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第27話「零封の死闘――大阪桐蔭との三回戦、九回裏に放った唯一の一撃」


第27話では、ついに甲子園三回戦。


相手は――全国屈指の強豪・大阪桐蔭高校。


攻撃では、初球から迷わず振り抜くフルスイング。


長打力の高い打者が並ぶ強力打線。


そして先手を取って試合の主導権を握る攻撃力。


守備では、キャッチボールやノックといった基本を徹底して積み重ねた堅実なプレー。


さらに一点を守るための前進守備や状況判断。


投手陣も、エースだけではなく二番手、三番手まで層が厚い。


そんな攻守ともに隙の少ない大阪桐蔭へ、肇たちは何度も仕掛けます。


送りバント。


ヒットエンドラン。


代打。


走者を進める攻撃。


しかし――大阪桐蔭はびくともしません。


そしてマウンドに立つのは、全国評価SSSのエース・白峰蓮司。


最速158km。


高速フォーク。


さらに白峰は、父親と祖父も元プロ野球選手という野球一家で育ってきた存在。


ある球団からは、すでにドラフト一位候補として非常に高い評価を受けています。


対する高橋肇も、全国評価SSS。


高校通算67本塁打。


最速160km。


ついに――二人が初めて真正面から対決します。


しかし試合は、誰も予想しなかった展開へ。


一回。


二回。


三回。


四回。


五回。


六回。


七回。


八回。


両チーム、得点は――ゼロ。


白峰蓮司と高橋肇。


そして両校の堅い守備。


甲子園三回戦は、息詰まる投手戦となります。


昨年、肇たちが敗れた「三回戦」。


今年は、その壁を越えることができるのか。


最後の一球、最後の一打まで分からない一戦です。



甲子園三回戦。


相手は――大阪桐蔭高校。


全国でも屈指の強豪校。


打撃。


守備。


投手力。


そのどれか一つだけが突出しているのではない。


すべてが高い水準にある。


一条昴監督は、試合前日のミーティングでそう説明していた。


「大阪桐蔭は、強打だけのチームじゃない」


ホワイトボードの前。


七十人の野球部員。


十一人のマネージャー。


全員が一条監督を見ていた。


「確かに打撃は強い」


「はい」


「初球から迷わず振ってくる」


「はい」


「甘い球を待ってくれると思うな」


「はい!」


一条監督は資料をめくる。


「相手はフルスイングを徹底している」


そして。


「一番から九番まで長打を警戒しろ」


「はい!」


さらに守備。


「守りも堅い」


ノック。


キャッチボール。


基本動作。


そうした練習を徹底して積み重ねるチーム。


「普通なら内野安打になる打球をアウトにする」


「はい」


「普通なら一つ進める走者を止める」


「はい」


「一点を守る場面では、前進守備も迷わず使ってくる」


「はい!」


そして投手陣。


エースだけではない。


二番手。


三番手。


控え投手まで層が厚い。


一条監督は最後に言った。


「だから」


部員たちを見る。


「少しくらい仕掛けても、簡単には崩れない」


高橋肇が腕を組む。


「だったら」


一条監督が見る。


「何だ?」


「崩れるまで仕掛ければいい」


少し間。


前薗晃大が笑う。


「出た」


鈴木和誠も。


「高橋らしい」


一条監督は苦笑した。


「簡単に言うな」


「簡単じゃないです」


肇は真っ直ぐ答える。


「でも」


「うん」


「去年、俺たちは三回戦で終わった」


空気が変わる。


高校二年生だった昨年。


全国大会三回戦。


そこで敗退した。


だから今回。


三回戦。


同じ場所。


ここを越えなければ、去年を越えたことにはならない。


「相手が大阪桐蔭なら」


肇は笑った。


「むしろちょうどいいです」


一条監督が聞く。


「勝てるか?」


肇は即答した。


「勝ちます」


◇◇◇


試合当日。


甲子園球場。


満員に近いスタンド。


大阪桐蔭高校の名前がアナウンスされるだけで、球場には大きな拍手が起こった。


そして両校のスターティングメンバーが発表される。


大阪桐蔭高校。


一番・遊撃手 倉本悠真。


二番・二塁手 榊原蒼士。


三番・三塁手 三枝悠斗。


四番・一塁手 堂島龍成。


五番・左翼手 前川蒼士。


六番・捕手 黒田海翔。


七番・右翼手 藤村慶太。


八番・中堅手 森本蓮。


九番・投手 白峰蓮司。


そして控え。


二番手投手・長谷川慧。


三番手投手・神崎蒼大。


内野手・水野颯太。


外野手・牧野祐介。


捕手・川上優成。


全国評価SSS。


大阪桐蔭高校のエース。


白峰蓮司。


最速158km。


高速フォーク。


鋭く落ちるスプリット系の変化球。


さらに大きなカーブ。


制球も高い。


しかも。


ただのドラフト候補ではない。


あるプロ球団がすでにドラフト一位候補として強く評価している。


そして――。


白峰蓮司の父親。


白峰隆臣。


元プロ野球選手。


さらに祖父。


白峰宗一郎。


こちらも元プロ野球選手。


二人とも同じ球団でプレーした経験を持つOBだった。


親子三代。


野球一家。


蓮司は幼い頃からグラブとボールが身近にある家庭で育った。


父親から投げ方を教わり。


祖父から野球の考え方を聞き。


少年野球。


中学硬式。


そして大阪桐蔭。


野球一筋。


その道を歩いてきた。


だから全国から注目されても、蓮司自身は浮つかない。


ただマウンドで打者を抑える。


それだけ。


一方。


肇たちの学校。


一番・遊撃手 神谷悠斗。


二番・二塁手 藤堂拓海。


三番・中堅手 鈴木和誠。


四番・投手 高橋肇。


五番・捕手 前薗晃大。


六番・一塁手 宮坂大智。


七番・三塁手 桐生翔。


八番・左翼手 長谷川颯汰。


九番・右翼手 相馬健吾。


こちらも全国評価ではレギュラー全員B以上。


そして四番。


高橋肇。


高校通算六十七本塁打。


最速160km。


全国評価SSS。


二人のSSSランク。


白峰蓮司。


高橋肇。


初めて。


真正面からぶつかる。


◇◇◇


スタンド。


吹奏楽部三十人。


真悠。


チアリーディング部。


眞衣。


父親。


母・由紀子。


そして東雲千鶴。


由紀子がグラウンドを見る。


「今日、肇は最初から投げるのね」


千鶴も頷く。


「はい」


「昨日みたいなサプライズは?」


千鶴が少し笑う。


「私は聞いていません」


「じゃあ本当にないのね」


「多分」


「多分?」


「一条先生と肇君ですから」


由紀子が笑った。


「確かに」


その少し後ろ。


父親。


真悠。


眞衣。


三人でグラウンドを見る。


真悠が言う。


「白峰って、本当に158出すの?」


父親が答える。


「出す」


眞衣も。


「お兄ちゃんより二キロ遅いじゃん」


父親がすぐ言う。


「そういう比べ方するな」


「でも」


「球速だけで投手の良し悪しは決まらない」


「前薗さんも言ってた」


真悠が答える。


「そういうこと」


父親はマウンドを見た。


「今日の肇に必要なのは160じゃない」


「何?」


「ゼロを並べること」


◇◇◇


試合開始。


「お願いします!」


両校整列。


深く頭を下げる。


そして。


一回表。


肇たちの攻撃。


マウンドへ上がる白峰蓮司。


場内がざわつく。


肇はベンチの最前列から見る。


「……でかいな」


前薗が言う。


「腕長い」


「リリース見にくそう」


白峰が投球練習。


ズバン!


捕手・黒田のミットへ。


表示。


156km。


「練習で156かよ」


和誠が呟く。


肇は黙って見ている。


一番・神谷悠斗。


初球。


155km。


ストライク。


神谷が少し遅れる。


二球目。


152km。


ファウル。


三球目。


高速フォーク。


神谷のバットが空を切る。


三球三振。


「速いだけじゃないな」


肇が言う。


藤堂拓海。


初球から振る。


ファウル。


二球目。


カーブ。


見逃し。


三球目。


ストレート。


ファウル。


四球目。


低めフォーク。


空振り。


二者連続三振。


三番・鈴木和誠。


和誠は粘る。


一球目。


ボール。


二球目。


ストライク。


三球目。


ファウル。


四球目。


ボール。


五球目。


ファウル。


六球目。


白峰が投げる。


155km。


和誠が振る。


カァン!


三遊間。


だが。


三塁手・三枝悠斗。


横っ飛び。


捕る。


一塁送球。


「アウト!」


和誠が一塁を駆け抜けて振り返る。


「……取るか」


三枝の守備。


堅い。


大阪桐蔭。


打撃だけではない。


一回表。


三者凡退。


◇◇◇


一回裏。


肇がマウンドへ。


前薗がミットを構える。


「肇」


「うん」


「白峰意識するな」


「分かってる」


「160いらない」


「分かってるって」


一番・倉本悠真。


初球。


153km。


ストライク。


倉本は迷わず振ってきた。


ファウル。


「本当に初球から来るな」


肇が少し笑う。


二球目。


スライダー。


空振り。


三球目。


カーブ。


見逃し。


三振。


二番・榊原蒼士。


初球。


154km。


センター方向。


和誠が前へ。


キャッチ。


二死。


そして三番。


全国評価SS。


三枝悠斗。


白峰と並ぶ大阪桐蔭の中心選手。


初球。


肇はスライダー。


三枝は見送る。


ストライク。


二球目。


シュート。


ファウル。


三球目。


155km。


バットに当てる。


ファウル。


「155……」


スタンドがどよめく。


四球目。


カーブ。


ボール。


五球目。


もう一度。


155km。


三枝が振り抜く。


カキン!


三塁方向。


桐生翔。


正面。


捕球。


一塁。


アウト。


一回終了。


〇対〇。


◇◇◇


二回表。


いよいよ。


四番・高橋肇。


場内アナウンス。


「四番、ピッチャー、高橋君」


大歓声。


白峰蓮司。


高橋肇。


初対決。


マウンドの白峰が肇を見る。


肇も白峰を見る。


白峰が小さく帽子のつばへ触れる。


肇もバットを軽く上げた。


第一球。


白峰が振りかぶる。


157km。


外角高め。


肇は振らない。


「ボール!」


二球目。


154km。


内角。


肇が振る。


ファウル。


「速い」


三球目。


高速フォーク。


肇のバットが止まる。


低め。


「ボール!」


二ボール一ストライク。


四球目。


白峰。


カーブ。


ストライク。


二ボール二ストライク。


五球目。


156km。


肇が振る。


カキィン!


右翼方向。


藤村慶太が下がる。


フェンス手前。


捕球。


「アウト!」


肇は一塁手前で止まる。


白峰が小さく息を吐く。


初対決。


白峰の勝ち。


肇はベンチへ戻る。


前薗が聞く。


「どう?」


「めちゃくちゃいい」


「打てそう?」


「打つ」


即答。


◇◇◇


五番・前薗。


白峰のフォークに空振り三振。


六番・宮坂。


内野ゴロ。


二回表も無得点。


その裏。


大阪桐蔭。


四番・堂島龍成。


初球からフルスイング。


肇の153km。


ファウル。


二球目。


スライダー。


空振り。


三球目。


シュート。


打球は二塁方向。


藤堂が捕球。


アウト。


五番・前川蒼士。


左打者。


初球。


カーブ。


ストライク。


二球目。


154km。


左中間へ。


「抜ける!」


だが。


和誠が走る。


追いつく。


キャッチ。


二死。


六番・黒田海翔。


捕手。


粘る。


五球。


六球。


七球。


最後。


肇の155km。


ファウルチップ。


前薗が捕球。


三振。


二回終了。


〇対〇。


◇◇◇


三回。


肇たちは仕掛ける。


八番・長谷川颯汰が四球。


九番・相馬健吾。


送りバント。


一死二塁。


一番・神谷。


セーフティ気味のバント。


三塁線。


「うまい!」


しかし。


三枝悠斗が猛然と前へ。


素手で取る。


一塁へ。


アウト。


二死三塁。


「これもアウトにするのか……」


ベンチの久我直哉が驚く。


二番・藤堂。


初球。


引っ張る。


一、二塁間。


一塁手・堂島が飛びつく。


捕球。


自分でベースへ。


アウト。


無得点。


一条監督が腕を組む。


「びくともしないな」


肇が言う。


「まだです」


「まだ仕掛けるか?」


「もちろん」


一条監督は少し笑った。


◇◇◇


三回裏。


大阪桐蔭も攻める。


七番・藤村。


初球から振る。


センター前。


この試合、両チーム最初のヒット。


無死一塁。


八番・森本。


送りバント。


一死二塁。


九番・白峰。


打席。


肇が少し驚く。


白峰は構えも悪くない。


初球。


バントの構え。


引く。


ボール。


二球目。


バント。


三塁方向。


桐生が処理。


二死三塁。


一番へ戻る。


倉本。


一打先制。


肇がロージンを触る。


前薗がサイン。


初球。


155km。


ファウル。


二球目。


カーブ。


ボール。


三球目。


シュート。


内野ゴロ。


神谷が捕球。


アウト。


無失点。


スタンド。


父親が息を吐く。


「よし」


真悠も。


「危なかった……」


眞衣が言う。


「三塁まで行ったのに」


父親は頷く。


「こういうのが大阪桐蔭だよ」


「どういう?」


「少ないチャンスでも三塁まで進める」


「一点取りに来るんだ」


「そう」


◇◇◇


四回表。


三番・和誠。


白峰から四球。


初めての先頭出塁。


四番・肇。


二度目の対決。


白峰の初球。


155km。


ストライク。


二球目。


フォーク。


ボール。


三球目。


肇が振る。


カァン!


一、二塁間。


抜ける――。


と思われた。


しかし二塁手・榊原蒼士。


逆シングル。


二塁へ。


遊撃手・倉本。


一塁へ。


ダブルプレー。


「うわ……」


肇が一塁を駆け抜ける。


二死。


前薗がフライ。


無得点。


肇はベンチへ戻りながら呟く。


「今の抜けないのか」


一条監督が言う。


「だから強い」


「分かってます」


「焦るな」


「はい」


◇◇◇


四回裏。


大阪桐蔭。


三番・三枝。


先頭。


肇の154kmを弾き返す。


センター前。


無死一塁。


四番・堂島。


強打。


初球から振る。


カキィン!


左中間。


長打になりそうな打球。


和誠。


長谷川。


二人が追う。


和誠が最後に追いつく。


キャッチ。


一死一塁。


五番・前川。


ヒットエンドラン。


肇が投げる。


前川が打つ。


二遊間。


藤堂。


神谷。


連係。


二塁。


一塁。


ダブルプレー。


今度はこちらが守る。


大阪桐蔭ベンチも静かに引き揚げる。


〇対〇。


◇◇◇


五回表。


宮坂。


三振。


桐生。


三塁線へ強いゴロ。


三枝が捕球。


アウト。


長谷川。


ライト前。


この試合、肇たちの初安打。


ベンチが沸く。


「よし!」


二死一塁。


相馬。


初球からエンドラン。


だが白峰のフォーク。


空振り。


捕手・黒田が二塁送球。


長谷川。


アウト。


三アウト。


白峰。


隙がない。


◇◇◇


五回裏。


肇も負けない。


六番・黒田。


155km。


三振。


七番・藤村。


スライダー。


三振。


八番・森本。


カーブ。


セカンドゴロ。


三者凡退。


表示。


ここまで肇の最速。


156km。


155km台を何度も記録している。


だが160は狙わない。


前薗がベンチで聞く。


「余裕ある?」


「ある」


「本当に?」


「今日は球速よりアウトだろ」


前薗が笑う。


「成長したな」


「千鶴にも――」


肇は言いかけて止める。


「何?」


「何でもない」


危ない。


◇◇◇


六回表。


一番から。


神谷。


白峰の155kmをセンター前。


無死一塁。


藤堂。


送りバント。


一死二塁。


和誠。


四球。


一死一、二塁。


甲子園がざわつく。


四番・高橋肇。


三度目の対決。


白峰がロージンを触る。


捕手・黒田がマウンドへ行く。


短く会話。


戻る。


肇が構える。


初球。


157km。


ボール。


二球目。


フォーク。


空振り。


三球目。


カーブ。


ストライク。


一ボール二ストライク。


四球目。


157km。


肇が振る。


ファウル。


五球目。


フォーク。


見送る。


二ボール二ストライク。


六球目。


白峰。


内角156km。


肇が振り抜く。


カキィィン!


左中間。


「抜けろ!」


しかし。


中堅手・森本蓮。


一直線に走る。


飛び込む。


キャッチ。


「アウト!」


二死。


走者動けない。


肇が一塁付近で止まる。


「マジか……」


前薗。


三振。


また無得点。


チャンスを作る。


でも点が取れない。


大阪桐蔭は本当に崩れない。


◇◇◇


六回裏。


九番・白峰。


セカンドゴロ。


一番・倉本。


155kmを打ち返す。


センター前。


一死一塁。


二番・榊原。


送りバントの構え。


だがバスター。


ライト前。


一死一、二塁。


大阪桐蔭ベンチが初めて大きく沸く。


三番・三枝。


最も危険な場面。


前薗がマウンドへ。


「肇」


「うん」


「勝負する?」


「する」


「一塁空いてない」


「関係ない」


「分かった」


前薗が戻る。


初球。


スライダー。


ボール。


二球目。


155km。


見逃し。


ストライク。


三球目。


シュート。


ファウル。


追い込む。


四球目。


カーブ。


三枝が振る。


三塁方向。


桐生。


捕球。


二塁。


一塁。


ダブルプレー!


「よっしゃあ!」


肇が拳を握る。


六回終了。


まだ。


〇対〇。


◇◇◇


七回表。


大阪桐蔭ベンチが動く。


白峰は続投。


投球数は九十球近い。


一条監督が聞く。


「そろそろ疲れるか?」


肇が答える。


「まだ落ちてないです」


「そうだな」


宮坂。


セカンドゴロ。


桐生。


四球。


長谷川。


送りバント。


二死二塁。


代打。


一条監督が相馬に代えて榎本悠生を送る。


「榎本!」


「はい!」


「思い切って行け!」


「はい!」


榎本。


白峰の初球。


154km。


ファウル。


二球目。


フォーク。


ボール。


三球目。


ストレート。


打つ。


三遊間。


三枝が横っ飛び。


止める。


一塁へ。


アウト。


「また三枝!」


ベンチが悔しがる。


攻める。


仕掛ける。


代打も使う。


それでも大阪桐蔭は崩れない。


七回表。


〇。


◇◇◇


七回裏。


守備交代。


榎本に代わり、右翼へ倉田陽向。


大阪桐蔭。


四番・堂島。


肇の155km。


右中間へ二塁打。


無死二塁。


甲子園が大きく沸く。


五番・前川。


送りバントではない。


強打。


初球。


ファウル。


二球目。


カーブ。


打つ。


一塁ゴロ。


宮坂が処理。


走者三塁。


一死三塁。


一点が遠い試合。


大阪桐蔭が先制の大チャンス。


一条監督が守備位置を指示する。


前進守備。


六番・黒田。


スクイズの可能性。


初球。


バントの構え。


肇が投げる。


外す。


前薗が立って捕る。


走者動かない。


二球目。


黒田は強打。


ファウル。


三球目。


肇。


155km。


黒田が打つ。


三塁線。


桐生!


前進して捕る。


本塁を見る。


走者が飛び出しかけて戻る。


一塁。


アウト。


二死三塁。


七番・藤村。


前薗がサイン。


肇が頷く。


初球。


154km。


ストライク。


二球目。


スライダー。


空振り。


三球目。


カーブ。


ファウル。


四球目。


156km。


藤村が振る。


空振り!


三振!


甲子園が大きくどよめく。


肇が叫ぶ。


「よしっ!」


七回終了。


〇対〇。


◇◇◇


八回表。


打順は一番から。


神谷。


内野ゴロ。


藤堂。


ヒット。


一死一塁。


和誠。


初球。


ヒットエンドラン。


藤堂スタート。


和誠が打つ。


ライト前。


一死一、三塁。


この試合最大級のチャンス。


そして四番。


肇。


大阪桐蔭ベンチ。


監督がマウンドへ。


白峰と話す。


肇はネクストから見ている。


白峰は続投。


「来るか」


肇が打席へ。


一死一、三塁。


外野は浅め。


内野前進。


一点を絶対に与えない守備。


白峰。


初球。


157km。


ファウル。


二球目。


フォーク。


見逃し。


ボール。


三球目。


内角。


155km。


肇が振る。


詰まる。


三塁前。


三枝。


捕球。


ホームへ!


藤堂が突っ込む。


捕手・黒田。


タッチ!


「アウト!」


二死一、二塁。


一点取れない。


前薗。


センターフライ。


八回表終了。


肇はベンチへ戻り、ヘルメットを置いた。


悔しい。


だが。


一条監督が言う。


「まだ九回がある」


「はい」


「守れ」


「はい!」


◇◇◇


八回裏。


肇。


この回もマウンドへ。


球数は百球を越えた。


一条監督が聞く。


「行けるか?」


「行きます」


「無理なら言え」


「はい」


八番・森本。


ライトフライ。


九番・白峰。


ここで大阪桐蔭は代打を送らない。


白峰がそのまま打席へ。


肇が少し驚く。


白峰も最後まで投げるつもり。


初球。


153km。


ファウル。


二球目。


カーブ。


見逃し。


三球目。


スライダー。


空振り三振。


二死。


一番・倉本。


初球。


155km。


ファウル。


二球目。


シュート。


内野ゴロ。


神谷。


捕球。


アウト。


八回終了。


スコアボード。


相手も。


自分たちも。


ゼロ。


ゼロ。


ゼロ。


ゼロ。


ゼロ。


ゼロ。


ゼロ。


ゼロ。


〇対〇。


甲子園三回戦。


まさかの投手戦。


◇◇◇


九回表。


大阪桐蔭。


白峰蓮司はマウンドへ上がらなかった。


アナウンス。


「大阪桐蔭高校、選手の交代をお知らせします」


球場がざわつく。


白峰。


八回まで無失点。


だが球数と疲労を考え、交代。


「ピッチャー、長谷川君」


二番手投手。


長谷川慧。


右腕。


最速149km。


スライダーが武器。


白峰はベンチ。


肇が少し残念そう。


「最後まで打てなかった」


前薗が言う。


「まだ試合終わってないぞ」


「分かってる」


九回表。


宮坂。


ショートゴロ。


桐生。


センター前。


一死一塁。


長谷川颯汰。


送りバント。


二死二塁。


倉田陽向。


三振。


九回表も〇。


◇◇◇


九回裏。


スコア。


〇対〇。


肇がマウンドへ向かおうとした。


だが。


一条監督が呼び止める。


「高橋」


「はい」


「もしここ抑えたら」


「はい」


「十回へ行く」


「はい」


「行けるか?」


肇は頷く。


「行けます」


「無理なら絶対言え」


「はい」


九回裏。


大阪桐蔭。


二番・榊原。


肇の初球。


154km。


セカンドゴロ。


一死。


三番・三枝。


今日二安打。


最大警戒。


初球。


スライダー。


ストライク。


二球目。


154km。


ファウル。


三球目。


カーブ。


ボール。


四球目。


シュート。


打つ。


ライトフライ。


二死。


四番・堂島。


強打者。


初球。


155km。


大きなファウル。


甲子園がどよめく。


二球目。


スライダー。


空振り。


三球目。


低め。


ボール。


四球目。


肇が一度大きく息を吸う。


前薗がミットを構える。


155km。


外角。


堂島が振る。


カキン!


センター方向。


和誠。


前へ。


キャッチ!


三アウト。


九回終了。


〇対〇。


延長へ。


――と思われた。


しかし。


この大会規定。


この試合では肇たちが後攻。


つまり。


まだ九回裏ではなく、これは大阪桐蔭の九回表だった。


そして――。


その裏。


高橋肇たちの攻撃が残っている。


◇◇◇


九回裏。


甲子園の空気が変わる。


先頭。


一番・神谷悠斗。


マウンドは長谷川慧。


初球。


スライダー。


神谷が打つ。


セカンドゴロ。


一死。


二番・藤堂拓海。


149km。


ファウル。


次。


スライダー。


空振り。


三振。


二死。


大阪桐蔭スタンドが大きく沸く。


あと一人で延長。


そして。


三番・鈴木和誠。


長谷川のストレート。


センターフライ。


――と思った。


しかし打球は浅い。


中堅手・森本が前へ。


キャッチ。


三アウト。


ではない。


一条監督がタイムを取っていたことで打球前の投球が無効。


和誠が打席へ戻る。


一条監督が何か指示。


和誠が頷く。


次の球。


低めスライダー。


和誠は見送る。


ボール。


そして四球。


二死一塁。


甲子園がざわつく。


次。


四番。


高橋肇。


大歓声。


白峰蓮司はベンチから立ち上がっていた。


初めて対戦したSSS同士。


白峰は八回まで肇を無安打に近い内容で抑え込んだ。


しかし今。


マウンドにいるのは長谷川慧。


肇が打席へ入る。


一条監督がベンチから声。


「高橋!」


肇が見る。


「ホームラン狙うな!」


周囲が少し笑う。


こんな場面でも一条監督らしい。


肇が小さく笑う。


「分かってます!」


前薗がベンチで言う。


「絶対狙ってる顔」


宮坂も。


「俺もそう思う」


肇は構える。


二死一塁。


〇対〇。


九回裏。


長谷川が投げる。


初球。


外角149km。


肇は見送る。


ストライク。


二球目。


低め。


スライダー。


肇が振る。


ファウル。


〇ボール二ストライク。


追い込まれた。


甲子園が静かになる。


長谷川がロージンを触る。


捕手・黒田がサイン。


三球目。


外角へ逃げるスライダー。


肇のバットは止まる。


「ボール!」


一ボール二ストライク。


四球目。


ストレート。


内角。


肇が振る。


ファウル。


粘る。


五球目。


スライダー。


ボール。


二ボール二ストライク。


肇は一度打席を外した。


大きく息を吐く。


去年。


三回戦。


ここで終わった。


今年。


相手は大阪桐蔭。


全国屈指の強豪。


八回までゼロ。


自分も白峰から打てなかった。


でも。


まだ終わっていない。


スタンド。


真悠。


眞衣。


父。


由紀子。


そして――千鶴。


肇はほんの一瞬だけスタンドを見た。


千鶴は指揮棒を握ったまま。


目が合った気がした。


肇は構え直す。


長谷川。


第六球。


スライダー。


外角から入ってくる。


肇の目が開く。


「そこ!」


踏み込む。


振り抜いた。


カキィィィィィィン――!!


打った瞬間。


甲子園が静まり返る。


高く上がる打球。


左中間。


中堅手・森本。


左翼手・前川。


二人が走る。


フェンス際。


森本がジャンプ。


届かない。


そのまま。


スタンド。


一瞬。


そして。


「入ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


甲子園が爆発した。


肇は打席で一瞬だけ立ち尽くした。


「……入った」


その後。


バットを置く。


一塁。


ゆっくり走る。


ベンチから七十人が飛び出しかけ、一条監督が止める。


「まだホーム踏んでない!」


和誠が先にホームへ。


一対〇。


そして肇。


一塁。


二塁。


三塁。


ベンチ。


前薗が叫ぶ。


「肇ぃぃぃ!」


宮坂。


「行けぇぇ!」


和誠はホーム付近で待つ。


最後。


高橋肇がホームベースを踏む。


サヨナラ本塁打。


スコア。


1-0。


試合終了。


◇◇◇


「うおおおおおおおおおっ!」


全員が肇へ殺到した。


前薗。


和誠。


宮坂。


神谷。


藤堂。


桐生。


長谷川。


倉田。


そして控え部員たち。


「高橋!」


「肇!」


「やった!」


「去年越えたぞ!」


その一言。


肇が止まる。


――去年を越えた。


三回戦。


昨年。


ここで敗れた。


今年。


勝った。


しかも。


大阪桐蔭高校。


〇対〇。


九回裏。


サヨナラ本塁打。


肇は仲間たちに囲まれながら、少しだけ空を見上げた。


「越えた……」


前薗が肩を抱く。


「越えたぞ」


和誠も。


「三回戦突破だ!」


肇が笑う。


「まだ終わってない」


和誠も笑う。


「分かってる」


「全国制覇」


「そのための一勝」


◇◇◇


スタンド。


真悠と眞衣は抱き合っていた。


「入った!」


「兄貴、打った!」


父親はその隣で何度も拍手。


「やったな……」


由紀子は両手で口元を押さえる。


「肇……」


そして千鶴。


指揮棒を握ったまま。


目には少し涙が浮かんでいた。


「高橋君……」


学校では。


その呼び方。


でも心の中では。


――肇。


――おめでとう。


由紀子が千鶴を見る。


「千鶴」


「はい」


「泣いてる?」


「……少しだけ」


「去年のこと知ってるもんね」


「はい」


千鶴はグラウンドを見る。


「ずっと、三回戦を越えたいって言っていました」


「うん」


「だから」


涙を拭く。


「嬉しいです」


由紀子も少し目を潤ませた。


「私も」


◇◇◇


試合後。


整列。


「ありがとうございました!」


両校が頭を下げる。


そして。


白峰蓮司が肇へ歩いてきた。


「高橋」


「白峰」


初めて近くで向き合う。


白峰が手を差し出す。


肇が握る。


「俺から打たなかったな」


肇が苦笑する。


「打てなかった」


「正直」


「めちゃくちゃ打ちにくかった」


白峰が少し笑う。


「俺も抑えるのきつかった」


「八回までゼロじゃん」


「でも最後負けた」


「長谷川からだけど」


白峰は首を横に振る。


「チームの負けは俺の負け」


肇は少し黙る。


「……そうか」


「高橋」


「うん」


「全国制覇するんだろ?」


「する」


白峰が笑う。


「じゃあ頼む」


「何を?」


「俺たちの分まで勝て」


肇は強く握り返した。


「分かった」


白峰も。


「プロで会おう」


肇が少し驚く。


また。


同じ言葉。


崇道。


橘川。


そして白峰。


「うん」


肇は笑う。


「プロで」


◇◇◇


ロッカールーム。


一条監督。


七十人。


十一人のマネージャー。


全員が揃う。


一条監督がゆっくり口を開く。


「一対〇」


「はい」


「よく勝った」


「はい!」


「白峰蓮司」


「はい」


「八回無失点」


「はい」


「大阪桐蔭の守備」


「はい」


「びくともしなかった」


「はい」


「それでも」


一条監督が肇を見る。


「最後に高橋が打った」


「はい」


「だが」


少し間。


「今日の勝ちは、高橋のホームランだけじゃない」


肇が頷く。


「はい」


「九回までゼロに抑えた守備」


「はい」


「前薗のリード」


「はい!」


「内野」


「はい!」


「外野」


「はい!」


「全員で守った一点だ」


「はい!」


そして。


「去年」


三年生を見る。


「三回戦で負けた」


「はい」


「今年」


少し笑う。


「越えたな」


三年生たちの表情が変わる。


和誠。


前薗。


肇。


全員。


「はい!」


「でも」


一条監督はすぐ表情を引き締める。


「全国制覇はまだだ」


「はい!」


「一試合勝っただけ」


「はい!」


「次も勝つぞ!」


「はい!」


大声。


肇は拳を握る。


高校通算。


六十八本塁打。


その一本。


今まで打ったどのホームランとも違う。


甲子園三回戦。


大阪桐蔭高校。


八回まで〇対〇。


白峰蓮司との投手戦。


そして九回裏。


二番手投手・長谷川慧のスライダー。


振り抜いた打球。


左中間スタンド。


サヨナラ本塁打。


1-0。


去年、越えられなかった三回戦。


今年。


ついに越えた。


だが。


高橋肇たちが目指している場所は――。


まだ先。


全国の頂点。


高校最後の夏は、ついに去年よりも先へ進み始めた。



第27話「零封の死闘――大阪桐蔭との三回戦、九回裏に放った唯一の一撃」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。


今回は、これまでの甲子園編とはまったく違う試合になりました。


一回戦。


横浜高校戦――十二対三。


二回戦。


智辯和歌山高校戦――十四対十三。


どちらも大量得点が生まれた試合でした。


しかし三回戦。


大阪桐蔭高校戦。


結果は――一対〇。


九回裏まで、両チーム一歩も譲らない投手戦でした。


まず印象的だったのは、大阪桐蔭の総合力です。


強打だけではありません。


肇たちが何度仕掛けても、簡単には崩れない守備。


三塁手・三枝悠斗の横っ飛び。


二塁手・榊原蒼士と遊撃手・倉本悠真の連係。


中堅手・森本蓮の広い守備範囲。


一塁手・堂島龍成の堅実な捕球。


さらに捕手・黒田海翔による投手陣のリード。


「普通なら抜ける」


「普通なら内野安打」


そんな打球さえ、アウトへ変えてしまいます。


肇たちも、


送りバント。


セーフティバント。


ヒットエンドラン。


代打。


走者を進める攻撃。


さまざまな方法で一点を奪おうとしました。


それでも大阪桐蔭は崩れない。


まさに全国屈指の強豪らしい守備でした。


そして最大の相手となったのが――白峰蓮司。


最速158km。


高速フォーク。


大きなカーブ。


そして高い制球力。


父・白峰隆臣。


祖父・白峰宗一郎。


二人とも元プロ野球選手。


同じ球団でプレーしたOBという野球一家の中で育ち、幼い頃から野球だけを追い続けてきた白峰。


その実力は本物でした。


高橋肇との初対決。


第一打席では右翼フライ。


第二打席では併殺。


第三打席でも、中堅手の好守によってアウト。


そして八回。


一死一、三塁という最大のチャンスでも、肇の打球を大阪桐蔭守備陣が本塁アウトへ。


結局――肇は白峰本人から本塁打を打つことはできませんでした。


全国評価SSS同士。


白峰蓮司。


高橋肇。


その最初の直接対決は、投手・白峰が肇を抑え込む形となりました。


しかし肇も、投手として負けていません。


155km台のストレートを何度も投げながらも、160kmという数字を追わない。


スライダー。


カーブ。


シュート。


ストレート。


前薗晃大とのバッテリーで大阪桐蔭打線を封じました。


特に七回。


無死二塁から一死三塁。


一点を取られれば試合の流れが一気に大阪桐蔭へ傾きかねない場面。


それでも守備陣とともに踏ん張り、最後は空振り三振。


八回終了時点で、


〇対〇。


白峰もゼロ。


肇もゼロ。


まさに一球が勝敗を決める試合となりました。


そして九回。


大阪桐蔭は、八回まで無失点だった白峰を投球数なども考慮して交代。


二番手投手・長谷川慧がマウンドへ。


そこで巡ってきた九回裏。


二死一塁。


四番――高橋肇。


長谷川が投じた外角のスライダー。


その一球を、肇が振り抜きました。


左中間。


フェンス際。


そして――スタンドへ。


サヨナラ本塁打。


一対〇。


高校通算68号。


ですが、この一本は単なる「68本目」ではありません。


昨年。


高校二年生だった肇たちは、甲子園三回戦で敗退しました。


ずっと残っていた、


「三回戦」


という壁。


今年。


高校最後の夏。


全国屈指の強豪・大阪桐蔭を相手に。


八回まで〇対〇。


そして九回裏。


サヨナラ本塁打。


ついに――去年の自分たちを越えました。


ただし、一条監督が試合後に言ったように、


「今日の勝ちは高橋のホームランだけではない」


ということも重要です。


前薗晃大のリード。


神谷悠斗。


藤堂拓海。


鈴木和誠。


宮坂大智。


桐生翔。


長谷川颯汰。


相馬健吾。


途中出場した倉田陽向や榎本悠生。


守備で一点を守り続けた全員。


高橋肇が最後に一本打てたのは、九回まで仲間たちが〇点で守っていたからこそです。


そして試合後。


白峰蓮司と肇が交わした握手。


「俺からは打たなかったな」


「打てなかった」


相手の強さを認められるのも、同じ全国の舞台を戦った選手だからこそ。


そして白峰からも、


「プロで会おう」


という言葉が送られました。


崇道君彦。


橘川玲央。


そして白峰蓮司。


甲子園を進むごとに増えていく、肇と同じプロ野球の世界を目指すライバルたち。


高校野球が終わった先でも、再び対戦する可能性があります。


さらに応援席では。


真悠。


眞衣。


父親。


由紀子。


そして千鶴。


昨年、三回戦で敗れたことを知っている千鶴だからこそ、今回の勝利には特別なものがありました。


学校では「高橋君」。


しかし心の中では――。


「肇、おめでとう」


そう伝えたかったことでしょう。


一回戦突破。


二回戦突破。


そして――三回戦突破。


昨年の自分たちをついに越えました。


しかし。


目標は三回戦突破ではありません。


全国制覇。


高校最後の夏。


高橋肇たちは、ようやく昨年見ることのできなかった景色へ足を踏み入れます。


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