第26話「三回戦の相手決定――三人のドラフト候補がつながる夜と、次なる強敵」
第26話では、甲子園二回戦を十四対十三という一点差で制した翌日。
高橋肇たちは、再び地方球場で三回戦へ向けた調整に入ります。
一回戦。
横浜高校に十二対三。
二回戦。
智辯和歌山高校に十四対十三。
二つのまったく違う試合を勝ち抜き、ついに次は――三回戦。
昨年、高校二年生だった肇たちが甲子園で敗れた、まさに同じ「三回戦」です。
だからこそ一条昴監督から告げられる、
「去年を越えるぞ」
という言葉には、三年生たちにとって特別な意味があります。
そんな中、マネージャーたちは練習中も甲子園で行われている二回戦の結果を逐一報告。
大阪桐蔭高校。
東海大相模高校。
履正社高校。
健大高崎高校。
報徳学園高校。
浦和学院高校。
京都国際高校。
全国の強豪校が次々と三回戦へ勝ち上がってきます。
そして肇自身は昼休み、少し意外な時間を過ごすことに。
地区大会決勝で戦った崇道君彦。
二回戦で戦った橘川玲央。
この三人だけのチャットグループが作られ、今年の高校野球選手、ドラフト候補、プロ入り、全国評価上位選手たちについて三十分以上も語り合います。
昨日まで敵だった選手が、今度は同じプロ野球の世界を目指す仲間のような存在へ。
さらに応援組では――。
千鶴と由紀子。
そして肇の父親、真悠、眞衣。
それぞれが「次の三回戦」について話します。
そして最後に発表される、肇たちの三回戦の相手。
全国屈指の強豪――大阪桐蔭高校。
全国評価SSSの投手・白峰蓮司。
昨年止まった三回戦。
今年、その壁を越えるための最大級の相手が待っています。
甲子園二回戦。
十四対十三。
わずか一点差。
高橋肇たちは智辯和歌山高校との激戦を制し、三回戦進出を決めた。
一回戦。
横浜高校を十二対三。
二回戦。
智辯和歌山高校を十四対十三。
まったく性格の違う二試合を勝ち抜いた。
そして肇自身は、二回戦で三本塁打。
高校通算本塁打数は六十七本。
しかし。
試合翌朝。
一条昴監督が最初に口にしたのは、その数字ではなかった。
「全員、昨日の試合は終わった」
「はい!」
甲子園近くの地方球場。
七十人の野球部員と十一人のマネージャーが集まっている。
「十四対十三」
一条監督が言う。
「一点差で勝った」
「はい」
「高橋が三本打った」
「はい」
「宮坂が最後に大事な一本を打った」
「はい!」
「黒崎、早川も投げた」
「はい!」
「だが全部過去だ」
「はい!」
一条監督は指を三本立てる。
「次は三回戦」
全員の表情が引き締まった。
去年。
肇たちが全国大会で止まった場所。
三回戦。
だからこそ、三年生にとっては特別な響きだった。
鈴木和誠が小さく呟く。
「……三回戦」
前薗晃大も。
「去年、ここまでだった」
肇は何も言わない。
だが、拳だけは自然と握られていた。
一条監督が続ける。
「昨日と今日で、他の二回戦も進んでいる」
「はい」
「マネージャーたちが結果をまとめてくれている」
十一人のマネージャーを見る。
「今日も練習中に逐一報告してもらう」
「はい!」
「どこが勝ち上がっても、俺たちがやることは変わらない」
「はい!」
「去年を越えるぞ」
三年生の声が強くなる。
「はい!」
「全国制覇するぞ!」
「はい!」
◇◇◇
午前九時。
ウォーミングアップ開始。
軽いランニング。
ストレッチ。
キャッチボール。
昨日投げた肇は肩の状態を確認しながら、前薗と短い距離でボールを投げ合っていた。
パシッ。
「どう?」
前薗が聞く。
「普通」
「普通禁止」
「何だよそれ」
「昨日何球投げたと思ってる?」
「そこまで多くない」
「でも一回戦も投げてる」
「分かってる」
前薗はミットを下げる。
「張りは?」
「少し」
「痛み?」
「ない」
「肘?」
「問題なし」
「肩?」
「張りだけ」
前薗が頷く。
「なら今日は軽めな」
「監督にも言われてる」
「珍しく言うこと聞くじゃん」
「俺だって成長する」
少し離れたところから一条監督。
「高橋!」
「はい!」
「距離広げるな!」
「分かってます!」
前薗が笑う。
「完全に監視対象」
「誰のせいだよ」
「お前自身」
「即答するな」
二人が笑った。
◇◇◇
その時。
グラウンドの外側からマネージャーの声が飛んだ。
「監督ー!」
走ってきたのは二年生マネージャー・森下結菜。
手にはノート。
「一試合目、終わりました!」
選手たちが自然と集まる。
一条監督が聞く。
「結果」
結菜はノートを開く。
「大阪桐蔭高校対仙台育英高校は――八対五で大阪桐蔭高校が勝ちました!」
「大阪桐蔭……」
何人かが反応する。
肇も顔を上げた。
一条監督が聞く。
「内容は?」
「三回まで二対二でした。四回に大阪桐蔭が三点、仙台育英も六回に二点を返しましたが、八回に大阪桐蔭がさらに三点です」
「白峰は?」
「七回まで投げています」
「球速」
「最速156kmです」
一条監督が少しだけ肇を見る。
全国評価SSS。
大阪桐蔭高校の投手――白峰蓮司。
高橋肇。
捕手・水城拓真。
全国評価表でSSSとされた三人のうちの一人だ。
前薗が肇へ小声。
「白峰勝ったぞ」
「うん」
「気になる?」
「そりゃな」
「SSS同士?」
「ランク関係ないって監督に怒られるぞ」
一条監督がこちらを見る。
「聞こえてる」
「すみません」
周囲から笑いが起きた。
◇◇◇
二回戦第一試合。
大阪桐蔭高校 8-5 仙台育英高校。
その結果。
大阪桐蔭高校が三回戦へ進出。
しかし、まだ肇たちの対戦相手になるとは決まっていない。
トーナメントの位置次第。
マネージャーたちは、その組み合わせ表も確認していた。
結菜が続ける。
「監督、あとでトーナメントも更新されるそうです」
「分かった。ありがとう」
「はい!」
結菜は再び記録係のところへ戻っていった。
◇◇◇
午前中。
守備練習。
打撃練習。
投手陣の軽い調整。
今日は肇だけではなく、黒崎蓮、早川慶介、久我直哉らの状態確認にも時間が使われた。
二回戦。
黒崎と早川は重要な役割を果たした。
肇が最初から投げなかったからこそ、二人が甲子園のマウンドを経験できた。
一条監督は三回戦でも、その経験が必ず生きると考えていた。
「黒崎!」
「はい!」
「昨日の初回を思い出せ!」
「はい!」
「ブーイング気にしただろ?」
黒崎が少し苦笑。
「最初は……」
「次は無視しろ」
「はい!」
「早川!」
「はい!」
「走者背負った後、球が高くなった!」
「はい!」
「修正!」
「はい!」
そして久我。
「久我!」
「はい!」
「お前もいつでも投げる準備!」
「はい!」
肇はその様子を見ながら、少し笑った。
以前なら。
自分が全部投げることしか考えていなかった。
今は。
「もっと投手いるじゃん」
自然とそう思える。
◇◇◇
午前十時半。
またマネージャーが走ってきた。
今度は一年生・山岸ひなた。
「二試合目です!」
「結果!」
一条監督が聞く。
「智辯学園高校対東海大相模高校は、五対四で東海大相模高校が勝ちました!」
選手たちがざわつく。
「一点差」
「またか」
ひなたが続ける。
「七回終了時点で智辯学園が四対三でリードしていました。でも八回裏に東海大相模が二点取っています」
「神代は?」
「六回から登板して無失点です」
一条監督が頷く。
全国評価SS。
東海大相模高校の投手・神代颯真。
最速155km。
また一人、有力投手が勝ち残った。
二回戦第二試合。
東海大相模高校 5-4 智辯学園高校。
◇◇◇
午前十一時半。
第三試合。
星稜高校対履正社高校。
結果は――。
星稜高校 3-6 履正社高校。
履正社高校が三回戦進出。
堂本龍輝。
全国評価SSの一塁手。
この試合でも二安打三打点。
一条監督は選手たちに言った。
「甲子園はスター一人だけ見てたら負ける」
「はい!」
「打線全体を見る」
「はい!」
「次の相手も同じだ」
「はい!」
ただし。
まだその「次」が誰なのか。
正式発表はされていなかった。
◇◇◇
昼休み。
選手たちは食事。
肇は弁当を食べ終えると、スマートフォンを確認した。
通知が入っていた。
見慣れないグループ名。
『高卒プロ候補三人組』
「……何だこれ」
思わず笑う。
メンバーは三人。
高橋肇。
崇道君彦。
橘川玲央。
作ったのは――橘川だった。
メッセージ。
橘川玲央
『昨日ありがとう。せっかくだから崇道も入れた』
崇道君彦
『高橋、二回戦突破おめでとう』
肇は思わず笑った。
前薗が隣から見る。
「何?」
「何でもない」
「また怪しい」
「友達」
「誰?」
「野球関係」
それだけ言って、肇は少し離れた場所へ。
チャットを開く。
高橋肇
『ありがとう。橘川も昨日お疲れ』
橘川玲央
『三本打った相手に言われても悔しい』
高橋肇
『そっちも俺から打ちすぎ』
崇道君彦
『俺からも打ったしな』
橘川玲央
『高橋って本当に嫌な打者だな』
高橋肇
『褒め言葉?』
崇道君彦
『多分』
三人のやり取りが始まった。
◇◇◇
最初は昨日の試合。
橘川
『一回から投げないとは思わなかった』
肇
『サプライズ』
崇道
『俺もニュース見て驚いた』
橘川
『スタンドめっちゃブーイングだった』
肇
『聞こえてた』
崇道
『その後三本打つのが一番意味分からない』
肇
『約束してたから』
橘川
『誰と?』
肇
『秘密』
橘川
『またそれか』
崇道
『俺も前に同じ答えされた』
肇は画面を見ながら少し笑う。
当然。
千鶴との約束とは言えない。
二人にはまだ秘密。
◇◇◇
そして話題は、今年の高校野球選手たちへ。
崇道
『白峰勝ったな』
肇
『見た』
橘川
『大阪桐蔭の投手だろ』
崇道
『最速158。今日156』
肇
『高速フォークもかなり落ちる』
橘川
『高橋なら打つ?』
肇
『対戦したら考える』
崇道
『逃げた』
肇
『お前ら簡単に言うな』
続いて。
橘川
『神代も勝った』
肇
『東海大相模』
崇道
『あいつ中学代表で一回見た』
橘川
『どうだった?』
崇道
『球より制球がいい』
肇
『それ厄介』
崇道
『高橋がそれ言うか』
さらに仙台育英の捕手・水城拓真。
履正社の堂本龍輝。
健大高崎の成瀬迅。
星稜の桐谷蒼生。
全国評価表で上位に入った選手たち。
橘川
『水城って捕手なのに52本だろ』
肇
『前薗が気にしてた』
崇道
『捕手としても肩強い』
肇
『甲子園で刺してる映像見た』
橘川
『高橋走る?』
肇
『俺を何だと思ってる』
崇道
『投げて打って走る人』
橘川
『あと三本打つ人』
肇
『昨日だけ!』
三人のチャットは止まらなかった。
◇◇◇
十五分。
二十分。
二十五分。
気づけば三十分を超えていた。
話題は高校野球だけではない。
ドラフト。
大学進学。
プロ志望届。
どの球団がどんな選手を見ているか。
ただし具体的な指名先については、誰も断言しない。
崇道はすでに複数球団から評価されている。
橘川も高い評価。
肇も同じ。
橘川
『高橋は大学行かないんだよな?』
肇
『うん。指名されたらプロ』
崇道
『俺も』
橘川
『俺も今はそのつもり』
肇
『じゃあ三人とも高卒?』
崇道
『順調なら』
橘川
『プロでまた会えたら面白いな』
肇
『絶対会おう』
崇道
『約束な』
橘川
『まず高橋は甲子園終わらせろ』
肇
『全国制覇してから』
橘川
『本当に言い切るよな』
崇道
『地区大会決勝でも同じだった』
肇
『目標だから』
チャット開始から――約三十八分。
最後。
崇道
『じゃあ練習戻れ。監督に怒られるぞ』
肇
『もう昼休み終わる』
橘川
『また夜な』
肇
『了解』
崇道
『三回戦頑張れ』
橘川
『俺に勝ったんだから負けるな』
肇
『任せろ』
スマートフォンをしまう。
肇は少し笑った。
地区大会で戦った崇道。
二回戦で戦った橘川。
昨日までは敵。
今は同じプロを目指す高校三年生として、三人だけの新しいつながりが生まれていた。
◇◇◇
午後。
練習再開。
打撃練習中。
カァン!
肇が右方向へ打つ。
「次!」
その時。
「監督!」
マネージャー・小泉杏奈が走ってくる。
「四試合目終了です!」
「結果」
「沖縄尚学高校対健大高崎高校は、四対七で健大高崎高校です!」
肇が反応。
全国評価SS・中堅手の成瀬迅。
この試合。
三安打。
二盗塁。
「足で崩したらしいです」
杏奈が説明する。
一条監督が言う。
「甲子園はホームランだけじゃない」
「はい!」
肇を見る。
「特に高橋」
「何で俺?」
「ホームラン打ちすぎだから」
部員たちが笑う。
「走塁も大事!」
「はい!」
◇◇◇
二回戦第五試合。
報徳学園高校 4-2 龍谷大平安高校。
報徳学園が勝利。
第六試合。
関東第一高校 6-7 浦和学院高校。
九回裏。
浦和学院がサヨナラ勝ち。
第七試合。
京都国際高校 5-3 勝ち上がり校。
そして。
第八試合。
高橋肇たちの学校 14-13 智辯和歌山高校。
これで二回戦の主な勝ち上がり校が出揃った。
大阪桐蔭高校。
東海大相模高校。
履正社高校。
健大高崎高校。
報徳学園高校。
浦和学院高校。
京都国際高校。
そして高橋肇たちの学校。
残ったのは――八校。
三回戦。
ここを勝てばベスト4。
一条監督が組み合わせ表を確認する。
数秒。
表情が少し変わる。
「全員集合!」
七十人が集まる。
「三回戦の相手が決まった」
静かになる。
一条監督が一枚の紙を掲げる。
そこに書かれていた学校名。
大阪桐蔭高校。
一瞬。
誰も声を出さなかった。
そして。
「……来たか」
肇が小さく呟く。
前薗が横を見る。
「白峰」
肇は頷く。
全国評価SSS。
最速158km。
高速フォーク。
大阪桐蔭高校のエース――白峰蓮司。
全国評価表で高橋肇と同じ最上位に名を連ねる投手。
一条監督が言う。
「三回戦」
「はい」
「相手は大阪桐蔭高校」
「はい!」
「甲子園優勝経験も豊富な全国屈指の強豪」
「はい!」
「投手・白峰蓮司」
「はい!」
「三塁手・三枝悠斗」
「はい!」
「左翼手・前川蒼士」
全国評価でも上位に名前が挙がる選手たち。
「だが」
一条監督が全員を見る。
「名前で試合するな」
「はい!」
「大阪桐蔭だから負けるのか?」
「違います!」
「相手にSSSがいるから負けるのか?」
「違います!」
「じゃあ何をする!」
和誠が答える。
「勝ちます!」
「そうだ!」
一条監督が声を上げる。
「去年!」
三年生を見る。
「お前たちは三回戦で終わった!」
「はい!」
「今年も同じ場所で終わるのか!」
「終わりません!」
「去年を越えるぞ!」
「はい!」
そして。
「大阪桐蔭を倒すぞ!」
「おおおおおおっ!」
地方球場に声が響いた。
◇◇◇
その頃。
甲子園から少し離れたホテル。
応援組も、三回戦の相手が決まったことを知った。
吹奏楽部三十人。
練習休憩中。
真悠がスマートフォンを見る。
「……大阪桐蔭」
隣の部員が驚く。
「三回戦?」
「うん」
「強豪じゃん」
「うん……」
真悠は少しだけ不安になる。
だが。
「でも兄たちも強いから」
自分に言い聞かせるように笑った。
◇◇◇
別室。
千鶴と由紀子。
由紀子が紙コップのコーヒーを持っていた。
「次、大阪桐蔭なんだってね」
「はい」
千鶴は資料を確認しながら答える。
「真悠さんたち吹奏楽部にも伝えました」
「怖い?」
由紀子が尋ねる。
千鶴は少し考える。
「正直、心配はあります」
「やっぱり?」
「大阪桐蔭だから、というより」
「うん」
「肇君が無理をしないか」
由紀子が少し笑う。
「そっちなのね」
「三回戦ですから」
千鶴は言う。
「去年、ここで負けています」
「それがあるから力む?」
「可能性はあります」
由紀子は息子を思い浮かべる。
「昔から負けた場所って忘れない子だった」
「知っています」
「小学生の時も、同じ相手に負けたら次の試合までずっと気にしてた」
「今もあまり変わりません」
二人が笑う。
由紀子が少し千鶴を見る。
「でも」
「はい?」
「千鶴がいるから、前よりは違うんじゃない?」
千鶴の表情が少し変わる。
「私ですか?」
「うん」
「由紀子先輩……」
「昨日だって、作戦を私より先に千鶴へ教えてたんでしょう?」
千鶴が少し困る。
「それは……」
「別に怒ってない」
由紀子は笑う。
「少しだけ悔しいけど」
「すみません」
「謝らなくていい」
そして。
「息子が、自分から頼れる人を見つけたんだから」
千鶴は静かに由紀子を見る。
「昔は全部一人で抱えたでしょう?」
「はい」
「今は監督にも」
「はい」
「前薗君にも」
「はい」
「仲間にも」
「はい」
「千鶴にも頼る」
由紀子は少し笑った。
「それなら大丈夫かなって」
千鶴も柔らかく笑う。
「私もそう思います」
「三回戦」
「はい」
「応援お願いね」
千鶴は頷いた。
「もちろんです」
「吹奏楽部顧問として?」
由紀子が少し意地悪く聞く。
千鶴は頬を少し赤くする。
「それもです」
「それ以外は?」
千鶴は由紀子を見て。
「……大切な人としても」
由紀子は笑った。
「それでよし」
◇◇◇
同じホテルの別の場所。
父親。
真悠。
眞衣。
三人が飲み物を持って休憩していた。
「お父さん」
真悠が言う。
「次、大阪桐蔭だって」
「聞いた」
眞衣も少し不安そう。
「強いんでしょ?」
父親は即答する。
「強い」
「やっぱり」
「全国でもトップクラス」
真悠が少し黙る。
「白峰って投手」
父親が頷く。
「最速158km」
「お兄ちゃんと同じSSSなんでしょ?」
「サイトの評価ではな」
眞衣が聞く。
「じゃあ、兄貴とどっちがすごい?」
父親は少し笑う。
「比べても意味ない」
「何で?」
「肇は肇」
「白峰君は白峰君」
「でも試合するんだよ?」
「だから面白いんだろ」
二人が父親を見る。
「全国には、肇と同じくらいすごい選手がいる」
「うん」
「肇より上のものを持ってる選手もいる」
「うん」
「逆に肇にしかないものもある」
「うん」
父親は続ける。
「でも野球は一対一じゃない」
真悠が少し笑う。
「七十人で戦う」
「そう」
眞衣も。
「兄貴、最近それ言う」
「成長したんだろ」
真悠が言う。
「去年、三回戦で負けたんだよね?」
父親が頷く。
「だから多分、今回は余計に気合い入ってる」
眞衣が心配そう。
「力みすぎないかな」
父親が笑った。
「そこは一条監督が止める」
「千鶴先生も」
真悠が言う。
父親が一瞬だけ娘を見る。
そして笑う。
「そうだな」
二人の関係を知っているからこそ、その言葉の意味も分かっていた。
真悠が言う。
「私、吹奏楽頑張る」
眞衣も。
「私もチア頑張る」
父親が二人を見る。
「じゃあ父さんは?」
真悠と眞衣が同時に。
「応援!」
父親が笑った。
「それしかないな」
「大声出してよ」
「任せろ」
「決勝まで声残してね」
「無茶言うな」
三人が笑った。
◇◇◇
夜。
宿泊先。
肇はベッドへ横になりながらスマートフォンを開いた。
三人のチャットグループ。
新着。
橘川玲央
『大阪桐蔭だってな』
崇道君彦
『白峰』
肇
『決まった』
橘川
『楽しそう』
肇
『めちゃくちゃ』
崇道
『去年の三回戦越えられるか』
肇は少しだけ画面を見つめた。
そして入力。
『越える』
送信。
橘川
『即答』
崇道
『高橋らしい』
肇
『ここで終わるつもりないから』
橘川
『じゃあ白峰打て』
崇道
『160より先に158打つ方か』
肇
『どっちもやる』
橘川
『欲張り』
肇
『四番兼エースだから』
三人のやり取り。
肇は少し笑った。
そして最後。
崇道
『勝てよ』
橘川
『俺たちに勝ったんだからな』
肇
『任せろ』
スマートフォンを閉じる。
三回戦。
大阪桐蔭高校。
全国評価SSS。
投手・白峰蓮司。
去年。
肇たちは三回戦で敗れた。
だから今年。
ここを越える。
一回戦。
十二対三。
二回戦。
十四対十三。
そして次。
三回戦。
相手は全国屈指の強豪。
高橋肇は目を閉じた。
浮かぶのは。
一条監督。
前薗。
和誠。
七十人の仲間。
十一人のマネージャー。
父。
由紀子。
真悠。
眞衣。
そして――千鶴。
去年と違う。
今は、一人ではない。
「絶対越える」
小さく呟いた。
高校最後の夏。
甲子園三回戦。
高橋肇たちは、ついに去年の自分たちを越えるための試合へ向かうことになった。
第26話「三回戦の相手決定――三人のドラフト候補がつながる夜と、次なる強敵」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は二回戦突破後。
「次の試合へ向かうまでの時間」を中心に描きました。
まず、高橋肇たち自身の二回戦。
智辯和歌山高校を相手に十四対十三。
わずか一点差。
肇は三本塁打を放ちましたが、それでも最後まで勝敗は分かりませんでした。
だからこそ一条監督が最初に伝えたのは、
「十四対十三も、高橋の三本塁打も、もう過去」
ということ。
甲子園では、昨日の得点も今日へ持ち越せません。
そして今回は、他校の二回戦結果も次々と判明しました。
大阪桐蔭高校は仙台育英高校を八対五。
東海大相模高校は智辯学園高校を五対四。
履正社高校は星稜高校を六対三。
健大高崎高校は沖縄尚学高校を七対四。
報徳学園高校は龍谷大平安高校を四対二。
浦和学院高校は関東第一高校を七対六。
京都国際高校も勝利。
そして高橋肇たちの学校も十四対十三で勝利。
残ったのは八校。
つまり、ここから先は全国でも勝ち残った学校だけです。
今回もう一つ大きく描いたのが、肇、崇道君彦、橘川玲央の三人。
地区大会決勝では敵だった崇道。
甲子園二回戦では敵だった橘川。
しかし試合が終われば、三人とも同じ高校三年生。
しかも、いずれもプロ野球を目指すドラフト候補です。
そこで作られた三人だけのチャットグループ。
白峰蓮司。
神代颯真。
水城拓真。
堂本龍輝。
成瀬迅。
桐谷蒼生。
今年の有力選手たちについて話しながら、
「高卒でプロへ行くのか」
「いつかプロで再会できるか」
といった未来の話まで交わしました。
そして三人の共通した目標。
「プロでまた会う」
高校野球では敵だった相手が、将来は同じプロ野球の舞台で再び対戦するかもしれません。
そう考えると、甲子園での一試合一試合が、肇にとって単なる勝敗以上のものになってきています。
一方、応援組では千鶴と由紀子。
由紀子が語った、
「昔は全部一人で抱えた」
という肇の性格。
しかし今は違います。
一条監督。
前薗晃大。
鈴木和誠。
黒崎蓮。
早川慶介。
仲間たち。
そして千鶴。
少しずつ人へ頼ることを覚えました。
由紀子から千鶴へ、
「肇が自分から頼れる人を見つけたんだから」
と伝えられたことも、二人の関係にとって大切な言葉だったと思います。
そして父親、真悠、眞衣。
三人が話したのは、
「大阪桐蔭は確かに強い」
「でも野球は一人対一人ではない」
ということ。
真悠は吹奏楽部。
眞衣はチアリーディング部。
父親は家族として応援席から。
それぞれ違う方法で肇たちを支えます。
そして――。
ついに決まった三回戦。
相手は大阪桐蔭高校。
全国評価SSS。
最速158km。
高速フォーク。
エース・白峰蓮司。
さらに全国評価上位の三塁手・三枝悠斗、外野手・前川蒼士らを擁する全国屈指の強豪です。
そして何より。
昨年。
肇たちは三回戦で敗退しました。
だから今年の三回戦は――ただの一試合ではありません。
去年の自分たちを越えるための試合。
高橋肇は最後に、
「絶対越える」
と口にしました。
一回戦突破。
二回戦突破。
そして次。
甲子園三回戦。
全国評価SSS・高橋肇。
全国評価SSS・白峰蓮司。
全国の頂点を狙う二人の有力選手が、いよいよ真正面からぶつかります。




