第24話「二回戦組み合わせ決定――全国評価表と、去年から知る“もう一人の小さな怪物”」
第24話では、甲子園一回戦の全試合が終了し、いよいよ二回戦の組み合わせが決定します。
第一日目から第五日目まで。
大阪桐蔭高校。
広陵高校。
仙台育英高校。
中京大中京高校。
智辯学園高校。
花咲徳栄高校。
東海大相模高校。
明徳義塾高校。
星稜高校。
作新学院高校。
智辯和歌山高校。
慶應義塾高校。
履正社高校。
沖縄尚学高校。
健大高崎高校。
報徳学園高校。
青森山田高校。
龍谷大平安高校。
聖光学院高校。
関東第一高校。
高松商業高校。
浦和学院高校。
九州国際大付高校。
京都国際高校。
近江高校。
そして、高橋肇たちの学校。
全国の強豪校が次々と激突し、一回戦から逆転、サヨナラ、投手戦、打撃戦が続きました。
そして二回戦。
高橋肇たちの対戦相手となったのは――智辯和歌山高校。
その中心にいるのが、三塁手・橘川玲央。
身長163cm。
高校通算50本塁打。
一回戦では八回裏に逆転2ラン本塁打を放ったドラフト候補です。
肇にとって橘川は、初めて聞く名前ではありません。
高校二年生だった昨年。
夏の甲子園へ届かなかった肇が、自宅で全国大会のニュースを見ていた頃から、二年生の有力選手として何度も紹介されていた存在でした。
そして一年後。
ニュース画面の向こうにいた選手と――今度は同じ甲子園のグラウンドで対戦することになります。
さらに今回、話題となったのが高校野球ドラフト候補の全国評価表。
SSS。
SS。
S。
AAA。
AA。
A。
B。
C。
さまざまな評価が並ぶ中、肇たちのレギュラー九人は、なんと全員がBランク以上。
しかし一条昴監督が伝えたのは、
「ランキングで試合をするんじゃない」
という言葉でした。
評価が高くても打てない日はある。
評価が低くても試合を決める一打を放つことはできる。
全国制覇へ向けた二歩目。
甲子園二回戦を前に、高橋肇たちは強敵・智辯和歌山高校の分析へ入ります。
甲子園一回戦。
全日程が終了した。
高橋肇たちが神奈川県代表・横浜高校を十二対三で破り、一足先に二回戦進出を決めてから数日。
その間にも甲子園では、一日三試合ずつ全国の強豪校が激突していた。
肇たちも地方球場での調整を続けながら、マネージャーを通じて各試合の結果を確認している。
そしてこの日。
宿泊先のミーティングルーム。
野球部七十人。
マネージャー十一人。
一条昴監督。
全員が集まっていた。
ホワイトボードには、甲子園一回戦の全結果が書かれている。
「全員、前を見ろ」
一条監督が言う。
「一回戦が全部終わった」
「はい!」
「つまり」
少し間。
「今日から、二回戦だけを考える」
部員たちの顔が引き締まった。
一条監督はホワイトボードへ向き直った。
そこには第一日目から第五日目まで、十五試合の結果が並んでいる。
◇◇◇
一回戦・第一日目。
第一試合。
大阪桐蔭高校 7-4 広陵高校。
四対四で迎えた終盤、大阪桐蔭が七回に三点を奪って勝ち越した。
第二試合。
仙台育英高校 6-5 中京大中京高校。
九回表まで中京大中京が五対四でリード。
しかし九回裏、仙台育英が二点を奪い、サヨナラ勝ち。
第三試合。
智辯学園高校 8-6 花咲徳栄高校。
五回終了時点では花咲徳栄が五対三。
しかし六回から智辯学園打線が爆発。
終盤に逆転し、八対六で勝利した。
一条監督が言う。
「初日から三試合とも終盤で動いた」
「はい」
「甲子園は、最後まで分からない」
肇たちは頷いた。
◇◇◇
第二日目。
第一試合。
東海大相模高校 5-2 明徳義塾高校。
東海大相模が序盤から主導権を握り、投手陣の継投で逃げ切った。
第二試合。
星稜高校 4-3 作新学院高校。
三対三の八回裏。
星稜が二死二塁から決勝タイムリー。
一点差を守り切った。
そして第三試合。
智辯和歌山高校 6-5 慶應義塾高校。
この試合が――。
後に肇たちへ大きく関係する一戦となっていた。
五対四。
慶應義塾高校が一点リードして迎えた八回裏。
一死二塁。
打席へ立ったのは智辯和歌山高校の三番・三塁手。
橘川玲央。
身長163センチ。
右投左打。
高校通算五十本塁打。
当時からプロ注目の強打者。
そして――。
カウント二ボール一ストライク。
四球目。
内角低めのストレート。
橘川は身体を鋭く回転させた。
打球は右翼方向へ。
そのまま――。
スタンドへ。
逆転二ラン本塁打。
六対五。
智辯和歌山高校が逆転。
その一点を守り切り、二回戦進出を決めた。
肇はその映像を後から見ていた。
「……橘川」
名前を見た瞬間。
記憶が蘇った。
「知ってるのか?」
前薗晃大が聞く。
肇は頷いた。
「去年から」
「去年?」
「俺たちが二年だった頃」
昨年の夏。
肇たちは夏の甲子園へは届かなかった。
地区大会準決勝で敗退。
ただし、その後の秋季大会では優勝し、別の全国舞台となる甲子園へ進み、三回戦まで戦っている。
その頃。
高校二年生ながら全国的に何度も名前を取り上げられていた選手がいた。
それが――橘川玲央だった。
「二年でドラフト候補ってニュースになってた」
「覚えてる」
鈴木和誠も言う。
「小さい三塁手だろ?」
「そう」
肇は映像を見る。
身長163センチ。
肇と極端に違わない体格。
しかし。
昨年より明らかに身体が強くなっている。
肩。
打球速度。
スイング。
全部。
「去年よりすごくなってる」
肇が呟いた。
一条監督が頷く。
「橘川は去年から有名だった」
「はい」
「今年はさらに評価が上がっている」
そしてホワイトボードへ書く。
『橘川玲央 智辯和歌山高校 三塁手 163cm 高校通算50本』
「それと」
一条監督が肇を見る。
「崇道君彦とは顔見知りらしい」
肇が少し驚く。
「崇道と?」
地区大会決勝で対戦した最速152kmのドラフト候補。
崇道君彦。
「中学時代の選抜や全国大会関係で何度か会っているそうだ」
「なるほど」
肇は少し笑った。
「野球界って狭いですね」
一条監督も笑う。
「お前が言うな。森崎の件もあっただろ」
部員たちから笑いが起こった。
◇◇◇
第三日目。
第一試合。
履正社高校 8-3 常総学院高校。
履正社打線が十二安打。
中盤以降に突き放した。
第二試合。
沖縄尚学高校 3-1 敦賀気比高校。
投手戦。
沖縄尚学が七回に二点を追加し、そのまま勝利。
第三試合。
健大高崎高校 7-6 明豊高校。
七対三から明豊が終盤に追い上げたものの、一点届かなかった。
◇◇◇
第四日目。
第一試合。
報徳学園高校 5-4 青森山田高校。
延長十回。
報徳学園がサヨナラ勝ち。
第二試合。
龍谷大平安高校 6-2 聖光学院高校。
序盤二対二から、龍谷大平安が中盤に四点を奪った。
第三試合。
関東第一高校 4-1 高松商業高校。
関東第一の投手陣が高松商業打線を一点に抑えた。
◇◇◇
第五日目。
第一試合。
浦和学院高校 9-5 九州国際大付高校。
序盤から点の取り合いとなったが、浦和学院が終盤に突き放した。
第二試合。
京都国際高校 3-2 近江高校。
二対二の九回。
京都国際が決勝タイムリー。
第三試合。
高橋肇たちの学校 12-3 横浜高校。
そして――。
高校通算六十本で甲子園へ入った肇が、一試合四本塁打。
高校通算六十四本。
さらに投手として一回、三回、五回に160kmを記録。
全国の高校野球ファンへ強烈な印象を残した試合となった。
◇◇◇
全一回戦終了。
そして。
二回戦の組み合わせ。
野球部七十人が静かにホワイトボードを見る。
一条監督が一枚の紙を貼った。
第一試合。
高橋肇たちの学校
対
智辯和歌山高校。
部屋がざわついた。
「智辯和歌山……」
「橘川玲央がいるところだ」
「逆転二ランの……」
肇は黙って対戦表を見ていた。
前薗が横から聞く。
「どう?」
「何が?」
「相手」
肇は少し笑った。
「面白い」
「またそれか」
「だって」
肇がホワイトボードを見る。
「去年から知ってる選手と甲子園で戦えるんだぞ」
「楽しみ?」
「もちろん」
ただし。
肇も理解している。
楽しむだけでは駄目。
勝たなければ終わる。
高校最後の夏だから。
◇◇◇
二回戦の他の組み合わせも発表された。
大阪桐蔭高校 対 仙台育英高校。
智辯学園高校 対 東海大相模高校。
星稜高校 対 履正社高校。
沖縄尚学高校 対 健大高崎高校。
報徳学園高校 対 龍谷大平安高校。
関東第一高校 対 浦和学院高校。
京都国際高校 対 第一日目から勝ち上がった別ブロック代表校。
そして。
高橋肇たちの学校 対 智辯和歌山高校。
一条監督は言う。
「見て分かる通り」
「はい」
「二回戦からさらに厳しくなる」
「はい!」
「一回戦を勝った学校しかいない」
「はい!」
「当たり前だが、弱い学校は残っていない」
「はい!」
「そして俺たちの相手には――」
橘川玲央。
「全国でも上位評価を受けている三塁手がいる」
「はい!」
◇◇◇
その日の午後。
一人のマネージャーが野球情報サイトの記事を持ってきた。
「監督」
「何だ?」
「今、かなり話題になってます」
一条監督が資料を受け取る。
高校野球ドラフト候補評価ランキング。
甲子園出場選手を中心に、スポーツ記者、元プロ野球選手、スカウト経験者などの意見を参考に作られた非公式評価表だった。
「こういうものは参考程度だ」
一条監督が言う。
「はい」
「ランクで試合が決まるわけじゃない」
「はい!」
しかし。
選手たちは気になる。
特に――。
最上位。
SSSランク。
三人。
一人目。
高橋肇。
所属――現在の高校。
投手兼内野手。
高校通算六十四本塁打。
最速160km。
甲子園一回戦・四本塁打。
投打ともに大会最高クラス。
二人目。
白峰蓮司。
大阪桐蔭高校。
投手。
最速158km。
長身から投げ下ろすストレートと高速フォークを武器とする右腕。
三人目。
水城拓真。
仙台育英高校。
捕手。
高校通算52本塁打。
強肩に加え、長打力と配球能力の両方を評価されている。
前薗が画面を見る。
「肇、SSS」
「どうでもいい」
「本当に?」
「試合で勝たないと意味ないだろ」
一条監督が笑う。
「その考え方でいい」
◇◇◇
続いてSSランク。
五人。
捕手――黒澤大翔・広陵高校。
一塁手――堂本龍輝・履正社高校。
投手――神代颯真・東海大相模高校。
三塁手――三枝悠斗・大阪桐蔭高校。
中堅手――成瀬迅・健大高崎高校。
いずれも全国トップクラス。
特に神代颯真は最速155km。
成瀬迅は50メートル5秒台の俊足を誇る。
◇◇◇
Sランク。
二人。
投手――藤堂伊織・智辯学園高校。
遊撃手――桐谷蒼生・星稜高校。
藤堂は制球と変化球。
桐谷は守備と走力。
どちらも即戦力候補として高評価だった。
◇◇◇
AAAランク。
五人。
遊撃手――神谷悠斗・高橋肇たちの高校。
捕手――小田切海斗・横浜高校。
投手――真田悠生・横浜高校。
右翼手――瀬川航大・関東第一高校。
中堅手――早瀬蒼空・横浜高校。
そして――。
一条監督が少し止まる。
「橘川は?」
マネージャーが別ページを見る。
「更新前ではAAAだったんですが、昨日の逆転二ランを受けてSS候補へ再評価中らしいです」
肇が笑う。
「やっぱり」
つまり現在公開されている表ではAAA。
だが実質的には、それ以上へ上がる可能性が高い。
◇◇◇
AAランク。
七人。
捕手――前薗晃大・高橋肇たちの高校。
投手――東條蓮・報徳学園高校。
三塁手――橘川玲央・智辯和歌山高校。
二塁手――久世翔太・京都国際高校。
中堅手――桐生晴人・浦和学院高校。
捕手――北川悠真・龍谷大平安高校。
右翼手――西園寺拓海・沖縄尚学高校。
前薗が自分の名前を見る。
「俺、AA?」
肇が言う。
「高いじゃん」
「お前がSSSだから全然嬉しくない」
「何で俺と比べるんだよ」
和誠が笑った。
「前薗、全国AAなら十分だろ」
「まあ……」
肇が前薗の肩を叩く。
「俺の球取ってるんだから当然」
「誰のせいで毎日手痛いと思ってる」
「知らない」
「お前だよ!」
部屋に笑いが起きた。
◇◇◇
Aランク。
三人。
中堅手――鈴木和誠・高橋肇たちの高校。
左翼手――前川蒼士・大阪桐蔭高校。
一塁手――長岡陽斗・仙台育英高校。
和誠が画面を見る。
「俺Aか」
肇は言う。
「主将としての評価もっと入れてほしい」
「サイトに文句言うな」
「和誠は数字だけじゃないから」
和誠が少し笑った。
「ありがとな」
◇◇◇
そしてBランク。
二十人。
高橋肇たちの学校からは――。
一塁手・宮坂大智。
三塁手・桐生翔。
左翼手・長谷川颯太。
右翼手・相馬健吾。
二塁手・藤堂拓海。
さらに全国の強豪校から。
投手・木場翔琉――大阪桐蔭高校。
捕手・安堂悠河――東海大相模高校。
内野手・黒川拓実――智辯和歌山高校。
外野手・新田蒼介――仙台育英高校。
投手・真壁龍臣――星稜高校。
三塁手・藤森大雅――履正社高校。
二塁手・佐伯晴斗――健大高崎高校。
右翼手・桜井海斗――報徳学園高校。
捕手・一ノ瀬陸――関東第一高校。
一塁手・古賀陽太――浦和学院高校。
遊撃手・宮原颯――京都国際高校。
中堅手・野上蓮翔――沖縄尚学高校。
左翼手・松永拓人――龍谷大平安高校。
投手・高城健吾――智辯学園高校。
三塁手・水沢優真――星稜高校。
二十人。
肇は一覧を見る。
そして。
「……うちのレギュラー」
前薗が気づく。
「全員B以上じゃん」
一条監督も頷いた。
一番・神谷悠斗――AAA。
二番・藤堂拓海――B。
三番・鈴木和誠――A。
四番・高橋肇――SSS。
五番・前薗晃大――AA。
六番・宮坂大智――B。
七番・桐生翔――B。
八番・長谷川颯太――B。
九番・相馬健吾――B。
スターティングメンバー九人。
全員Bランク以上。
部員たちがざわつく。
「すごくない?」
「全国評価だろ?」
「全員B以上?」
しかし。
一条監督が手を叩いた。
パンッ!
「浮かれるな」
全員が静かになる。
「ランキングで試合をするんじゃない」
「はい!」
「相手がCでも負ける時は負ける」
「はい!」
「SSSでも打てない日はある」
肇を見る。
「はい」
「それを忘れるな」
「はい!」
◇◇◇
そしてCランク。
高橋たちの学校から十一人。
黒崎蓮。
早川慶介。
久我直哉。
松岡亮平。
橘優成。
西川陸斗。
安西航。
倉田陽向。
森川駿。
大野蒼真。
榎本悠生。
さらに全国の強豪校から三十九人。
投手・柴崎廉――大阪桐蔭高校。
投手・奥村陽――仙台育英高校。
捕手・片岡颯太――智辯学園高校。
内野手・白川健――東海大相模高校。
外野手・村瀬翔――星稜高校。
投手・岩谷陽介――履正社高校。
捕手・篠原拓――沖縄尚学高校。
内野手・内海颯――健大高崎高校。
外野手・福本陽向――報徳学園高校。
投手・江藤廉――龍谷大平安高校。
捕手・園田一真――関東第一高校。
一塁手・城戸海斗――浦和学院高校。
遊撃手・富永晴――京都国際高校。
投手・桑原拓人――智辯和歌山高校。
外野手・有村遼――大阪桐蔭高校。
内野手・岸本蓮――仙台育英高校。
捕手・石黒壮真――東海大相模高校。
外野手・秋月大河――星稜高校。
投手・相馬悠真――履正社高校。
二塁手・土屋翔――沖縄尚学高校。
外野手・赤羽陽斗――健大高崎高校。
捕手・黒木蓮司――報徳学園高校。
三塁手・安達優成――龍谷大平安高校。
投手・柿崎響――関東第一高校。
内野手・羽田龍――浦和学院高校。
捕手・真鍋翔太――京都国際高校。
外野手・桑田蒼――智辯和歌山高校。
投手・榊原海――大阪桐蔭高校。
遊撃手・水谷颯斗――仙台育英高校。
中堅手・海老原悠――智辯学園高校。
投手・吉岡晴翔――東海大相模高校。
一塁手・松原蓮――星稜高校。
外野手・高瀬陽――履正社高校。
捕手・南雲拓真――沖縄尚学高校。
三塁手・長瀬大志――健大高崎高校。
投手・早坂陸――報徳学園高校。
外野手・白井慧――龍谷大平安高校。
内野手・三浦凌――関東第一高校。
投手・牧野蒼士――浦和学院高校。
総勢五十人。
Cランク。
しかし。
久我が画面を見ながら言う。
「全国Cって普通にすごくないですか?」
一条監督が答える。
「当然だ」
「ですよね」
「甲子園へ来ている時点で、全国でも上位の高校球児だ」
「はい」
「だからランクが低いからと言って能力が低いわけじゃない」
「はい!」
◇◇◇
そして。
一条監督が資料を閉じようとした時。
肇が言った。
「監督」
「何だ?」
「橘川の映像、もう一回見てもいいですか?」
一条監督が少し笑った。
「気になるか」
「かなり」
映像が再生される。
智辯和歌山高校。
八回裏。
一死二塁。
橘川玲央。
163センチ。
構える。
内角。
振り抜く。
右翼スタンドへ。
逆転二ラン。
肇はじっと見る。
「肩も強くなってる」
「分かるのか?」
「去年映像で見た時より送球が速い」
一条監督が頷く。
「三塁から一塁への送球はかなり評価されている」
「打球も」
「速い」
「去年より身体できてる」
前薗が横から聞く。
「肇とどっちが上?」
肇は少し笑った。
「そんなの試合で決めればいいだろ」
「格好つけた」
「違うって」
和誠も笑う。
「でも二人とも小柄だよな」
「俺もそこ思った」
肇が言う。
163センチ。
肇も決して大型選手ではない。
それでも。
高校通算六十四本。
160km。
橘川は高校通算五十本。
強肩三塁手。
身体の大きさだけでは決まらない。
それを二人が証明している。
「面白いな」
また肇が呟いた。
◇◇◇
すると一条監督が言った。
「そういえば、高橋」
「はい」
「橘川は崇道と知り合いだと言ったな」
「はい」
「おそらくお前のことも聞いてるぞ」
肇が笑う。
「崇道から?」
「地区大会決勝で対戦しただろ」
「ですね」
肇はあの日を思い出す。
最速152km。
ドラフト上位候補。
崇道君彦。
試合後。
二人は強く握手した。
『プロで会おう』
そんな約束も交わした。
その崇道と橘川が顔見知り。
「じゃあ」
前薗が言う。
「相手も高橋の情報持ってる可能性ある?」
「当然ある」
一条監督が即答。
「甲子園で四本打った翌日だぞ」
「……ですよね」
「高橋」
「はい」
「二回戦、お前は徹底的に警戒される」
「はい」
「敬遠される可能性もある」
「はい」
「勝負されない可能性もある」
肇は少し黙る。
そして。
「だったら」
一条監督を見る。
「俺以外が打てばいい」
一条監督が笑った。
「そうだ」
和誠も。
「任せろ」
前薗も。
「俺も打つ」
宮坂も。
「六番舐めるなよ」
桐生も。
「七番も」
長谷川。
「八番も」
相馬。
「九番もいる」
藤堂。
「二番も忘れるな」
神谷が最後に。
「一番もな」
肇がレギュラーメンバーを見る。
九人。
全国評価。
全員B以上。
肇は笑った。
「頼もしいじゃん」
和誠が答える。
「今さら気づいた?」
「前から知ってる」
◇◇◇
夕方。
地方球場。
二回戦を想定した守備練習。
特に三塁方向への打球。
送りバント。
右打ち。
一条監督は智辯和歌山を想定した練習を組んでいた。
「高橋!」
「はい!」
「橘川を意識しすぎるな!」
「はい!」
「三番だけ抑えれば終わるチームじゃない!」
「はい!」
「智辯和歌山だぞ!」
「はい!」
「九人全員警戒!」
「はい!」
投手陣。
肇。
黒崎。
早川。
久我。
捕手。
前薗。
橘。
松岡。
何度もサイン確認。
そして打撃陣。
高速スライダー。
内角球。
外角球。
それぞれを想定する。
◇◇◇
練習終了後。
肇はマウンドに一人残った。
まだ投げない。
ただ立っている。
前薗がやってきた。
「また考え事?」
「少し」
「橘川?」
「うん」
「怖い?」
肇は少し考える。
「怖いっていうより」
「うん」
「楽しみ」
「やっぱり」
肇はグラウンドを見る。
「去年、俺たちは夏の甲子園には行けなかった」
「うん」
高校二年生の夏。
地区大会準決勝敗退。
先輩たちの最後の夏も、そこで終わった。
「その時、家で高校野球のニュース見てた」
「うん」
「橘川が二年生なのにずっと取り上げられてた」
「覚えてる」
「俺もいつか甲子園で、ああいう選手と戦いたいって思ってた」
前薗が少し笑う。
「叶ったじゃん」
「うん」
肇も笑った。
「だから勝ちたい」
「全国制覇のため?」
「それも」
そして。
「去年の自分を越えるため」
前薗が頷く。
「じゃあ俺が受ける」
「頼む」
「でも160ばっか投げるなよ」
「分かってるって」
「千鶴さんにも言われたんだろ?」
肇の顔が止まる。
「……何でその名前覚えてる?」
「この前お前が言ったから」
「母さんの知り合いだからな」
「分かってるよ」
前薗は何も知らない。
肇と千鶴の本当の関係を。
「とにかく」
前薗がミットを叩く。
「球速じゃなくてアウト」
肇が笑う。
千鶴と同じ言葉。
「分かってる」
「ホームランじゃなくて勝利」
「それも分かってる」
「ならいい」
◇◇◇
その夜。
宿泊先。
二回戦の組み合わせ表が、肇の机の上に置かれていた。
対戦相手。
智辯和歌山高校。
そして。
三塁手――橘川玲央。
高校通算五十本。
163センチ。
全国評価AAAから、現在SS級への再評価候補。
去年から知っていた名前。
今度はニュース画面の向こうではない。
同じ甲子園。
同じグラウンド。
そして敵として向き合う。
さらに自分自身は――。
SSS。
全国評価表の最上位。
だが。
肇にとって、その文字に大きな意味はなかった。
SSSでも打てなければアウト。
AAAでもホームランを打てば試合を決める。
Cでも試合を救う一球を投げることができる。
野球はランクで勝敗を決めるものではない。
肇は組み合わせ表を見ながら呟いた。
「橘川玲央……」
そして少し笑う。
「やろうぜ」
甲子園二回戦。
高橋肇。
高校通算六十四本。
160km。
全国評価SSS。
対するは――。
橘川玲央。
高校通算五十本。
強肩。
163センチの小柄な三塁手。
全国でも高い評価を受けるドラフト候補。
一回戦の逆転二ランで、さらに注目を集めた存在。
去年。
まだ高校二年生だった肇がニュースの向こう側から見ていた選手。
その男が今――。
高校最後の甲子園二回戦で、目の前の相手となった。
高橋肇たちの全国制覇への二歩目。
試合開始まで――。
あと少しだった。
第24話「二回戦組み合わせ決定――全国評価表と、去年から知る“もう一人の小さな怪物”」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は試合そのものではなく、甲子園一回戦全日程の終了と二回戦組み合わせ決定、そして全国の有力選手たちに焦点を当てました。
一回戦から、甲子園らしい試合が続きました。
大阪桐蔭高校対広陵高校。
仙台育英高校対中京大中京高校。
智辯学園高校対花咲徳栄高校。
東海大相模高校対明徳義塾高校。
星稜高校対作新学院高校。
智辯和歌山高校対慶應義塾高校。
履正社高校対常総学院高校。
沖縄尚学高校対敦賀気比高校。
健大高崎高校対明豊高校。
報徳学園高校対青森山田高校。
龍谷大平安高校対聖光学院高校。
関東第一高校対高松商業高校。
浦和学院高校対九州国際大付高校。
京都国際高校対近江高校。
そして、高橋肇たちと横浜高校。
終盤の逆転。
一点差。
サヨナラ。
延長戦。
大量得点。
一回戦だけでも、さまざまな形の試合がありました。
その中から勝ち残った学校だけが二回戦へ進みます。
当然、二回戦は一回戦以上に簡単な試合ではありません。
そして肇たちの相手として決まったのが――智辯和歌山高校。
その中心選手が三塁手・橘川玲央です。
身長163cm。
高校通算50本塁打。
強肩。
鋭いスイング。
そして一回戦では、慶應義塾高校を相手に八回裏の逆転2ラン本塁打。
試合を決める一打を放ちました。
しかも肇にとって橘川は、以前から記憶に残っている選手です。
高校二年生だった昨夏。
肇たちは地区大会準決勝で敗れ、夏の甲子園には進めませんでした。
そんな時、テレビやニュースで何度も取り上げられていたのが、当時まだ二年生だった橘川玲央。
「二年生ながらドラフト候補」
「小柄ながら強烈な打球を放つ三塁手」
そんな形で全国から注目されていました。
一年後。
肇も高校通算64本塁打。
最速160km。
甲子園初戦では一試合4本塁打。
全国から注目される選手となりました。
つまり今回の二回戦は、
昨年、ニュースを見る側だった肇。
昨年、ニュースで紹介される側だった橘川。
その二人が、同じグラウンドで直接ぶつかる試合でもあります。
さらに橘川と、地区大会決勝で肇と対戦した崇道君彦が顔見知りであることも判明。
崇道とは試合後、
「プロで会おう」
という約束まで交わしています。
高校野球を通じて、全国の有力選手たちの縁も少しずつつながっていきます。
そして今回登場した全国評価表。
最上位となるSSSランクには、
高橋肇。
大阪桐蔭高校の投手・白峰蓮司。
仙台育英高校の捕手・水城拓真。
全国でも特に高く評価される三人が並びました。
しかし肇自身は、その評価にほとんど興味を示しません。
「SSSでも打てなければアウト」
まさにその通りです。
さらに肇たちのチームを見てみると、
神谷悠斗――AAA。
藤堂拓海――B。
鈴木和誠――A。
高橋肇――SSS。
前薗晃大――AA。
宮坂大智――B。
桐生翔――B。
長谷川颯太――B。
相馬健吾――B。
なんとスターティングメンバー九人全員がBランク以上。
高橋一人だけに頼るチームではないことが、外部評価にも少しずつ表れ始めています。
さらにCランクには、
黒崎蓮。
早川慶介。
久我直哉。
松岡亮平。
橘優成。
西川陸斗。
安西航。
倉田陽向。
森川駿。
大野蒼真。
榎本悠生。
十一人のベンチメンバーも名前を連ねました。
ただし――。
一条監督が最も強く伝えたことは、ランクそのものではありません。
「ランキングで試合をするんじゃない」
全国評価SSSであっても、三振することはあります。
Cランクの選手が、試合を決める一球や一打を生み出すこともあります。
野球は評価表ではなく、九回が終わった時の点数で決まるもの。
そして今回、肇自身も大きく成長した言葉を口にしました。
「俺が警戒されるなら、俺以外が打てばいい」
以前なら、
「自分が何とかする」
と考えていた肇。
しかし今は違います。
神谷悠斗。
藤堂拓海。
鈴木和誠。
前薗晃大。
宮坂大智。
桐生翔。
長谷川颯太。
相馬健吾。
そしてベンチメンバー。
仲間を信じています。
だからこそ全国制覇を狙える。
そして、二回戦で待つ相手は――智辯和歌山高校。
注目される対決は、
SSS評価・高橋肇。
高校通算64本塁打。
最速160km。
対する、
ドラフト候補・橘川玲央。
高校通算50本塁打。
身長163cm。
強肩三塁手。
昨年はニュース画面越しに見ていた相手。
一年後の今年は、同じ甲子園で敵として向き合います。
「去年の自分を越えるため」
肇がそう語った二回戦。
全国制覇へ向けて手にしたのは、まだ一勝。
次は――二歩目。
甲子園二回戦。
高橋肇と橘川玲央。
二人のドラフト候補が、ついに同じグラウンドでぶつかります。




