いつもの配信終わり
「では、今日の縁にホントに〜感謝を! またの縁でお会いしましょ〜〜おやすみなさ〜い」
私は終わりの挨拶をすると、マイクをミュートにして終了画面を表示させた。コメント欄を見ると、常連さんも初見さんも皆一様に終わりの挨拶をコメントしたり、配信の感想をコメントしてくれている。
(今日も楽しかったな〜、皆も配信楽しんでくれてるみたいで良かった……もう配信切っても大丈夫かな)
それなりにコメントの流れが落ち着いて同接が減ってきたのを見届けると、私は配信を終了させた。
「ふぅー……シャワー浴びて来よ」
私はパソコンの電源を落とすと、一息ついて椅子から立ち上がった。白を基調とした自室を少し見回して、自分が今までに歩んで来た人生をほんの少しだけ思い返す。ゆっくりとした足取りで風呂場へ向かった。
(色々あったけど……配信活動も無事にできたし、皆楽しんでくれてるみたいで良かったー)
ファンの存在のありがたさを噛み締めて、私はシャワーを浴びた。時刻は既に深夜二時。想定外に長引いたけど、それすらも幸せに感じる。
私の名前は『待宵 しゃも』まだまだデビューしたばかりの個人勢Vtuber。
私はシャワーを終えて髪を乾かし終わると、寝間着でベッドに倒れ込んだ。そしてベッド横のスマホを手に取ると照明をオフにして、SNSを確認する。
(お、もう配信の感想投稿してくれてる……あ、この人またファンアート描いてくれたんだ……嬉しいなぁ。案件の連絡来てないかな〜……来てないか。まあこの前初のライブ参加できたし、焦る事でも無い……かも? あ、この前出した歌ってみたに新しいコメント付いてる……とりあえずリプ返といいね押してから寝るかー)
寝る前にゴロゴロとスマホを見るのも私の日課。あまり良くないという事は分かっているので、程よいタイミングでスマホを再びベッド横の位置に置いてから寝に入る。
(……寝れないなー。いや、今に始まった事じゃないけどさ……。そういや、この前リスナーに勧められて読んだあの作品、良かったなー……能力の設定とかメッチャ好き。私もそういう能力欲しいなぁ〜、今の生活も好きだけど……どうせなら異世界でチート無双とかしてみたいな〜)
私の毎晩寝る前にやっている妄想が、今日も始まる。
(最強の能力で皆から崇められたりしたいし……いや、影の実力者みたいな感じでこっそり暗躍するのもカッコいいかも?? でもやっぱり感謝されたりしたいなー……西洋風の世界で敢えての日本刀で戦って……勇者でも歯が立たない硬いドラゴンをスパッと鮮やかに倒したり━━)
こうして取り留めのない妄想をして自然と寝落ちするのもいつもの事……
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私は心地よい風を顔に受けて目を覚ます。薄目を開けると、心地よい柔らかな日差しが木々の隙間から見えた。鳥の声も聞こえる。
(あぁ、鳥の声……もう朝か。よく寝たな〜、日差しと風が気持ち良いし真夏とは思えない…………え? 日差し? 風? 私……確かに自室で寝てたよね!? なんで外に……)
私はふとした違和感からパッと目を開ける。すると、目の前には大きな紺色の狐の頭が見えた。
「わぁっ!? えっ!?」
驚いて立ち上がると、目の前の大狐も目が覚めたみたいだ。どうやら私は、丸まって寝ている大狐の真ん中で寝ていたみたい……自室で寝ていたはずなのに……
目の前の大狐は紺色をベースに耳の内側と尻尾の先端側の毛が薄紫色で、下顎から胸あたりに掛けてクリーム色っぽい黄色をしていた。目は黄色と薄紫のオッドアイだ。
(この姿……この色……私が配信に映る時の姿に少し似てる)
大狐は起き上がると、眠そうに大きくあくびをして私の顔をペロッと一回舐めた。敵意は感じないから、怖がる必要は無さそうだ。私に付き従っているように見える。
少し周囲を眺めていると、寝転んでいた草原のすぐ近くには草が生えていない道らしきものが見えた。しばらく立ち尽くしていると、どこまでも続いているように見える道の奥から馬車が近づいてきた。
(あれ……馬車!? 今って令和だよね!? 今時の日本で馬車を交通手段にしてる人とか居るの!?)
眺めていると、馬車が私達の前に立ち止まった。
「おやお嬢さん。迷子かな? ……いや、失礼。随分と立派な召喚獣をお持ちですね……どうか、この先の町に着くまで護衛してはくれませんか。もちろん報酬はお支払いしますよ」
「あぇ? あぁ……ハイ」
(ヤバいヤバい、ノリで引き受けちゃったけど……コレどうしよう!? 護衛って言ってたよね……私何をすれば良いの!? っていうか何が襲ってくるの!? いや、そもそも私何でここに居るのかも分からないし……この狐も、私とどういう関係性!? このおじさんは、さっき召喚獣とか言ってたけど……私そんな能力とか無いよ!?)
しかしながら、長年フリーランスのリモートワークで働いていて人とマトモに話していないせいで、それが言い出せずにいた。大狐は、乗れと言わんばかりに身を寄せてきた。状況が上手く飲み込めないまま、私は大狐の背中にまたがると馬車の横をついて行った。
(コレってもしかして……)
私の脳内にブッ飛んだ予想が思い浮かぶ。
(異世界転生ってヤツ……??)




