
野球部七十人。
十一人のマネージャー。
そして応援してくれるすべての人たち。
高橋肇たちは、もう一度全員の想いを背負って甲子園のグラウンドへ向かいます。
目指す場所は、ただ一つ。
――全国制覇です。




