片手間で覚えた剣術で勝てるってことは、きっと手を抜いているに違いない
「――なんだぁテメェ。まさか出来損ないのお貴族サマかよ」
急にそう言ってきたのは、ひどく酔っ払った中年の男性。
昼間からひどい悪酔いだな。
「あ、あなたは……?」
嫌な予感しかしないが、俺は一応、そう訊ねておく。
「なんだテメェ。俺のことを知らねぇのかよ。魔法も使えねぇくせに、無礼な奴だな」
おっさんはそう言うと、なんといきなり剣を抜き始めるではないか。
「腕利きの剣士――レイモン・サウゾア様とは俺のことよ。てめぇなんか目じゃないくらいの実力者だからな、わはははは」
「は、はぁ……」
なんだこいつは。
腕利きの剣士ってほどの風格は感じないが……
本当にそうなのだろうか。
たしかに、前世ではうまいこと実力を隠し通している猛者もいたが……それとも違うような……
俺が本気で葛藤していると、レイモンは愉快そうにガハハと笑い始めた。
「へっへっへ。さすがのお貴族サマも、これにはびっくりかよ?」
「いや。そういうわけでは――」
「なあリーナ。こいつ、いまから試験を受けるんだろ? どうだ、俺様が試験官になってやるよ」
「え……? いや、その、えっと……」
リーナが当惑の表情を浮かべる。
たしか、試験に立ちあえるのはCランク以上の冒険者だもんな。
このレイモンというおっさんでも、形式的には有効なわけだ。
「うん! いいですね、問題ありません!」
戸惑っているリーナの代わりに、ユリスが前に出た。
「ちょうど《試験会場》も空いてるみたいですし……ゼロ様、この人と戦っていただけません?」
「え……?」
なんだろう。
ユリスの奴、なんだか悪い顔を浮かべているな。
「いや、まあ……俺はいいんだが……」
「もちろん、この人は腕利きの剣士様なので! いくらゼロ様でも、手を抜いたらいけませんよ?」
「は、はあ……」
なるほど。
やはりこのレイモンというおっさん、実力を隠す系の実力者だったみたいだな。
正直、そこまでの使い手には見えないんだが――
ユリスが言うなら間違いないだろう。
「わかりました。レイモンさん……どうぞよろしくお願いします」
「はっ。挨拶はいい。とっとと来やがれ、ポンコツ野郎」
★
数分後。ギルドの試験会場にて。
俺とレイモンは、そこそこの距離を取って向かい合っていた。
レイモンは剣を。
俺は剣を使わないので、素手での勝負だ。
「くっくっく……あーっはっはっは!」
と。
レイモンがいきなり大爆笑し始めた。
「なぁゼロよ。いま、どんな気持ちだ……?」
「は……?」
「侯爵家として生まれた大貴族様! なのに魔法の適性はなし。なあ……俺だったら恥ずかしくてたまらないんだが!」
「そ、そうですか……」
よくわからないが、本当に嬉しそうだな。
人の不幸でここまで喜べるのも珍しい。
「レイモンさん、どうぞよろしくお願いします。俺もできる限り追い付いてみせますので……」
「はっ……。一丁前なこと言ってんじゃねえよ、馬鹿野郎」
レイモンはそこで口を歪めると、剣の切っ先をこちらに向けた。
「魔法も使えねぇボンボンが俺に追いつくだって? できるわきゃないだろう、そんなこと」
「はい。ですから俺も全力でいきます。よろしくお願いします」
「ちっ……。いちいちムカつく野郎だな」
レイモンは腹立たしそうに舌打ちすると、
「いいだろう……。そこまで死にてぇなら、望み通りぶっ殺してやらぁ!」
剣を片手に、すさまじい勢いで突進してきた。
――ふぅ。
俺は大きく息を吐き、レイモンの動きを観察する。
のだが。
「は……?」
0・01秒後。
0・02秒後。
0・03秒後。
なんだ。
動きが鈍重すぎて、動きが見え見えなんだが……
手を抜いているのだろうか。
これなら魔法を使わずとも、前世で片手間に覚えた剣術で戦えそうなんだが……
「らぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!」
怒声とともに振り下ろされた剣は、やはり鈍重そのもの。
その剣を、俺は指二本でなんなく受け止めた。
「………………は?」
レイモンの素っ頓狂な声が、会場内に響きわたった。
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