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不思議な組織との対面


 ハルモニア学園は調和を司る神であるハルモニアを見習い、種族や地位が違えども対立を避け仲良くできるようにと名付けられた学園である。

 ハルモニア学園は校風に従い、人間以外のエルフ、魔族、獣人などと様々な種族を受け入れた学園だが、金と地位しか目にない親に育てられた一部のお偉い様なんかは、人間以外の種族への偏見が凄まじく、とても調和どころの話ではない。一部では他種族への嫌味は日常茶飯事で、酷い時は暴力、脅迫などとほぼ犯罪行為が行われることもあるそうだ。

 基本的に人間対他種族の形でいじめが起きるのだが、今年は人間対人間のいじめも起こっているようで、そこで最もヘイトを集めているのがルディリアの護衛対象である────ノア・ローズベルだ。

 彼は弱いものいじめ、というより意味のない対立を好まない性分であり、入学してからというもの一人でいじめ対象を助けるという善良な生徒であったにも関わらず、そんな彼の態度が気に食わない生徒によっていじめられている。


 * * *


「つまり、貴方の編入理由はこう。」

 学園へ向かう馬車の中、アルマロスとルディリアは編入を怪しまれないよう結局シナリオを作っていた。

「1年前両親に捨てられた貴方、ルディリア・ルーカスは、幼き頃からの友人であるフィリエル殿に誘われ、フィリエル殿と生活を共にすることとなる。しかし、フィリエル殿は今年から全寮制のハルモニア学園に通うことになっており、貴方の世話ができない。ならば、貴方もフィリエル殿と同じ学園に通わせよう。ということで、手続きをしていた。が、それが少々長引き、入学ではなく編入という形になった。⋯⋯ということで合ってます?」

「どうです?完璧なシナリオでしょう?」

 ルディリアはぶんぶんと効果音がなりそうなほど首を縦に振り、ふふんと誇らしげに言ってみせた。

「⋯⋯少々現実味に欠けている気もしますが。まぁ、貴方の親が出ていったという部分と、親に捨てられたという部分は似ているので、ボロは出ないでしょう⋯⋯、」

 アルマロスがそう言い、シナリオの書いてある紙から目線を上げると、先程までアルマロスを見ていたキラキラ輝くルディリアの青い目は、ハイライトひとつ無い真っ黒な瞳へと豹変していた。

「⋯⋯"小娘、返事を返しなさい"」

 そんなルディリアの様子にアルマロスは少々驚いたが、精神が錯乱していることに気づくとすぐに精神干渉魔術を使い、ルディリアの意識をこちらへ引っ張り戻した。

 じわじわとルディリアの瞳が黒から青色へと戻ってゆく。20秒が経つ頃には瞳は完全に戻り、ルディリアは貼り付けたような笑顔でアルマロスに返事を返した。

「何言ってるんですかー?アルマロス様!私に親なんていませんよ?」

 ルディリアはアルマロスに若干恐怖を抱きつつも尊敬しているので、今のように跳ねるような口調で話すことはまずない。無理矢理意識を戻したせいだろう。


 

 一級魔法使い以外の人間は精神干渉魔法を使うことを禁止されている。なぜなら精神干渉魔法は制御がとても困難であり、想像がしにくいのだ。

 一級魔法使い以外の人間が、精神干渉魔法をつかってしまった場合、高確率で後遺症が残る。

 ルディリアは親が出ていった頃、無意識に精神干渉魔法を使い、親の記憶を全て消した過去がある。故に物忘れが酷くなる後遺症を負ったのだ。

 その後、ルディリアに親の話題を出すと先程のように精神錯乱を起こすようになったのだ。


 

 (まぁ、このくらいならあと数秒で元のルディリア殿に戻りますね⋯⋯)

 数秒後、元のビクビクしているルディリアへと戻り、馬車はハルモニア学園へと到着した。

 どうやら先にアヌタヌの乗った馬車が着いていたようで、アルマロスが馬車から降りて学園へ向かって歩いていると、アヌタヌに肩を捕まれ耳元で囁かれる。

 

「少々おいたが過ぎるぞ小童」


 いつもの陽気さなど一切感じさせない、ルディリアの使い魔としてアルマロスを敵視したような声色に加え、殺意さえ感じるような表情で。

「⋯⋯親が親なら子も子。と言った所でしょうか、恐ろしい使い魔ですね」

 アヌタヌが離れていった後、アルマロスの表情は珍しく恐れを含んでいた。

 

 * * *

 

 アヌタヌに聞いた話によると、アルマロスはルディリア達より先に学園に入っていたようで、入学手続きをするなり帰っていったらしい。

「まぁ、軽薄な天紡者様だこと」

「ま、まぁ、他にも仕事があるんじゃないかな⋯?」

 フィリエル・シンフォニーはルディリアのことなど気にもとめてないようなアルマロスの行動に少々納得のいっていない様子だったが、ルディリアにとって苦手なアルマロスがいないのは少々喜ばしかった。

「そ、そういえばエンプティは⋯?後から合流するって言ってたけど⋯⋯」

「エンプティは、学園にルディリアが来たことを〈テミス〉と学園長に伝えに行ったのよ」

 聞きなれない単語にはてなマークを浮かべていると、フィリエルはため息一つつかず、分かりやすくルディリアに教えてくれる。

「〈テミス〉はハルモニア学園特有の組織でね、他の学園でいう生徒会のような役割をしているの。生徒会と違う点は大きく三つ」

 指を一本づつ立てながらフィリエルは説明を続ける。

「一つ目は、教師と同等か、場合によっては教師よりも権力があること。二つ目は会員による独断での行動が許されていること。そして三つ目が、禁忌魔法の使用が許可されていること。これが1番生徒会と違うところよ」

 

 禁忌魔術。それは一級魔法使いの中でも一部にのみ許される魔法であり、魔法における全てが高難易度かつ、規模や効果が莫大なのでよっぽどの事がない限り使うことを禁止されている。


 (そういえば、天紡者の集まりで〈テミス〉が禁忌魔法を使うことについて議論してた気もする⋯⋯)

 そんなことを考えて歩いていれば、ルディリアの目に豪華な扉が映る。

「ここが〈テミス〉の部屋よ」

「へ〜、お、大きいね⋯⋯⋯⋯ね、ねぇ、フィリエル、?」

「ん?どうしたの?」

 嫌な予感がして、フィリエルを見つめながら質問をする。

「ま、まさか⋯⋯今から〈テミス〉って人達と会うとか言わないよね⋯⋯?」

「えぇ、そのまさかよ」

 ルディリアに微笑みながら扉をノックするフィリエルに反し、ルディリアは絶望の表情であった。

 「どうぞ」

 部屋から返事が聞こえると、絶望しているルディリアを他所にフィリエルは扉を開け、お辞儀をする。

 「おはようございます、オシリス会長。この度は我が友人の編入を許可して頂き感謝します」

 そうフィリエルが言えば、オシリス会長と呼ばれた少女が椅子から立ち、こちらへと歩いてくる。

 「そこまでかしこまらなくても大丈夫よ。顔を上げてちょうだい」

 フィリエルにそういうと少女はルディリアに視線を移す。ルディリアは自分がまだ挨拶をしていないことに気づき、緊張で指を合わせながら少女に挨拶をする。

 「る、ルディっ、⋯⋯ルディリア、フェア、じゃなくて⋯⋯ルディリア・ルーカスです⋯⋯」

 「貴方が編入生ね、私はオシリス・レクイエム。〈テミス〉の会長をしているわ」

 ルディリアがお辞儀をすれば、オシリスは微笑みながら挨拶を返してくれる。

 (部屋に入った時の圧が凄かったから、怖い人かと思ってたけど、この人はきっといい人だ)

 「皆さん、自己紹介を」

 その言葉にいち早く反応したのはどこかオシリスの面影を感じる青年であった。

 「カンヘル・レクイエム。オシリス会長の弟にあたる者だ」

 カンヘルはオシリスと同じ金髪を靡かせ、榛色に輝く目でルディリアをじっと見つめる。

 ルディリアはというと、表情の変わらないカンヘルに見つめられ続け、目をぐるぐると泳がせながら気絶1歩手前であった。

 そんなルディリアに気づいて、この若干気まづい空気を破ったのは、太陽を溶かしたかのような髪色をした女子だった。

 「こんにちは!あたしはラー・カルテット!チャームポイントはこの髪型!」

 ラーは自身の髪を指さす。お団子を両サイドに作り、余った髪の毛はするりと垂れている。弾ける声とオレンジの髪色の彼女に良く似合っていた。

 「ラー、お前ちょっと声でかすぎ!よく朝からそんな声出るな⋯⋯」

 それでねそれでね!と話すラーの声を遮ったのは黒髪の少々やんちゃそうな男子であった。

 「ボクからしたらフェンリルの声も十分大きいけどね〜あっ、ボクはラブソディ・アルカーヌム。吸血鬼さんだよ〜」

 黒髪の男子にツッコミをいれ、サラッと挨拶の場面を奪っていくのは、吸血鬼の美少年だった。

 吸血鬼という単語にルディリアは少々目をぱちぱちしたが、天紡者にも歳を取らない人が居るし、吸血鬼も居るかー、と驚きはしなかった。

 「ラブソディ先輩!?今のは絶対俺の番だったでしょ!あー、俺はフェンリル・コンチェルト。よろしくな編入生」

  フェンリルは順番を抜かされたことに怒ったあと、コホンと咳払いをした後自己紹介をした。

 「私たちテミスはこの六人で活動しているわ。少々まとまりがないけれど⋯⋯」

 オシリスは苦笑しながらルディリアにそう説明した。が、ルディリアは納得のいっていない顔で会員の人数を数える。

 (会長さん、その弟さん、太陽のお姉さん、吸血鬼さん、黒髪のお兄さん⋯⋯やっぱり自己紹介したのって五人だけじゃ、?)

 「あ、あのっ、」

 「どうした?ルディリア嬢」

 ルディリアは会員の人達の顔色を伺いながら、質問をする。

 「会員は六人、なんですよね⋯⋯?あ、あと一人は⋯⋯?」

 そんなルディリアの質問にカンヘルは当たり前かのように答える。

 「ルディリア嬢の横にいるフィリエル嬢だが」

 ルディリアが隣を勢いよく見ると、フィリエルは苦笑しながら服に着いた会員の印であるシャチのバッチを、クイッとルディリアに見せる。

 「ルディリアが不安がるかと思って言ってなかったんだけど⋯⋯」

 ルディリアは驚きのあまり絶句して固まっていた。

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