閑話⑵「いつもの4人で一日――本屋で明かされた、二人の秘密とそれぞれの未来」
今回の閑話⑵では、真悠・眞衣・美琴・莉奈――【いつもの4人】が久しぶりに一日を一緒に過ごす休日を描きました。
映画館へ行き、喫茶店で高校生活について語り合い、最後は四人が小さい頃から大好きだった本屋巡りへ。
一見すれば、仲の良い高校一年生四人の何気ない休日です。
しかし、その本屋で二つの大きな話が明かされました。
一つは、水瀬美琴の秘密。
高校では文芸部に所属している美琴ですが、実はすでに――
『桃井美湖』
という小説家名で作品を発表しており、これまでに五冊ほどの小説を世に送り出しています。
その正体を知っているのは家族やマネージャーなど、ごく限られた人だけ。
莉奈は以前から知っていましたが、今回、美琴は真悠と眞衣にも自ら秘密を打ち明けました。
そしてもう一つは、榊原莉奈の未来。
女子硬式テニス部で活躍し、すでにプロからも注目されている莉奈は、高校卒業後にプロテニスプレイヤーになることを目指しています。
すでに自分の進みたい道を見つけている美琴と莉奈。
一方、真悠と眞衣には、まだ明確な将来の目標がありません。
四人で楽しく過ごす休日の中で、それぞれの「未来」について初めて深く語り合う一日となりました。
三回戦が終わってから数日後。
【いつもの4人】のグループには、朝からメッセージが飛び交っていた。
『全員起きてる?』
最初に送ったのは美琴だった。
『起きてる!』
真悠が返す。
『準備中!』
続いて眞衣。
最後に莉奈から、
『もう家出るところ』
と返ってきた。
今日は、以前から四人で約束していた休日。
高校が別々になってから、四人だけで一日を過ごすのは久しぶりだった。
予定は映画館。
その後は喫茶店。
そして最後は本屋。
中学生の頃から何度も一緒に遊んできた四人にとっては、特別珍しい場所ではない。
それでも、高校へ進学してからは全員の予定を合わせるだけでも難しくなった。
真悠は吹奏楽部。
眞衣はチアリーディング部。
美琴は文芸部。
そして莉奈は女子硬式テニス部。
それぞれ違う学校生活を送っている。
だからこそ、今日という一日は四人にとって楽しみにしていた休日だった。
◇◇◇
午前十時。
駅前。
「真悠ー! 眞衣ー!」
手を振りながらやってきたのは美琴だった。
「美琴!」
「久しぶり!」
「この間、球場で会ったでしょ」
「それはそうだけど、あの日は遊んだわけじゃないから」
三人が笑う。
そこへ――。
「ごめん! 待った?」
莉奈が小走りでやってきた。
「待ってないよ」
「今来たところ」
「それ、待ち合わせの定番台詞じゃん」
「本当に今来たところだから!」
四人が揃う。
高橋真悠。
高橋眞衣。
水瀬美琴。
榊原莉奈。
中学校を卒業してから、それぞれ別々の高校へ進学した四人。
それでも顔を合わせれば、あっという間に昔の空気へ戻る。
「じゃあ行こう!」
「まず映画!」
四人は並んで歩き始めた。
◇◇◇
最初の目的地は映画館。
「何観る?」
「それを今決めるの?」
「昨日グループで話したじゃん!」
「結局二つで迷ったままだったでしょ?」
上映予定を眺める。
一つは青春恋愛映画。
もう一つは、人気小説を原作としたミステリー映画。
眞衣が恋愛映画を指差す。
「私はこっち」
莉奈はミステリー。
「私は絶対こっち」
真悠が尋ねる。
「美琴は?」
「……ミステリー」
「やっぱり」
「だって原作読んでるもん」
「私も読んだ!」
莉奈が反応する。
すると真悠も、
「私も」
と手を上げた。
眞衣だけが三人を見る。
「えっ、私だけ読んでない?」
「そうみたい」
「じゃあ決まり!」
「何で!?」
結局、多数決でミステリー映画を見ることになった。
ポップコーンと飲み物を買い、四人で横並びの席へ。
照明が落ちる。
約二時間後。
エンドロール。
「……面白かった」
真悠が呟く。
「でしょ?」
美琴は満足そうだった。
莉奈は少し考えている。
「でも、原作と結構違ったよね」
「分かる!」
美琴がすぐ反応した。
「最後の主人公の台詞、原作にはないよ」
「映画用に変えたのかな」
「たぶん」
眞衣が三人を見る。
「原作読んでない私には何の話か分からない」
「あっ」
「ごめん」
「だから本屋で買おうかな」
美琴の目が輝く。
「買おう!」
「急に嬉しそう」
「本の話だから」
「美琴、昔から変わらないね」
四人は笑いながら映画館を出た。
◇◇◇
昼過ぎ。
次に入ったのは、昔ながらの雰囲気を残した喫茶店だった。
四人掛けの席。
真悠と眞衣が隣同士。
向かい側に美琴と莉奈。
「何食べる?」
「お腹空いた」
「映画館でポップコーン食べたでしょ」
「あれは別」
ナポリタン。
オムライス。
サンドイッチ。
クリームソーダ。
それぞれ好きなものを注文する。
料理を待つ間、話題は自然と高校生活になった。
「真悠、吹奏楽どう?」
美琴が尋ねる。
「楽しいよ。今は野球応援もあるから忙しいけど」
「肇君たち、四回戦なんでしょ?」
「うん」
「次も行けたら応援行く」
「本当?」
「拓真兄ちゃんにも言われたから」
「何て?」
「『どうせなら肇たちがどこまで行くか見てこい』って」
真悠は少し嬉しそうに笑った。
「ありがとう」
眞衣は莉奈を見る。
「莉奈はテニス?」
「うん」
「かなり忙しいんでしょ?」
「まあね」
美琴が横から口を挟む。
「“まあね”じゃないでしょ」
「何が?」
「莉奈、結構有名だから」
「え?」
真悠と眞衣が同時に莉奈を見る。
「有名?」
莉奈が美琴を睨む。
「美琴」
「だって本当じゃん」
眞衣が身を乗り出す。
「どういうこと?」
「いや……」
莉奈は困ったように笑った。
「大会でちょっと結果出してるだけ」
「ちょっと?」
美琴が言う。
「プロから注目されてるのに?」
「ええっ!?」
真悠と眞衣の声が重なった。
周囲の客が一瞬こちらを見る。
「ちょっと二人とも!」
莉奈が慌てて声を落とす。
「ごめん!」
「でも知らなかった!」
「言ってなかったから」
莉奈は照れくさそうにストローを触った。
「その話は後でちゃんとする」
「絶対だよ」
「はいはい」
そこへ料理が運ばれてきた。
四人の会話は一度中断。
だが――。
美琴は心の中で少し緊張していた。
今日。
自分も三人へ話そうと決めていることがあったからだ。
◇◇◇
午後二時過ぎ。
四人は喫茶店を出た。
「次どこ?」
「本屋!」
美琴が即答する。
「早い!」
「今日、美琴が一番楽しみにしてたの本屋じゃない?」
莉奈が笑う。
「映画も楽しかったよ」
「でも本屋なんでしょ?」
「……うん」
「認めた」
四人は笑いながら大型書店へ向かった。
四人とも、小さい頃から本が好きだった。
絵本。
児童文学。
推理小説。
恋愛小説。
青春小説。
ファンタジー。
ジャンルの好みには多少違いがあっても、本そのものが好きなのは共通している。
中学生時代にも、四人で本屋を巡ったことは何度もあった。
だから今日は久しぶりの――四人での本屋巡りだった。
◇◇◇
「広い!」
眞衣が店内を見回す。
「何階から見る?」
「上から順番」
美琴が即答した。
莉奈が笑う。
「出た。本屋に来た時の美琴」
「何よ」
「本屋だけは絶対全部見るよね」
「当然でしょ」
「当然なの?」
四人はまず文庫コーナーへ。
真悠が一冊手に取る。
「あ、これ気になってた」
「どんなの?」
「青春もの」
眞衣も別の棚を見る。
「私はこれ」
「恋愛?」
「うん」
莉奈はスポーツ関連の本を見つけた。
「これ面白そう」
「テニス?」
「スポーツ心理学」
「真面目!」
「試合でメンタル大事なんだから」
そして美琴は――。
小説の新刊コーナーへ。
一冊。
また一冊。
丁寧に背表紙を確認していく。
その時。
真悠が一冊の本を手に取った。
「あっ」
美琴の動きが止まる。
「どうしたの?」
眞衣も近づく。
真悠が手にしている小説。
表紙にはタイトル。
そして著者名――。
『桃井美湖』
「この人、最近少しずつ名前見るようになったよね」
真悠が言った。
美琴は固まった。
「……そう?」
「うん」
眞衣も本を覗き込む。
「桃井美湖?」
「私、この人の本一冊読んだことある」
莉奈が後ろから言った。
「えっ?」
美琴が莉奈を見る。
莉奈は意味ありげに笑っている。
莉奈だけは――知っている。
桃井美湖。
その正体を。
美琴は小さく息を吐いた。
今日話そうとは思っていた。
しかし、まさか本人の本を真悠が手に取るとは思わなかった。
「真悠」
「何?」
「その本……」
「うん?」
「ちょっと持ってて」
「?」
美琴は周囲を見る。
「ここじゃなくて、少し静かなところ行こう」
眞衣が首を傾げる。
「どうしたの?」
「話したいことがある」
◇◇◇
四人は書店内の休憩スペースへ移動した。
真悠はまだ桃井美湖の本を持っている。
「それで?」
眞衣が尋ねる。
「何の話?」
美琴は莉奈を見る。
莉奈は何も言わず頷いた。
美琴は一度深呼吸する。
「私、高校で文芸部に入ってるでしょ?」
「うん」
「知ってる」
「それでね」
美琴は膝の上で手を組んだ。
「小説を書いてるの」
真悠が笑う。
「文芸部なんだから書くんじゃないの?」
「そういう意味じゃなくて」
「?」
「出版社から出してる」
沈黙。
「……え?」
眞衣が聞き返した。
「出版社?」
「うん」
「本になってるってこと?」
「うん」
真悠が美琴を見る。
そして自分が持っている本を見る。
さらに美琴を見る。
「まさか……」
美琴は少し恥ずかしそうに笑った。
「桃井美湖」
指で本を示す。
「それ、私」
数秒間。
完全な沈黙。
「…………えええっ!?」
真悠と眞衣が同時に声を上げた。
「しーっ!」
美琴が慌てる。
「声大きい!」
「だって!」
真悠は本と美琴を交互に見る。
「美琴が桃井美湖!?」
「うん」
「本当に!?」
「本当」
眞衣も信じられない。
「これ、美琴が書いたの?」
「そう」
「私、読んだことあるんだけど!」
「知ってる」
「何で!?」
「前にグループで『面白かった』って言ってたから」
眞衣が頭を抱える。
「言ってよ!」
「言えなかったの!」
真悠が尋ねる。
「何冊出してるの?」
「今は五冊くらい」
「五冊!?」
「まだそれくらい」
「“まだ”じゃないよ!」
美琴は苦笑する。
桃井美湖。
高校生であることも、本名が水瀬美琴であることも公表していない。
その正体を知っているのは、家族。
担当マネージャー。
そしてごく限られた関係者だけ。
「学校でも?」
「誰も知らない」
「文芸部の人も?」
「知らない」
「先生も?」
「基本的には知らない」
真悠が驚く。
「すごい秘密じゃん」
「だから二人にも言ってなかった」
「莉奈は?」
美琴と莉奈が顔を見合わせる。
莉奈が手を上げる。
「私は知ってた」
「何で!?」
「前に美琴から聞いた」
眞衣が頬を膨らませる。
「私たちだけ知らなかった!」
「ごめんって」
美琴が笑う。
そして少し真面目な表情になる。
「でも、今日話そうって決めてた」
「どうして?」
「四人でまたこうやって会えるようになったから」
美琴は三人を見る。
「将来、小説家になりたい」
真悠が尋ねる。
「もう小説家じゃないの?」
「そうなんだけど……」
美琴は少し考える。
「今はまだ高校生で、五冊出しただけ。でも将来は、本当に小説を書くことを自分の仕事にしたい」
真悠は手にしている本を見る。
桃井美湖。
今まで知らなかった。
しかし、その名前の向こう側にいるのは――昔から知っている友人だった。
「応援する」
真悠が言った。
美琴が顔を上げる。
「私も」
眞衣も続ける。
「桃井美湖先生」
「やめてよ!」
四人が笑った。
◇◇◇
「じゃあ」
莉奈が立ち上がる。
「今度は私か」
真悠と眞衣が同時に莉奈を見る。
「さっきの話?」
「うん」
美琴はすでに知っているようだった。
莉奈は少し照れながら話し始める。
「私、女子硬式テニス部なのは知ってるよね」
「もちろん」
「大会で結果出してるのも?」
「それは今日初めて知った」
「そっか」
莉奈は一度息を吐く。
「私、高校卒業したら――プロになるつもり」
真悠と眞衣が目を見開く。
「プロテニスプレイヤー?」
「うん」
今度は二人とも叫ばなかった。
美琴の時に注意されたからだ。
それでも驚きは隠せない。
「もうプロから声掛かってるの?」
眞衣が尋ねる。
「いくつか」
「すご……」
「まだ何も決まってないよ」
莉奈はそう言いながらも、その目には迷いがなかった。
「でも私はプロに行きたい」
「いつから?」
真悠が尋ねる。
「小さい頃から」
莉奈は笑う。
「ラケット持った時から、ずっと好きだった」
美琴が横から言う。
「莉奈、テニスの話してる時だけ顔違うよ」
「美琴だって小説の話してる時そうじゃん」
「そう?」
「そう」
二人が笑う。
真悠と眞衣は、そんな二人を見ていた。
美琴。
小説家名・桃井美湖。
すでに五冊ほどの作品を世に送り出し、将来は小説家として生きていくことを目指している。
莉奈。
女子硬式テニス界で注目され、高校卒業後はプロテニスプレイヤーを目指している。
二人には、もう未来の目標があった。
◇◇◇
「……すごいね」
真悠が呟いた。
「二人とも」
眞衣も頷く。
「うん」
美琴が二人を見る。
「真悠と眞衣は?」
双子が顔を見合わせた。
「私は……」
真悠が少し考える。
「まだ決まってない」
眞衣も。
「私も」
美琴は意外そうだった。
「そうなの?」
「うん」
真悠は吹奏楽が好きだ。
楽器を演奏することも好き。
しかし、それを将来の職業にするのかと聞かれれば、まだ分からない。
眞衣もチアリーディングが好き。
身体を動かすことも好き。
けれど、高校卒業後の明確な目標までは決まっていない。
「二人を見てると、ちょっと焦る」
眞衣が本音を口にする。
「分かる」
真悠も頷いた。
「同じ一年生なのに、美琴はもう本出してて、莉奈はプロを目指してる」
すると莉奈が首を横に振った。
「焦る必要なくない?」
「でも」
「私の場合、たまたま小さい頃からテニスしか考えてなかっただけ」
美琴も続ける。
「私だって小説を書くのが好きだったから、こうなっただけだよ」
「でも夢があるじゃん」
「真悠と眞衣にも、これからできるかもしれないでしょ?」
美琴は微笑んだ。
「高校一年生だよ?」
莉奈も笑う。
「まだ時間あるじゃん」
眞衣が尋ねる。
「本当に?」
「あるよ」
「絶対?」
「何で私が保証するのよ」
四人が笑った。
真悠も少しだけ気持ちが軽くなった。
今すぐ決めなくてもいい。
いろいろなものを見て。
いろいろなことを経験して。
その中で自分が本当にやりたいことを見つければいい。
「じゃあ」
真悠が言った。
「私たちはこれから探す」
眞衣も頷く。
「うん」
莉奈が笑う。
「見つかったらグループで報告ね」
「もちろん」
美琴も言う。
「【いつもの4人】で一番最初に教えて」
「約束」
「約束!」
四人の新しい約束が一つ増えた。
◇◇◇
その後、四人は再び本屋巡りを始めた。
「私、これ買う」
真悠が青春小説を手に取る。
眞衣は映画の原作小説。
莉奈はスポーツ心理学の本と、以前から読みたかったミステリー小説。
そして美琴は――。
「美琴は何買うの?」
「これと、これと……あとこれ」
三冊抱えている。
「多い!」
「普通でしょ」
「美琴基準ではね」
四人がレジへ向かおうとした時。
眞衣が突然立ち止まる。
「待って」
「何?」
眞衣は新刊コーナーへ戻る。
そして一冊取ってきた。
著者――桃井美湖。
「私、これ買う」
美琴が目を丸くする。
「えっ」
真悠も同じ棚へ行く。
「じゃあ私も」
「ちょっと待って!」
莉奈が笑う。
「いいじゃん。作者本人の前で買うなんて滅多にできないよ」
「恥ずかしいから!」
「桃井先生、サインお願いします」
「眞衣!」
真悠も笑う。
「私もサイン欲しい」
「真悠まで!」
「ちゃんと『真悠ちゃんへ』って」
「嫌!」
「何で!」
「恥ずかしい!」
四人の笑い声が書店の中に小さく響いた。
結局――。
真悠と眞衣は桃井美湖の作品も一冊ずつ購入した。
◇◇◇
夕方。
四人は駅前へ戻ってきた。
「今日は楽しかった」
真悠が言う。
「久しぶりに一日遊んだね」
美琴も笑う。
莉奈は本屋の袋を持っている。
「次いつにする?」
「もう次?」
「いいじゃん」
眞衣がスマートフォンを出す。
「グループで予定合わせよう」
「そうしよう」
美琴が三人を見る。
「それと」
「何?」
「今日話したこと」
桃井美湖の正体。
そのことだと三人ともすぐ理解した。
真悠が頷く。
「誰にも言わない」
眞衣も。
「もちろん」
莉奈も改めて、
「私も」
と答える。
美琴は安心したように笑った。
「ありがとう」
今度は莉奈が言う。
「私のプロの話は別に秘密じゃないけど、まだ正式に決まったわけじゃないから」
「分かった」
「決まったら教えてね」
「うん」
そして美琴が真悠と眞衣を見る。
「二人も」
「何?」
「やりたいこと見つかったら教えて」
真悠と眞衣が顔を見合わせる。
「うん」
「一番にね」
四人は笑った。
◇◇◇
帰宅後。
【いつもの4人】に、今日撮った写真が次々と送られていく。
映画館の前で撮った四人。
喫茶店で料理と一緒に撮った写真。
本屋へ向かう途中の写真。
購入した本を並べた写真。
そして最後には――。
四人それぞれが買った本を手にした一枚。
美琴からメッセージが届く。
『今日はありがとう!』
莉奈。
『次も4人で!』
眞衣。
『次どこ行く?』
真悠。
『まだ今日終わったばっかり(笑)』
そして少しして、美琴からもう一件。
『真悠、眞衣』
『何?』
『将来の夢、焦らなくていいからね』
真悠はその文章をしばらく見つめた。
眞衣から先に返信が届く。
『ありがとう』
真悠も続ける。
『見つかったら絶対話す』
莉奈。
『待ってる』
美琴。
『私も!』
四人の進む道は、少しずつ違い始めている。
小説家として未来を描き始めた美琴。
プロテニスプレイヤーという大きな舞台を目指す莉奈。
そして、まだ自分の将来を探している真悠と眞衣。
夢が決まる時期は同じでなくていい。
進む速さも同じでなくていい。
それでも――。
誰かが夢を見つけた時。
誰かが迷った時。
誰かが夢を叶えた時。
きっと最初に報告する場所は決まっている。
四人だけのグループ。
【いつもの4人】
今日、美琴が打ち明けた「桃井美湖」という大切な秘密も。
莉奈が語った「プロテニスプレイヤーになる」という未来も。
いつか真悠と眞衣が見つける夢も。
これから四人で共有していく。
映画を観て。
喫茶店で笑って。
大好きな本を選んで。
そして互いの未来を少しだけ知った一日。
四人にとってそれは、ただ遊びに出かけただけではない――。
【いつもの4人】の友情が、また一つ深くなった大切な一日だった。
閑話⑵「いつもの4人で一日――本屋で明かされた、二人の秘密とそれぞれの未来」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回の中心となったのは、四人の友情と、それぞれが思い描く将来です。
まず明らかになったのは、美琴のもう一つの顔。
水瀬美琴――そして、小説家・桃井美湖。
四人とも小さい頃から本が好きで、これまでもたくさんの作品を読んできました。
そんな中で美琴は「読むこと」だけではなく「書くこと」にも夢中になり、少しずつ自分の作品を世に送り出すようになりました。
現在の著書は五冊ほど。
学校では文芸部に所属していますが、部員たちはもちろん、周囲の生徒にも美琴が桃井美湖本人だとは知られていません。
そして今回、その事実を知らないまま真悠が本屋で桃井美湖の作品を手に取ったことで、美琴が秘密を打ち明けることになりました。
「桃井美湖。それ、私」
真悠と眞衣にとっては、まさに予想外の告白です。
しかし二人が見せたのは戸惑いや距離ではなく、驚きと応援する気持ちでした。
最後には桃井美湖の作品まで購入し、本人へサインを求めようとする二人。
美琴にとっても、自分の大切な秘密を信頼する友人たちへ伝えられた大きな一日になったと思います。
そして莉奈から語られたのは、
「高校卒業後、プロテニスプレイヤーになる」
という目標。
女子硬式テニス界ですでに注目されている莉奈にとって、それは突然思いついた夢ではありません。
小さい頃からラケットを握り続け、その先に見つけた未来です。
美琴には小説。
莉奈にはテニス。
二人にはすでに目指したい道があります。
だからこそ、真悠と眞衣は少しだけ焦りを感じました。
吹奏楽部で活動する真悠。
チアリーディング部で活動する眞衣。
二人とも今の高校生活で好きなことはあります。
しかし、それを将来の仕事へつなげたいのか、大学へ進みたいのか、まったく別の道へ進みたいのか――まだ答えは出ていません。
それでも、美琴と莉奈が伝えたように、四人全員が同じ時期に夢を決める必要はありません。
美琴と莉奈は、すでに見つけた。
真悠と眞衣は、これから見つけていく。
そして二人がいつか本当に進みたい道を見つけた時には、
【いつもの4人】
で一番最初に報告する。
そんな新しい約束も生まれました。
映画館。
喫茶店。
そして久しぶりの本屋巡り。
昔から本が大好きだった四人だからこそ、本屋という場所で互いの未来について語り合えたことにも、大きな意味があったのかもしれません。
小説家・桃井美湖として歩き始めている美琴。
プロテニスプレイヤーを目指す莉奈。
そして、これから自分自身の夢を探していく真悠と眞衣。
四人はこれから、それぞれ違う未来へ進んでいきます。
それでも――
夢が叶った時も。
夢に迷った時も。
失敗して落ち込んだ時も。
新しい目標を見つけた時も。
きっと戻ってこられる場所は変わりません。
【いつもの4人】
四人だけの仲良しグループは、それぞれの未来を見守る場所にもなっていきます。




