番外編⑺❶「四人目のドラフト候補――U18日本代表でつながっていた白峰蓮司」
【前書き】
今回の番外編⑺❶では、甲子園で戦ったライバルたちの「試合の外」でのつながりを描きます。
地区大会決勝で戦った崇道君彦。
甲子園二回戦で戦った橘川玲央。
そして大阪桐蔭高校との三回戦を終えた高橋肇。
三人だけだったチャットグループに、新たな一人が加わることになります。
その人物こそ――大阪桐蔭高校のエース・白峰蓮司。
実は橘川玲央と白峰蓮司には、以前から接点がありました。
高校二年生の時。
二人はU18日本代表に選出され、同じユニフォームを着て戦った元チームメイト。
そのため試合後にも何度か連絡を取り合い、玲央は今も蓮司の連絡先を知っていました。
昨日まで甲子園で敵として戦っていた白峰が、今度は肇たちのチャットグループへ。
そして話題は、次なる準々決勝へと移ります。
東海大相模高校のエース――神城颯真。
実は神城も、高校二年生の時に玲央や蓮司とU18日本代表で戦った仲間でした。
同じチームだったからこそ知っている、神城の投球。
制球力。
フォーク。
ピンチでの強さ。
そして投手としての精神力。
ただし、かつての仲間だからといって、試合の作戦を漏らすわけではありません。
あくまでU18時代に同じグラウンドで戦った者だから知っている「一人の投手としての神城颯真」。
敵として出会った選手たちが、試合を終えるたびに少しずつつながっていく。
そしていつか――。
高校野球ではなく、プロ野球の世界で再会するために。
四人のドラフト候補たちによる、少し特別な夜の会話です。
大阪桐蔭高校との三回戦を一対〇で制し、甲子園ベスト8進出を決めた翌日の夜。
高橋肇は宿泊先の自室でベッドに腰掛け、スマートフォンを眺めていた。
画面に表示されているのは、最近すっかりやり取りが増えた三人だけのチャットグループ。
メンバーは――。
高橋肇。
地区大会決勝で投げ合った崇道君彦。
そして甲子園二回戦で対戦した橘川玲央。
三人とも高校三年生。
三人ともドラフト候補。
そして高校卒業後、プロ野球の世界を目指している。
試合では敵同士だった。
しかし試合が終わってしまえば、同じ世代でプロを目指す野球仲間でもあった。
そんな三人のチャットに、橘川玲央から一件のメッセージが届いた。
『そういえばさ』
肇が返信する。
『何?』
崇道も続いた。
『どうした?』
数秒後。
玲央から返ってきた。
『白峰、グループに入れる?』
肇は思わず画面を二度見した。
『白峰って』
『大阪桐蔭の白峰蓮司?』
『そう』
肇はベッドから少し身体を起こした。
昨日まで甲子園で投げ合っていた相手。
全国評価SSS。
最速158kmを誇り、ある球団からドラフト一位候補として高く評価されている右腕。
白峰蓮司。
肇は試合後、白峰と握手を交わしている。
そして、
「プロで会おう」
そう約束した。
だが連絡先までは交換していなかった。
『玲央、白峰の連絡先知ってるの?』
すぐに玲央から返ってきた。
『知ってるよ』
肇は驚いた。
『何で!?』
崇道からも。
『そういや、お前ら一緒だったな』
『そう』
肇だけが話についていけない。
『一緒って何が?』
すると玲央から、
『U18』
その二文字。
肇はようやく理解した。
『ああ!』
『去年か』
『そう。高校二年の時』
橘川玲央と白峰蓮司。
二人は高校二年生の時、U18日本代表に選出されていた。
全国各地から同世代の有力選手が集められた日本代表。
普段は別々の高校で戦っている選手たちが、日の丸を背負い、一つのチームとして戦った。
玲央と蓮司も、そのメンバーだったのだ。
玲央からさらにメッセージ。
『同じチームだったから普通に話してた』
『大会終わってからも何回か連絡してる』
『だから連絡先は残ってる』
肇は少し笑った。
『世間狭いな』
崇道。
『高校野球の上の方まで来ると大体誰かが誰かと繋がってる』
玲央。
『特にU18組はな』
肇は少し考えてから入力する。
『じゃあ白峰に聞いてみてよ』
『このグループ入るか』
玲央。
『いいよ』
『今聞く』
◇◇◇
その頃。
大阪桐蔭高校の宿泊先。
白峰蓮司もまた、自室で身体を休めていた。
甲子園三回戦。
八回まで無失点。
高橋肇との直接対決でも、肇に決定的な一打を許さなかった。
しかし九回裏。
二番手投手が肇にサヨナラ本塁打を浴びた。
一対〇。
敗退。
高校最後の夏が終わった。
白峰はベッドの上でスマートフォンを眺めていた。
そこへメッセージ。
送り主を確認する。
「……玲央?」
久しぶりというほどではない。
何度か連絡を取り合っている。
画面を開いた。
『蓮司、今大丈夫?』
白峰が返信。
『大丈夫』
『どうした』
玲央。
『高橋と崇道と三人でチャットグループ作ってるんだけど』
白峰の指が止まる。
『高橋って昨日の?』
『そう』
『高橋肇』
少しして。
玲央から続く。
『入る?』
白峰は画面を見ながら、思わず笑った。
昨日まで戦っていた相手から、翌日にはチャットグループへの誘い。
だが不思議と嫌ではなかった。
むしろ。
試合後。
高橋肇とは、もう一度話してみたいと思っていた。
『いいよ』
玲央。
『じゃあ招待する』
『了解』
数十秒後。
三人だったグループに表示が出た。
『白峰蓮司さんが参加しました』
肇はすぐに反応した。
『来た』
崇道。
『本当に来た』
玲央。
『俺が呼んだんだから来るだろ』
白峰。
『何だこのグループ』
肇。
『ドラフト候補の集まりになりつつある』
白峰。
『名前は?』
崇道。
『高卒プロ候補三人組』
白峰。
『俺入ったら四人じゃん』
数秒。
肇。
『確かに』
玲央。
『今変える?』
崇道。
『変えろ』
そしてグループ名が変更された。
『高卒プロ候補四人組』
肇。
『そのままじゃん』
玲央。
『分かりやすい』
白峰。
『ダサくない?』
崇道。
『俺も思った』
玲央。
『じゃあ誰か考えろ』
四人のやり取りは、昨日まで甲子園で敵同士だったとは思えないほど自然だった。
◇◇◇
しばらくして。
肇が気になっていたことを聞いた。
『玲央と白峰ってU18で一緒だったんだよね?』
白峰。
『去年な』
玲央。
『高校二年の時』
肇。
『その時から仲良かった?』
玲央。
『仲良いっていうか、普通に野球の話してた』
白峰。
『玲央はよく喋るから』
玲央。
『蓮司が喋らなさすぎ』
白峰。
『野球するとき喋る必要ないだろ』
崇道。
『白峰らしい』
肇。
『俺、昨日初めてちゃんと話したけど本当にそんな感じだった』
白峰。
『高橋も人のこと言えないだろ』
『試合中ずっと怖い顔してたぞ』
肇。
『投げてる時はみんなそうだろ』
四人の間に笑いのスタンプが続いた。
そして。
玲央が話題を変えた。
『ところで肇』
『準々決勝、東海大相模だろ?』
肇。
『うん』
白峰。
『神城か』
肇の指が止まった。
神城颯真。
東海大相模高校のエース。
全国評価SS。
最速155km。
高い制球力。
縦に落ちるフォーク。
鋭いスライダー。
次に肇たちが戦う相手。
すると玲央が続けた。
『俺も蓮司も神城のこと知ってる』
肇。
『対戦したことあるの?』
玲央。
『対戦どころか』
白峰。
『同じチーム』
肇。
『U18?』
玲央。
『そう』
肇はまた驚かされた。
高校二年生だった昨年。
U18日本代表。
橘川玲央。
白峰蓮司。
そして――神城颯真。
三人は同じユニフォームを着て戦ったチームメイトだった。
『マジか』
玲央。
『だから神城の特徴はかなり知ってる』
白峰。
『ブルペンも何回も見てる』
肇は身体を起こした。
次の対戦相手。
しかも相手エースを間近で知る二人が、今このチャットにいる。
ただし肇はすぐに入力した。
『でも作戦とか聞くのは駄目だからな』
玲央。
『分かってる』
白峰。
『代表時代に見た範囲の話だけ』
崇道。
『それならいいだろ』
玲央は少し考えてから、神城について話し始めた。
『神城は球速だけ見ない方がいい』
肇。
『155だろ?』
『そう』
『でも一番厄介なのはそこじゃない』
白峰も続く。
『制球』
肇。
『監督も言ってた』
白峰。
『あいつ、同じストレートでも投げ分ける』
『外角いっぱい』
『内角いっぱい』
『高め』
『低め』
玲央。
『しかも追い込んでからだけじゃない』
『初球から普通に内角来る』
肇は黙って読む。
白峰。
『打者が踏み込めなくなる』
玲央。
『そこからフォーク』
白峰。
『あれが面倒』
肇。
『縦に落ちるやつ?』
玲央。
『そう』
白峰。
『俺のフォークとは少し違う』
肇。
『どう違う?』
白峰。
『俺は球速を残して落とす方』
『神城は打者の手元までストレートっぽく見せる』
玲央。
『途中まで本当に真っ直ぐに見える』
『それで最後に落ちる』
肇は昨日の白峰との対戦を思い出す。
白峰の高速フォークだけでも相当厄介だった。
しかし神城には神城の武器がある。
さらに玲央。
『あと神城はピンチで変わる』
肇。
『どういう意味?』
『普段は結構淡々としてる』
『でもランナー二塁とか三塁になると』
白峰。
『ギア上げる』
玲央。
『そう』
白峰。
『U18の時もそうだった』
『一死三塁とかになると急に球速上がる』
玲央。
『152くらいだったのが154、155まで来る』
肇。
『面白いな』
白峰。
『何で嬉しそうなんだよ』
肇。
『強い方が燃える』
玲央。
『高橋って本当にそういうタイプなんだな』
崇道。
『こいつ地区大会決勝でもそうだった』
肇。
『崇道まで』
◇◇◇
話はさらに続いた。
玲央が言う。
『でも神城の一番すごいところ』
肇。
『まだあるの?』
『ある』
白峰。
『メンタルだろ』
玲央。
『それ』
神城颯真は、表情をほとんど変えない。
味方がエラーをしても。
四球を出しても。
長打を打たれても。
マウンド上で苛立つ姿をほとんど見せない。
白峰。
『U18の試合で味方が二つ続けてエラーしたことがあった』
肇。
『それでも?』
『何も言わなかった』
玲央。
『むしろ内野集めて』
『次取ればいいから気にするな』
『って』
肇は画面を見つめた。
投手として。
それは簡単ではない。
肇自身。
昔なら味方のミスに表情が出ていたこともある。
白峰。
『あいつ、自分が抑えればいいって本気で思ってる』
玲央。
『だから守ってる側も安心する』
崇道。
『いい投手だな』
肇。
『うん』
そして肇は少し考える。
『ますます戦いたくなった』
白峰。
『だから何でそうなる』
玲央。
『普通は嫌がる情報なんだけど』
肇。
『でも全国制覇するなら勝つしかないだろ』
そのメッセージの後。
少しだけチャットが止まった。
そして。
白峰。
『高橋』
『何?』
『勝てよ』
肇は画面を見る。
白峰。
『俺たち大阪桐蔭を倒したんだから』
『次で負けるな』
肇は少し笑った。
『もちろん』
玲央。
『俺からも』
崇道。
『俺も』
三人とも。
すでに高校最後の大会では敗退している。
崇道。
橘川。
白峰。
それでも。
自分たちを倒した高橋肇が、どこまで進むのか。
三人とも気になっていた。
肇は返信した。
『全国制覇してくる』
白峰。
『そこまで言うか』
肇。
『最初からそのつもり』
玲央。
『知ってる』
崇道。
『何回聞いたと思ってる』
四人のチャットに再び笑いのスタンプが並ぶ。
◇◇◇
そして最後。
玲央が一つの提案をした。
『これさ』
『何?』
『高校野球終わっても消さないでおこう』
崇道。
『このグループ?』
『そう』
白峰。
『ドラフト終わっても?』
玲央。
『もちろん』
肇も少し考えた。
今は四人。
別々の高校。
別々の地域。
そして将来。
どの球団へ行くのかも分からない。
同じ球団になるかもしれない。
違う球団になって、プロのマウンドや打席で対戦するかもしれない。
肇。
『残そう』
崇道。
『賛成』
白峰。
『俺も』
玲央。
『決まり』
肇はスマートフォンを握りながら笑った。
地区大会決勝で出会った崇道君彦。
甲子園二回戦で出会った橘川玲央。
甲子園三回戦で出会った白峰蓮司。
そして。
次に待っている。
東海大相模高校。
神城颯真。
玲央と白峰にとっては、高校二年生の時に日の丸を背負って一緒に戦ったU18日本代表のチームメイト。
しかし次の試合。
神城と肇は敵として向き合う。
肇は最後に送った。
『神城にも勝つ』
玲央。
『頑張れ』
白峰。
『簡単じゃないぞ』
崇道。
『でも高橋なら面白い試合になる』
肇。
『任せろ』
送信。
そしてスマートフォンを置く。
大阪桐蔭を越えた。
去年の三回戦も越えた。
だが、全国制覇まではあと三つ。
準々決勝。
相手は東海大相模。
エース――神城颯真。
肇は静かに目を閉じた。
昨日まで敵だった選手たちが、今は自分の背中を押している。
そして次は。
彼らがよく知る男と戦う。
「神城颯真か……」
肇は小さく笑った。
「楽しみだな」
全国の頂点を目指す高橋肇にとって、新たな強敵との対決がすぐそこまで迫っていた。
番外編⑺❶「四人目のドラフト候補――U18日本代表でつながっていた白峰蓮司」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は試合から少し離れて、高橋肇、崇道君彦、橘川玲央、そして白峰蓮司のつながりを描きました。
もともとは三人だけだったチャットグループ。
しかし玲央から突然、
「白峰、グループに入れる?」
という提案が出ます。
そこで明らかになったのが、玲央と白峰の過去。
高校二年生の時。
二人はU18日本代表として同じチームで戦っていました。
学校は違う。
普段の大会ではライバルになる。
それでも日本代表では、同じ日の丸を背負った仲間。
その縁があったため、玲央と白峰は代表活動終了後にも何度か連絡を取り合っていました。
だからこそ、玲央を通じて白峰もチャットへ参加。
「高卒プロ候補三人組」は――。
高橋肇。
崇道君彦。
橘川玲央。
白峰蓮司。
四人になりました。
地区大会決勝では崇道。
甲子園二回戦では玲央。
甲子園三回戦では白峰。
肇が勝ち進むたび、かつて敵として戦った選手たちとの新しい関係が生まれています。
そして今回、もう一つ重要だったのが――神城颯真。
次の準々決勝。
東海大相模高校のエースとして、肇の前に立ちはだかる投手です。
実は神城も、玲央と白峰が高校二年生の時に参加したU18日本代表のチームメイトでした。
だから二人は神城のことをよく知っています。
最速155kmという数字だけではない。
外角、内角、高め、低めへ投げ分ける制球力。
ストレートと見分けにくい軌道から落ちるフォーク。
そしてピンチになるほど集中力を高める精神力。
さらに印象的なのは、味方がミスをしても責めないところ。
自分が抑えればいい。
次を取ればいい。
投手としてチームを落ち着かせられる神城の強さを、かつてのチームメイトだった玲央と白峰だからこそ知っていました。
そんな話を聞いても、肇の反応は――。
「ますます戦いたくなった」
強敵だから避けたいのではなく、強敵だからこそ戦いたい。
全国制覇を目指す肇らしい言葉です。
そして最後に玲央から出た、
「高校野球が終わっても、このグループを消さないでおこう」
という提案。
高校卒業後。
四人がどの球団へ進むのかは、まだ分かりません。
同じ球団になるかもしれない。
別々の球団へ進み、今度はプロ野球選手として対戦するかもしれない。
今はまだ高校生。
しかし四人が見ている未来には、すでにプロ野球があります。
そして、その前に。
高橋肇には高校野球で成し遂げたいことが残っています。
全国制覇まで――あと三勝。
次なる相手。
東海大相模高校。
そしてエース――神城颯真。
かつて玲央と白峰がU18日本代表で一緒に戦った男と、今度は高橋肇が甲子園の舞台で真正面からぶつかります。




