賢者、美少女の剣聖に手を握られる
――終焉魔法。
それは魔法の極地とでも呼ぶべきものだ。
その属性を極めし者だけが扱える、最強の魔法。
いま使ったダークネススパークも、零魔法における最強魔法ということだ。
前世の俺はもちろん全属性の終焉魔法を習得したが、それまでにはだいぶ苦労した。それこそ血の滲むような努力を重ねてきたものだ。
だが、明らかにおかしい。
俺は鑑定士によって、第四適性――すなわち、生活レベルの魔法しか使えない無能者と診断されたはずだ。
やはり……違和感が残るな。
あの《選定の儀》というのも、俺からすれば意味不明だ。
どうやら間違っていたのは、俺のほうではなく――世界のほうだったということか。
と。
そんなことを考えている場合じゃないな。
世界の考察もいいが、いまはそれより優先すべきことがあるはずだ。
「その……大丈夫ですか?」
そう言いつつ、先ほどの女剣士に手を差し伸べる。
スカートを履いているので、尻餅をついていると色々と視線に困ってしまうが――
四の五の言っていられる状況でもないしな。
「あ……。は、はい。ありがとうございます」
素直に俺の手を取る女剣士。
というか、妙だな。
この女剣士、どこかで見たような……
さすがに気のせいか。
今生のゼロ・レイドリアスは女の子に無縁だったからな。こんな美少女と出会っていたら忘れるはずもないし。
その違和感は彼女も同じだったのだろうか。
まじまじと俺を見つめ――そして、
「あっ、ごめんなさいっ」
と顔を逸らした。
可愛い……めっちゃ可愛かったないまの。
18歳の俺には色々と刺激が強すぎるぞ。
「あ……あの。助けてくださってありがとうございました。このご恩は一生忘れません」
「いやいや……大げさな」
俺は前世と同じように魔法を使っただけ。
そこまで言われるとこそばゆいな。
「それにしても、すごいですね……。あのスカルウォーナイトを、いともたやすく倒すなんて……。もしかして、SSSランクの冒険者さんですか?」
「いえいえ、そんな恐れ多い。たしかにそこそこ手強い相手ではありますが……スカルウォーナイトでしょう? 取るに足りませんよ」
前世では結局、中級者向けの魔物だったからな。
慣れさえすれば、正直どうということもない相手だ。
その意味を込めて「取るに足らない」と言ったのだが――女剣士の反応は俺の予想を外れるものだった。
「た、たいしたことない……? ど、どういうことですか……?」
「へ? だって、中級者向けでしょう? あんなの」
「あんなの⁉ SS級の魔物によくそんなこと言えますね⁉」
「えっ」
SS級?
いや。いやいやいや。
そんなことがあろうはずがない。
冒険者としての知識は薄いので詳しくはわからないが、たしか魔物は危険度別にランク付けされていた気がする。
一番弱いランクからだと、E、D、C、B、A、S、SS、SSS。
つまり女剣士が言うには――スカルウォーナイトは、危険度トップクラスの魔物だったっていうことだ。
俺からすればありえない話ではあるが――
「…………」
しかしながら、彼女に嘘をついている様子もない。
おいおいおい。
冗談だろ。
こんなところでも前世との違いがあるってのか。
今生での俺は、ずっと家で魔法の訓練をしてきたからな。世間のことは全然わからないのだ。
ともかく――いったん頭を冷やそう。
情報が錯綜しすぎていて、なにがなんだかわからない。
「じゃ、俺はこれで……」
そう言って身を翻した俺の手を、女剣士がぎゅっと握ってください。
「ま、待ってください! まだお礼できてません!」
「い、いえ。結構ですよ。お礼なんていりません」
「なりません! エンネリア家たる者、助けられた恩をおざなりにするわけにはいかないのです!」
「え……」
エンネリア?
って。これもどこかで聞いたことあるような。
気のせいだろうか。
もしかしなくても、剣聖として名高い名家だったような――
「ユリスです。ユリス・エンネリア」
「はい?」
「私の名前です。一応はSランク冒険者なんですが、あなたほど腕利きのお方がいるとは知らなかったです。お名前をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?」
「Sランク冒険者……」
やはりそうだったのか。
俺と同い年くらいに見えるが、その歳でもうSランクとはな。
本当に剣聖の娘なのか。
「ゼロです」
数秒だけ迷ったのち、俺はユリスを見据え――
ゆっくりと、重い口を開いた。
「ゼロ・レイドリアス。それが俺の名前です」
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