剣聖に無理やり引っ張られて
「おい、あいつが……」
「噂の《判定なし》っていう……」
「貴族なのに魔法適正がないとか……絶望的だよな……」
「でもよ、あそこにいるのユリス様じゃね? なんでだ……?」
王都ヴァレスタイン。
俺の生まれ育った故郷は、なんとも居心地の悪い場所に様変わりしていた。
「…………はぁ」
周囲から突き刺さる視線。
小馬鹿にする態度。
そのすべてが痛かった。
(もう俺の悪評が広まったのか……早いな……)
魔法適正というのは、遺伝の影響を大きく受けるもの。
だからこそ、貴族たる俺が《適正なし》だったことは恰好の話題になるんだろうな。
ヒソヒソ話をしている連中の表情は……なんとも楽しそうだ。
「…………」
記憶を取り戻す前の俺は、正直なんとも思っていなかったけれど。
だけど改めて、煮え切らないものを感じるな。
魔法適性とやらが、そんなに大事なのか。
魔法は訓練次第でいくらでも上達できるのに、なぜ才能をそこまで重視するのか。正直なところ、まったく意味不明だ。
「気にしないでいいですよ、ゼロ様。あんなのは」
「はは……ありがとうございます」
昨日まで俺は侯爵家の子息として慕われていたんだけどな。
それが、《魔法適性がない》というだけでここまでひっくり返るとは。
納得は全然できないが、だからってどうすることもできない。
周囲の冷たい視線を全身に受けながら、俺はユリスに連れられてギルドに向かう。
「ここです」
数分後。
《guild》と看板の掲げられた建物の前で、俺たちは立ち止まった。
レイドリアス家に負けずとも劣らない、巨大な建造物だ。
――感じるな。
この扉のなかに、多くの戦士たちがいることを。
ユリスは俺の顔を見て頷きかけると、そうっとギルドの扉を押した。
そして次の瞬間――
室内にいる多くの冒険者たちから、突き刺さるような視線が向けられる。
「うはぁ……」
思わず息をついてしまう俺。
――まあ、そりゃ目立つよな。
片やSランク冒険者。
片や魔法適性のない貴族。
このデコボココンビに驚くのは当然のことだ。
「おい、あいつ……」
「家追い出されたからって冒険者になろうってか? なんと無謀な……」
「でもよう、なんでユリス様がいるんだ?」
当たり前だが、冒険者たちも俺のことを知っている様子。
まあ、仕事の特性上、情報を把握しやすいのも頷けるが。
それにしてもなかなかに居づらい空気だな……
「ゼロ様! あっちです!」
俺のそんな葛藤を知ってか知らずか、ユリスが俺の手をとってカウンターへと歩み寄る。まわりの冒険者らが嘆きの声をあげるが、それもどこ吹く風。
さすがにそんなことはないと思うが――俺と一緒にいれることが、心底嬉しい様子だった。
「やっほー、リーネ!」
「ユ、ユリス! あんたってばなにを……!」
リーネと呼ばれた受付嬢が、驚きもあらわに立ち上がる。
まずユリスを見て、その後に怪訝そうに俺を見て――最後にまた、ユリスに視線を戻した。
「あんたはもう年頃の娘なんだから……! あんまり無防備なことしないでよ!」
「えー。なにが無防備なの?」
二人はかなり親しいんだろうな。会話にまったく距離感がない。
「で、なにしにきたの? あんたのことだから、どうせロクなことじゃないと思うけど」
「なにそれー。今日はすっごい大事な用があって来たのに」
ユリスはそう言って頬を膨らませると、俺の腕を掴んで言った。
「この人……ゼロ様の冒険者登録をお願いしにきたんだ! できるでしょ⁉」
「……あぁ。もう」
リーネが面倒そうに頭を抱える。
「あのねユリス。わかってるでしょ? 冒険者登録には実力試験があるの。いままで剣の腕を磨き続けてきたならともかく……その人は、そうじゃないでしょ?」
「そんなのわかってるよ! 普通に手続きすれば大丈夫だから!」
「普通にって……あんた、もう……」
そこでふうとため息をつくリーネ。
彼女いわく。
冒険者登録は誰もができるものではなく、実力試験に合格することが重要らしい。
その試験内容が――Cランク以上の冒険者と戦って認められること。
別に勝たなくてもいいが、そこで才能を見いだせられなければ不合格らしい。
「その、ゼロさん……でしたっけ?」
リーネが言いにくそうに口を開く。
「あなたたちがどういう関係かは知りませんけど……おおかた、ユリスに無理やり引っ張られてきたんでしょう。この子にはきつく言っておきますから、どうかお帰りに……」
「――なんだぁテメェ。まさか出来損ないのお貴族サマかよ」
その瞬間。
ひどく酔っ払ったような声が、室内に響きわたるのだった。
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