第17話「高橋先輩と桜庭美桜――誰にも知られない先生への想い」
第17話では、甲子園出場を決めた肇と、同じ高校三年生の桜庭美桜との会話を中心に描きました。
地区大会決勝でサヨナラヒットを放ち、一躍学校中から注目される存在となった肇。
そんな肇へ、美桜が何気なく尋ねます。
「東雲先生のこと、どう思ってるの?」
もちろん美桜は知りません。
学校一の高嶺の花と呼ばれる美人教師・東雲千鶴と、高橋肇が恋人同士であることを。
そして二人が学校の外では、一緒に暮らしていることも――。
さらに美桜の妹・結菜は、以前、真悠・眞衣・千鶴の三人が休日に出かけているところを偶然目撃しています。
そのため話題は自然と千鶴へ。
「東雲先生って綺麗だと思う?」
恋人であることは言えない。
しかし、自分の本当の気持ちまで否定したくない。
そこで肇が答えた言葉は――。
「綺麗だと思うよ」
「学校で一番綺麗なんじゃない?」
ところが肇は知りません。
その会話を、偶然すぐ近くにいた千鶴本人が聞いていたことを。
学校では教師と生徒。
家では大切な相手。
二つの顔を持つ二人の秘密が改めて描かれる第17話です。
甲子園出場が決まってから数日。
学校には、まだ地区大会優勝の熱気が残っていた。
校門に掲げられた大きな横断幕。
『祝 野球部 夏の甲子園出場!』
廊下を歩けば、野球部員たちは何度も声を掛けられる。
その中でも特に注目されているのが、高橋肇だった。
地区大会準決勝で二本塁打を放ち、高校通算六十本塁打。
そして決勝では九回裏、八対八からサヨナラヒット。
投手としても四番打者としてもチームを引っ張った肇は、以前にも増して校内で知られる存在となっていた。
それでも本人は、いつも通りだった。
「……次、移動教室だったな」
昼休みが終わりかけた頃。
肇は教科書とノートを抱え、廊下を歩いていた。
すると。
「高橋君」
後ろから女子生徒の声。
「ん?」
振り返る。
そこに立っていたのは、同じ高校三年生の女子生徒。
桜庭美桜だった。
「ああ、桜庭」
「今、ちょっといい?」
「いいけど」
美桜は少し笑った。
「改めて言おうと思って」
「何を?」
「甲子園出場、おめでとう」
「ああ」
肇も笑う。
「ありがとう」
「決勝、すごかったね」
「見てた?」
「ニュースで」
「そっちか」
「最後のサヨナラ、何回も流れてたよ」
「もういいってくらい流れてる」
肇が苦笑する。
美桜も笑った。
「でも格好良かった」
「ありがとう」
「九回裏でしょ?」
「うん」
「緊張しなかった?」
「した」
美桜が驚く。
「高橋君でも緊張するんだ」
「するよ。俺を何だと思ってるんだ」
「学校だとあんまり緊張してるところ見ないから」
「試合中は見せないようにしてるだけ」
「へえ」
何気ない同級生同士の会話。
しかし――。
少し離れた場所。
廊下の角を曲がったところに、一人の教師がいた。
東雲千鶴。
千鶴は職員室へ戻ろうとしていた。
そこで偶然。
「高橋君」
という美桜の声が聞こえた。
――肇君?
千鶴は足を止める。
盗み聞きをするつもりはなかった。
ただ、職員室へ戻るには二人のいる廊下を通ることになる。
そのため自然と会話が耳に入ってきた。
◇◇◇
美桜は少し考えてから言った。
「そういえばさ」
「何?」
「この前、妹から聞いたんだけど」
肇の表情が少し変わる。
「妹?」
「結菜」
「ああ」
桜庭結菜。
美桜の妹。
高校一年生。
そして真悠と眞衣と同学年。
美桜が続ける。
「結菜が喫茶店で真悠ちゃんと眞衣ちゃんに会ったらしくて」
その瞬間。
肇には何の話か分かった。
――千鶴と三人で出かけていた日か。
美桜は続ける。
「その時、東雲先生も一緒だったんだって?」
「……ああ」
「やっぱり知ってた?」
「聞いた」
嘘ではない。
その日の夜。
実家で真悠と眞衣から聞いている。
「高橋君の家って、東雲先生と昔から仲いいんだね」
「まあ……そうだな」
ここは慎重に答える。
美桜は何も知らない。
千鶴と肇が恋人であること。
一緒に暮らしていること。
家族が二人の関係を知っていること。
もちろん言えるはずがない。
「母さんと東雲先生が高校時代の先輩後輩なんだよ」
「そうなんだ」
「俺も後から知ったんだけど」
「へえ」
美桜は納得したように頷く。
「それなら真悠ちゃんたちと一緒に出かけてても不思議じゃないか」
「そういうこと」
肇はできるだけ自然に答えた。
少し離れたところにいる千鶴も、黙って聞いていた。
以前の喫茶店でも同じ説明をした。
由紀子と千鶴が高校時代の先輩後輩。
それは嘘ではない。
二人の本当の関係だけを伏せている。
すると美桜が少し笑った。
「東雲先生って、学校でもすごく人気あるよね」
「……そうだな」
「特に男子」
「知ってる」
即答だった。
美桜が笑う。
「やっぱり?」
「嫌でも分かるよ」
学校一の高嶺の花。
美人教師。
そんなふうに呼ばれる千鶴へ憧れている男子生徒は多い。
「高橋君は?」
突然だった。
「え?」
「東雲先生のこと、どう思ってるの?」
肇が固まる。
少し離れた場所では――。
千鶴も固まった。
――美桜さん!?
まさかそんな質問が飛び出すとは思わなかった。
肇は一瞬だけ言葉に詰まった。
「どうって……」
「綺麗だと思う?」
千鶴の心臓が跳ねる。
本人がすぐ近くで聞いているなど、二人は知らない。
美桜は単純な興味で聞いているだけだった。
肇は少し考える。
ここで、
「別に」
と言えば簡単に終わる。
しかし。
それだけは言いたくなかった。
秘密にする必要はある。
だからといって、自分の気持ちそのものまで否定したくない。
「……綺麗だと思うよ」
小さな声。
千鶴の頬が一気に赤くなる。
――肇君……。
美桜は笑った。
「やっぱり」
「何が?」
「高橋君も男子高校生なんだなって」
「どういう意味だよ」
「野球しか興味ないと思ってた」
「失礼だな」
「だって学校でもずっと野球の話してるじゃん」
「それは野球部だから」
「じゃあ東雲先生みたいな人がタイプ?」
「何でそこまで聞くんだよ」
肇が困った顔。
美桜は面白そうに笑う。
「何となく」
「何となくで聞く質問じゃないだろ」
「でも綺麗だと思うんでしょ?」
「……思うよ」
また言った。
千鶴はさらに赤くなる。
「東雲先生、綺麗だし」
肇は続ける。
「優しいし」
「へえ」
「生徒のこともちゃんと見てるし」
「結構見てるんだ」
「まあ……」
肇は言葉を濁した。
本当はもっと言える。
千鶴の好きなところ。
十個どころではない。
優しいところ。
真面目なところ。
教師として生徒へ向き合うところ。
吹奏楽部員を大切にするところ。
自分が無茶をすると本気で心配してくれるところ。
料理を作ってくれるところ。
笑った顔。
少し照れた顔。
家でしか見せない表情。
全部好きだ。
だが、それを美桜へ話すわけにはいかない。
美桜が笑った。
「意外」
「何が?」
「高橋君が女の人を『綺麗』って言うところ」
「俺だって言うよ」
「じゃあ東雲先生は相当綺麗なんだ」
肇は少し照れながら。
「……学校で一番綺麗なんじゃない?」
その言葉。
千鶴は思わず口元を手で押さえた。
顔が熱い。
完全に赤面していた。
学校一の高嶺の花。
男子生徒たちからそう呼ばれても、本人としては複雑だった。
しかし。
好きな人から、
「学校で一番綺麗」
と言われるのは全く違う。
――そんなこと……。
家で言われても恥ずかしい。
まして自分がいないと思っている場所で、肇がそう言っている。
その事実が余計に嬉しかった。
◇◇◇
「でも」
美桜の表情が少し真面目になる。
「高橋君、今は野球だよね」
「ああ」
「甲子園」
「うん」
「優勝狙ってる?」
肇は迷わなかった。
「もちろん」
「やっぱり」
「行くだけじゃ意味ないから」
「全国だよ?」
「分かってる」
「強いところばっかりだよ?」
「それも分かってる」
肇は窓の外を見る。
「でも最初から負けるつもりで甲子園行く奴なんていないだろ」
美桜は黙って聞く。
「俺たちは優勝するために行く」
「……すごいな」
「まだ何もしてないよ」
「地区大会優勝したじゃん」
「それは終わった」
一条監督の言葉。
――地区大会優勝は今日で忘れろ。
今は全国。
「次は甲子園」
肇が言う。
「そこで勝つ」
美桜は少し笑った。
「じゃあ」
「ん?」
「私も応援する」
「ありがとう」
「結菜も応援するって言ってたよ」
「真悠と眞衣から聞いた」
「妹たちも甲子園行くんでしょ?」
「真悠は吹奏楽部。眞衣はチアだから」
「高橋家、全員で甲子園だね」
「父さんと母さんも来るって」
「すごい」
美桜は笑う。
「絶対勝ってね」
肇も笑った。
「ああ」
「全国優勝して帰ってきて」
「任せとけ」
チャイムが鳴る。
「あ」
美桜が時計を見る。
「もうこんな時間」
「次、移動だろ?」
「うん」
「急がないと」
「高橋君もね」
「ああ」
美桜は数歩歩いたところで振り返る。
「高橋君」
「何?」
「甲子園、本当に頑張って」
「ありがとう」
「あと」
美桜が少し笑う。
「東雲先生が綺麗だと思ってることは黙っといてあげる」
「別にそれは秘密じゃない!」
「じゃあ本人に言ってみれば?」
「……」
肇が黙る。
美桜は笑った。
「じゃあね」
「おい!」
美桜はそのまま教室へ向かった。
「何なんだよ……」
肇は小さくため息。
そして反対方向へ歩こうとする。
その時。
「高橋君」
「……え?」
聞き慣れた声。
肇が振り返る。
そこに立っていたのは――。
「千鶴……」
すぐに言い直す。
「東雲先生」
千鶴。
顔が赤い。
「どうしたんですか?」
肇が尋ねる。
「……別に」
「顔赤いですよ?」
「赤くありません」
「赤いです」
「気のせいです」
肇が首を傾げる。
そして千鶴の表情を見て、何かに気づく。
「もしかして」
「……」
「聞いてた?」
千鶴は目を逸らした。
それだけで答えだった。
「どこから?」
「……」
「千鶴?」
「学校です」
「東雲先生」
「はい」
肇が聞く。
「どこから聞いてたんですか?」
千鶴は小さな声。
「美桜さんが、真悠さんと眞衣さんの話を始めた辺りから」
「ほぼ全部じゃん!」
千鶴がさらに赤くなる。
「聞くつもりはなかったんです」
「でも聞いてた」
「職員室へ戻る途中だったんです」
「じゃあ……」
肇も少し恥ずかしくなる。
「綺麗って言ったのも?」
千鶴は黙る。
「学校で一番綺麗ってところも?」
「……はい」
肇も赤くなった。
二人して赤面。
千鶴が小さく言う。
「ありがとうございます」
「何が?」
「綺麗って」
「本当のことだから」
「また……」
千鶴の頬が赤くなる。
「学校では言わないでください」
「何で?」
「恥ずかしいからです」
「他の男子も言ってるじゃん」
「肇君に言われるのは違います」
肇が少し笑う。
「今、肇君って言った」
「あっ」
千鶴が周囲を見る。
幸い、誰もいない。
「もう……」
「俺は嬉しいけど」
「学校ですよ」
「分かってる」
肇は笑った。
そして。
二人はそれぞれ次の場所へ向かった。
学校では――教師と生徒。
誰にも知られてはいけない。
◇◇◇
その日の夜。
二人の家。
「ただいま」
肇が帰宅する。
「おかえりなさい」
千鶴が迎える。
もう学校ではない。
周囲に生徒も教師もいない。
二人だけ。
肇は鞄を置いた。
そして千鶴を見る。
昼間の出来事を思い出す。
「千鶴」
「何?」
「今日のことなんだけど」
「……」
千鶴はすぐに分かった。
「美桜さんとの話?」
「うん」
「本当に偶然聞いただけですよ」
「分かってる」
「盗み聞きしたわけじゃありません」
「それも分かってる」
肇は千鶴の前へ。
そして――。
「でもさ」
「何?」
「本当に綺麗だと思ってるから」
「……っ」
また千鶴の顔が赤くなる。
「学校で一番とかじゃなくて」
肇は笑う。
「俺にとって一番綺麗」
「肇君……」
千鶴が完全に赤面する。
「そういうことを急に言わないでください」
「家だからいいだろ?」
「心の準備があります」
「何それ」
肇が笑った。
そして、そのまま千鶴へ近づく。
千鶴が驚くより先に。
肇は千鶴を抱きしめた。
「肇君?」
突然の抱擁に千鶴は目を丸くする。
肇の顔は、千鶴の豊かなJカップの胸元へ寄り添う形になる。
「ちょ、ちょっと……肇君?」
「少しだけ」
「どうしたんですか?」
「何となく」
「何となくで抱きつくんですか?」
「駄目?」
千鶴は一瞬困った顔をした。
だが。
「……駄目とは言ってません」
その声は優しかった。
千鶴は驚きながらも、肇を突き放さない。
むしろ。
そっと肇の頭へ手を伸ばした。
「千鶴?」
「今日は学校でもいろいろ言われたでしょう?」
「まあね」
「甲子園出場」
「うん」
「高校通算六十本」
「うん」
「決勝のサヨナラ」
「うん」
千鶴はゆっくり肇の頭を撫でる。
「みんな高橋肇選手として見ています」
「……」
「でもここでは」
優しく撫でる。
「普通の肇君でいいんですよ」
肇は黙った。
その言葉が嬉しかった。
学校では甲子園球児。
野球部エース。
四番。
高校通算六十本塁打。
ドラフト候補。
いろいろな呼ばれ方をする。
しかし千鶴の前では。
ただの高橋肇。
「ありがとう」
「どういたしまして」
千鶴は何度も頭を撫でる。
少しして。
肇が顔を上げた。
「千鶴」
「はい?」
「今日、美桜と話してて改めて思った」
「何を?」
「秘密にするのって大変だな」
千鶴も小さく笑う。
「そうですね」
「本当は『東雲先生どう思う?』って聞かれた時」
「はい」
「好きって言いたかった」
千鶴が少し驚く。
「でも言えないから」
「……はい」
「綺麗だと思う、まで」
千鶴は肇を見る。
「それで十分です」
「本当に?」
「はい」
千鶴は微笑む。
「今は、それでいいんです」
「学校では?」
「私は東雲先生」
「俺は高橋君」
「はい」
「家では?」
千鶴は少し笑う。
「千鶴と肇君」
「それでいい」
二人はしばらくそのまま寄り添っていた。
やがて千鶴が思い出したように言う。
「そういえば」
「何?」
「美桜さんとの会話」
「うん」
「最後まで聞いていました」
「最後?」
「甲子園で優勝するって」
「ああ」
「自信満々でしたね」
「だって優勝するつもりだから」
千鶴が笑う。
「そうでしたね」
「約束しただろ?」
「覚えています」
地区大会で優勝する。
千鶴を甲子園へ連れて行く。
その約束は果たした。
そして次。
甲子園で優勝する。
「千鶴」
「はい」
「ちゃんと見てて」
「もちろんです」
「真悠たち吹奏楽部も?」
「全力で応援します」
「眞衣たちチアも来る」
「はい」
「父さんと母さんも」
「はい」
肇は少し笑った。
「だったら負けられないな」
千鶴が肇の頭をもう一度優しく撫でる。
「一人で背負わないでください」
「分かってる」
「本当に?」
「地区大会で学んだ」
「なら大丈夫ですね」
「うん」
千鶴は微笑んだ。
昼間。
学校では、美桜と普通の同級生として話していた肇。
そしてその会話を偶然聞いていた千鶴。
『東雲先生、綺麗だし』
『学校で一番綺麗なんじゃない?』
その言葉を思い出すだけで、千鶴の顔はまた少し赤くなる。
肇が気づく。
「また赤くなってる」
「なってません」
「なってるって」
「もういいでしょう」
「千鶴」
「何ですか?」
肇は笑った。
「綺麗だよ」
「……もう!」
千鶴は照れながらも、どこか嬉しそうだった。
学校では決して見せられない二人の関係。
美桜にも。
結菜にも。
ほとんどの生徒にも。
野球部員にも。
吹奏楽部員にも。
まだ知られていない。
学校一の高嶺の花と呼ばれる美人教師・東雲千鶴。
野球部のエースで四番、高校通算六十本塁打の高橋肇。
学校では教師と生徒。
けれど家へ帰れば、大切な相手。
そして二人が今見つめる先には――。
甲子園。
高校最後の夏。
誰にも言えない秘密を胸に抱えながら、肇は全国の頂点へ向けて、また一歩進んでいくのだった。
第17話「高橋先輩と桜庭美桜――誰にも知られない先生への想い」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、高橋肇と桜庭美桜。
同じ高校三年生である二人の何気ない会話から、千鶴との秘密へつながる一話となりました。
美桜が話題にしたのは、妹・桜庭結菜が喫茶店で偶然目撃した出来事。
真悠。
眞衣。
そして東雲千鶴。
三人が休日に一緒に出かけていたことです。
当然、美桜も結菜も本当の関係は知りません。
肇が説明したのは、
「母さんと東雲先生が高校時代の先輩後輩なんだ」
という事実。
由紀子と千鶴の昔からの関係を説明することで、千鶴と高橋家が親しい理由について自然に話すことができました。
しかし――。
美桜から突然、
「高橋君は?」
「東雲先生のこと、どう思ってるの?」
と聞かれたことで、肇は少し困ることになります。
本当なら答えは簡単です。
好き。
大切な人。
将来を考えている相手。
けれど、それを学校で言うことはできません。
だから肇が答えたのは、
「綺麗だと思うよ」
という言葉でした。
さらに、
「学校で一番綺麗なんじゃない?」
とまで。
そして何より肇にとって予想外だったのが――その会話を千鶴本人が聞いていたこと。
肇がいないところで誰かから、
「綺麗な先生」
「学校一の高嶺の花」
と言われることには慣れている千鶴。
しかし、好きな肇から直接ではなく、本人が聞いていないと思っている場所で、
「綺麗だと思う」
と言われたことは全く別でした。
思わず赤面してしまった千鶴。
学校では二人とも、
「東雲先生」
「高橋君」
として振る舞いました。
そして家へ帰ってから、ようやく本当の二人へ戻ります。
そこで肇は改めて、
「学校で一番とかじゃなくて、俺にとって一番綺麗」
と千鶴へ伝えました。
さらに肇は千鶴を抱擁。
千鶴のJカップの胸元へ寄り添う肇に最初は驚きながらも、千鶴は優しくその頭を撫でました。
甲子園球児。
野球部のエース。
四番打者。
高校通算六十本塁打。
ドラフト候補。
学校では、いろいろな肩書きで見られるようになった肇。
けれど千鶴の前では、そうした肩書きを背負う必要はありません。
「ここでは普通の肇君でいいんですよ」
千鶴にとって大切なのは、有名になっていく野球選手としての肇だけではなく、一人の肇そのものです。
そして肇もまた、美桜との会話を通して改めて実感しました。
学校で千鶴との関係を隠し続けることは簡単ではありません。
それでも今は、
学校では「東雲先生」と「高橋君」。
家では「千鶴」と「肇」。
その二つを大切にしていきます。
そして二人の視線は、いよいよ甲子園へ。
地区大会優勝という最初の約束は果たしました。
次に肇が千鶴へ約束しているのは――全国の頂点。
高校最後の夏は、少しずつ甲子園へ近づいています。




