賢者、冒険者になる
「ゼロ・レイドリアス……」
女の子――ユリスがいっぱいに目を見開いた。
「な、なんとこれは失礼しました。まさか貴族様とは知らず……!」
慌てたように跪くユリス。
落ちぶれつつあるとはいえ、レイドリアスはそこそこ有名な貴族だからな。
驚くのも無理はないだろう。
でも――
「いいんですよ、お気になさらないでください。俺はもう……レイドリアスの人間じゃないんですから……」
「へ……?」
「勘当されたんです。魔法適正がなかったようで……」
「え……? 魔法適正が、ない⁉」
なぜか大きく目を見開くユリス。
「そ、そんなわけないじゃないですか! あんなすごい魔法を使えるのに、適正がないなんて……!」
「しかし、それでも第四適性は第四適性ですから……」
言いながら、俺は右手の甲を差し出した。
そこには無能の印――四角の紋様がありありと浮かび上がっている。
「そ……そんな……」
悲しそうに両目を垂らすユリス。
――なるほど。
彼女の目から見ても、俺が《第四適性》であることは信じがたいようだな。
やはり……なにかがおかしいということか。
この謎。
どうしても気にかかるな。
前世で長らく魔法に携わってきた者として、色々と勘ぐってしまうところだ。
「そ、そうだ……!」
ふいに、ユリスが素っ頓狂な声をあげる。
「ゼロ様。あなたがよろしければ、冒険者になりませんか? その……勘当されてしまったのであれば、行く当てもないでしょうし……」
「ぼ……冒険者ですか……?」
冒険者……というと、一般住民の依頼をこなすことで生計を立てている者のことか。
「うーん、どうしましょうか……」
正直なところ、不安はある。
真偽のほどはさておいて、俺は第四適性者として診断されてしまった身だからな。
色々と嫌な予感が拭えない。
けれど――
「大丈夫ですよ、ゼロ様なら絶対!」
絶対の部分を妙に強調するユリス。
すごい情熱だな。もちろん嬉しいは嬉しいんだが……
「心配はいりませんよ! もし不安なら、最初は薬草採取とか道案内の依頼をすればいいんですし!」
「はは、ありがとうございます……」
ユリスの言葉からは、俺を心から気にかけてくれていることが伺えた。
というか、いまの俺にはほとんど取り柄がないからな。
食い扶持を稼げるだけでも有難いと思わねばならない。
――それに冒険者であれば、魔法適性の謎も探りやすいだろう。
「わかりました。俺でよければ……どうか力にならせてください」
「やった! ありがとうございます‼」
ユリスは黄色い声をあげると、俺の両手をしっかり握ってぴょんぴょん跳ねた。
「ゼロ様がいれば百人力です! さあ、さっそく行きましょう‼」
そうして俺たちは王都に戻り始めるのだった。
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