賢者ゼロ・ガーリア
「あ、あれは……!」
目前の光景に、俺は唖然と立ち尽くしていた。
――スカルウォーナイト。
見るも巨大な骸骨剣士が、異様な存在感をもってただずんでいたからだ。
眼窩に当たる部分には青い炎が揺らめいており、右手には巨大なロングロード、そして全身には見るからに頑丈そうな鎧。
大きさも尋常ではなく、そこいらの木々にも劣らないほどの巨体を誇っている。
「馬鹿な……」
スカルウォーナイトといえば、前世でもそこそこ厄介な魔物だった記憶がある。
さっきのブラックフェンリルを《初心者向け》とするならば、スカルウォーナイトは《中級者向け》。
その圧倒的な攻撃力から、かなりの脅威度と恐れられていた。
もちろん、大賢者と呼ばれたゼロ・ガーリアなら取るに足らない相手。
しかしいまの俺で、果たして勝てるだろうか……?
「グオガァァァァァァァァァアア……!」
スカルウォーナイトは雄叫びをあげ、ロングソードを高々と振りかぶる。
――その視線の先には……女剣士がひとり。
尻餅をついていて、まったく動けない様子だ。
「うっ……ここまでか……」
蒼色の剣に銀色の甲冑……なかなか上質そうな防具を身に着けているが、スカルウォーナイトには手も足も出なかったらしい。
負傷したらしき右腕をおさえ、死を覚悟した顔でスカルウォーナイトを見上げている。
「くっ……まずいな……!」
状況はよくわからないが、女の子は右肩に傷を負っているようだな。あれではまともに剣を振るえまい。
「ガオォォォォオオオ!」
「ぐうっ!」
スカルウォーナイトがけたたましい雄叫びをあげる。
それだけで強烈な音圧が発生し、女剣士は両耳を抑え込んだ。
「やだ……」
そのときに聞こえた涙声が――
「やだよ……死にたくない……」
俺の躊躇を、丸ごと吹き飛ばした。
「おおおおおっ!」
零魔法発動。
初級魔法――インパクトバイブレーション。
突如、見えない衝撃波が四方八方からスカルウォーナイトに襲いかかる。
「ギュァア?」
しかしながら、スカルウォーナイトは素っ頓狂な声をあげるばかり。
まるで効いていない。
――当然だ。
初級魔法ごときで、《中級者》向けの魔物に敵うわけがない。
「ニヒ……ニヒニヒ……」
俺を取るに足らない相手と見なしたのだろう。
スカルウォーナイトは嫌らしい笑みを浮かべると、改めてロングソードを掲げた。
引き続き、女剣士を攻撃するつもりのようだ。
「くっ……まずいな……」
どうすればいい。
考えろ考えろ考えろ。
――俺は第四適性者の落ちぶれ者。
――強い魔法など到底扱いきれるものではない。
だけど、いくら零魔法を使っても、俺はまったく魔力切れを起こしていない。
そしてあの《選定の儀》……
鑑定士が使っていた水晶には、明らかな違和感があった。
なにかが逃げる気配がしたし――そもそも《魔法の適性》という言葉自体、俺からすれば眉唾モノだ。
俺じゃなくて世界が間違っているなんて、おこがましいにも程があるけれど。
その結論に、すべてを賭ける……!
「はぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!」
零魔法発動。
――終焉魔法、ダークネススパーク!
ドォォォォォォォオオオン! と。
天から降りてきた黒い雷が、勢いよくスカルウォーナイトに襲いかかった。
「ギュアアアアア!」
さすがにこれにはたまらなかったらしい。
黒い雷のなかで、スカルウォーナイトが絶叫をあげる。
「で……できた……?」
俺としては物足りない威力だったが、やはり終焉魔法の発動に成功した。
やはり……おかしい。
終焉魔法が使えてる時点で、第四適性の定義から外れまくっている。
この世界……なにかがおかしい。
「え……?」
そして――生き残った女剣士が、目を見開いて俺を見つめているのだった。
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