番外編⑺❷「二十四人のドラフト候補――U18世代がつながる新しいグループ」
今回の番外編⑺❷では、四人から始まったつながりが、一気に全国へと広がります。
高橋肇。
崇道君彦。
橘川玲央。
白峰蓮司。
前回、この四人が同じチャットグループに集まりました。
しかし、玲央と蓮司にはまだ多くの知り合いがいました。
高校二年生の時に参加したU18日本代表。
代表候補合宿。
全国大会。
そこで出会った、今年の高校野球界を代表する選手たち。
神城颯真。
成瀬迅。
水城拓真。
桐谷蒼生。
堂本龍輝。
藤原慶士。
北条悠真。
佐伯海斗。
大河内蓮。
高瀬悠生。
瀬戸蒼空。
比嘉龍之介。
真田圭吾。
高倉翔馬。
佐々木悠成。
牧野大河。
黒木晴翔。
榊原航平。
南雲颯太――。
今年の甲子園を戦った選手やドラフト候補たちが次々とつながり、最終的に誕生したのは二十四人の新しいグループチャット。
玲央と蓮司は多くの選手と面識があります。
しかし肇にとっては、初めて話す選手ばかり。
甲子園で160kmを記録し、大阪桐蔭戦ではサヨナラ本塁打を放った肇でも、初対面の選手たちとのチャットには思わず緊張してしまいます。
それでも一人一人に、
「よろしく」
と自分から挨拶。
高校では敵。
甲子園でも敵。
しかし、その先にあるプロ野球では――。
同じチームの仲間になるかもしれない。
再びライバルになるかもしれない。
そして二十四人の中には、次の準々決勝で戦う東海大相模高校・神城颯真もいます。
チャットでは仲間。
次に会う時は敵。
高校野球最後の夏を戦う二十四人の、少し特別な交流です。
甲子園ベスト8進出を決めた高橋肇。
準々決勝の相手は、東海大相模高校。
そして、そのエースは神城颯真。
そんな次の戦いを控える中、肇、崇道君彦、橘川玲央、白峰蓮司の四人だけだったチャットグループに、新しい話が持ち上がった。
きっかけは、橘川玲央の何気ない一言だった。
『そういえばさ』
肇がスマートフォンを見る。
『何?』
白峰。
『また誰か呼ぶのか?』
玲央。
『正解』
崇道。
『本当に増やすの?』
『というより』
玲央から続けてメッセージが届いた。
『今年の甲子園に出てるドラフト候補で、俺たちが知ってる奴かなりいるんだよ』
肇は首を傾げた。
『そんなに?』
すると白峰が答える。
『かなりいる』
『去年のU18組が多いから』
肇はそこで思い出した。
橘川玲央。
白峰蓮司。
神城颯真。
三人は高校二年生だった昨年、U18日本代表で同じチームだった。
しかし――。
当然ながら、日本代表だったのは三人だけではない。
全国各地から、その世代を代表する高校球児たちが集まっていたのだ。
玲央が言う。
『ちょっと待って』
数十秒後。
長いメッセージが送られてきた。
そこには、今年の甲子園出場校を中心に、昨年のU18日本代表や代表候補、さらに今年のドラフト候補として注目されている選手たちの名前が並んでいた。
一人目。
東海大相模高校。
投手――神城颯真。
二人目。
大阪桐蔭高校。
投手――白峰蓮司。
三人目。
智辯和歌山高校。
三塁手――橘川玲央。
四人目。
健大高崎高校。
中堅手――成瀬迅。
五人目。
浦和学院高校。
捕手――水城拓真。
六人目。
履正社高校。
投手――桐谷蒼生。
七人目。
仙台育英高校。
投手――堂本龍輝。
八人目。
報徳学園高校。
遊撃手――藤原慶士。
九人目。
京都国際高校。
捕手――北条悠真。
十人目。
横浜高校。
中堅手――佐伯海斗。
十一人目。
智辯学園高校。
一塁手――大河内蓮。
十二人目。
星稜高校。
投手――高瀬悠生。
十三人目。
関東第一高校。
右翼手――瀬戸蒼空。
十四人目。
沖縄尚学高校。
投手――比嘉龍之介。
十五人目。
広陵高校。
三塁手――真田圭吾。
十六人目。
明徳義塾高校。
捕手――高倉翔馬。
十七人目。
花巻東高校。
左翼手――佐々木悠成。
十八人目。
作新学院高校。
二塁手――牧野大河。
十九人目。
常総学院高校。
遊撃手――黒木晴翔。
二十人目。
敦賀気比高校。
投手――榊原航平。
二十一人目。
明豊高校。
中堅手――南雲颯太。
そこへ――。
高橋肇。
崇道君彦。
橘川玲央。
白峰蓮司。
すでに四人のグループにいるメンバーを含めれば、今年の高校野球界で注目されるドラフト候補たちが一気につながることになる。
肇は一覧を見ながら、しばらく言葉を失った。
『ちょっと待って』
玲央。
『何?』
『俺、半分以上知らない』
白峰。
『だろうな』
『だろうなって』
崇道から笑いのスタンプが送られてくる。
玲央が続けた。
『俺はこの中なら十人くらい直接知ってる』
白峰。
『俺もそれくらい』
肇。
『そんなに!?』
玲央。
『U18で一緒だった奴がいるから』
白峰。
『代表候補の合宿でも会ってる』
肇は画面を見つめる。
同じ高校生。
同じ高校野球選手。
しかし全国大会や日本代表を経験している選手同士には、肇が知らなかった横のつながりがあった。
玲央が提案する。
『だったらさ』
『今年のドラフト候補でグループ作らない?』
崇道。
『何人?』
『俺たち入れて24人くらい』
肇。
『24人!?』
白峰。
『多いな』
玲央。
『でも面白くない?』
少し間が空く。
そして白峰。
『俺はいい』
崇道。
『俺も』
最後。
玲央。
『肇は?』
肇は少し迷った。
四人なら慣れてきた。
崇道は地区大会決勝で戦った。
玲央は甲子園二回戦。
白峰は甲子園三回戦。
全員、一度グラウンドで真正面から戦った相手だ。
だが二十四人。
その中には、一度も話したことのない選手もいる。
それどころか、テレビやネットの記事でしか見たことのない選手までいる。
『……緊張する』
玲央。
『何でだよ』
白峰。
『甲子園で160投げる奴が何言ってる』
崇道。
『大阪桐蔭相手にサヨナラ打った奴が』
肇。
『野球とチャットは別!』
三人から一斉に笑いのスタンプ。
そして。
肇も決めた。
『分かった』
『入る』
玲央。
『決まり』
◇◇◇
その日の夜。
新しいグループが作られた。
グループ名。
『高校野球・ドラフト候補24』
橘川玲央が中心となり、白峰蓮司と一緒に知り合いへ連絡。
そこからさらに知り合い同士がつながっていく。
一人。
二人。
五人。
十人。
十五人。
二十人。
そして――。
『24人が参加しています』
肇はその数字を見て固まった。
「……本当に二十四人いる」
次の瞬間。
大量のメッセージが流れ始めた。
『よろしく!』
『玲央から聞いた』
『白峰久しぶり』
『神城いる?』
『いる』
『崇道もいるじゃん』
『高橋ってあの高橋?』
『甲子園で160出した?』
『大阪桐蔭戦のサヨナラ見た』
『ホームラン打ちすぎだろ』
『高橋高校通算何本になった?』
一気に通知が増える。
肇は完全に置いていかれていた。
「速い速い速い……」
すると個別に玲央から来た。
『肇』
『何』
『挨拶しろ』
『今しようと思ってた!』
肇は一度深呼吸。
そして。
『高橋肇です』
送信。
一瞬。
チャットが静かになる。
肇は続ける。
『初めて話す人が多いので、かなり緊張してます』
すると。
『嘘だろ』
『高橋が緊張?』
『甲子園のマウンドの方が緊張するだろ普通』
『160km投げる奴がチャットで緊張してる』
次々に返ってくる。
肇は苦笑する。
『本当に初対面は緊張するんです』
白峰。
『試合中と別人』
玲央。
『これが高橋肇の正体です』
肇。
『玲央余計なこと言うな』
少しだけ緊張が解けた。
そして肇は決めた。
せっかく同じグループになったのだから、一人一人へ挨拶する。
まず。
神城颯真。
『神城、次の準々決勝よろしく』
神城から返信。
『こちらこそ。甲子園で待ってる』
『絶対負けない』
『俺も』
早くも火花。
次。
成瀬迅。
『成瀬君、初めまして。よろしく』
『高橋、よろしく。試合見てるぞ』
『ありがとう』
水城拓真。
『水城君、よろしく』
『よろしく。いつか高橋の球受けてみたい』
『160でも?』
『捕手にそれ聞くな』
肇は思わず笑った。
桐谷蒼生。
『桐谷君、初めまして』
『よろしく。白峰と投げ合った試合すごかった』
『ありがとう』
堂本龍輝。
『堂本君、よろしく』
『高橋よろしく。プロで投げ合えたらいいな』
『俺も』
藤原慶士。
『藤原君、よろしく』
『よろしく。大阪桐蔭の守備どうだった?』
『本当に抜けない』
白峰。
『本人いるぞ』
一斉に笑いのスタンプ。
北条悠真。
『北条君、初めまして』
『よろしく。前薗君ともいつか捕手同士で話してみたい』
『伝えておく』
佐伯海斗。
『佐伯君、よろしく』
『一回戦はやられたな』
肇はそこで手を止める。
横浜高校。
一回戦で戦った相手だ。
『あの時はありがとうございました』
『今度は負けない』
『プロで再戦しよう』
『もちろん』
大河内蓮。
『大河内君、よろしく』
『よろしく。高橋の打球、生で見てみたい』
『できれば敵じゃない時に』
高瀬悠生。
『高瀬君、初めまして』
『よろしく。160の投げ方教えて』
『俺も説明できない』
『天才型かよ』
瀬戸蒼空。
『瀬戸君、よろしく』
『高橋よろしく! 外野まで飛ばすなよ』
『それは約束できない』
比嘉龍之介。
『比嘉君、よろしく』
『よろしく。沖縄まで名前聞こえてるぞ』
『本当に?』
『甲子園で160出したら全国に聞こえる』
真田圭吾。
『真田君、初めまして』
『よろしく。三塁守ってるから高橋の強烈な打球は怖い』
『俺も三塁線狙います』
『やめろ』
高倉翔馬。
『高倉君、よろしく』
『よろしく。捕手として高橋攻略考えてる』
『俺も捕手の配球読む』
『面白いな』
佐々木悠成。
『佐々木君、よろしく』
『よろしく。いつか外野で高橋のホームラン捕る』
『フェンス越えたら無理だよ』
『そこまで追う』
牧野大河。
『牧野君、初めまして』
『よろしく。肇って呼んでいい?』
肇は少し驚く。
『もちろん』
『じゃあ俺も大河で』
『よろしく、大河』
黒木晴翔。
『黒木君、よろしく』
『よろしく。遊撃から高橋の打球止めてみたい』
『じゃあ俺も抜いてみたい』
榊原航平。
『榊原君、初めまして』
『よろしく。投手同士頑張ろう』
『うん。プロでも投げ合おう』
南雲颯太。
『南雲君、よろしく』
『高橋よろしく!』
『よろしく!』
一人。
また一人。
肇は丁寧にコメントを返していった。
もちろん。
すでに知っている三人にも。
崇道君彦。
『改めてよろしく』
『今さら?』
『二十四人グループだから一応』
『よろしく、高橋』
橘川玲央。
『玲央もよろしく』
『俺が作ったようなもんなんだけど』
『だからこそ』
『よろしく』
白峰蓮司。
『白峰も』
『昨日戦ったばっかりだけどな』
『昨日はありがとう』
『こっちこそ』
そして――。
肇はもう一度参加者一覧を見る。
全国各地。
別々の高校。
別々のポジション。
投手。
捕手。
内野手。
外野手。
高校二年時にU18日本代表として一緒に戦った選手もいる。
代表候補合宿で知り合った選手もいる。
甲子園で敵として対戦した選手もいる。
まだ一度もグラウンドで向き合ったことのない選手もいる。
だが。
二十四人には一つ大きな共通点があった。
高校卒業後。
その多くが――プロ野球の世界を目指している。
◇◇◇
しばらくすると、玲央が話題を振った。
『そういえばU18組、何人いる?』
次々に反応。
『俺』
『俺も』
『去年一緒だった』
『候補合宿だけ』
肇は眺めながら驚く。
本当に玲央と白峰は多くの選手を知っていた。
玲央が直接知る十人ほど。
白峰が直接知る十人ほど。
重なっている選手もいるが、二人を中心にすると、ほとんどのメンバーと何らかのつながりがある。
肇。
『玲央と白峰、顔広すぎ』
玲央。
『U18のおかげ』
白峰。
『玲央ほどじゃない』
玲央。
『蓮司も結構知ってるだろ』
神城。
『この二人、代表の時からこんな感じだった』
肇。
『神城いた』
神城。
『最初からいる』
肇。
『次の相手だから意識してた』
神城。
『こっちも』
その瞬間。
他の選手たちが反応した。
『準々決勝だったな』
『高橋対神城』
『これ絶対見る』
『SSSとSSか』
『投手戦になる?』
『高橋ホームラン打つかな』
『神城が抑えるだろ』
神城。
『俺が抑える』
肇。
『俺が打つ』
玲央。
『始まった』
白峰。
『試合前に喧嘩するな』
肇。
『喧嘩じゃない』
神城。
『俺も』
崇道。
『二人とも同じこと言ってる』
チャットが笑いで埋まった。
しかし。
肇と神城だけは分かっている。
今は笑って話している。
けれど準々決勝。
甲子園で向き合った瞬間。
友好的なチャットは関係ない。
勝つか。
負けるか。
それだけ。
◇◇◇
夜も遅くなってきた。
肇は最後に一つメッセージを送った。
『今日はみんなありがとう』
すぐに既読が増える。
『初めて話した人も多かったけど』
『これからよろしくお願いします』
そして少し考え。
もう一文。
『高校野球では敵になるかもしれないけど、いつかプロでまた会えたら嬉しいです』
送信。
数秒後。
崇道。
『もちろん』
玲央。
『そのためのグループだろ』
白峰。
『まずお前は甲子園勝て』
神城。
『その前に俺を倒さないとな』
肇。
『倒す』
神城。
『させない』
再びチャットが盛り上がる。
さらに。
『プロで会おう』
『ドラフト楽しみだな』
『全員違う球団だったら面白い』
『同じ球団になる奴もいるだろ』
『その時はよろしく』
『敵なら勝負』
『味方なら日本一』
次々とメッセージが流れる。
高校野球という一つの世界。
そこで全国各地から集まった二十四人。
今はまだ高校生。
まだドラフト会議も行われていない。
まだ誰一人としてプロ野球選手ではない。
それでも。
全員が、それぞれの未来を思い描いていた。
肇はスマートフォンを置く。
最初は緊張した。
知らない選手ばかり。
テレビやニュースで名前を見たことしかない選手もいた。
それでも一人一人へ「よろしく」と送った。
そして返ってきた。
「よろしく」
その短い言葉だけで、不思議と距離が縮まった。
甲子園。
U18日本代表。
ドラフト。
そしてプロ野球。
高校野球最後の夏を戦う二十四人の道は、これから別々に分かれていく。
だが、いつか再び交わるかもしれない。
プロ野球のグラウンドで。
日本代表で。
あるいは同じチームで。
そして肇には、その未来へ向かう前にやるべきことがある。
準々決勝。
東海大相模高校。
神城颯真。
さっきまでチャットで話していた相手。
次に会う時は――甲子園のグラウンド。
「神城……」
肇は小さく呟いた。
そして笑った。
「絶対、勝つからな」
二十四人のドラフト候補がつながった夜。
その中の二人は間もなく――甲子園ベスト4を懸けて、敵同士として真正面からぶつかることになる。
番外編⑺❷「二十四人のドラフト候補――U18世代がつながる新しいグループ」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回、四人だったグループから一気に交流の輪が広がりました。
中心となったのは、橘川玲央と白峰蓮司。
二人は高校二年生の時にU18日本代表でプレーした経験があり、全国各地の有力選手たちと交流があります。
同じ代表チームで戦った者。
代表候補合宿で知り合った者。
全国大会で顔を合わせた者。
それぞれのつながりをたどった結果――。
今年の高校野球界で注目されているドラフト候補二十四人が、一つのチャットグループへ集まりました。
肇にとって特に印象的だったのは、初めて話す選手の多さです。
グラウンドでは堂々としている肇。
160kmのストレートを投げる時も。
四番として打席へ立つ時も。
大阪桐蔭を相手に九回裏の打席へ入る時も。
決して簡単には弱気になりません。
ところが、初対面の選手が大勢いるグループチャットでは、
「かなり緊張してます」
と素直に告白。
白峰や玲央から、
「試合中と別人」
と笑われる場面もありました。
それでも肇は、一人一人に自分から挨拶します。
すでに甲子園で対戦した選手。
名前だけ知っていた選手。
初めて話す選手。
投手。
捕手。
内野手。
外野手。
所属校も守備位置も違います。
しかし、多くの選手が見ている未来は同じ。
高校卒業後――プロ野球の世界へ。
そして肇が最後に送った、
「高校野球では敵になるかもしれないけど、いつかプロでまた会えたら嬉しいです」
という言葉。
今は甲子園で勝敗を競うライバル同士でも、高校野球が終われば新しい道が始まります。
同じ球団から指名される可能性もあります。
別々の球団へ進み、今度はプロ野球の舞台で対戦する可能性もあります。
いつの日かU18ではなく、さらに上の日本代表で再会する選手がいるかもしれません。
そんな未来につながる二十四人のグループです。
しかし――。
まだ高校野球は終わっていません。
二十四人の中には、次の準々決勝で肇と戦う選手がいます。
東海大相模高校。
エース――神城颯真。
チャットでは、
「俺が抑える」
「俺が打つ」
と宣言し合った二人。
今は同じグループで笑って話せても、甲子園のグラウンドへ立てば関係ありません。
高橋肇。
神城颯真。
ベスト4へ進めるのは――どちらか一人。
全国制覇まで、あと三勝。
次に二人が言葉を交わす場所は、チャット画面ではなく甲子園のグラウンドです。




