↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
35/52

第21話「甲子園到着――全国から集う強豪校と、最後の夏の始まり」


第21話から、いよいよ「甲子園編」が始まります。


地区大会を九対八の激戦で制し、甲子園への切符を掴んだ高橋肇たち野球部。


第16話から第20話までは、地区大会優勝後の学校生活、最後の強化練習、全校生徒による壮行会、そして甲子園へ出発するまでを描いてきました。


そして今回――。


ついに野球部七十人とマネージャー十一人が甲子園へ到着します。


高校二年生だった昨年にも甲子園を経験している肇たち。


しかし、昨年は三回戦敗退。


だからこそ高校三年生として迎える今年の甲子園は、


「戻ってきた場所」


ではなく、


「去年を越えるための場所」


でもあります。


全国各地から集まってくる強豪校。


150キロを超える速球を投げる投手。


高校通算数十本の本塁打を記録している強打者。


ドラフト候補。


地区大会ではなかなか出会えなかった選手たちが、甲子園には集まっています。


高校通算六十本塁打を記録し、地区大会決勝でサヨナラヒットを放った肇自身も、すでに他校から注目される存在。


しかし一条昴監督が伝えるのは、


「地区大会の実績は関係ない」


ということ。


全国制覇をするためには――まず一勝。


一方、学校では東雲千鶴率いる吹奏楽部三十人と真悠、そして眞衣たちチアリーディング部も甲子園へ向けて最後の準備を進めています。


選手。


監督。


マネージャー。


家族。


吹奏楽部。


チアリーディング部。


そして千鶴。


多くの想いを背負った高校最後の夏。


ここから、本当の甲子園が始まります。



野球部を乗せた大型バスが学校を出発してから数時間。


車内では、いつもなら賑やかな部員たちも、少しずつ口数が減っていた。


窓の外を流れていく景色。


後方の席では一年生や二年生が話をしている。


マネージャー十一人も、到着後の予定や荷物について確認していた。


そして前方近く。


高橋肇は窓側の席に座り、外を眺めていた。


その隣には捕手の前薗晃大。


「肇」


「ん?」


「さっきから静かじゃない?」


「そうか?」


「学校出てから、ずっと外見てる」


肇は小さく笑った。


「考えてた」


「何を?」


「去年のこと」


晃大は、それだけで理解した。


高校二年生だった昨年。


秋の大会を勝ち抜き、肇たちは甲子園へ出場した。


だが――三回戦敗退。


全国の壁を思い知らされた。


「去年と同じ場所に向かってるんだなって」


「でも今年は違う」


前の座席から声。


振り返ったのは主将・鈴木和誠だった。


「今年は俺たち三年生に次がない」


「分かってる」


「負けたら終わり」


晃大も頷く。


「だから最後まで勝つ」


肇が右手を握る。


「去年みたいに三回戦で終わらない」


「もちろん」


「目標は?」


和誠が聞く。


肇は即答した。


「全国制覇」


晃大も。


「全国制覇」


和誠も笑う。


「それでいい」


すると、通路を歩いてきた一条昴監督が三人を見る。


「お前ら」


「はい?」


「もう全国制覇した気分になってないだろうな?」


「なってません!」


「だったらいい」


一条監督は車内を見渡した。


「全員、聞け!」


「はい!」


七十人の部員たちが一斉に前を見る。


「甲子園に着いた瞬間から、お前たちは全国大会出場校の選手だ」


車内が静かになる。


「地区大会で何本ホームランを打ったとか」


一瞬、肇を見る。


「誰がサヨナラを打ったとか」


肇が苦笑する。


「地区大会で何点取ったとか」


一条監督は続ける。


「全部関係ない」


「はい!」


「全国には、お前たちと同じように地方大会を勝ち抜いた学校しか来ない」


「はい!」


「簡単な相手は一校もない!」


「はい!」


「名前で勝てる学校もなければ、名前だけで負ける必要のある学校もない!」


「はい!」


そして。


「一試合ずつだ」


「はい!」


「全国制覇を口にするのはいい。だが、最初の一勝を取らなければ二勝目はない!」


「はい!」


「分かったな!」


「はい!」


七十人の声が車内に響いた。


肇は再び窓の外を見る。


全国制覇。


そのために必要なのは――まず一勝。


◇◇◇


しばらくして。


「見えたぞ!」


誰かが声を上げた。


何人もの部員が窓を見る。


肇も身体を起こした。


「……来た」


昨年、一度見た景色。


それでも今年は、まるで違って見えた。


甲子園。


高校球児なら、一度は夢見る場所。


前薗が小さく息を吐く。


「やっぱりすごいな」


「ああ」


「去年も来たのに」


「去年と全然違う」


「俺もそう思う」


主将の和誠も窓の外を見ていた。


三年生として。


最後の夏として。


戻ってきた甲子園。


バスが目的地へ到着する。


「全員、降りる準備!」


マネージャーから声。


「はい!」


選手たちが一斉に動き始める。


「忘れ物するなよ!」


「荷物確認!」


「一年生、勝手に動くな!」


「はい!」


バスの扉が開いた。


一条監督が最初に降りる。


続いて選手たち。


肇が地面へ足をつけた。


その瞬間。


立ち止まった。


「……」


前薗が後ろから来る。


「どうした?」


肇は目の前を見る。


「いや」


少し笑った。


「帰ってきたなって」


前薗も同じ方向を見る。


「ああ」


和誠も二人の横へ。


「今年は長くいようぜ」


「当たり前」


「最後までな」


三人は甲子園を見つめた。


◇◇◇


周囲には、すでに全国各地から到着した高校球児たちの姿があった。


北から。


南から。


東から。


西から。


地方大会を制した代表校。


ユニフォームも違う。


体格も違う。


学校名も違う。


しかし全員が同じ目的でここへ来ている。


勝つため。


全国の頂点へ立つため。


「でか……」


二年生の久我直哉が、他校の選手を見て呟く。


隣にいた橘優成が言う。


「あの人、絶対190くらいあるぞ」


「投手かな?」


「知らない」


「全国って感じするな」


その会話を聞いた肇が振り返る。


「久我」


「はい?」


「身体の大きさで野球するわけじゃないぞ」


「分かってます」


「橘も」


「はい」


「相手ばっかり見て緊張するな」


「はい!」


肇はそう言いながらも、自分自身も周囲を観察していた。


明らかに身体の大きい選手。


腕の太い打者。


長身の投手。


テレビや野球雑誌で名前を見たことのある選手もいる。


ドラフト候補。


高校通算四十本、五十本を超える打者。


150キロを投げる投手。


全国にはいる。


地区大会決勝で対戦した崇道君彦も最速152キロのドラフト候補だった。


だが、ここではそれが珍しくなくなっていく。


「肇」


前薗が言う。


「何?」


「あそこ」


「ん?」


数人の選手がこちらを見ていた。


その中の一人が肇へ視線を向け、何かを仲間へ話している。


「お前じゃない?」


「何で?」


「高校通算六十本」


「それだけで分かるか?」


「地区大会決勝のサヨナラもニュースになったし」


肇は困ったように笑った。


「俺だって向こうのこと知らないのに」


すると別の学校の選手が近づいてきた。


「すみません」


「はい?」


「高橋肇君ですよね?」


「そうですけど」


「やっぱり」


その選手は笑った。


「地区大会決勝、見ました」


「ありがとうございます」


「最後のサヨナラ、すごかったです」


「いや……ありがとうございます」


「高校通算六十本ですよね?」


「はい」


「甲子園でもホームラン狙ってます?」


肇は少し考えた。


そして笑った。


「狙える球なら」


相手も笑う。


「対戦したらよろしくお願いします」


「こちらこそ」


握手。


相手校の選手は仲間のところへ戻っていった。


前薗が肇を見る。


「有名人」


「やめろ」


和誠も笑う。


「全国区になってきたな」


「だからやめろって」


だが一条監督は、その様子を少し離れた場所から見ていた。


「高橋」


「はい」


「注目されることに慣れろ」


「……はい」


「甲子園で一本打てば、地区大会とは比べものにならないくらい見られる」


「はい」


「ドラフト候補ならなおさらだ」


肇の表情が引き締まる。


「でも」


一条監督は続ける。


「お前がやることは変わらない」


「打つ」


「投げる」


「守る」


「走る」


「はい」


「それだけだ」


「はい!」


◇◇◇


宿泊先へ移動した野球部一行。


到着すると、すぐにミーティングが行われた。


広い部屋に三年生、二年生、一年生が集まる。


七十人全員。


十一人のマネージャー。


前には一条監督。


ホワイトボードには大きく書かれていた。


『甲子園』


その下。


『一戦必勝』


さらに。


『全国制覇』


一条監督が全員を見る。


「今日から生活そのものが試合準備だ」


「はい」


「寝不足」


「はい」


「食事不足」


「はい」


「水分不足」


「はい」


「全部禁止だ」


何人かが少し笑う。


「笑うところじゃない」


「はい!」


「特に高橋」


「何で俺だけ!」


部屋に笑い。


一条監督が肇を見る。


「お前、考え事すると夜更かしするだろ」


「……」


「図星だな」


前薗が笑う。


「監督、正解です」


「晃大!」


「お前は高橋が寝てるか確認しろ」


「了解です」


「俺は子供か!」


また笑い。


緊張していた一年生たちの表情も少し柔らかくなった。


だが一条監督はすぐに真剣な表情へ。


「ただし」


全員が監督を見る。


「ここからは本当に最後だ」


静かになる。


「三年生」


「はい」


「負けたら高校野球は終わる」


「はい」


「二年生、一年生」


「はい!」


「三年生と一日でも長く野球をしたいなら、できることを全部やれ」


「はい!」


一条監督は七十人を見渡す。


「俺も全部やる」


「だから」


「全国制覇するぞ」


一瞬。


そして。


「はい!」


大きな声が響いた。


◇◇◇


その頃。


学校では――。


「もう一度、最初からお願いします!」


東雲千鶴の声が音楽室に響いていた。


「はい!」


吹奏楽部三十人。


真悠も楽器を構える。


野球部は一足先に甲子園へ向かった。


だが応援組も、間もなく出発する。


「甲子園では普段の演奏とは環境が全く違います」


千鶴が全員を見る。


「観客の声」


「応援」


「球場全体の音」


「その中で、私たちの音をグラウンドまで届けます」


「はい!」


「選手が苦しい時に」


「はい!」


「あと一球が欲しい時に」


「はい!」


「あと一本が欲しい時に」


「はい!」


千鶴は少し笑う。


「届く演奏をしましょう」


「はい!」


真悠は楽器を握りながら兄を思い浮かべる。


――お兄ちゃん。


「絶対、届けるから」


小さく呟いた。


千鶴には聞こえた。


「真悠さん」


「はい?」


「一緒に応援しましょう」


「はい!」


二人は教師と生徒として笑い合った。


だが、二人とも同じ人物を思っていた。


高橋肇。


◇◇◇


体育館では眞衣たちチアリーディング部も最後の確認。


「甲子園ではもっと大きく!」


「はい!」


「笑顔を忘れない!」


「はい!」


眞衣は汗を拭う。


隣の部員が言った。


「眞衣ちゃん、緊張する?」


「する」


「お兄さん出るんだもんね」


「うん」


「すごいよね」


眞衣は少し笑った。


「学校ではね」


「家では違うの?」


「普通の兄貴」


「想像できない」


「みんなそう言う」


眞衣は笑う。


そして心の中で思う。


――兄貴。


――全国制覇するって言ったんだから。


「絶対勝ってよ」


◇◇◇


夕方。


甲子園近くの宿泊先。


練習とミーティングを終えた肇は、自分のスマートフォンを確認した。


通知がいくつも来ている。


母・由紀子。


『無事に着いた?』


父親。


『初日から飛ばしすぎるなよ』


真悠。


『吹奏楽部も準備できてるよ!』


眞衣。


『チアも完璧! 兄貴は野球だけ考えて!』


肇は笑った。


「何笑ってる?」


前薗が覗き込む。


「妹」


「真悠ちゃん?」


「眞衣も」


「何て?」


「俺は野球だけ考えろって」


「正論」


「お前まで言うな」


そして。


もう一件。


千鶴。


学校では教師。


家では大切な恋人。


メッセージは短かった。


『無事に着きましたか? 今日はしっかり休んでください。応援組も後から向かいます。』


学校の先生として読まれても不自然ではない内容。


それでも肇には分かる。


昨日の夜。


二人だけで交わした言葉。


『大好きです』


『どんな結果になっても、私はあなたの味方です』


そして自分が返した、


『大好き』


『愛してる』


その言葉がある。


肇は返信する。


『無事着いた。ちゃんと寝る。甲子園で待ってる』


送信。


それだけ。


本当ならもっと書きたい。


でも今はそれでいい。


「肇」


前薗が呼ぶ。


「何?」


「飯行くぞ」


「今行く」


肇はスマートフォンをしまった。


◇◇◇


夕食。


選手たちの前には、体調管理を考えた料理が並ぶ。


「高橋、ちゃんと食え」


一条監督。


「食べてます」


「野菜も」


「監督、俺の父親ですか?」


「甲子園の間はそれくらい管理する」


「厳しい」


隣で前薗が笑う。


「千鶴先生にも言われてそう」


「ぶっ!」


肇が危うくむせる。


「何で東雲先生?」


前薗は何も知らない。


「吹奏楽部顧問だし、学校の先生だから」


「……そういう意味ね」


「何だと思った?」


「別に」


肇は水を飲む。


危ない。


本当に油断できない。


学校の仲間たちは知らない。


東雲千鶴が自分の恋人であることを。


一緒に暮らしていることも。


将来を真剣に考えていることも。


一条監督など、ごく一部だけが知っている秘密。


甲子園でも変わらない。


学校関係者が大勢いる。


だからこそ二人は、今まで以上に気をつけなければならない。


◇◇◇


夜。


消灯前。


肇は宿泊先の窓際に立っていた。


遠くの街の明かり。


明日から本格的な甲子園での日々が始まる。


「肇」


和誠がやってくる。


「まだ起きてたのか」


「まだ消灯前」


「監督に早く寝ろって言われただろ」


「分かってる」


和誠も窓の外を見る。


「最後だな」


「うん」


「高校野球」


「うん」


二人はしばらく黙っていた。


「俺さ」


和誠が言う。


「地区大会決勝で九回になった時、正直怖かった」


肇が和誠を見る。


「主将でも?」


「当たり前だろ」


「俺も怖かった」


「お前も?」


「八対八だぞ」


二人が笑う。


和誠が続ける。


「でも最後、お前が打席入った時」


「うん」


「何となく打つ気がした」


「本当に?」


「本当」


「だったら先に言えよ」


「言ったらプレッシャーになるだろ」


「今さら?」


また笑う。


そして和誠が拳を出した。


「今度は甲子園」


肇も拳を出す。


「うん」


「最後まで頼むぞ、エース」


「任せろ、主将」


拳が重なる。


◇◇◇


翌朝。


まだ朝日が昇りきる前。


肇は目を覚ました。


昨夜は意外なほどよく眠れた。


スマートフォンを見る。


新しいメッセージ。


千鶴からだった。


『おはようございます。今日も頑張ってください。私たちも準備を進めています。』


肇は少し笑う。


『おはよう。ありがとう』


送信。


そして起き上がる。


ユニフォームへ着替える。


鏡の前。


高橋肇。


高校三年生。


投手。


四番。


高校通算六十本塁打。


ドラフト候補。


だが、そんな肩書きはグラウンドへ入れば関係ない。


打てなければアウト。


抑えられなければ失点。


勝たなければ終わる。


「よし」


小さく呟く。


部屋を出る。


廊下にはすでに仲間たち。


「おはよう!」


「おはよう!」


「高橋、寝られた?」


久我が聞く。


「ぐっすり」


「珍しいですね」


「お前まで言うな」


橘優成も笑う。


「監督に確認されますよ」


「全員俺を何だと思ってるんだ」


笑い声。


そこへ一条監督。


「高橋」


「はい」


「寝たか?」


全員が笑った。


「寝ました!」


「ならいい」


一条監督も少し笑う。


そして表情を変える。


「全員集合」


七十人が集まる。


十一人のマネージャーも。


「今日から」


一条監督が言う。


「本当の甲子園が始まる」


全員の顔が引き締まる。


「去年の三回戦敗退を覚えている三年生」


「はい」


「忘れるな」


「はい」


「だが引きずるな」


「はい!」


「今年は今年だ」


「はい!」


「俺たちは地区大会王者として来たんじゃない」


一条監督が七十人を見る。


「全国制覇を狙う一校として来た」


「はい!」


そして主将・鈴木和誠。


「行くぞ!」


「おおっ!」


前薗晃大。


「最後まで勝つぞ!」


「おおっ!」


最後に肇。


仲間たちを見る。


昨年。


三回戦で止まった場所。


今年は、その先へ。


「全国の頂点、取りに行こう!」


「おおおおおおおっ!」


七十人の声が響いた。


高橋肇、高校三年生。


高校最後の夏。


学校で見送ってくれた仲間。


父と母。


真悠。


眞衣。


そして千鶴。


全員との約束を胸に。


全国から集まった強豪校が待つ夢の舞台で――。


ついに、高橋肇たちの最後の甲子園が始まった。



第21話「甲子園到着――全国から集う強豪校と、最後の夏の始まり」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。


今回から舞台はいよいよ甲子園へ。


バスの窓から甲子園が見えた瞬間、肇たち三年生が思い出したのは――昨年のことでした。


高校二年生だった昨年。


秋の大会を勝ち抜き、甲子園へ出場。


しかし結果は三回戦敗退。


だから今回、肇たちにとって甲子園は初めて見る憧れの場所ではありません。


一度負けた場所。


悔しさを残して帰った場所。


そして、


「必ずもう一度戻ってくる」


と誓った場所です。


前薗晃大。


鈴木和誠。


高橋肇。


三人が甲子園を見ながら交わした、


「今年は長くいようぜ」


「最後までな」


という言葉。


今年は高校三年生。


負ければ、その瞬間に高校野球が終わります。


だからこそ目標は変わりません。


全国制覇です。


しかし一条監督は、そんな部員たちへ重要なことも伝えました。


「全国制覇を口にするのはいい。だが、最初の一勝を取らなければ二勝目はない」


全国制覇という大きな目標だけを見ていても、そこには届きません。


一回戦。


二回戦。


三回戦。


その一試合、一球、一打席を積み重ねた先にしか全国の頂点はありません。


そして甲子園へ到着した肇たちが目にしたのは、全国各地から集まった強豪校の選手たち。


長身の投手。


体格のいい打者。


150キロを超える速球を投げるドラフト候補。


高校通算数十本塁打を記録する強打者。


全国大会だからこそ、地区大会以上の選手たちが当たり前のように集まっています。


そして肇自身もまた――相手から見れば警戒すべき選手の一人です。


高校通算六十本塁打。


投手兼四番。


地区大会準決勝では二本塁打。


地区大会決勝では九回裏にサヨナラヒット。


ドラフト候補。


他校の選手から、


「高橋肇君ですよね?」


と声を掛けられるほど、少しずつ全国にも名前が知られ始めています。


しかし一条監督が肇へ伝えた、


「お前がやることは変わらない」


という言葉。


打つ。


投げる。


守る。


走る。


注目されても、高校通算本塁打が何本になっても、やるべき野球そのものは変わりません。


一方その頃、学校では応援組も動いていました。


東雲千鶴が率いる吹奏楽部三十人。


その中には肇の妹・真悠。


そして体育館では、もう一人の妹・眞衣がチアリーディング部として最後の練習。


地区大会前。


肇は吹奏楽部三十人へ、


「必ず甲子園へ連れて行く」


と約束しました。


その約束は果たされました。


今度は真悠たち吹奏楽部と眞衣たちチアリーディング部が、甲子園のスタンドから野球部へ応援を届ける番です。


さらに今回も、肇と千鶴の秘密は変わりません。


学校では、


「東雲先生」


「高橋君」。


甲子園でも学校関係者が大勢いるため、二人は今まで以上に注意しなければなりません。


だから千鶴から届いたメッセージも、


『無事に着きましたか? 今日はしっかり休んでください。応援組も後から向かいます。』


という、教師として読まれても不自然ではないもの。


それでも二人には、第20話の出発前夜に交わした言葉があります。


「大好きです」


「愛してる」


そして、


「どんな結果になっても、私はあなたの味方です」


その言葉があるからこそ、離れていても気持ちは十分伝わっています。


そして翌朝。


ユニフォームへ袖を通した肇。


高橋肇、高校三年生。


投手。


四番。


高校通算六十本塁打。


ドラフト候補。


しかしグラウンドへ入れば、過去の数字だけで勝つことはできません。


今年は今年。


地区大会は地区大会。


甲子園は甲子園。


一条監督。


野球部七十人。


マネージャー十一人。


そして後からやってくる吹奏楽部、チアリーディング部、家族、仲間たち。


すべての想いを背負って――。


「全国の頂点、取りに行こう!」


昨年は三回戦で止まった甲子園。


今年は、その先へ。


第21話から、高橋肇たちの高校最後の甲子園が本格的に始まりました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。