第18話「真悠と眞衣と桜庭結菜――三人の一年生と、兄には言えない学校トーク」
第18話では、高校一年生の三人――高橋真悠、高橋眞衣、そして桜庭結菜の学校での会話を中心に描きました。
地区大会を制し、甲子園出場を決めた野球部。
その中でも、エースで四番、高校通算六十本塁打、さらに決勝ではサヨナラヒットを放った高橋肇は、学校中から注目される存在となっています。
しかし真悠と眞衣にとっては、どれだけ学校で有名になっても「普通の兄」。
そんな二人へ、結菜が尋ねたのは――以前、喫茶店で偶然見かけた東雲千鶴との関係でした。
「東雲先生とは昔から仲がいいの?」
もちろん結菜は知りません。
東雲千鶴と高橋肇が恋人同士であること。
そして二人が一緒に暮らしていることも。
さらに話題は、前日に美桜と肇が交わした会話へ。
「高橋先輩、東雲先生のこと『学校で一番綺麗なんじゃない?』って言ったらしいよ」
本当の関係を知っている真悠と眞衣にとっては、笑いを堪えるのも大変な一言です。
吹奏楽部として甲子園へ向かう真悠。
チアリーディング部として兄を応援する眞衣。
そして甲子園へ応援に行きたいと話す結菜。
高校一年生三人の何気ない会話と、その裏側にある「兄と美人教師の誰にも言えない秘密」。
甲子園まであと少し。
それぞれの夏が、少しずつ動き始めます。
甲子園出場が決まってから、学校の雰囲気は明らかに変わっていた。
校門には大きく掲げられた、
『祝 野球部 夏の甲子園出場!』
の横断幕。
廊下を歩けば野球部の話。
昼休みになれば地区大会決勝の話。
そして一年生の教室でも、話題の中心はやはり甲子園だった。
「ねえ、真悠ちゃん」
「ん?」
休み時間。
自分の席で次の授業の教科書を準備していた真悠が顔を上げる。
そこに立っていたのは――桜庭結菜。
同じ高校一年生。
そして高校三年生・桜庭美桜の妹でもある。
「ちょっと聞いていい?」
「いいよ」
結菜が少し笑う。
「お兄さん、学校ですごいことになってるね」
真悠は苦笑した。
「やっぱり?」
「やっぱりっていうか、三年生だけじゃなく一年生でも高橋先輩の話ばっかりだよ」
「甲子園決まったからね」
「それだけじゃないでしょ」
結菜は指を折りながら数える。
「野球部のエース」
「うん」
「四番」
「うん」
「高校通算六十本塁打」
「うん」
「地区大会決勝でサヨナラヒット」
「……うん」
「すごすぎない?」
真悠は少し考えた。
「学校だとそう見えるのかな」
「え?」
「家では普通のお兄ちゃんだから」
結菜が目を丸くする。
「普通なの?」
「普通だよ」
「本当に?」
「本当に」
そこへ。
「真悠ー」
もう一人。
眞衣が教室へやってきた。
「次の昼休み――って、結菜もいるじゃん」
「眞衣ちゃん」
「何話してたの?」
結菜が答える。
「高橋先輩」
「ああ、兄貴」
「眞衣ちゃんも普通に『兄貴』って呼ぶんだ」
「だって兄貴だもん」
結菜は少し笑った。
「学校だとすごい先輩なのに」
眞衣は真悠の隣へ。
「家だと普通だよ?」
「真悠ちゃんも同じこと言ってた」
「でしょ?」
「どんな感じ?」
眞衣は考える。
「冷蔵庫開けて飲み物探してる」
「普通!」
「ソファでテレビ見てる」
「普通!」
真悠も加わる。
「野球中継見てたら急に解説し始める」
「それはちょっと野球選手っぽい」
「あと負けず嫌い」
眞衣が笑う。
「それは昔から」
「小学生の頃、三振して泣いたことあるんだって」
真悠が言った瞬間。
「お姉ちゃん、それ言ったら怒られるよ」
「兄貴いないから大丈夫」
結菜が笑い始める。
「想像できない!」
「でしょ?」
「今の高橋先輩から全然想像できない」
真悠も笑った。
「今も負けたら相当悔しがるよ」
「そこは変わってないんだ」
「全然」
三人の笑い声が教室に響いた。
◇◇◇
昼休み。
三人は校舎内の少し静かな場所で昼食を取っていた。
真悠。
眞衣。
結菜。
三人とも高校一年生。
「そういえば」
結菜がお弁当を食べながら言った。
「この前のことなんだけど」
真悠と眞衣が同時に顔を上げる。
「この前?」
「喫茶店」
二人の動きが一瞬だけ止まった。
結菜は気づかず続ける。
「東雲先生と三人でいた時」
真悠と眞衣が一瞬だけ視線を合わせた。
――来た。
兄・肇と東雲千鶴の関係。
それだけは絶対に話せない。
千鶴は兄の恋人。
そして二人は一緒に暮らしている。
それを知っているのは家族や学校側のごく一部だけ。
結菜はもちろん知らない。
「びっくりしたんだよね」
結菜が言う。
「学校の先生と休日に映画見たり、喫茶店行ったりするんだって」
真悠ができるだけ自然に答える。
「東雲先生とは昔から家族ぐるみで知ってるから」
「お母さんと知り合いなんだっけ?」
「うん」
眞衣が続ける。
「お母さんと東雲先生、高校時代の先輩後輩」
「へえ……」
「だから私たちも昔から知ってる感じ」
完全な嘘ではない。
由紀子と千鶴が高校時代の先輩後輩なのは事実。
ただし――。
最も大きな部分だけを伏せている。
結菜が少し考える。
「じゃあ高橋先輩も?」
真悠の箸が止まりそうになる。
「兄貴?」
「うん」
「もちろん知ってるよ」
「東雲先生と?」
「まあ……」
眞衣がすぐに続けた。
「お母さんの後輩だからね」
「そっか」
結菜は素直に納得する。
だが次の一言。
「でも、お姉ちゃんも昨日、高橋先輩と東雲先生の話したって言ってた」
「え?」
真悠と眞衣が同時に声を上げる。
結菜が驚く。
「何?」
「美桜先輩が?」
「兄貴と?」
「うん」
結菜は二人を見る。
「昨日、学校で高橋先輩と話したんだって」
真悠と眞衣がまた顔を見合わせる。
「何話したの?」
真悠が聞く。
「甲子園の話とか」
「うん」
「私たちが喫茶店で会った話とか」
「……うん」
「あと東雲先生の話」
二人が固まる。
眞衣が慎重に聞く。
「……何て?」
「お姉ちゃんが高橋先輩に、東雲先生のこと綺麗だと思うか聞いたんだって」
「えっ!?」
真悠が思わず大きな声を出した。
「真悠!」
「ご、ごめん」
結菜が不思議そうな顔。
「そんな驚く?」
「いや……」
眞衣が必死に取り繕う。
「兄貴にそんなこと聞いたんだって思って」
「それで?」
真悠が身を乗り出す。
「兄貴、何て答えたの?」
「綺麗だと思うって」
「……」
「……」
双子が黙った。
結菜が続ける。
「しかも『学校で一番綺麗なんじゃない?』って言ったらしいよ」
真悠が口元を押さえる。
眞衣も下を向く。
「……兄貴」
「……それ本人に聞かれたら絶対恥ずかしいやつ」
結菜が笑う。
「でも東雲先生って本当に綺麗だよね」
真悠は何とか平静を保つ。
「うん」
眞衣も。
「まあね」
二人の頭の中では同じことを考えていた。
――兄貴、それ恋人だからでしょう!
だが言えない。
絶対に言えない。
◇◇◇
結菜はさらに言った。
「男子から人気あるんでしょう?」
「すごいよ」
真悠が答える。
「高嶺の花って呼ばれてる」
眞衣も頷く。
「美人教師って」
「やっぱり」
「吹奏楽部でも人気あるよ」
真悠が言う。
「顧問としても優しいし」
「怒る?」
「怒る時は怒る」
「怖い?」
「怖いというより真剣」
「へえ」
真悠は千鶴の教師としての姿を思い浮かべる。
家で兄と一緒にいる千鶴。
自分たちと休日に出かける千鶴。
そして吹奏楽部顧問として三十人の部員をまとめる千鶴。
全部同じ人。
それでも学校と家では少し違う。
「でも」
結菜が笑う。
「高橋先輩も東雲先生のこと綺麗だと思ってるんだ」
眞衣が笑いそうになる。
「……そうみたいだね」
「真悠ちゃん?」
「何?」
「何で顔隠してるの?」
「何でもない」
「笑ってる?」
「笑ってない」
完全に笑っている。
眞衣も耐えていた。
結菜だけが知らない。
肇が千鶴を綺麗だと思う理由。
単なる男子生徒としての憧れではないことを。
◇◇◇
話題はやがて甲子園へ移った。
「真悠ちゃんは甲子園行くんだよね?」
「うん」
「吹奏楽部で?」
「そう」
「眞衣ちゃんも?」
「チアで行く」
「すごい!」
結菜が羨ましそうに二人を見る。
「兄妹三人とも甲子園じゃん」
真悠が少し笑う。
「確かに」
「兄貴が選手」
「真悠が吹奏楽」
「私がチア」
三人で考える。
「高橋家すごいね」
結菜が言う。
眞衣が笑う。
「偶然だけどね」
「でも、お父さんとお母さんも来るんでしょ?」
「もちろん」
「家族全員じゃん」
真悠は頷く。
「うん」
さらに。
千鶴も来る。
吹奏楽部顧問として。
ただし、それについては今は言わなかった。
結菜が聞く。
「真悠ちゃん、甲子園で何演奏するの?」
「まだ全部は秘密」
「秘密?」
「一条監督から相談されて、新しい応援も準備してる」
「高橋先輩の曲も?」
「あるよ」
「聞きたい!」
「本番まで駄目」
「えー」
真悠が笑う。
「兄貴たちにも詳しくは秘密なんだから」
「じゃあ甲子園で聞く」
「来るの?」
「行きたい」
結菜は少し考える。
「お姉ちゃんとも話してる」
「美桜先輩と?」
「うん。甲子園行けたら応援しに行こうって」
眞衣が笑う。
「兄貴喜ぶんじゃない?」
「本当に?」
「同級生が来てくれるのは嬉しいと思う」
真悠も頷く。
「学校のみんなが来てくれたら、野球部も嬉しいよ」
結菜は笑った。
「じゃあ行きたいな」
◇◇◇
「でもさ」
眞衣が結菜を見る。
「結菜は部活何かやってる?」
「私は今のところ帰宅部」
「そうなんだ」
「まだ何か入りたいなとは思ってるけど」
真悠が聞く。
「何が好き?」
「本読むのも好きだし、音楽も好き」
「吹奏楽来る?」
「勧誘始まった」
三人が笑う。
「でも楽器できないよ?」
「最初はみんなそんな感じだよ」
「真悠ちゃんは?」
「私は前から少しやってた」
「東雲先生はトロンボーンだったんだよね?」
「高校時代ね」
「今も吹ける?」
「吹けるよ」
真悠が即答する。
「上手いよ」
「聞いてみたい」
「たまに吹く」
眞衣が笑う。
「真悠、千鶴先――」
一瞬。
止まる。
結菜が首を傾げる。
「千鶴?」
眞衣の顔が固まる。
真悠も固まる。
「……」
数秒。
眞衣が慌てて言い直す。
「東雲先生!」
「今、千鶴って言わなかった?」
「言ってない」
「言ったよ?」
「気のせい」
「絶対言った」
真悠が助け舟を出す。
「家ではお母さんが『千鶴ちゃん』って呼ぶから!」
「ああ!」
結菜が納得する。
「高校時代の後輩だから?」
「そう!」
真悠が勢いよく頷く。
「だからたまに名前が出ちゃうの」
「なるほど」
眞衣は胸を撫で下ろす。
危なかった。
本当に危ない。
結菜が笑う。
「でも家族ぐるみっていいね」
「まあね」
眞衣は苦笑する。
――家族ぐるみどころじゃないんだけど。
もちろん口にはしなかった。
◇◇◇
放課後。
真悠は吹奏楽部。
眞衣はチアリーディング部。
結菜とは廊下で別れる。
「じゃあまた明日!」
結菜が手を振る。
「またね」
「バイバイ」
数歩進んだところで、結菜が振り返った。
「真悠ちゃん! 眞衣ちゃん!」
「何?」
「高橋先輩に伝えといて!」
「何を?」
結菜は笑顔で言った。
「甲子園、頑張ってくださいって!」
真悠も笑う。
「分かった!」
眞衣も。
「伝えとく!」
結菜は手を振って帰っていった。
二人だけになる。
数秒。
真悠が口を開く。
「……危なかった」
眞衣も。
「危なかった」
「千鶴って言いかけたでしょ」
「ごめん」
「この前は私が言いかけたけど」
「お互い様じゃん」
二人が笑う。
そして眞衣が言った。
「でもさ」
「何?」
「兄貴、美桜先輩に言ったんだね」
「何を?」
「学校で一番綺麗って」
真悠が笑う。
「千鶴先生のこと大好きだからね」
「本人が聞いたらどうなるかな」
「絶対赤くなる」
「だよね」
二人は知らない。
その会話を――千鶴本人がすでに聞いていたことを。
◇◇◇
音楽室。
真悠が入る。
「こんにちは!」
「こんにちは!」
吹奏楽部三十人の練習が始まる。
前には東雲千鶴。
「今日は甲子園応援用の曲を中心に合わせます」
「はい!」
真悠は楽器を準備する。
そして千鶴の顔をちらっと見る。
――兄貴、この人に「学校で一番綺麗」って言ったんだ。
少し笑ってしまう。
千鶴が気づく。
「真悠さん」
「はい!」
「どうしました?」
「何でもありません!」
「……?」
千鶴は不思議そう。
「では始めますよ」
「はい!」
演奏開始。
音楽室に力強い音が響く。
甲子園。
兄が約束通り連れて行ってくれた舞台。
今度は自分が応援する。
真悠は楽器を握り直した。
◇◇◇
体育館。
「もう一回!」
「はい!」
眞衣もチアリーディング部で練習を続けていた。
地区大会よりさらに大きく。
さらに力強く。
甲子園のスタンドから、野球部へ声を届けるために。
「眞衣!」
「はい!」
「もっと笑顔!」
「はい!」
眞衣は大きく笑う。
頭に浮かぶのは兄の姿。
マウンド。
そして四番打者としての打席。
「兄貴」
小さく呟く。
「絶対勝ってよ」
◇◇◇
その日の夜。
高橋家の実家。
真悠と眞衣はリビングにいた。
由紀子が夕食の片付けをしている。
「今日、結菜と話したよ」
真悠が言う。
由紀子が振り返る。
「桜庭さん?」
「うん」
眞衣が笑う。
「兄貴の話してた」
「また肇?」
「学校で人気者だから」
「本人は嫌がりそうね」
「それと」
真悠と眞衣が顔を見合わせる。
「千鶴先生の話」
由紀子の手が止まる。
「大丈夫だった?」
さすが母親。
最初に心配するのはそこだった。
「大丈夫」
「何も言ってない?」
「言ってない」
「本当に?」
「本当」
眞衣が続ける。
「お母さんと千鶴先生が高校時代の先輩後輩だから、家族ぐるみで知ってるって」
由紀子は頷く。
「それなら事実だから大丈夫ね」
「でも」
「何?」
「私、途中で千鶴って言いかけた」
由紀子がじっと眞衣を見る。
「眞衣」
「ごめんなさい」
「学校では気をつけなさい」
「はい」
「真悠も」
「私も?」
「あなたもこの前、喫茶店で言いかけたでしょう?」
「……はい」
由紀子は小さくため息。
「二人が悪気なく言ってしまうのが一番怖いのよ」
双子が頷く。
「分かってる」
「気をつける」
由紀子は少し表情を柔らかくした。
「千鶴も肇も、今は大事な時期だから」
「甲子園?」
「それもある」
そして。
「学校では先生と生徒。それは忘れないようにね」
「うん」
「分かった」
◇◇◇
すると真悠が思い出す。
「そうだ」
「何?」
「結菜から兄貴に伝言」
眞衣も思い出した。
「甲子園頑張ってくださいって」
由紀子が笑う。
「今度会った時に伝えたら?」
「うん」
真悠はスマートフォンを見る。
兄へメッセージを送ろうか迷う。
だが――。
「やっぱり今度直接言おう」
「何で?」
眞衣が聞く。
「ついでに聞きたいことあるから」
「何?」
真悠がニヤッとする。
「美桜先輩に『千鶴先生が学校で一番綺麗』って言ったの、本当か」
眞衣が笑い出す。
「それ私も聞きたい!」
由紀子が二人を見る。
「あなたたち……」
「だって気になる!」
「千鶴先生本人にも聞きたい」
由紀子は呆れながらも笑ってしまった。
「ほどほどにしなさいよ」
「はーい」
◇◇◇
同じ頃。
別の家。
肇と千鶴は、それぞれ甲子園へ向けた時間を過ごしていた。
肇は野球部。
千鶴は吹奏楽部。
真悠は吹奏楽部員。
眞衣はチアリーディング部員。
そして結菜と美桜も、甲子園へ応援に行きたいと考えている。
地区大会優勝によって。
少しずつ。
本当に少しずつ。
学校全体が同じ場所へ向かっていた。
甲子園。
ただし――。
その中で一つだけ、今までと変わらないものがある。
東雲千鶴と高橋肇。
学校一の高嶺の花と呼ばれる美人教師と、野球部のエースで四番。
二人が恋人同士であること。
そして一緒に暮らしていること。
桜庭美桜も。
桜庭結菜も。
ほとんどの生徒たちも。
まだ知らない。
今はまだ――。
家族と、ごく一部の大人たちだけが知っている秘密。
その秘密を守りながら。
肇は野球部で。
千鶴と真悠は吹奏楽部で。
眞衣はチアリーディング部で。
それぞれの場所から、高校最後の夏へ向かっていく。
甲子園まで――あと少し。
全国の頂点を目指す日々は、静かに、しかし確実に近づいていた。
第18話「真悠と眞衣と桜庭結菜――三人の一年生と、兄には言えない学校トーク」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は肇や野球部を中心とする話から少し離れ、高校一年生である真悠・眞衣・結菜の三人に焦点を当てました。
学校では、
野球部エース。
四番打者。
高校通算六十本塁打。
地区大会決勝のサヨナラヒット。
そして甲子園球児。
そんな存在として見られている肇。
しかし妹である真悠と眞衣からすれば、家では冷蔵庫を開けたり、ソファでテレビを見たり、野球中継を見ながら解説を始めたりする普通の兄でもあります。
さらに昔から負けず嫌い。
小学生時代には三振して悔し泣きしたこともある――。
学校ではなかなか見られない「高橋肇」の姿を知っているのが、二人の妹です。
そして今回、もう一つ大きな話題となったのが東雲千鶴。
以前、結菜は喫茶店で、
真悠。
眞衣。
千鶴。
三人が休日を一緒に過ごしているところを偶然目撃しました。
当然、
「どうして学校の先生とそんなに仲がいいんだろう?」
という疑問が残っています。
そこで真悠と眞衣が説明したのは、
「母・由紀子と東雲先生は高校時代の先輩後輩」
という二人の昔からの関係。
これは嘘ではありません。
しかし――その先は秘密。
千鶴が兄・肇の恋人であること。
二人が一緒に暮らしていること。
肇が千鶴との将来を真剣に考えていること。
結菜にはまだ話せません。
さらに今回は、第17話の美桜と肇の会話が妹たちにも伝わりました。
「東雲先生って綺麗だと思う?」
そう聞かれた肇が答えた、
「綺麗だと思うよ」
そして、
「学校で一番綺麗なんじゃない?」
という言葉。
真相を知っている真悠と眞衣からすれば、
「そりゃ兄貴はそう言うよね」
と思ってしまうところです。
しかも二人はまだ知りません。
実はその会話を――千鶴本人が聞いていたことを。
一方で、危ない場面もありました。
眞衣が学校で思わず、
「千鶴――」
と言いかけてしまったこと。
家では身近な存在になっているからこそ、学校でも普段の呼び方が出そうになる。
母・由紀子から、
「学校では先生と生徒。それは忘れないようにね」
と注意されたのも、そのためです。
今の肇と千鶴にとって、この秘密を守ることは非常に重要です。
そして物語はいよいよ甲子園へ。
兄・肇は野球部のエース兼四番として。
真悠は吹奏楽部員として。
眞衣はチアリーディング部員として。
三兄妹が、それぞれ違う立場から同じ甲子園へ向かいます。
さらに桜庭結菜と姉・美桜も、
「甲子園へ応援に行きたい」
と考え始めました。
選手だけではありません。
吹奏楽部。
チアリーディング部。
家族。
同級生。
教師。
卒業した先輩たち。
応援する人たちの輪も、どんどん大きくなっています。
甲子園まで、あと少し。
高橋肇たちの高校最後の夏は、全国の舞台へ向けて着実に進んでいきます。




