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彼女たちのように"つまらないから参加率を下げた"なんて言う人もいれば、さまざまな柵で出席せざるを得ないご婦人方もいらっしゃる訳で。
苦々しく思うも、自身の夫から"意地悪しちゃダメだよ"なんて言われるかと思うと、関わるのを避けるくらいしかやり過ごす術はない。この会の一番の目的であった"新たな知己"を得る事は諦め、当たり障りのない会話を当たり障りのないメンバーでする他ない、なんともつまらない会に成り下がっていた。
ただし誰もがこの状況を是とはしていなかったようで、この日のことがきっかけで大きく事が動いた。
流石に未来の侯爵夫人へあの態度だ。まあ、男爵夫人に対してでも失礼千万ではあるんだけど。
彼女達はミニーモ子爵夫人の"ヤバさ"を夫達に滔々と語って聞かせた。今までは可憐で潤んだ瞳の彼女が控えめに訴える"女の虐め"を苦々しく思っていたが、自分の妻の話を改めて聞くと彼女の印象は180度変わる。
そう、"美貌を妬まれる可憐な男爵夫人"は平民から貴族入りした"上昇志向の強い女"へと。
そして不干渉の言質を夫達から勝ち取ったご夫人方の逆襲が始まった。
※※※※※※
「あ、貴方ねえ!社交では口に出して良い話題といけない話題があるってあれほど!」
義母が激怒している。わたしは男爵夫人を気遣ってあげただけなのに、心ない誰かが捻じ曲げて伝えたんだわ。嫡男を産まない嫁なんか肩身が狭くて辛いだろうから、私が敢えて話題に出してあげて愚痴吐きしやすくしてあげただけよ。
「わたしは!子爵夫人として目下の方に慰めの言葉をかけただけです!それをこんなふうに捻じ曲げてお義母様に言いつけるなんて!わたしが皆様の旦那様に庇われているのが気に入らないんだわ!」
「旦那様方に庇われている?!一体何の話なの?!」
「何の話も何も。奥様方にいつも虐められていたのを庇って頂いただけです!やましいことは何も!」
義母の顔色がどんどん悪くなっていく。だがわたしは何もやましいことも悪いこともしていない。
言われた事をほんの少し潤ませた眼で悲しげに伝えただけ。
しばらくの沈黙の後、義母が聞いた。
「どんな虐めにあっていたの?」
と。遅いのよ!私がどれだけ悔しい思いをしたことか。あんたが放ったらかしにしていたことを親切な旦那様方がフォローして下さったのよ!
「具体的な事は話せる?私が対処しますから。」
わたしは今までに受けた嫌がらせを全て話した。ちゃんと実名入りでね。
お辞儀の仕方、飲み物の持ち方、適切な話題。
……殿方との距離感。
「誤解を招くような事はしていないのね?」
「ひどい!お義母さままで!皆様わたしが虐められてしょんぼりしてる時に慰めて下さっただけです。そんな、距離感が近いなどと詰られるような事はしていません!」
「しょんぼりしている時にはどんな話をしたの?」
「わたしがまだ至らないところだらけで皆様を苛立たせてしまうのが申し訳ないと。決して皆様の悪口は言っておりません!」
潤んだ瞳で自責を口にする"可憐な女"の言い分をどう取ってもそれはわたしのせいではない。
義母は思うところがあったようだ。そうよ、わたしはあんたがほったらかしにしたせいで酷い目に遭ったんだから今からでもいいから役に立ちなさいよ。
「この話は私が預かります。噂が落ち着くまで暫く社交は休みなさい。」
「はあ?今わたしが顔を出さなくなったらわたしが悪かったみたいじゃない!自粛するとしたら意地の悪いことばかりしていたご夫人方じゃないですか?」
ふう。ため息と共に冷たい義母の声が響く。
「あなた、ハイバット男爵夫人に自分の失礼な発言を謝ることはできる?あなたの発言はあまりにも相手への配慮に欠けるものよ。あなたがされたという意地悪に対して謝罪を求めるなら、あなたも当然頭を下げる事になるわよ。」
「お義母さまは、爵位によって敬意の表し方は変わるっておっしゃいました!」
格下の男爵夫人よ?多少のこと、向こうが笑って流すべきでしょう?お気遣いありがとうございますって。
「それはっ!格下だからと横柄にして良いという話ではなかったでしょう!どれだけ親しくなっても常に相手に敬意を払うことを忘れてはいけないって話を捻じ曲げないで!」
「だったら!男爵夫人なら私の方が爵位が上なのだから敬意を払うべきですよね?!このくらいの事で抗議してくるなんて!そうだ、それにお義母様はもう隠居された身ではないですか!現子爵夫人の社交に口を出す権利、あるんですか?」
こう言ってやったら義母は口を噤んだわ。ほら見なさい、このくらいのことで言い返せなくなるなんてやっぱりお貴族様はダメね。そう!あんたはもう過去の人間なの。現役の子爵夫人に口出しするんじゃないわよ!
良い事思いついた!こんな口煩いだけの婆さん、夫に言って領地から出てこられないようにすればいいのよ。逆らうなら生活費を減らすって言わせよう!
お義父様がしっかり見張ってしゃしゃり出ないようにして貰えばいいのよ。
そうすればわたしにこんなみみっちい嫌がらせする暇もなくなるわ。
そう思うと余裕が戻ってきた。俯いてしょんぼりしているフリをしながらニヤニヤが止まらなかった。




