目覚め
成り行きで馬車に同行したは良いものの……どこに向かっているのか、ここはどこなのか全く分からない。このままずっと黙って馬車に並走するのも気まずいので、私は勇気を出しておじさんに声を掛けた。
「あの……すみません、これってどこに向かっているのですか?」
「ん? あぁすまないね、言うのを忘れてたよ。行き先はイヨスタンさ、帝国都市の。荷台にある果実を届けるんだよ」
(イヨスタン……!? そんな地名聞いたことも無いし……ていうか、明らかに日本の地名じゃないし)
「そう……ですか」
「そういえば、魔道士様はどちらに向かってらっしゃるのですか?」
「え?? あぁ私は……かなり遠くの国から来てまして……その…………旅をしてるんです! アテも無くゆるりと」
「それはまた、優雅なものですなぁ……冒険者様でしたか。にしても、魔道士一人で冒険者をやっているだなんて珍しいものですね〜」
「まあ、そんな感じですぅ〜……」
私が即興で考えついた嘘は、以外にも信じて貰えたみたいだった。
(やっぱりコレってアレだよね。異世界転生……)
私はそんな事を思いつつ、大狐の背中に乗って広大な草原をゆっくりと移動した。ぼーっと遠くを眺めながら揺られていると、普段のデスクワークでの疲れが段々と抜けていくような気がする。
「馬が疲れてきたみたいだ……そこの川辺で少し休みましょうか」
「あ、はいぃ……」
促されるままに私達は川辺の方まで歩いていった。大狐は私を降ろした後に川の水を少し飲むと、朝起きた時のように丸まって寝始めた。おじさんは水を桶に汲んで馬の前に置いたり、おやつの野菜を与えたりしている。私は何をするでもなく、とりあえず大狐の隣で芝生に座り込んだ。
(平和だなぁ〜……護衛とか付ける必要あるのかな?? 盗賊とか来ても私何もできないんだけど……)
そんな事を考えて川を眺めていると、私達の上空を巨大な影が通り過ぎた。慌てて上空を見ると、一匹の巨大なワイバーンが飛んでいた。旋回してこっちへ向かってくる。
(え!? 何アレ!? 護衛ってもしかしてそういう事!? 聞いてないんですけど!!!!)
ワイバーンは私達の近くに降り立つと、大きな咆哮を上げた。大地がビリビリと震える感覚が伝わってくる。
「ひぃっ……!! 魔道士さん! 頼みましたよ!! 私は念の為にイヨスタンへ伝書鳩を飛ばします!!」
「え!? いや、急にそんな……」
焦る私達に、ワイバーンが少しずつ近寄ってくる。
(ヤバいどうしよう!? いや、それにしても何でこの竜は飛びかかって来ないんだろう……何かを警戒してるみたいだけど…………もしかして、この狐を怖がってる……??)
私は一か八かに賭けて狐を揺り起こそうとした。
「ねぇ!! ちょっと起きてよっ! アナタ召喚獣なんでしょ!! お願いだから目を覚ましてよ!!」
そうしている間にも、ワイバーンは一歩ずつ私達の方へと近づいてくる。
「起きてよッ!!!!」
私がそう叫んだ瞬間に、ワイバーンは私達の方へと一気に飛びかかってきた。
(ダメだ……死ぬ…………)
私は呆然とへたり込んで飛んでくるワイバーンを見つめる事しかできなかった。私の鼻先にワイバーンの牙が触れる……そう思った瞬間だった。ワイバーンが急に視界から姿を消した。一瞬でパッと消えたように思える。
「は……え?」
次の瞬間、ドッという重苦しい音と共に衝撃が地面に伝わってきた。音のした方向……左側を見ると、ワイバーンが大狐に地面へと抑えつけられている。
(え……あの一瞬で起きてから横に回り込んで抑えつけたの……!?)
ワイバーンはなんとか大狐を押しのけると、炎のブレスを吐いた。しかし、大狐はそれを軽々とジャンプして避ける。さらにジグザグに揺れる警戒なステップでワイバーンに急接近すると、紫色の炎を爪に纏わせてワイバーンを切りつけた。かなり痛いようで、ワイバーンはのたうち回っている。しかし暴れた事で振り回された尻尾が、意図せず大狐に思いっきり当たりそうになった。
「あっ、危ない!!」
私がそう言って反射的に手を伸ばすと、手の平から淡い月明かりのような黄色をした魔法が飛び出した。矢のような形状で飛んでいったソレは、正確にワイバーンの尻尾を刺し貫いて地面へ固定した。
(え? え? 何今の……私が出したの!?)
大狐はその隙を見逃さず、ワイバーンの喉元に噛みついてトドメを刺す。ゴリッと鈍い音が鳴った後に、ワイバーンはダラリと動きを止めた。
「いやぁ〜助かりました!! レイスウェルを倒せるなんて……かなりお強いんですね! イヨスタンのギルドにだって、単独で倒せる人なんてそう多くはいません。おかげで助かりましたよー、死体を買い取ってもらう為にすぐ伝書鳩を飛ばしますね! それとも、ご自分で運んで売られますか?」
「え、あぁ……じゃあ伝書鳩でお願いします??」
「分かりました! 少々お待ちを……」
困惑している私の背中に、大狐が鼻先をツンツンと当ててきた。
「お? どうしたの……??」
私の問いかけに、大狐はヤキモキした様子で尻尾を振りながらお座りをした。
(あ……撫でろって事なのかな……??)
とりあえず目の前にある顎下を撫ででみると、大狐はより一層強く尻尾を振った。
(喜んでるのかな? 可愛い……)




