転生賢者、ブラックフェンリルを殲滅する
「さよなら、父上、母上……」
レイドリアス家。その屋敷の門前にて。
当然というべきか、俺を見送ってくれる人は誰もいなかった。
昨日までは、多くの人が俺を気にかけてくれたのにな。それも全部、親の七光りだったわけだ。
「…………」
あんな別れ方だったとはいえ、今生では半生を過ごした屋敷。
寂しくないと言えば嘘になる。
けど――仕方ないよな。
俺は才能がなかった。
もうレイドリアス家の屋敷にはいられないのだ。
一応、やりたいことはある。
たとえ《第四適性》であったとしても、正しく修行さえできれば上達できるはずなんだよな。少なくとも前世ではそうだったし、今生でもそれが通用するかを確かめたい。
前世の知識が蘇ったことで、俺は《魔法の使い方》は克明に覚えている。
問題は魔力量だ。
魔力が多ければ多いほど、次のメリットがある。
・魔法を連続で出しやすくなる。
・一度の魔法の威力が上がる。
つまりいくら《魔法の使い方》がわかっていても、魔力が低ければどうしようもないわけだ。
その魔力を高めるためには、単純だが魔法を使うことが最重要。
もちろん、ただ虚空に向かってぶっ放すのでは駄目だ。
魔物でも人間でもいいから、きちんと戦闘し、魔法を使うことが大事。
記憶を取り戻す前の俺はひたすら一人で練習していたから、正直効率が悪かったな。まあ、いまから頑張ればいいだけだ。
――ということで。
現在、俺はある魔物たちと対峙していた。
場所は王都からほど近い森林地帯。
あの魔物は……ブラックフェンリルか。
黒い毛並みを持つ狼たちが、ぎらつく瞳で俺と対峙している。
なかなかにすごい迫力を感じるが、別にブラックフェンリルごときどうってことない。前世では初心者用の魔物として認識されていたからな。
いくら俺が第四適性者だったとしても、あいつらには負けない。
「よし、それじゃあいつらで試してみるか……」
前世の記憶を取り戻した以上、《魔法の使い方》は克明に覚えている。
とはいえ、いまの俺は魔力が少ない。
ということで――前世で開発した「特殊魔法」を使うことにする。
そうだな。
今回は特殊魔法のひとつ、「零魔法」を使うことにしよう。
その名の通り、零に近い消費魔力で放てる魔法だ。
代わりに威力はあってないようなもんだが――
まあ、王都周辺にいる魔物相手になら充分だろう。
「ウォァァァァァァァァァァアアアッ!」
大きな叫び声を発しながら、こちらに突進してくる狼たち。
かなりのスピードだが、師匠には程遠いな。
剣も魔法も使えるのが師匠の凄いところだった。そんな師匠に俺は手も足も出なかったが……あの程度のスピードであれば、どうということはない。
――零魔法発動。
――初級魔法、インパクトバイブレーション。
途端、俺の右腕から放たれた衝撃波が、勢いよく狼たちに襲いかかった。
「ギャァァァァン!」
見えない攻撃を何度も叩き込まれ、狼たちが絶叫をあげる。
もちろん、四方八方どこにも逃げ場はない。
あらゆる方向から襲い掛かってくる衝撃波に、狼たちはなすすべもない様子だ。
これこそが零魔法がひとつ――インパクトバイブレーション。
前世の俺が、最も得意とした魔法のひとつだ。
「うーん、やっぱり駄目か……」
師匠に比べて、威力がポンコツすぎる。
やっぱり魔力が全然足りてないな。
これが第四適性――生活レベルでしか魔法を使えない者の末路か。
「はあ……やっぱり俺は落ちぶれ者か……」
いかに前世では大賢者と呼ばれていても、今生でもそれが通じるとは限らないということだ。
「はぁ……」
まあ、仕方ない。
落ちぶれ者は落ちぶれ者なりに、これから修行していくしかない。
時間はまだまだかかるだろうけど、必ず成長はできるはずなのだ。
普通に特訓するより成長速度は速いはず。
そう決意を新たにするのだった。
「グゴァァァァァァァァァアア……!」
「あ、インパクトバイブレーション」
「ギャァァァァァァァァア……‼」
もちろん、残ったブラックフェンリルにトドメを刺すのも忘れない。
★
「さて……と」
ブラックフェンリルを無事倒した俺は、こいつから使えそうな素材を剥ぎ取ることにした。
こちとら無一文だからな。
売れる物はどんどん手に入れていきたい。
ここで重要なのは魔石の採取。
すべての魔物には体内に魔石が存在し、その大きさによって価値が変化する。
魔石を用いて武器や道具を作ることもできるのだが、いまはそれより金が欲しいからな。できるだけ体内の魔石を傷つけないよう、慎重に取り出す必要がある。
もちろん、そのための技術は前世で習得済みだ。
「よっさっと……」
俺は最新の注意を払いながら剥ぎ取りを開始する。
やがてキラリと光るものを見つけた。
「これか……‼」
だいたい、拳1つ分くらいの大きさか。
満足のできる大きさではないが、これも食い扶持を稼ぐため。
文句言わずにさっさと回収しておく。
もちろん、他のブラックフェンリルたちの剥ぎ取りも忘れない。
「よし……まあ、こんなところかな」
集めた素材は零魔法の《空間収納》にて保存しておく。
空間魔法というのは、まあ転移とかを可能にする魔法だな。
いまの俺では魔力が少なくてそこまではできないが、一時的に異次元を開拓して道具を保管することはできる。まあ、それもスペースがほとんどないので、使い勝手はめちゃくちゃ悪いんだが。
「ん……?」
ふと違和感を覚え、俺は自身を見下ろす。
なんだろう。
立て続けに魔法を使ったにもかかわらず、倦怠感がまったくない。
いくら魔力消費に乏しい零魔法といえど、こんなことがあるだろうか?
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ!」
女性の絶叫が聞こえてきたのはそのときだった。
「な、なんだ、いまのは……?」
しかもかなり近いところにいるようだ。
「くっそ……どうするか……」
いまの悲鳴から推察するに、女性がなんらかの危機的状況に陥っている可能性が高い。
助けにいきたいのは山々だが――果たしていまの俺で太刀打ちできるかどうか。
元より《第四適性》の落ちぶれ者で、ブラックフェンリルごときに苦戦しているゴミクズで。
「…………くっ、仕方ない……!」
数秒迷ったのち、俺は悲鳴の聞こえた方向へ向かうのだった。
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