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帰る場所へ

「それにしてもゼロ様って、かの大賢者様と同じ名前ですよね!」


 王都への道すがら。

 ユリスがそんなふうに切り出してきた。


「ま……まあ、そうですね」


 頬を掻きながら答える俺。


 まさか前世の大賢者が自分です……なんて言えないしな。


 千年前は研究が進んでいたはずの《転生魔法》も、いまは見る影もない。あれから時間が経ったんだし、俺の魔法が《判定なし》認定されるくらいだし、魔法の技術は進歩したはずなんだが……


 いったいどうなっているんだか。

 これについても、おいおい探っていこう。


「その……父上が、その《ゼロ様》にあやかって命名したらしいです。そう聞きました」


 ……まあ、それで結局《第四適性》だったのだから、笑い話にしかならないが。


「へぇ……! いいですね、すごく素敵じゃないですか!」


「はは……そうですかね?」


「はい! 実は私も、大昔の大剣聖様だいけんせいさまにあやかって名前をつけられたんですよ! ユリス・エンネア様です!」


「へ……?」


 ユリス・エンネア。


 その名前、なんだか聞き覚えがあるぞ。


 たしか前世で俺を看取ってくれた美女のひとりで……

 妙に剣の扱いに長けていたと記憶している。


 彼女の前では、どんな強敵もひれ伏してしまうと言われており――


 たとえばさっきのスカルウォーナイトくらいなら、たった一閃でぶちのめしていたな。


 それが俺が俺の知る剣聖、ユリス・エンネアだ。


 なぜそれほどの大物に気に入られていたかといえば――前世の俺は我ながら酔狂だったから。


 魔法の片手間に極めた剣術が彼女の興味を引いたらしく、《弟子にしてください!》と懇願してきた覚えがある。


 まあ、たしかに強いは強かったんだが。

 ――そのユリスが、いまは大剣聖として崇められているのか……?


「い……いやいや……」


 さすがに偶然だよな?

 うん、そうとしか思えない。


 そういえば、目の前にいるユリスも《前世のユリス》と似ている気がするが……


 さすがに偶然だよな?

 うん、そうとしか思えない。


「どうしたんですか? ゼロ様」


 ずっと考え込んでいたからだろう。

 ユリスに下から覗き込まれた。


「い、いや……なんでもないです」


 彼女はSランク冒険者。

 俺とはなにもかもが格の違う相手なのだ。


「あの、ユリスさん。その《ゼロ様》っていうの、やめません?」


「へ? なんでですか?」


「な、なんでって……。たしかに俺は貴族でしたけど、追い出された以上はその立場もありませんし……」


「うーん……」

 そこでなぜか考え込む仕草をするユリス。

「私、自分でもよくわからないんですけど、あなただけは《ゼロ様》って呼びたいんです。なんか、妙に馴染むっていうか……」


「な、馴染む……?」


「あはは。ごめんなさい。よくわかんないですよね」

 ユリスは気恥ずかしそうに頬を掻くと、すこしだけ顔を赤らめながら言った。

「でも、本当にそうなんです。ゼロ様がなんか懐かしくて、つい敬語を使っちゃうというか……」


「…………」


「だって私、さっきゼロ様にお会いしたとき、実はこう言いたかったんです」

 ユリスはそこで俺を見上げると、数秒だけ間を開け。

「お久しぶりです。会いたかったですよ……って」


「あ……」


 その甘えた表情は、俺にも見覚えがあった。


 1000年前、俺の後ろを何度も何度も追いかけてきた甘えん坊剣士。

 ユリス・エンネア――その人だ。


(でも、おかしいな。あいつは魔法なんて使えなかったから、《転生魔法》もできるわけないのに……)


 ――私、ずっとあなたの背中を追い続けます! だから……!――


 前世で俺が死ぬ間際、彼女の放った言葉が思い起こされる。


 ……本当に追いかけてきたのだろうか。

 魔法も使えないのに、その気持ちだけで……


「ユリス……」


 彼女が本当に《ユリス・エンネア》の転生した姿なのかはわからない。

 だけど、もしそうであったとしたら――自然と、俺の心もほぐれていくのだった。


「わかった。正直まだ面映ゆいが……好きに呼んでくれて構わない」


「…………! はい、ありがとうございます!」

 ユリスははにかむような笑顔を浮かべると、勢いよく俺に腕を絡めてきた。

「おかえりなさい、ゼロ様! たとえ魔法の適正がなかったとしても、あなたは私の恩人です!」



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