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閑話⑴「四人だけの仲良しグループ――兄たちの試合が結んだ、久しぶりの時間」


今回の閑話⑴では、本編の野球部から少し離れ、真悠・眞衣・美琴・莉奈――四人の友情に焦点を当てました。


県立星陵高校との三回戦をきっかけに、久しぶりに顔を合わせた四人。


高橋肇の双子の妹である真悠と眞衣。


水瀬拓真の妹・美琴。


榊原航平の妹・莉奈。


兄たちが小学生時代に同じ少年野球チームだった縁があり、さらに四人自身も中学校時代の同級生です。


高校進学後は別々の学校、別々の生活へ進み、以前のように毎日顔を合わせることはなくなりました。


しかし、兄たちが高校最後の夏に敵同士として再会したことで、妹たちの時間も再び動き始めます。


そして誕生した、四人だけのグループ――


【いつもの4人】


学校が違っても。


応援する兄が違っても。


毎日会えなくても。


四人の関係は変わらない。


今回は、そんな四人だけの仲良しグループの日常を描いた閑話となりました。



県立星陵高校との三回戦が終わった翌日。


真悠のスマートフォンに、一件のメッセージが届いた。


送信者は――水瀬美琴。


『昨日はお疲れ様! 久しぶりに四人で会えて嬉しかった!』


それを見た真悠は、すぐに返信する。


『私も! まさか球場で四人揃うとは思わなかった(笑)』


すると、ほとんど間を置かず別の通知が来た。


今度は榊原莉奈。


『ねえ、せっかくだから四人だけのグループ作らない?』


「……グループ?」


真悠は画面を見つめる。


確かに四人は互いの連絡先を知っている。


中学生時代にも個別に連絡を取り合っていたが、高校進学後は学校も部活動も違い、以前ほど頻繁には話さなくなっていた。


昨日、兄たちの試合をきっかけに久しぶりに四人が揃った。


それなら――。


『作ろう!』


真悠が返信した直後。


新しいグループが作成された。


参加者は四人だけ。


高橋真悠。


高橋眞衣。


水瀬美琴。


榊原莉奈。


そして最初の問題が発生した。


『グループ名どうする?』


莉奈からだった。


すぐ眞衣が返信する。


『そこから決めるの!?』


『大事でしょ!』


『じゃあ美琴考えて』


『なんで私!?』


真悠は笑いながらスマートフォンを操作する。


『中学の時の何かにする?』


『普通すぎない?』


『じゃあ四人娘』


『昭和っぽい』


『誰が昭和よ!』


メッセージがものすごい勢いで増えていく。


真悠は思わず声を出して笑った。


「何してるの?」


隣にいた眞衣が覗き込む。


「グループ名」


「ああ、それ」


「眞衣も考えてよ」


「うーん……」


双子が並んで考える。


やがて美琴から一つの案が送られてきた。


『じゃあ、“いつもの4人”は?』


真悠と眞衣が顔を見合わせた。


「……いいんじゃない?」


「私も好き」


莉奈からもすぐ返信。


『それにしよう!』


そしてグループ名が変更された。


【いつもの4人】


高校は別々になった。


部活動も違う。


兄たちも今は別々の高校で野球をしている。


それでも四人が集まれば、中学生の頃と変わらない。


そんな意味を込めた名前だった。


◇◇◇


その日の昼休み。


真悠と眞衣は学校で一緒に昼食を食べていた。


「来た」


眞衣がスマートフォンを見る。


『みんな昼休み?』


美琴だった。


『こっちは昼休み!』


眞衣が返信。


真悠も続ける。


『私も眞衣と一緒にご飯食べてる』


莉奈。


『双子は同じ高校だからいいなぁ』


美琴。


『分かる。私たちだけ離れてる感じする』


真悠は少し考えてから返信する。


『でも昨日会えたじゃん』


『それは肇君たちのおかげだね』


美琴から返ってきた。


すると眞衣が隣から真悠を見る。


「お兄ちゃんたちが同じ少年野球チームじゃなかったら、私たちもこんな仲良くなってなかったかもね」


「確かに」


肇。


拓真。


航平。


三人が小学生時代、同じ少年野球チームに所属していた。


その関係から家族同士が顔を合わせることも多く、妹たちも自然と知り合った。


そして中学校では四人が同級生となった。


真悠がメッセージを送る。


『考えてみたら、お兄ちゃんたちのおかげかも』


莉奈。


『何が?』


『私たちが仲良くなったこと』


しばらくして――。


『確かに!』


『それはある!』


美琴と莉奈からほぼ同時に返ってきた。


眞衣が笑う。


『じゃあ昨日くらいは兄たちに感謝しないと』


莉奈。


『昨日くらいって(笑)』


美琴。


『私は拓真兄ちゃんにまだ言ってない』


真悠。


『何を?』


『三本もホームラン打たれたのどうだった?って』


「ちょっと!」


真悠が思わず声を出す。


眞衣が横で笑い出す。


『それは言わないであげて!』


『絶対悔しいでしょ!』


莉奈からも、


『航平兄ちゃんも一本頭の上越されたからね(笑)』


と返ってくる。


真悠は苦笑するしかない。


『うちのお兄ちゃんがすみません』


美琴。


『何で真悠が謝るの(笑)』


眞衣。


『高校通算58本になりました』


莉奈。


『妹が宣伝始めた』


『やめて!』


四人のグループは、昼休みだけで何十件ものメッセージが増えていった。


◇◇◇


しかし、少しして美琴から真面目なメッセージが届いた。


『昨日さ』


『うん?』


『負けた瞬間は、やっぱり悔しかった』


真悠の指が止まる。


当然だった。


真悠と眞衣にとっては、兄の肇が勝った試合。


だが美琴にとっては拓真が敗れた試合。


莉奈にとっては航平が敗れた試合だ。


美琴は続ける。


『拓真兄ちゃん、高校最後の夏だったから』


莉奈も。


『航平兄ちゃんも。帰ってから少し落ち込んでた』


真悠はすぐには返信できなかった。


何と送ればいいのか分からない。


すると眞衣が先に打った。


『そっか……』


続いて、


『昨日、試合終わってから二人がお兄ちゃんに甲子園行けって言ってくれたみたい』


少し間が空いた。


美琴。


『聞いた』


莉奈。


『私も航平兄ちゃんから聞いたよ』


そして美琴が、


『だから肇君には本当に甲子園まで行ってほしい』


と送った。


莉奈も続ける。


『うん。ここで負けたら怒る(笑)』


真悠は画面を見つめる。


それから、ゆっくり返信した。


『ありがとう』


さらに、


『私も眞衣も最後まで応援する』


眞衣も送る。


『吹奏楽とチアで絶対甲子園まで連れていく!』


美琴。


『逆じゃない? 野球部が二人を甲子園へ連れていくんじゃないの?』


「あっ」


眞衣が固まる。


真悠が吹き出した。


「確かに!」


眞衣が慌てて送る。


『細かいことは気にしない!』


莉奈。


『眞衣らしい(笑)』


再び四人の会話に笑いが戻った。


◇◇◇


放課後。


真悠は吹奏楽部。


眞衣はチアリーディング部。


それぞれの練習へ向かう。


真悠が音楽室へ入ると、千鶴が準備をしていた。


「真悠さん」


「はい」


「昨日はお疲れ様」


「先生もお疲れ様でした」


「久しぶりにお友達にも会えたみたいね」


真悠は驚いた。


「見てたんですか?」


「球場の外で四人で話していたでしょう?」


「ああ……」


真悠は笑う。


「美琴と莉奈です」


「お兄さんたちの妹さん?」


「はい。中学校の同級生なんです」


「そうだったのね」


「今日、四人だけのグループも作りました」


「いいじゃない」


千鶴は微笑んだ。


「学校が別々になると、会う機会も減るでしょう?」


「かなり減りました」


「だったら大切にしないとね」


真悠は頷く。


「はい」


千鶴はそれ以上何も言わず、吹奏楽部の練習準備へ戻った。


真悠も自分の楽器を準備する。


四回戦でも、兄を応援するために。


◇◇◇


練習終了後。


再び【いつもの4人】が動き始めた。


『練習終わった!』


真悠。


すぐに眞衣。


『こっちも!』


美琴。


『お疲れ様!』


莉奈。


『二人とも次の試合も応援行くの?』


真悠は即答した。


『もちろん』


眞衣も。


『絶対行く』


『四回戦、北辰高校なんでしょ?』


『そう』


美琴から少し意外なメッセージが届いた。


『私も行こうかな』


真悠が目を丸くする。


『えっ!?』


続いて莉奈。


『私も思ってた』


眞衣。


『本当に!?』


美琴。


『だって拓真兄ちゃんが甲子園行けって言ったんだから、その先くらい見たい』


莉奈。


『航平兄ちゃんの分も応援しないと』


真悠は嬉しくなった。


『来て!』


眞衣も。


『絶対来て!』


しかし美琴から、


『まだ予定分からないから確定じゃないよ(笑)』


と返ってくる。


『分かったら連絡する』


『了解!』


四人は高校が違う。


毎日会えるわけではない。


だからこそ、こうして連絡を取り合えることが嬉しかった。


◇◇◇


その夜。


午後十時を過ぎても、四人のグループはまだ動いていた。


美琴が一枚の昔の写真を送ってきた。


『これ見つけた』


そこには、中学生だった四人が写っていた。


制服姿。


四人で肩を寄せ合い、笑っている。


真悠。


眞衣。


美琴。


莉奈。


『懐かしい!』


『いつの!?』


『中二じゃない?』


『若い(笑)』


『今も十分若いから!』


四人で笑う。


すると莉奈も写真を送った。


今度は中学校の行事で撮影した四人の写真。


さらに眞衣も探し始める。


『私もあるよ!』


真悠も。


『待って、これ覚えてる?』


次々と昔の写真が共有されていく。


高校進学後、それぞれ別々の生活が始まった。


真悠は吹奏楽部。


眞衣はチアリーディング部。


美琴にも美琴の高校生活がある。


莉奈にも莉奈の高校生活がある。


中学生の頃のように、毎朝学校へ行けば会える関係ではなくなった。


それでも――。


『今度四人で遊ぼうよ』


真悠が送った。


美琴。


『行きたい!』


莉奈。


『賛成!』


眞衣。


『どこ行く?』


『まだ決めなくていいでしょ(笑)』


『カラオケ?』


『買い物もしたい』


『映画も』


『全部やれば?』


『一日じゃ足りない!』


再び会話が止まらなくなる。


そして最後に、美琴が送った。


『高校違っても、この4人は変わらないね』


少しだけ間が空く。


莉奈。


『変わらないでしょ』


眞衣。


『当然』


最後に真悠。


『これからも4人で』


美琴。


『もちろん!』


莉奈。


『卒業してもね』


眞衣。


『約束!』


四人それぞれが、違う場所で同じ画面を見ながら笑っていた。


兄たちの少年野球をきっかけに知り合い、中学校で同級生となった四人。


そして高校では、それぞれ別の道へ進んだ。


一度は会う機会が減っていた。


けれど――兄たちが高校最後の夏に対戦したことで、四人の時間も再び動き始めた。


グループ名は、


【いつもの4人】


そこにいるのは、


高橋真悠。


高橋眞衣。


水瀬美琴。


榊原莉奈。


たった四人だけ。


そしてこれから先も、何かあれば真っ先に連絡し合い、笑い合える――。


四人だけの、大切な仲良しグループだった。



閑話⑴「四人だけの仲良しグループ――兄たちの試合が結んだ、久しぶりの時間」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。


今回は真悠、眞衣、美琴、莉奈の四人を中心としたお話でした。


三回戦では、それぞれの立場が違っていました。


真悠と眞衣は、兄・肇の勝利を願う側。


美琴は、兄・拓真の勝利を願う側。


莉奈は、兄・航平の勝利を願う側。


試合中だけを見れば、四人は敵チーム同士を応援する立場でした。


そして結果は八対一。


肇たちが四回戦へ進み、拓真と航平にとっての高校最後の夏は終わりました。


だからこそ美琴と莉奈には、もちろん悔しさがあります。


それでも試合終了後には、


「お疲れ様」


と声を掛け合い、四人で抱き合いました。


勝敗と友情は別。


その関係が今回の閑話では、さらに深まっています。


そして新しく作られた四人だけのグループ、


【いつもの4人】


少し悩みながら決めた何気ない名前ですが、四人にはぴったりの名前なのかもしれません。


中学校を卒業しても「いつもの四人」。


高校が別々でも「いつもの四人」。


久しぶりに会っても、少し話せば昔と同じように笑える四人です。


昔の写真を送り合ったり、兄たちの話で盛り上がったり、今度は四人で遊びに行こうと約束したり――。


そして美琴と莉奈からは、嬉しい言葉も飛び出しました。


肇たちの四回戦を応援しに行きたい。


拓真と航平が託した「甲子園へ行け」という想いを、今度は妹たちも一緒に見届けようとしています。


次なる相手は、県立北辰高校。


真悠は吹奏楽部として。


眞衣はチアリーディング部として。


そして予定が合えば、美琴と莉奈も観客席から。


肇たちの最後の夏を見守る人は、少しずつ増えていきます。


兄たちの野球から始まった縁。


けれど今では、兄たちがいなくてもつながっていられる四人の友情になりました。


『高校違っても、この4人は変わらないね』


『卒業してもね』


『約束!』


いつか高校を卒業して、それぞれがさらに違う道へ進んだとしても――。


【いつもの4人】


このグループは、きっとそのまま残り続けることでしょう。


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