使い魔と親友と、覚悟
使い魔と親友と、覚悟
アルマロスとサリガリアが帰ったあとのことである。ルディリアが魂の抜けたかのように床に転げ落ち絶望していると、とてつもない勢いで扉が開かれ、絶望の雰囲気を壊すように元気な声が家に響いた。
「ただいまぁ〜って、おぉ!?なんじゃ!?なんで床なんかに転げ落ちとる!」
「おかえりぃぃ⋯ねぇ聞いてよアヌタヌ〜!!」
帰ってきたのはルディリアの使い魔であるアヌタヌ。栗色と焦げ茶の2種類の髪色をぴょんぴょんと跳ねさせてる少女の見た目をしているが、本来の姿はたぬきである。
「さっき家にアルマロスさんとサリガリアちゃんが来てぇ、なんかすごい血筋の王子の護衛を頼まれてぇぇ⋯⋯!」
ルディリアがアヌタヌに抱きついたかと思うと、アヌタヌはポンっと音を立ててタヌキの姿になった。
「それは可哀想だったな〜、ほれ、モフモフして良いぞ!」
「うぅ⋯⋯モフモフ、ふふっ⋯⋯」
しばらくモフモフしていると、キツネのぬいぐるみがぽてぽてと不安そうにこちらへと歩いてくる。
「ねぇルディ、明日の準備しなくて大丈夫なの?」
「⋯⋯えっ?明日の準備って?」
「さっきのお兄さんが、明日にはここを出て学園へ向かいますから、今日中に準備を済ましておいてくださいね。って言ってなかった?⋯⋯まさか、あの一瞬で忘れたの?」
図星である。
「わ、忘れてた〜⋯⋯!明日までに終わらなかったら殺される!!」
「ははっ、いつもの光景じゃな〜」
「笑ってる場合じゃないから!アヌタヌも手伝って〜!!」
そんな光景をぬいぐるみ達はやれやれと眺めていた。
* * *
後日、深夜に準備が終わって少々寝不足なのか、ルディリアは協力者のいる場所へ向かう馬車の中で、爆睡をかましていた。
「やはりこのような少女が天紡者とは、にわかには信じ難い話ですね」
アルマロスにほっぺを伸ばされているにも関わらず、ルディリアは全く起きる気配などなかった。
「アルマロス様はルディリアをどう思ってるんですか?」
アルマロスに問いかけたのはサリガリアであった。
あまりにアルマロスがルディリアのほっぺを触ったり嫌味を言うので、コイツルディリアちゃんのこと見下してんのか。と思った故の質問だ。
アルマロスは表情を一切変えずに、ほっぺから手を離してサリガリアの質問に答えた。
「化け物。とでも言っておきましょうか」
「⋯⋯ギリ悪口では?」
そんなわけないでしょう。と言うとアルマロスは続けて言った。
「十五歳という若すぎる年齢で、天紡者になった少女ですよ?⋯それに、サリガリアは気づかなかったのでしょうが、彼女の家にはコンロなどの電子機器もなければ水道も通ってない。彼女は昔に両親が家から出て行ってからひとりであそこに暮らしていたようですし、」
「⋯⋯つまりどういうことです?」
よくわかってないサリガリアをちらりと見た後、溜息をつくと、アルマロスはもう少し分かりやすく話を続けた。
「普通、子供は親の補助なしに魔術を使えないんです。杖に想像を流し込むのも、魔術式を編むにも制御が必要ですから。しかし彼女が6歳という、まだまだ子供の頃、両親は家から出て言ってしまいました。⋯⋯ではここでサリガリアにクイズです」
「えぇっ!?」
「今の話を聞いて、普通の子供ならばこの後どうなりますか?」
手をパンっと合わせてクイズを出すアルマロスに、サリガリアは驚きつつもうーんと悩んだような表情をする。
「⋯⋯魔術も使えなくて、あんな街から離れた場所に住んでるなら、食料を買えずに餓死しかないんじゃ⋯⋯?」
納得してなさそうな声で答えるサリガリアに、アルマロスはにこりと微笑みながら、正解です。と言い、話を続けた。
「普通ならばあの環境で生きることすら難しいでしょうね」
「で、ではなぜ、ルディリアちゃんは生きて⋯⋯」
「それはこちらも知りたいです。⋯しかし、そんな環境で餓死せず生き残り、不可能と言われている無動作魔術に加え、彼女にしか使えない創作魔術を開発するなんて、到底人間のできることではありません。故にあれは化け物なのです。」
なるほど⋯⋯などと関心するサリガリアを横目に、アルマロスはもう一度、質問をします。
「⋯⋯そういえば貴方達はいつ、ちゃん付けで呼び合うほど交流があったのです?」
先程とは全く違う冷めた声にサリガリアは背筋を凍らせ、恐怖で声がでない。
「おや、教えてくれないのですか?悲しいです⋯⋯。」
絶対悲しくないだろ。とツッコミを入れたくなる程の棒読みだが、サリガリアは手の震えが止まらなかった。
「私、いつも言ってますよね。精霊としてふさわしい立ち振る舞いをしなさいと。貴方のような高位精霊は、好感のある人間を"無意識に洗脳してしまう"のですから」
「⋯⋯っ、はい。申し訳ありません」
今後は気をつけてくださいね。とアルマロスが言うと、会話は地獄のような雰囲気で終わった。かと思えば、協力者の居る場所へ到着した。
「おや、到着したようですね」
アルマロスは先に馬車から降りると、協力者の居るお屋敷へと向かっていく。ルディリアはというと、サリガリアに起こされ、これから協力者と対面するという事実に絶望しお腹を下していた。
* * *
協力者の居るお屋敷は随分と豪華で、ルディリアはどこか落ち着かない様子出回りを見渡していた。
ルディリアが空気感に耐えられなくなり、サリガリアに話しかけようとすると同時に、ノックの音が部屋に響いた。
「はい、入って良いですよ」
失礼します。と言いながら部屋に入ってきたのは、キリッとした顔立ちで、ピンクの髪をしたスタイルの良い少女と、無表情でどこか掴みどころのない白髪の中性的な少年であった。
協力者が2人もいるなんて聞いてない!と、普段のルディリアなら絶望しそうだが、サリガリアの横に座っているルディリアの目は、信じられないほどキラキラしている。それは一体何故か。
「フィリエル!エンプティ!2人が協力者なの!?」
「ええ、そうよ。久しぶりねルディリア!」
「天紡者になったって言われた時は、びっくりしたけど、元気そうで良かった⋯」
そう。3人は昔からの友人だったからだ。
「おや、お知り合いでしたか」
初めて見る、ルディリアの年相応の姿に少々驚きながらも、アルマロスは潜入捜査についての話を進めようとする。
「では、3人とも席に着いてください、潜入捜査の説明をします。といっても、なにかシナリオがある訳ではありませんので、注意事項だけお話させていただきますね」
アルマロスは指を3つ立て、仲良くひとつのソファに座っているルディリア、フィリエル、エンプティを真剣な目で見つめる。
「1つ、ルディリア殿が天紡者だと他の人にバレないようにすること。2つ、今回の護衛対象であるノア殿下に怪我をさせないこと。そして最後、命の危機を感じたら、ルディリア殿に全て託すこと。」
最後の注意事項で部屋の空気感はグッと重くなる。
「フィリエル殿とエンプティ殿は学園でも優秀な魔術師だと聞いています。もし、学園内で何かあったら真っ先に解決しようとするでしょう。しかし、忘れてはなりません。貴方ふたりはただの学生だということを。」
納得してなさそうな顔だったが、フィリエルとエンプティは天紡者からの重圧に負け、小さく頷いた。
「ルディリア殿、ご友人は貴方が守るのですよ。貴方は天紡者なのですから。」
ルディリアはアルマロスの言葉にすぐに頷いた。それは圧に負けたからではなく、最初からそのつもりだったから。アルマロスの目には覚悟を決めた目をしたルディリアが映っていた。




